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王都ミツメ編 後編 恋する乙女と炎の竜
恋する乙女と
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「本当に不思議な道よね、これ。何なのかしら」
「まあな。それは俺も来た時から思ってた」
エリスが回復すると、早速俺は肩車をして頂上に向けて走り出した。
とは言ってもさすがに人間の限界を超えた速度は出せない。
あくまで人間としてはかなり速いくらいの速度で走っていく。
それに道も表よりは人も少ないもののやはりまっすぐ上には行けない。
ところどころで曲がったりしなければならず、一瞬で頂上というわけにはいかなかった。
それとエリスも言っているように、この道は少し不思議と言うか妙だ。
人間以外の何物かによって道が形作られている感じがする。
表の山道みたいに整備はされていないものの、踏みならされてはいる。
樹々が左右に荒々しく倒れ、茂みになりうるそこそこ背の高い草花たちは踏み倒されて地面を彩る絨毯と化している。
そうして獣道というには横幅の広い通り道が確保されているのだ。
まあ、普通に考えれば大型のモンスターがここを定期的に通っているってのが有力なところ……ん?
この山に住む大型のモンスターってまさか。
と、エリスの言葉で思考が遮られる。
「ねえ、そろそろスピード緩めてよ」
「何でだよ」
「おやつ食べたいんだけど」
「ちょっとは我慢しろ。ティナたちの安全が最優先だ」
不満そうに唸り声をあげるエリスを無視して走っていく。
そしてかなり山頂に近付いて来たかなという頃だった。
「止まりなさい!」
突然目の前に人影が現れたので慌てて止まる。
でもそれは人じゃなかった。
行く手を阻む何者かは腕を組みその口元に不敵な笑みを浮かべて名乗る。
「ふふ、ずっと王都周辺に監視をつけておいた甲斐があったわ。あなたがジンね? 私は魔王軍幹部のファリスよ」
肩甲骨の辺りくらいにまで伸びたピンクの髪からは二本の角が覗く。
小振りな翼に低い身長が容貌のあどけなさを助長している。
こいつは間違いなくサキュバスで、魔王軍幹部というならそのボスだろう。
だけど今はこいつに構っている暇なんかない。
「悪いけどお前に構ってる暇はないんだ。そこをどいてくれ」
強引に通ろうとしてエリスを攻撃されたらまずい。
ここはちゃんと話合いで解決しておくべきだと思う。
まあ、いざとなったら倒すけどな。幹部なら倒しても大丈夫だろ。
「それはできないわ。魔王様の邪魔をするあなたにはここで死んでもらう」
「魔王様……?」
「わかった」
頭上から降るエリスの疑問の声には答えず背中の剣に手をかける。
だけどそこでファリスは身をくねらせながら妙なことを言いだした。
「でもぉ~、あなたちょっとだけ私の好みだしぃ。私の言うこと聞いてくれるなら見逃してあげてもいいかなぁ」
「いや、お前みたいな彼氏が80人くらいいそうな女、好みじゃねえんだよ」
「な、なんですってぇ! ていうかそれ褒めてるのか貶してるのかどっちなのよ!」
「顔はいいけど俺の好みじゃねえっつってんだよ」
「へ? ……ふ、ふぅん。何よ、中々やるじゃない」
「何がだよ」
ファリスはそっぽを向いて頬を赤らめている。表情がころころ変わるのでただ見てるだけなら結構面白いやつだ。
そこでエリスが会話に割り込んできた。
「ねえ、さっきから何なのこのチョロそうな女」
「あら。チョロそうとは随分な物言いじゃない、おチビちゃん」
急にファリスは大人なお姉さんを演じ始めた。
だけどどこからどう見たって背伸びをしたいお年頃のちびっこって感じだ。
「あんたも充分チビじゃない。それに私と違ってあんたは歳とってるでしょ」
「な、なんですってぇ~このクソガキ!」
ちびっこに口喧嘩で負けて激高する魔王軍幹部。
見てて飽きないけどこれ以上ゆっくりはしていられない。
「なあ、今はこんなことしてる場合じゃないんだ。やるならさっさとやろうぜ」
「あらせっかちさんね、もうちょっと私との時間を楽しみましょうよ」
「だからお前は好みじゃねえって言ってんだろ」
「何よじゃあどんなのが好きなのよ」
「どんなのっていうかティナだな!」
ファリスは顎に指を当てて何か考え事をしている。
「ティナって……ああ、あれね。はぁ~これだから男ってのは。ああいう女に限って彼氏が何人もいたりするってのがわかんないの?」
「なっ、なんだと! ティナに彼氏なんかいねえよ!」
「どうだか。男ってのは大体ああいうあちこち出っ張った女を好きとか言い出すのよねぇ」
ファリスはそう言いながらやや大げさに肩をすくめた。
