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ツギノ町編 第三章 勇者の目覚め
ゼウスの思惑
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どこか薄暗い洞窟の中に一匹のモンスターがいる。
緑色の肌に丸い頭、そして口元から覗く鋭利な牙。
それはいわゆるゴブリンと酷似した外見をしていた。
だが決定的に違う点がある。身体だ。
ゴブリンにしてはあまりに巨躯だと言える。
ゴブリンに似たそれは橙色の果実を貪るように食べていて、その前には恐怖に怯えた様子で震える一人の少女がへたりこんでいた。
少女は俯き、祈るように手を組んで誰にともなく小さな声でつぶやいている。
「誰か……誰か助けて……」
祈りと呼ぶにはあまりに悲痛でか細い声だ。
しかしそれが勘に障ったのか巨躯のモンスターが少女に視線を向ける。
そして大きく口を開いて咆哮した。
「オオオオオオオオッ!!!!」
「いやぁっ!」
危険を感じた少女は耳を塞いで身体をさらに大きく震わせる。
気付けばモンスターの手からは果実がなくなっていた。
モンスターは近くにあった巨大なこんぼうを拾い上げて振り下ろす。
地面とこんぼうの激しい衝突音が空間内に響き渡った。
「ひぃっ!」
怯える少女は手で服や鞄に手を入れて必死に何かを探す。
そしてようやく鞄から橙色の果実を取り出した。
先ほどもモンスターが貪り食べていたものだ。
少女がそれを差し出すと、モンスターはまた大人しくなった。
しかし安心する事も出来ず、少女は再び祈るように手を組んで涙を流しながら懇願する。
「誰か、誰か助けて……」
行き場のないこの洞窟の狭い空間で、その声はどこにも届かず消えてしまう。
後に残るのは少女の鳴き声と、果実がゆっくりと潰れていく音だけであった。
☆ ☆ ☆
「また呼び出しだってさ」
不満顔ながらもどこか弾む様な声音でセイラが呟いた。
セイラとノエルは今、ゼウスに呼び出しを受けて創世の神殿に足を運んでいる最中だ。
ノエルがセイラの方に笑顔を向けて口を開く。
「ジンと仲が良いっつったら真っ先に浮かぶのは俺らだろうし、しょうがねえさ」
「別にあのバカの事で呼び出されたとは限らないでしょ」
「俺らがゼウス様に呼び出される原因なんてそれくらいしかないだろ」
「それもそうね」
笑顔のセイラはまるでこれから買い物にでも行くかの様な足取りだ。
雑談をしながら歩いていると、やがて神殿に到着。
ゼウスのいる執務室までは普通に歩いて入って行く。
ティナの旅立ちを生中継した時の様なイベント時は精霊たちで埋め尽くされるここも、平常時は各部隊から派遣された当番制の警備員がちらほらいるだけだ。
二人は労いの挨拶を交わしながら奥に進んで行く。
執務室に到着すると、セイラが扉をノックした。
誰何の声に応じると入室の許可が出る。
「「失礼します」」
扉を開けて中に入ると、白髪の老神がこちらに背中を向けて立っていた。
後ろで手を組み、何やら意味ありげに佇んでいる。
もちろん意味など特にない。ちょっとかっこつけてみたいだけだろう。
ゼウスはくるりとこちらを向くと、孫を出迎える優しいおじいちゃんの様な顔になって口を開いた。
「よう来てくれたの。まあ座りんさい」
「「失礼します」」
促されて、二人はソファの様なものに少しだけ互いの距離を開けて座る。
それを見てからゼウスもその向かい側に腰かけた。
ゼウスがゆっくりと話を切り出す。
「今日もちょいとジンへの伝言を頼まれてもらおうと思っての」
「伝言、ですか」
「うむ」
伝言の後にテイマーズをふっかけたかと思えばまた伝言。
思わず聞き返してしまったノエルだったが、それ以上の深入りはしない。
神の考えを推し測る事はあまりいい事だとは思われていないからだ。
ノエルはなるべく気にしないようにして話を続けた。
「どういった伝言でしょうか?」
「そろそろグランドクエストが始まるはずじゃ。決して過干渉をするでないぞと」
「わかりました」
ノエルの返事を最後に、場には沈黙が流れる。
用件はそれだけなのだろうか、と二人は考えた。
