女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

文字の大きさ
34 / 207
王都ミツメ編 前編 新たな出会いたち

そっくりさんたちの正体は

しおりを挟む
「ジン君、私ね……」
「おう」

 声の方に寝返りをうってから返事をした。
 ティナは今にも消え入りそうな細い声で語りかけて来る。

「いつかは本当の……」

 おっ、遂に打ち明けてくれるのか? 自分が勇者だってことをまだ隠してるもんな。
 隠してる、というよりは自分がそうだってことが信じられないとかそんなところだとは思うけど。
 ティナはまだ言い淀んでいて言葉が続かない。

 本当に勇者の話かどうかもわからないし。
 急かすことをせずにのんびりとその先を待つ。
 そして十分に間が空いてからの事だった。

「zzz」

 ささやかな隙間風の様な寝息が聞こえて来た。
 どうやら寝言だったらしい。
 何だよ、変に緊張しちまったじゃねえか。

 ていうか一つ屋根の下を意識してたのも俺だけで、ティナは何とも思ってなかったらしい。
 まあ当然と言えば当然か。俺もさっさと寝よう……。

 翌朝。よく眠れずに重くなった瞼をこすりながらの起床。
 すると横から鈴の音を鳴らす様な声が聞こえて来た。

「おはよう。よく寝てたね」
「おう……?」

 寝顔を見られてたのか。何か恥ずかしいな。
 軽く朝食を摂ったら片づけをしてまた出発。

 トラブルとかがなければ今日中にはミツメにつけるはずだ。
 朝の爽やかな空気の中を、ティナと一緒にのんびりと歩く。
 ティナは都会に憧れを持っていて、それが冒険者を目指すきっかけの一つになったと教えてくれた。
 いつかはミツメに定住したいらしい。

 俺もミツメなら入った事くらいはあるけど……。
 人が多くてうざいだけだったけどな。
 
 やがて森に差し掛かる。ここを越えれば王都はもうすぐだ。
 
 この森はツギノ町とミツメの間にあるおかげで人々の往来が多く、そのため俺たちが歩いてきた街道がそのまま通るように整備されているから道に迷う事はない。
 梢によって作られる天井から漏れ出る陽光を浴びながら、鳥や虫、獣やモンスターの生み出す喧騒の中を歩く。

 たまにティナが花や草木に興味を示して二人で立ち止まる。
 途中座って水を飲んで休憩していると、モンスターに遭遇したりもした。
 そんな感じで歩いていると、やがて森を抜けて草原地帯に出る。

 さらに少し歩いて王都が遠くに見えてくると、ティナが目を輝かせながら歓声をあげた。

「わ~すごい! あれが王都!?」
「ああ。ティナは来るの初めてなんだよな」
「うん。楽しみ!」

 まあ俺も入った事があるってだけで詳しいわけじゃないけどな。
 早めにセイラとノエルに会って情報を収集しておきたいところだ。
 あいつらも詳しいわけじゃないと思うけど、俺よりは下界に興味を持ってたし。

 ミツメに近付くにつれて、モンスターを狩ってレベル上げをする冒険者も増えて来る。
 その様子を眺めながらティナがぽつりと呟いた。

「やっぱり、みんないい装備をつけてるんだね」

 ここいらのモンスターを狩るって事は、ミツメを拠点にする冒険者の中でもレベル的には下層のはずだ。
 なのにティナの言う通り、中々にいい装備をつけている。

 中にはてつのつるぎやてつのよろいを装備してるやつなんかもいた。
 お金を貯めに貯めて買ったんだろうな。
 ティナにはそんな苦労をさせずにいい装備をつけさせてやりたいと思った。

 しばらく歩いてようやく街の入り口に到着。
 街の中に入ると、早速人と人が生み出す喧騒に包まれた。
 
 物珍しそうにきょろきょろしながら歩くティナ。
 やがてツギノ町ではあまり見られない光景が目に入って、それを俺に教えようと口を開いた。

「エルフにドワーフ……だよね、あの人たち」

 人間の中でも亜人種と呼ばれる人たちだ。
 ツギノ町にもいなかったわけじゃないけど、数は随分と少なかった。
 それがここミツメでは当然の様に目の前を闊歩している。

 このままゆっくりと街を見て回るのもいいけど、既に空が暮れ始めている。
 はしゃぐティナに声をかけた。

「そろそろ暗くなり始めてるし、宿屋を探すか」
「ご飯のおいしいところがいいな」

 エアじゃなくても、誰かしらオブザーバーズの連中と連絡が取れればな。
 ティナがお望みの宿屋をすぐに見つけてやれるってのに。
 次にエアが通信を繋いで来たら相談してみよう。

 オブザーバーズは仕事柄、精霊部隊の中では最も人間の街に精通している。
 それも王都ミツメの事とあらばかなり詳しいはずだ。
 まあ連絡が取れないやつらの事をあれこれと考えてもしょうがない。