ていうかこいつティナのこと知ってんのか。
次にファリスは少し前屈みになって俺を指差しながら言った。
「それに。あんたあの子の何を知ってんのよ」
「何を、って……」
そう言われて言葉に詰まってしまう。
たしかに俺はティナのことをどれだけ知っているというのだろうか。
「大体あの子のどこが好きなの?」
「そりゃあもちろん、全部に決まってんだろ」
するとファリスだけでなく頭上からもため息の漏れる音が聞こえてきた。
ファリスはどこか俺を責めるような口調で返してくる。
「あんたティナって子から私のどこが好き? って聞かれてもそう答えるの?」
「何だよ、だめなのか?」
「0点よ。まあ、私の知った事じゃないけどね」
「そんなにかよ」
「でも……ふうん。どうしてそこまで頑張ってあの子を守ってるのかと思ってたけど、そういうことだったのね」
顎に手を当てて宙に視線を漂わせたまま、ファリスは考えごとをしている。
そして少しの間が空いてから口を開いた。
「でもね。あんたがティナって子を好きでも、向こうがあんたを好きにならなかったらどうするの?」
「どうもしねえよ。今まで通り影から支え続けるだけだ。ま、俺が支えなくたってあの子は充分に強いんだけどな」
「ふうん。私もそんな風に愛されてみたいわ」
どこか遠くの何かを見つめるように視線を空へ向けたまま喋らない。
会話は終わりと見て俺が歩き出すと、ファリスがさっきまでとは声のトーンをやや落として口を開く。
「それならせいぜい頑張ることね」
「何をだよ、いいからさっさとそこをどいてくれ」
「今頃あの子たちはアグニの子供と戦っているはずよ」
「は? 何を言って……」
そこまで言いかけて俺は足を止めた。
最初にこいつは「あんたにはここで死んでもらう」と言っていた。
サキュバスは戦闘能力自体は高くないのに、その自信は一体どこから来るのか。
それにそもそもこいつがなぜこんなところにいるのか。
ここで何をしようとしていたのか。
この裏道を踏みならしたモンスターの正体は。
「まさか、お前……」
「あんたがティナって子を支えるように、私は魔王様を支えるの。あんたにはここで足止めをくらってもらうわ」
ファリスが指笛を吹いた。同時に巨大な影が俺たちを覆う。
何かが俺たちの頭上から現れ、U字の軌道でファリスをさらうと再び空へと舞い上がっていった。
突風に思わず腕で目を覆ってしまい、それを解くと、同じタイミングで頭上から現れた何かの正体を見たであろうエリスが震える声で言う。
「ちょ、ちょっと、何よこれ」
炎をその身に宿したかのような赤が全身を覆っている。
口元からは鋭利な牙が覗き、頭部には見たものを威圧する禍々しい二本の角が存在感を示す。
それは巨大な翼をはためかせながら俺たちを睨みつけたかと思うと次の瞬間、大きく息を吸い込んだ。
咆哮。
「きゃあっ!」
エリスが俺の頭を持つ腕に力を込めて叫んだ。
突風にも似た衝撃波が草木を撫でながら彼方まで広がってゆく。
鳥は梢を飛び立ち、地を這う生命たちは樹々の隙間を我先にと競って走り去る。
悲鳴と葉擦れの音だけが周囲を支配する中。
炎竜アグニが、その双眸でこちらを静かに見据えていた。
ターゲットを意のままに操る「誘惑」というスキル。
それがサキュバスの最大の武器だ。
でもまさか「イベントモンスター」にまで通用するとは思っていなかった。
幹部であるファリスくらいにしかできない芸当なんだろうけど……。
アグニの背中に乗ったファリスが叫ぶ。
「ジン! 私とあんたの愛、どっちの方が強いか勝負よ! 生きてあの子の下までいければあんたの勝ち! そうでなければ……ここで死になさい!」
「上等だ!」
俺は背中から大剣を引き抜いて構えた。
「まあな。それは俺も来た時から思ってた」
エリスが回復すると、早速俺は肩車をして頂上に向けて走り出した。
とは言ってもさすがに人間の限界を超えた速度は出せない。
あくまで人間としてはかなり速いくらいの速度で走っていく。
それに道も表よりは人も少ないもののやはりまっすぐ上には行けない。
ところどころで曲がったりしなければならず、一瞬で頂上というわけにはいかなかった。
それとエリスも言っているように、この道は少し不思議と言うか妙だ。
人間以外の何物かによって道が形作られている感じがする。
表の山道みたいに整備はされていないものの、踏みならされてはいる。
樹々が左右に荒々しく倒れ、茂みになりうるそこそこ背の高い草花たちは踏み倒されて地面を彩る絨毯と化している。
そうして獣道というには横幅の広い通り道が確保されているのだ。
まあ、普通に考えれば大型のモンスターがここを定期的に通っているってのが有力なところ……ん?
