女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

文字の大きさ
46 / 207
王都ミツメ編 後編 恋する乙女と炎の竜

イベントの始まり

しおりを挟む
 アルミラージの角採取に行ったのを皮切りに、それから度々ラッドたちと一緒にクエストをこなしていった。
 
 たまにセイラやノエルにも会って説教を受けたりしつつ、ティナの相手もしてもらった。
 あいつらが来るとティナが喜んでくれるので俺も嬉しい。

 そして迎えた勇者選定の当日、朝食時の事だった。

「今からそんな様子だとイベントまでに疲れ切っちまうぜ」
「うん……」

 レベルも少しは上がって装備も新しいものを買い。
 自信をつけたはずのティナは浮かない顔をしている。
 会話をしていても心ここにあらずといった感じだ。

 考えてもわからない。素直に聞いてみる事にした。

「ティナ。元気ないみたいだけど、どうしたんだ?」
「えっ? えっと……その、何て言うか不安で」
「不安?」
「だって、今日発表される課題によってはロザリアちゃんたちとバラバラになっちゃうかもしれないでしょ? それに、ジン君だって」

 なるほどな、イベントでみんなと一緒に行動出来ないかもしれないのが不安なわけか。
 俺はティナの目を見ながら少し強めに言った。

「大丈夫だって。何があっても絶対に俺はティナの味方だから」
「ジン君は勇者に選ばれたいとかはないの?」
「全然。……そういうティナはどうなんだ?」
「えっ私?」

 聞かれるとは思っていなかったのか、ティナは目を丸くした。
 それから少し俯きがちになって返事をしてくれる。

「私はね、正直に言えばちょっとだけ選ばれてみたいんだ。おとぎ話の勇者様に憧れてたから」

 ちょっとだけ本音を打ち明けてくれたのが嬉しくて、気付けば俺は食器を動かす手を止めていた。

「ティナ」
「ん?」
「俺はいつだってお前の味方だからな。それだけは忘れないでくれ」

 さっきとほとんど同じような言葉だった。
 だからこそ、というべきなのか。
 それはティナの心にしっかりと響いてくれたらしい。

 ようやくティナはいつもの笑顔を浮かべて、

「うん。あ、ありがとう。ジン君」

 少し照れ臭そうにそう言ってくれた。



 ラッドたちとはギルド前で待ち合わせをしている。
 時折後ろを振り返りながら、人混みの中を縫うようにして歩いていく。
 ティナとはぐれないか心配でいっその事手を繋いでしまいたい。
 いや、無理だな。やめよう……。

 ギルドに着いたものの、ラッドたちはまだ来ていない。
 同じように待ち合わせをしているらしい冒険者たちと一緒になって壁によりかかり、二人を待った。

 所在なさげに視線を躍らせるティナを見ながら時間を潰す。
 こんな人の多いところで誰かを待つ経験をした事がないんだろうか。
 ティナ観察をしていると、やがて人混みからラッドとロザリアが現れた。

 ラッドが片手を上げながら口を開く。

「待たせてしまって悪いね」
「いや、いつも待たせてるのは俺らの方だしな」

 それぞれが簡単に挨拶を交わすと早々に王城へと足を向けた。
 俺とラッドが前を行き、後ろにティナとロザリアという並びだ。

 道行くやつらの中には冒険者っぽいのが多く見受けられる。
 こいつら全員が今日のイベントに参加するんだろうか。
 そんな風に考えていると、後ろから女子二人の会話が聞こえて来た。

「ティナちゃん、大丈夫ですか? 今日はあまり顔色がよくありませんわ」
「ちょっと今日の事が色々心配で……」

 ロザリアがティナの話を聞いてくれている。
 もしかしたら俺よりもうまくティナを励ましてくれるかもしれない。
 寂しいけどこういう時はやっぱり女の子同士の方がいいのか。

 俺の心中を察したのか、ラッドがいつもみたいに肩を組んで来た。

「ティナはちょっとだけ元気がないようだね。なあに、ロザリアに任せればうまくやってくれるさ」
「だろうな……頼りにさせてもらうよ」

 俺だけじゃ支えてやれない事だってある。
 その事実に久々に無力感というものを覚えながら歩いた。
 やがて王城が見えてくると改めて驚く。

 本当にエリスの家が王城と呼ばれている城だったのかと。
 前に来た時はこの城が王城だとは知らなかったからな。
 そもそも城なんてものはぽんぽんあるわけじゃないんだから気付けよとは自分でも思ったけど。