それを見通したかの様にゼウスが言いにくそうに口を開く。
「それでその……なんじゃ。あのバカタレの様子はどうじゃ」
セイラが思わず吹き出した。
ゼウスに睨まれると楽し気に報告をする。
「元気にしてましたよ。ティナがティナがーってちょっとうるさかったですけど」
「そうか……」
髭を撫でながら優しい目をする老神を、二人は黙って見守っている。
やがてノエルが意を決した様子で口を開いた。
「ご自身で様子を見に行ってくだされば、あいつも喜ぶと思いますよ」
するとゼウスは少し難しい顔になって立ち上がり、二人に背を向ける。
そしてぼそっと呟いた。
「わしは忙しいのでな……」
素直ではない老神の言葉にセイラとノエルが目を合わせてニヤニヤしていると、突然部屋の入り口の方から声がかけられた。
「またどこぞの世界で可愛い女の子でも見つけたのですか? ゼウス」
三人が一斉にそちらを振り向く。
セイラとノエルがソファから立ち上がって居住まいを正した。
絹糸の如く細く美しい金の長髪が鏡の様に煌めき、碧い双眸は全てを見通す様な知性を以てこちらを見据えている。
淡い水色の羽衣に覆われたしなやかな肢体が、少女然とした容貌に似つかない、艶めかしい雰囲気を纏っていた。
女神ソフィアが柔らかい微笑みを口元に湛えたまま部屋の中へと歩み寄る。
そしてセイラとノエルの近くまで来たところで立ち止まった。
「そんな雰囲気ではなかったじゃろうが。話を聞いておったのか?」
「途中から」
「全く……」
そこでゼウスは現在フォークロアーで起きている事態をソフィアに説明した。
ティナという少女が勇者に選ばれ旅立った事。
ジンがティナに一目惚れをして下界に降り立ち、一緒に旅をしている事。
もうすぐグランドクエストが始まるので、ジンが過干渉をしないか心配な事。
ここでいう「過干渉」とはクエスト遂行にあたってジンが必要以上にティナのサポートをしてしまう事を言う。
極端な例で言えば、クエストの達成条件をジンが代わりに満たすといった行動がそれにあたる。
説明を聞き終えたソフィアは笑顔のまま口を開いた。
「ふふ、ジン君は相変わらずですねえ」
「相変わらずで済む問題ではないじゃろう」
そこでソフィアは少しだけツンとした態度になる。
「そうは言ってもゼウス、それはあなたの自業自得ではないのですか?」
「何でそうなるのじゃ」
「どうせその新しい勇者の子、黒髪を結った美少女なのでしょう?」
そこでゼウスは再び三人に背を向けた。
「……」
「図星ですか。自分で美少女を選定しておいて、それに一目惚れして地上に降りたジン君を追放とは……まあ、あなたの事ですから本当の意味での追放はしていないのでしょうが」
「だって、むさ苦しい男勇者には飽きたんじゃもん」
拗ねた子供の様な老神の言葉にため息をつくと、ソフィアはセイラとノエルの方を向いて言った。
「状況からして、あなたたちはジン君のお友達なのですね?」
「はあ、まあどちらかと言えば腐れ縁というやつです」
ノエルが苦笑しながら返事をすると、またソフィアは微笑んだ。
ジンは若くしてテイマーズでトップクラスの実力を持ち、なおかつ問題児でもある為ソフィアにもその名を知られている。
しかし、一般の精霊ではそうもいくわけはない。
そこでセイラとノエルは自己紹介をした。
「セイラちゃんにノエル君ね。ソフィアです、よろしくお願いします」
「「存じております」」
互いに一礼する。
ちゃん付けで呼ばれ慣れていないセイラは少し照れた様子だ。
ゼウスは振り向き、三人が落ち着くのを見計らってから声をかけた。
「さて二人共、用件は以上じゃ。準備が出来次第向かってくれ」
「「わかりました」」
セイラとノエルが部屋から去るのを待って、ゼウスが口を開く。
「さて、そちらの用件をまだ聞いておらなんだの」
「用件という程のものではありません。ただの報告です」
「報告?」
そこでゼウスは首を傾げた。
しかし、すぐに思い当たる節が合ったようだ。
「ああ、あの世界の……」
「はい、あちらが一段落しましたので」
「ならお主も神としての仕事に正式に復帰できるというわけじゃな」
「そうですね。まだしばらくはあの人のところに顔を出しますが」