この山に住む大型のモンスターってまさか。
と、エリスの言葉で思考が遮られる。
「ねえ、そろそろスピード緩めてよ」
「何でだよ」
「おやつ食べたいんだけど」
「ちょっとは我慢しろ。ティナたちの安全が最優先だ」
不満そうに唸り声をあげるエリスを無視して走っていく。
そしてかなり山頂に近付いて来たかなという頃だった。
「止まりなさい!」
突然目の前に人影が現れたので慌てて止まる。
でもそれは人じゃなかった。
行く手を阻む何者かは腕を組みその口元に不敵な笑みを浮かべて名乗る。
「ふふ、ずっと王都周辺に監視をつけておいた甲斐があったわ。あなたがジンね? 私は魔王軍幹部のファリスよ」
肩甲骨の辺りくらいにまで伸びたピンクの髪からは二本の角が覗く。
小振りな翼に低い身長が容貌のあどけなさを助長している。
こいつは間違いなくサキュバスで、魔王軍幹部というならそのボスだろう。
だけど今はこいつに構っている暇なんかない。
「悪いけどお前に構ってる暇はないんだ。そこをどいてくれ」
強引に通ろうとしてエリスを攻撃されたらまずい。
ここはちゃんと話合いで解決しておくべきだと思う。
まあ、いざとなったら倒すけどな。幹部なら倒しても大丈夫だろ。
「それはできないわ。魔王様の邪魔をするあなたにはここで死んでもらう」
「魔王様……?」
「わかった」
頭上から降るエリスの疑問の声には答えず背中の剣に手をかける。
だけどそこでファリスは身をくねらせながら妙なことを言いだした。
「でもぉ~、あなたちょっとだけ私の好みだしぃ。私の言うこと聞いてくれるなら見逃してあげてもいいかなぁ」
「いや、お前みたいな彼氏が80人くらいいそうな女、好みじゃねえんだよ」
「な、なんですってぇ! ていうかそれ褒めてるのか貶してるのかどっちなのよ!」
「顔はいいけど俺の好みじゃねえっつってんだよ」
「へ? ……ふ、ふぅん。何よ、中々やるじゃない」
「何がだよ」
ファリスはそっぽを向いて頬を赤らめている。表情がころころ変わるのでただ見てるだけなら結構面白いやつだ。
そこでエリスが会話に割り込んできた。
「ねえ、さっきから何なのこのチョロそうな女」
「あら。チョロそうとは随分な物言いじゃない、おチビちゃん」
急にファリスは大人なお姉さんを演じ始めた。
だけどどこからどう見たって背伸びをしたいお年頃のちびっこって感じだ。
「あんたも充分チビじゃない。それに私と違ってあんたは歳とってるでしょ」
「な、なんですってぇ~このクソガキ!」
ちびっこに口喧嘩で負けて激高する魔王軍幹部。
見てて飽きないけどこれ以上ゆっくりはしていられない。
「なあ、今はこんなことしてる場合じゃないんだ。やるならさっさとやろうぜ」
「あらせっかちさんね、もうちょっと私との時間を楽しみましょうよ」
「だからお前は好みじゃねえって言ってんだろ」
「何よじゃあどんなのが好きなのよ」
「どんなのっていうかティナだな!」
ファリスは顎に指を当てて何か考え事をしている。
「ティナって……ああ、あれね。はぁ~これだから男ってのは。ああいう女に限って彼氏が何人もいたりするってのがわかんないの?」
「なっ、なんだと! ティナに彼氏なんかいねえよ!」
「どうだか。男ってのは大体ああいうあちこち出っ張った女を好きとか言い出すのよねぇ」
ファリスはそう言いながらやや大げさに肩をすくめた。
ていうかこいつティナのこと知ってんのか。
次にファリスは少し前屈みになって俺を指差しながら言った。
「それに。あんたあの子の何を知ってんのよ」
「何を、って……」
そう言われて言葉に詰まってしまう。
