女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

文字の大きさ
50 / 207
王都ミツメ編 後編 恋する乙女と炎の竜

刹那を生きる人情派

しおりを挟む
「もうちょっと丁寧に歩きなさいよ!」
「丁寧に歩くってなんだよ」
「木の枝とかに当たってるんだけど」
「じゃあ肩車やめて歩くか?」
「靴がすごく汚れそうだからいや」
「そうかい」

 アッチノ山は全体的に岩場が多いもののそこそこに自然の恵みがある山だ。
 山道は入り組んでいて、自分たちの現在位置も把握しづらい。
 分かれ道には看板が立っていたりするから道に迷うことはないけど、回り道でもしているみたいに変な道を歩かされている。

 急ぎ足で登るも冒険者の多さと道の複雑さで思うように進むことができず、俺ははやる気持ちを抑えるのに必死だった。

 エリスの愚痴を聞きながら歩いていると、ようやく少し開けた場所に出た。
 アッチノ山周辺の景色を一望できる山道だ。
 山肌にはあまり背の高い草木やらは生えていなくて、岩がそこかしこから突き出ていて少し殺風景だと感じさせる。

 俺は山道の先を見据えながら毒づいた。

「くそっ、これじゃ上にたどり着くのにどれだけ時間がかかるんだよ」
「でもこれならあんたの恋人もそんなに上まで行ってないんじゃないの?」
「ば、ばかお前恋人とか恥ずかしいからやめろよばかやろぉ!」
「…………」

 エリスの言う通りだったならまだいい。
 頂上付近にまで行っていなければティナたちが無事な可能性は高いからだ。
 
 頼むから引き返していてくれよ。
 ロザリア辺りがみんなを止めてくれてるとは思うけど……。
 と悶々としていた時だった。
 目の前から小規模な爆発音と悲鳴が連続して聞こえてくる。

「うおっジバクイワだ!」「きゃっ!」
「ヴォーッ!」

 断続的に鳴り響く爆発音を聞きながら俺はその辺の岩陰に隠れた。
 あれは岩の多い場所によく出現するモンスター、ジバクイワだ。
 戦闘中に結構な確率で自爆をするのが厄介で、死に対する恐怖みたいなものもないからテイム、つまり言うことを聞かせるってのも中々できない。

 ただ、それは命令ができないだけであって頼み事は聞いてくれる。
 刹那を生きるがために人(岩?)情や面白いことを大切にする実に気のいいやつらなのだ。
 あと、「自爆は華やかに、そしてできるなら誰かの役に立てるように」といったポリシーもあるらしい。

 ちょうどいい、この山のことはこの山にいるモンスターに聞いた方が早いだろ。

「ちょっと、何よあれ」
「ジバクイワってモンスターだ。危ないからちょっとだけここで大人しくしてろ」
「…………」

 エリスはモンスターとの遭遇で動揺しているのか、出会って以来初めて大人しく言うことを聞いてくれた。
 肩から降ろすと俺の側を離れずに岩陰でじっとしている。

 俺は岩陰から冒険者とジバクイワたちの戦闘を見守るふりをしつつ「レーダー」を発動した。
 うん、今戦闘してるやつだけじゃなくその周りにも結構な数が潜んでるな。

 というか俺の周りにもそこそこいる。
 「テレパシー」を発動してどいつでもなく適当に語りかけた。

(おいそこのジバクイワども、聞こえるか? 俺はモンスターテイマーズのジンだ)
(なに精霊だぁ? おいおめえら精霊が来やがったぞ! 気合い入れろぉ!)
(((おおおおおお!!!!)))
「きゃっ、な、なによこれ!」
「ジバクイワが威嚇してきてるだけだから大丈夫だ」

 周囲から雄叫びの声があがる。実際に口頭でもヴオオォォォと雄叫びをあげたので周辺にいる冒険者とエリスが揃って驚いていた。

(いやいやそんなに気合い入れなくていいから。それより、この山に裏道というか人間の通らない道みたいなのはあるか?)
(おうあるぜぇ! 人間どころか俺たちも滅多に使わねえ道がなぁ! なんなら案内してやろうか!)
(頼む。人間と一緒にいるからそっち方向に転がっていくだけでいい)
(ほう。で、今おめえはどこにいやがんだ)
(お前らの仲間と冒険者が戦闘してるだろ? その少し後ろの岩陰にいる)
(がってんだ!)
(悪い、それともう一つ頼みがある)
(なんでい!)
(俺とお前が走り抜けた道を他のジバクイワたちで塞いでくれないか? 複数の人間に後をつけられてる)

 多分だけど、ミツメからずっとつけてきている兵士がまだいると思う。
 ここいらで撒いておかないと走るにしても戦うにしても全力を出せない。

(中々おもしれえことやってんじゃねえか、いいねえ! 聞こえてたか野郎ども!)
(((おおおおおお!!!!)))
「きゃっ!」

 再び心の声と口頭での両方で雄叫びがあがり、今度はエリスが俺に近寄り服の裾を掴んできた。
 やっぱり子供……と思ったけど、これは冒険者でもびびるくらいだから当然の反応か。

 とそんなことを考えているとジバクイワから作戦開始の合図が届く。

(いくぜえジン! 一気に裏道目掛けて走るから俺についてきやがれ!)
(おう!)