「相変わらずじゃのう。と言っても必要な事ではあるか」
「そういう事です。それでは私はこれで……」
去っていく女神の背中を老神が黙って見送っていた。
緑色の肌に丸い頭、そして口元から覗く鋭利な牙。
それはいわゆるゴブリンと酷似した外見をしていた。
だが決定的に違う点がある。身体だ。
ゴブリンにしてはあまりに巨躯だと言える。
ゴブリンに似たそれは橙色の果実を貪るように食べていて、その前には恐怖に怯えた様子で震える一人の少女がへたりこんでいた。
少女は俯き、祈るように手を組んで誰にともなく小さな声でつぶやいている。
「誰か……誰か助けて……」
祈りと呼ぶにはあまりに悲痛でか細い声だ。
しかしそれが勘に障ったのか巨躯のモンスターが少女に視線を向ける。
そして大きく口を開いて咆哮した。
「オオオオオオオオッ!!!!」
「いやぁっ!」
危険を感じた少女は耳を塞いで身体をさらに大きく震わせる。
気付けばモンスターの手からは果実がなくなっていた。
モンスターは近くにあった巨大なこんぼうを拾い上げて振り下ろす。
地面とこんぼうの激しい衝突音が空間内に響き渡った。
「ひぃっ!」
怯える少女は手で服や鞄に手を入れて必死に何かを探す。
そしてようやく鞄から橙色の果実を取り出した。
先ほどもモンスターが貪り食べていたものだ。
少女がそれを差し出すと、モンスターはまた大人しくなった。
しかし安心する事も出来ず、少女は再び祈るように手を組んで涙を流しながら懇願する。
「誰か、誰か助けて……」
行き場のないこの洞窟の狭い空間で、その声はどこにも届かず消えてしまう。
後に残るのは少女の鳴き声と、果実がゆっくりと潰れていく音だけであった。
☆ ☆ ☆
「また呼び出しだってさ」
不満顔ながらもどこか弾む様な声音でセイラが呟いた。
セイラとノエルは今、ゼウスに呼び出しを受けて創世の神殿に足を運んでいる最中だ。
ノエルがセイラの方に笑顔を向けて口を開く。
「ジンと仲が良いっつったら真っ先に浮かぶのは俺らだろうし、しょうがねえさ」
「別にあのバカの事で呼び出されたとは限らないでしょ」
「俺らがゼウス様に呼び出される原因なんてそれくらいしかないだろ」
「それもそうね」
笑顔のセイラはまるでこれから買い物にでも行くかの様な足取りだ。
雑談をしながら歩いていると、やがて神殿に到着。
ゼウスのいる執務室までは普通に歩いて入って行く。
ティナの旅立ちを生中継した時の様なイベント時は精霊たちで埋め尽くされるここも、平常時は各部隊から派遣された当番制の警備員がちらほらいるだけだ。
二人は労いの挨拶を交わしながら奥に進んで行く。
執務室に到着すると、セイラが扉をノックした。
誰何の声に応じると入室の許可が出る。
「「失礼します」」
扉を開けて中に入ると、白髪の老神がこちらに背中を向けて立っていた。
後ろで手を組み、何やら意味ありげに佇んでいる。
もちろん意味など特にない。ちょっとかっこつけてみたいだけだろう。
ゼウスはくるりとこちらを向くと、孫を出迎える優しいおじいちゃんの様な顔になって口を開いた。
「よう来てくれたの。まあ座りんさい」
「「失礼します」」
促されて、二人はソファの様なものに少しだけ互いの距離を開けて座る。
それを見てからゼウスもその向かい側に腰かけた。
ゼウスがゆっくりと話を切り出す。
「今日もちょいとジンへの伝言を頼まれてもらおうと思っての」
「伝言、ですか」
「うむ」
伝言の後にテイマーズをふっかけたかと思えばまた伝言。
思わず聞き返してしまったノエルだったが、それ以上の深入りはしない。
神の考えを推し測る事はあまりいい事だとは思われていないからだ。
ノエルはなるべく気にしないようにして話を続けた。
「どういった伝言でしょうか?」
「そろそろグランドクエストが始まるはずじゃ。決して過干渉をするでないぞと」
「わかりました」
ノエルの返事を最後に、場には沈黙が流れる。
用件はそれだけなのだろうか、と二人は考えた。
それを見通したかの様にゼウスが言いにくそうに口を開く。
「それでその……なんじゃ。あのバカタレの様子はどうじゃ」
セイラが思わず吹き出した。