 それからしばらくはいい感じの宿屋を探してうろついた。
 ティナとはぐれていないかを確認しながら、人混みをかき分ける様にして進んで行く。
 やがてツギノ町でも泊まった様な、ボロ過ぎず高級過ぎずな宿屋を発見。

 はしゃぎ過ぎたのか人混みに酔ったのか。
 ティナが少し疲れた様子で言葉を漏らした。

「もうここでいっかな……どこかで見た感じで何だか安心感あるし」
「そうだな」

 返事をしてから扉を開けて中に入ると、少し騒々しいベルの音と店員さんの挨拶が迎えてくれた。

「いらっしゃいませ」
「えっ」

 受付に歩いていく事すらせず、入り口で立ち尽くしてしまった。
 挨拶をしてくれた受付の店員さんが、ツギノ町で使っていた宿屋のお姉さんだったからだ。
 俺の後ろにいたティナも、ひょこっと顔を覗かせる様に受付を見て何が起きたのかに気付いたらしい。 
 ティナが大きく開けた口を手で隠しながら驚きの声をあげる。

「お姉さん!?」
「あら、どこかでお会いしたかしら?」
「どこって、ついこの前までツギノ町で」

 言われなれているのか、お姉さんは即答して来た。

「それはきっと妹ね。よく間違われるのよ」
「「妹!?」」

 ティナとハモってしまった。どう見ても双子で、姉妹じゃない。
 俺なんて未だにお姉さんが冗談を言っているんじゃないかと思ってるくらいだ。
 そんなこちらの様子に構うことなくお姉さんは会話を続けた。

「ちなみに、他の街の宿屋にも私のお姉ちゃんたちがいるわよ?」
「お姉ちゃんたち?」
「ええ。同じに見えるかもしれないけど、全員別人だから。もしお姉ちゃんたちに会うことがあったら、よろしくね」

 二の句が継げない俺たちを置いて、お姉さんは営業を始めた。

「旅人の宿屋へようこそ。今日はこちらにお泊りかしら?」



 手続きを済ませて部屋に入ると、ティナは早々に風呂に入って寝てしまった。
 旅と人混みで疲れ切ってしまったのだろう。
 つまらないので俺もさっさと風呂に入ってベッドに寝転んでいる。

 せっかく王都に来たんだし、暇な時にセイラやノエルを呼び出してみたい。
 でも連絡役の精霊がどこに配置されてんのか聞き忘れたんだよな。
 さてどうするかと悩んでいると、タイミングよく通信が入った。

(聞こえるか?)
(エアか)
(ああ。ようやくお前たちが人混みを抜けて「テレパシー」の照準を合わせやすくなったので、声くらいかけておこうと思ってな)

 恐らくオブザーバーズの「テレパシー」は別のスキルで表示した脳内マップ上の点に照準を合わせる形で使用するのだろう。
 別のスキル、というのはテイマーズで言えば「レーダー」に当たるスキルだ。
 オブザーバーズなら確か「マップ」とか言ったっけかな……。

 とにかくこのタイミングでの通信は渡りに船だ。

(ちょうどいい。連絡用に配置されている精霊がどこにいるのか教えてくれ)
(何だ知らなかったのか)
(テイマーズは街の中にまで入るような仕事はないからな)
(そうだったか。まあいい、連絡役はこの街ではギルド職員に化けている)
(なるほど。じゃあクエストを受けに行くついでに会ったり出来るな。ついでにギルドの場所も教えてくれ)
(少しは自分で調べるくらいしろ、全く……ギルドならその前の通りを真っすぐ行って大通りを再び真っすぐ行けばあるぞ)
(説明下手かよ。全然わかんねえんだけど)
(何故わからないんだ)
(逆に何でその説明でわかると思ったんだよ)
(しょうがないやつだな……地図は持っているのか?)
(持ってない)
(では明日道具屋に寄って買って来い。印をつけてやる)
(道具屋の場所は受付のお姉さんに聞いた方がいいな)

 俺が道具屋の場所を知っているというのは少し不自然だ。
 
 ティナの目の前で無くてもいいけど、一度誰かに道を尋ねたという事実を作った方がいい。
 だから下手くそなエアの説明を理解するより、明日受付のお姉さんに教えてもらった方が色々と効率がいいという判断だ。

(そうしてくれ)
(わかった。じゃあ悪いけどまた明日通信を繋げて欲しい)
(ああ、またこのくらいの時間にな。それでは失礼する)

 そこで通信は途絶えた。
 どうでもいいけどエアって友達とかいるんだろうか。
 ベッドから降りて窓際に歩み寄り、外を眺めた。

 夜の帳が下りても、ミツメでは人々の活動が止むことはないらしい。
 建物の中から漏れる明かりや、松明の灯りを頼りに人々が通りを行き交う。
 忙しない街並みは活気に溢れているとも言えた。

 明日はティナとどんな事が出来るのだろうか。
 いつものちょっとした期待に胸を躍らせながら、再びベッドに身体を沈めた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。 ※本作は小説家になろうでも投稿しています。

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

処理中です...