 同時にエリスに声をかけて、正面から抱っこみたいな形で持ち上げる。

「おいエリス、ジバクイワから逃げるぞ! しっかりつかまってろよ!」
「えっ!? ちょ、ちょっと!」

 俺と通信をしていたらしいジバクイワが上から山道に転がってきて、裏道があると思われた方向に転がり出した。
 そして戦闘していた冒険者たちと俺たちの間に次々とジバクイワが現れる。

 冒険者たちに迷惑をかけて申し訳ないとは思うけど、きちんと防御さえすれば自爆で死ぬということはないはずだ。
 出現したジバクイワは数こそ多いけど、自爆の有効射程距離内へはそんなに冒険者たちは入っていないしな。

 俺は岩陰から飛び出し、出現したジバクイワたちから逃げるように裏道へ転がるジバクイワを追う。
 背後から次々に爆発音と冒険者たちの怒号が聞こえてきた。

「うおっ! こりゃまずいな!」「防御魔法を!」
「こっちには回復を頼む!」

 うん、冒険者たちの方はなんとかなりそうだな。

「ちょっとちょっとちょっと! 何よこれー!」

 腕の中で悲鳴をあげるエリスは、いつの間にか俺の服をぐしゃりと掴んで涙目になっている。
 怖がらせて申し訳ないとは思うけどティナたちの安全が最優先だ、これくらいは我慢してもらおう。
 ていうか結構やばいことやってんな、俺。後でエアとかグレイスからは怒られるだろうな……。

「エリス様ー!」「エリスしゃまー!」
「うわあああ!」
「ねえ、何か今兵士たちの声が聞こえなかった?」
「気のせいだろ」

 やっぱりいやがったか。
 冒険者たちに続いて、後ろからは兵士たちが悪戦苦闘する声が届く。
 だけどその声も遠くなり次第に聞こえなくなってきた。

 ジバクイワについていくと、いくつか前の分かれ道まで戻ってきた。
 そのまま看板に「こっちは行き止まり」と書かれている道へと入って行く。

 背後からはまだ断続的に爆発音が聞こえてくる。
 ジバクイワたちが念入りに道を封鎖してくれているみたいだ。

「ちょっと、どこまでいくのよ!」
「まだ爆発音が聞こえてくるし危険だ。それに、ちょうどよさげな裏道を見付けたからこのまま突撃してみるぜ」

 俺の腕の中にいるエリスには先を行くジバクイワの姿は見えていないはずだ。
 こういっておけば何とかなる……といいけどな。

 いつしか山道は徐々に狭くなって獣道へと変わり、周りの風景は岩と土が中心のゴツゴツとした山肌から緑の生い茂る秘境へと変わる。
 葉擦れの音や枯れた木を踏み割る音に混じって動物の鳴き声も聞こえてきた。

「…………」

 慣れない環境に怯えているのか、次第にエリスは何も言わなくなった。
 道が細く視界も悪いのでジバクイワを追うのも段々きつくなってくる。
 そんな時だった。

(そろそろ裏道に出るぜぇ! 「やつ」が踏み鳴らした道を行きゃ頂上へはすぐにつくってもんだ! あばよ!)
(ありがとな!)

 そこでジバクイワの声は聞こえなくなった。
 「やつ」って何のことだろう、まあいいか。
 そのまま走り続けると、やがて少し開けた場所に出た。

 人が踏み入らないので整備はされていないものの、道だとわかるものが一本通っている。まあまあ横幅も広い。
 左右も獣やモンスターの仕業なのか、適度に草木が刈り取られている。

 道は先の方で折れ曲がっていて、曲がった先は斜面になっているようだ。
 恐らく頂上へ向けてかなり短い距離でいける道になっているのだろう。
 何でそんな風になってんのかはわからないけど、この道を使えば俺の足ならすぐに頂上へといけるかもしれない。

 ふとエリスを抱き上げていたことを思い出して、腕の中をちらと見た。
 すっかり大人しくなったというよりはほとんど固まっている。

「おい、もう大丈夫だぞ」

 声をかけると、エリスは無言のまま潤んだ目でこちらを見上げてきた。
 実にちびっこらしい表情である意味安心する。
 怖がらせて悪かったという気持ちはあるものの、ジバクイワから逃げたという体なので謝るわけにもいかない。

 とりあえずエリスを地面に降ろしてやると、

「あっ、ちょ、ちょっと……」

 と言いながら地面にへたり込んだ。
 さっきまでの恐怖で足に力が入らないらしい。
 膝を折って目線の高さを近付けてから話しかける。

「やっぱ怖かったか?」
「当たり前じゃない、あんなの初めてだったんだから」
「つっても戦闘はしてねえだろ」
「そうだけど、外に行くときは大体兵士が大勢付き添って、近くに来る前に全部倒しちゃってたから」

 そこで頭を撫でながら言ってやった。

「それじゃいい経験になったな、王女様」
「うるさい! 調子に乗るな!」

 俺の手を払いのけてそっぽを向くエリス。
 とりあえずエリスが回復するまでその場で少し待つことにした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。 ※本作は小説家になろうでも投稿しています。

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

処理中です...