たしかに俺はティナのことをどれだけ知っているというのだろうか。
「大体あの子のどこが好きなの?」
「そりゃあもちろん、全部に決まってんだろ」
するとファリスだけでなく頭上からもため息の漏れる音が聞こえてきた。
ファリスはどこか俺を責めるような口調で返してくる。
「あんたティナって子から私のどこが好き? って聞かれてもそう答えるの?」
「何だよ、だめなのか?」
「0点よ。まあ、私の知った事じゃないけどね」
「そんなにかよ」
「でも……ふうん。どうしてそこまで頑張ってあの子を守ってるのかと思ってたけど、そういうことだったのね」
顎に手を当てて宙に視線を漂わせたまま、ファリスは考えごとをしている。
そして少しの間が空いてから口を開いた。
「でもね。あんたがティナって子を好きでも、向こうがあんたを好きにならなかったらどうするの?」
「どうもしねえよ。今まで通り影から支え続けるだけだ。ま、俺が支えなくたってあの子は充分に強いんだけどな」
「ふうん。私もそんな風に愛されてみたいわ」
どこか遠くの何かを見つめるように視線を空へ向けたまま喋らない。
会話は終わりと見て俺が歩き出すと、ファリスがさっきまでとは声のトーンをやや落として口を開く。
「それならせいぜい頑張ることね」
「何をだよ、いいからさっさとそこをどいてくれ」
「今頃あの子たちはアグニの子供と戦っているはずよ」
「は? 何を言って……」
そこまで言いかけて俺は足を止めた。
最初にこいつは「あんたにはここで死んでもらう」と言っていた。
サキュバスは戦闘能力自体は高くないのに、その自信は一体どこから来るのか。
それにそもそもこいつがなぜこんなところにいるのか。
ここで何をしようとしていたのか。
この裏道を踏みならしたモンスターの正体は。
「まさか、お前……」
「あんたがティナって子を支えるように、私は魔王様を支えるの。あんたにはここで足止めをくらってもらうわ」
ファリスが指笛を吹いた。同時に巨大な影が俺たちを覆う。
何かが俺たちの頭上から現れ、U字の軌道でファリスをさらうと再び空へと舞い上がっていった。
突風に思わず腕で目を覆ってしまい、それを解くと、同じタイミングで頭上から現れた何かの正体を見たであろうエリスが震える声で言う。
「ちょ、ちょっと、何よこれ」
炎をその身に宿したかのような赤が全身を覆っている。
口元からは鋭利な牙が覗き、頭部には見たものを威圧する禍々しい二本の角が存在感を示す。
それは巨大な翼をはためかせながら俺たちを睨みつけたかと思うと次の瞬間、大きく息を吸い込んだ。
咆哮。
「きゃあっ!」
エリスが俺の頭を持つ腕に力を込めて叫んだ。
突風にも似た衝撃波が草木を撫でながら彼方まで広がってゆく。
鳥は梢を飛び立ち、地を這う生命たちは樹々の隙間を我先にと競って走り去る。
悲鳴と葉擦れの音だけが周囲を支配する中。
炎竜アグニが、その双眸でこちらを静かに見据えていた。
ターゲットを意のままに操る「誘惑」というスキル。
それがサキュバスの最大の武器だ。
でもまさか「イベントモンスター」にまで通用するとは思っていなかった。
幹部であるファリスくらいにしかできない芸当なんだろうけど……。
アグニの背中に乗ったファリスが叫ぶ。
「ジン! 私とあんたの愛、どっちの方が強いか勝負よ! 生きてあの子の下までいければあんたの勝ち! そうでなければ……ここで死になさい!」
「上等だ!」
俺は背中から大剣を引き抜いて構えた。
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