ゼウスに睨まれると楽し気に報告をする。
「元気にしてましたよ。ティナがティナがーってちょっとうるさかったですけど」
「そうか……」
髭を撫でながら優しい目をする老神を、二人は黙って見守っている。
やがてノエルが意を決した様子で口を開いた。
「ご自身で様子を見に行ってくだされば、あいつも喜ぶと思いますよ」
するとゼウスは少し難しい顔になって立ち上がり、二人に背を向ける。
そしてぼそっと呟いた。
「わしは忙しいのでな……」
素直ではない老神の言葉にセイラとノエルが目を合わせてニヤニヤしていると、突然部屋の入り口の方から声がかけられた。
「またどこぞの世界で可愛い女の子でも見つけたのですか? ゼウス」
三人が一斉にそちらを振り向く。
セイラとノエルがソファから立ち上がって居住まいを正した。
絹糸の如く細く美しい金の長髪が鏡の様に煌めき、碧い双眸は全てを見通す様な知性を以てこちらを見据えている。
淡い水色の羽衣に覆われたしなやかな肢体が、少女然とした容貌に似つかない、艶めかしい雰囲気を纏っていた。
女神ソフィアが柔らかい微笑みを口元に湛えたまま部屋の中へと歩み寄る。
そしてセイラとノエルの近くまで来たところで立ち止まった。
「そんな雰囲気ではなかったじゃろうが。話を聞いておったのか?」
「途中から」
「全く……」
そこでゼウスは現在フォークロアーで起きている事態をソフィアに説明した。
ティナという少女が勇者に選ばれ旅立った事。
ジンがティナに一目惚れをして下界に降り立ち、一緒に旅をしている事。
もうすぐグランドクエストが始まるので、ジンが過干渉をしないか心配な事。
ここでいう「過干渉」とはクエスト遂行にあたってジンが必要以上にティナのサポートをしてしまう事を言う。
極端な例で言えば、クエストの達成条件をジンが代わりに満たすといった行動がそれにあたる。
説明を聞き終えたソフィアは笑顔のまま口を開いた。
「ふふ、ジン君は相変わらずですねえ」
「相変わらずで済む問題ではないじゃろう」
そこでソフィアは少しだけツンとした態度になる。
「そうは言ってもゼウス、それはあなたの自業自得ではないのですか?」
「何でそうなるのじゃ」
「どうせその新しい勇者の子、黒髪を結った美少女なのでしょう?」
そこでゼウスは再び三人に背を向けた。
「……」
「図星ですか。自分で美少女を選定しておいて、それに一目惚れして地上に降りたジン君を追放とは……まあ、あなたの事ですから本当の意味での追放はしていないのでしょうが」
「だって、むさ苦しい男勇者には飽きたんじゃもん」
拗ねた子供の様な老神の言葉にため息をつくと、ソフィアはセイラとノエルの方を向いて言った。
「状況からして、あなたたちはジン君のお友達なのですね?」
「はあ、まあどちらかと言えば腐れ縁というやつです」
ノエルが苦笑しながら返事をすると、またソフィアは微笑んだ。
ジンは若くしてテイマーズでトップクラスの実力を持ち、なおかつ問題児でもある為ソフィアにもその名を知られている。
しかし、一般の精霊ではそうもいくわけはない。
そこでセイラとノエルは自己紹介をした。
「セイラちゃんにノエル君ね。ソフィアです、よろしくお願いします」
「「存じております」」
互いに一礼する。
ちゃん付けで呼ばれ慣れていないセイラは少し照れた様子だ。
ゼウスは振り向き、三人が落ち着くのを見計らってから声をかけた。
「さて二人共、用件は以上じゃ。準備が出来次第向かってくれ」
「「わかりました」」
セイラとノエルが部屋から去るのを待って、ゼウスが口を開く。
「さて、そちらの用件をまだ聞いておらなんだの」
「用件という程のものではありません。ただの報告です」
「報告?」
そこでゼウスは首を傾げた。
しかし、すぐに思い当たる節が合ったようだ。
「ああ、あの世界の……」
「はい、あちらが一段落しましたので」
「ならお主も神としての仕事に正式に復帰できるというわけじゃな」
「そうですね。まだしばらくはあの人のところに顔を出しますが」
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