 まあ偉いやつだろうが何だろうがエリスがエリスである事に変わりはない。
 今日は無理だけどまた今度遊んでやろう。
 そう思いながら、冒険者でごった返す端を渡って城門へ。

 城門の脇では兵士が大声で道案内をしている。

「勇者選定の参加者は全てこちらへ!」
「私のファンは全てこちらへ!」

 よくわからん事を叫んでいるのはどう見てもただのおっさんだ。
 どさくさに紛れて何かをアピールしようとしているらしい。
 おっさんのところに行ったら何かもらえるのかとか変な事を気にしてしまった。

 案内の通りに進んで城の中に入っていく。
 石で造られた建物の中を歩いているとゼウスの家を思い出す。
 昔からこの無駄に厚くて堅い感じがどうにも合わないんだよな。

 荘厳な雰囲気が偉いやつらには似合うのかもしれないけど……。
 エリスはそんな事を気にするようなやつじゃないようにも思えた。
 
 そんな事を考えながら歩いていると大広間に到着。
 かなり広いやや横長の部屋だ。
 正式な儀式なんかに使われる場所じゃないのか、あまり豪華な内装はない。
 
 人が多くて前の方にいくのはかなり大変そうだ。
 俺たちは入り口から少しそれたところで勇者選定の開始を待つことにした。

「すごい人の数だね。みんな冒険者かな?」

 ティナはまた少し元気を取り戻したらしい。
 落ち着いた様子で部屋全体を見渡して観察しているようだ。

「勇者ってのは人気の職業なんだな」
「もちろんさ! 誰もが憧れる英雄だからね。もっとも、ここにいるやつらはそれだけが目的じゃないのだろうけれど」

 誰ともなく発した呟きにラッドが答えてくれた。
 
 ラッドの言っている「それだけが目的じゃない」というのは、恐らく資金援助なんかの事だろう。
 エアも王家からの支援が期待出来るとか言ってた気がするしな。

 つまりこの中には金目当てで来てるやつもいるってわけだ。
 まあそれも別にいいんじゃないかとは思うけど、金の為に勇者として戦い続けるってのは辛いような気もする。

 雑談をして時間を潰しているとにわかに入り口付近がざわめき立つ。
 何事かと視線をやると偉そうなやつらが入って来るところだった。
 先頭は王冠を被った何かすごい偉そうなやつで、その周りを幾人かの兵士が取り囲んでいる。

 兵士もその辺に居る連中よりも随分と強そうだ。
 そしてすごい偉そうなやつの後ろを見覚えのあるちびっこが歩いている。
 エリスだ。じっと見ていると目が合ってしまった。

 やばっ、こんなとこでこいつと知り合いってわかると面倒くさくなるかもしれないじゃん。
 焦っていると、エリスは一瞬だけこちらを見て怒ったような顔をした後、すぐ前に向き直って歩き出した。
 周りのやつらは「ん? 今の何?」という表情をしている。

 よかった、あいつなりに気を使ってくれたのかな。
 ちびっこなのによく気が回るやつだ。今度お礼を言っておこう。

 やがて偉そうな一団は部屋の前の少し高くなっている場所に到着すると横一列に整列した。
 その中から王冠を被ったすごい偉そうなやつ――多分エリスの親父で王様ってやつ――が前に出て来て何やら演説みたいな事を始める。

「今日ここに集まってくれた諸君!! 私は一度でいいからこの『諸君』という言葉を使ってみたかったのだ!!」

 知らねーよ。
 王様はぐぐっと拳を握って全身をわなわなと震わせている。
 感動を味わって気が済んだのか、演説が再開された。

「勇者が現れるとの予言がされて早一年! いや二年! 三年かもしれない、とにかく忘れたが未だに勇者は現れていないではないか! もしかして予言は嘘なのでは……そう思う者がいるのも仕方のない事であろう! しかし私は予言は本物だと信じている、それは何故か!? 予言者が昔からの友達だからだ! 友達は信じるべきだと諸君もそう思わないか!?」

 大広間は完全に静まり返っていて、物音一つさえろくに立たない。
 賛同しないというよりは王様の言っている事がよくわからないと言った方が正しいように思える。

「何!? 諸君はそうは思わないのか! ならもういい! 終わり! じゃ、後はエリスちゃんの言うことを聞くように! 聞かないやつは死刑!」

 そう言うと王様は踵を返して偉そうなやつらの列に戻っていった。
 エリスの方がまだ賢いんじゃないかと思える王様は真面目な顔で誇らしげに立っている。
 少しの間があった後、今度は宣言通りにエリスが前に出て来た。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。 ※本作は小説家になろうでも投稿しています。

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

処理中です...