女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

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王都ミツメ編 後編 恋する乙女と炎の竜

その頃のティナたち 前

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 一方時間を少し遡り、勇者選定の課題が発表されて少し経った頃。
 ティナ、ラッド、ロザリアのパーティーは冒険者たちと共にアッチノ山へと向かって歩を進めていた。

「やあっ」
「キキーッ」

 ティナのこうげき。アルミラージを倒した!

「よしっ」

 小さくガッツポーズを取るティナに、ロザリアは柔らかな笑みを浮かべて優しく注意をする。

「ふふっティナちゃん、あまり張り切りすぎてはだめよ。アッチノ山に着くまでに疲れてしまいますわ」
「ありがとう、ロザリアちゃん」
「経験値稼ぎかい?」
「うん、少しでも早く強くなりたくて」

 そう言いながらぐるりと周囲を眺めてみた。
 
 同じようにアッチノ山に向かいながらモンスターを倒す冒険者の姿がちらほらと見られる。
 誰もがそこそこ値の張りそうな装備をしていて強そうだ。
 ティナはそんな冒険者たちを見て拳を握り力を込め、歩き出した。

「ティナ、大丈夫かな」
「しっかり見てあげないといけませんわね」

 その少し後ろで、ラッドとロザリアが声を潜めて話している。
 ティナは焦っているというよりは緊張して見えた。
 それが勇者選定というイベントのせいなのか、いつもそばにいる誰かがいないせいなのかはわからない。

「てやっ」
「キキーッ」

 ティナのこうげき。アルミラージを倒した!
 ここら一帯で出現するのはもっぱらアルミラージだ。

 ミツメに来てから様々なクエストをこなし、レベルも装備もある程度整えたティナにはもはやアルミラージは敵ではない。
 かつて強敵だったモンスターを一撃で倒せることに自らの成長を感じ取り、また一つガッツポーズを取るティナである。

 その背後からロザリアが優しく話しかけてきた。

「この辺りで少し休憩しましょうか」
「えっ、でも……」

 よさげな木陰を見付けての提案にティナは少し困ったような顔をしてしまう。
 少しでも早くドラグーンマラカイトを探しにいかなきゃ。
 そんな焦りの気持ちが全面に出てしまったのだろう。
 
 それに対してラッドが前髪をかきあげながら穏やかな説得を試みた。

「大丈夫。ドラグーンマラカイトなんて急いだからといって見付けられるものでもないさ。むしろ後から行った方がある程度場所が絞れて効率的かもしれないよ」
「そっか、うんそうだよね」

 どこか自分に言い聞かせるようにそう言いながら、ティナは木陰へと向かう。
 そしておやつを取り出してのおやつタイムへと突入するのであった。



「おいひ~」
「ふふ、私の分もあげるからゆっくり食べてね」

 アップルパイやスコーンを次々に頬張りティナはご満悦だ。
 その笑顔にラッドとロザリアは胸を撫でおろす。
 食べている量がもはやおやつの領域ではないことはこの際気にするべきではないだろう。

 周囲を見渡せば女性がいるパーティーを中心に他の木陰でもおやつタイムに突入していた。
 穏やかな陽光が柔らかく降り注ぎ、心地よい風が肌を撫で梢を揺らしてざわめかせている。絶好のピクニック日和だ。

 ふと木陰にジンが気持ちよさそうに横たわる姿を幻視し、ティナは思わず笑みをこぼしてしまう。

 ジン君も王女様の護衛を頑張ってるんだ。自分も頑張ろう。
 そう決意を新たにするティナであった。

 おやつタイムを終えた一行はのんびりと雑談を交わしながら歩いていく。
 視界の先に、ところどころ緑が途切れて荒々しい山肌が見えてきた。

「あれがアッチノ山さ」

 ラッドが指を差した方角を見上げ、ティナは決意を新たにする。
 そして一行はアッチノ山へと入った。

 少し遅めにやってきた冒険者たちと一緒に山道を歩いていく。

 岩が突き出た荒々しい山肌が目立つ。道中には樹々の生い茂る部分も見られるが基本的にはあまり緑豊かとはいえない山並みだ。
 見晴らしのいい山道を歩きながらラッドが得意げに語る。

「僕たちも何度か来たことがあるけれど、ここで注意すべきモンスターは何と言ってもジバクイワだね」
「ジバクイワ?」

 まだミツメ周辺のダンジョンにあまり出入りしていないティナには初めて聞く名前であった。
 ロザリアも知っているはずなのだが、得意気かつ嬉しそうなラッドに説明を任せていて無粋に割って入るような真似はしない。

「岩の姿をしたモンスターでそんなに強くはないんだがね、戦闘中に突然自爆をするからとても危険なんだ。自爆をされたら経験値なんかも入らないし、慣れた冒険者なら遭遇すればまず逃げようとするのさ」
「へえ~じゃあ私たちも逃げた方がいいのかな」
「なあに、そんな時は僕に任せてくれたまえ。はがねのつるぎの餌食にしてあげようじゃないか」

 キラービーというアルミラージより少し強いくらいのモンスターに怯えていたらしいラッド君だけど大丈夫なのかな……と、ティナは少し心配になったがもちろん口には出さない。
 意気揚々と歩くラッドを先頭にして一行はゆっくりと上に向かって進んでいく。
 しかしここでティナがあることに気付いて口を開いた。

「あれっ、そういえばみんなドラグーンマラカイトを探しに来てるわけだよね。なのにどうしてみんなあちこち探さずに同じように上に向かって歩いてるの?」
「いいところに気付いたね、ティナ」

 ラッドは振り返り、右手を前に出して芝居がかった仕草で説明を始めた。

「ドラグーンマラカイトというのはマラカイト鉱石の中に稀に発生するとされている。そしてそのマラカイト鉱石を採掘できる場所というのが頂上付近に集中しているというわけなのさ」
「へえ~。じゃあできるだけ上から探した方がいいんだね」
「まあ、他にも採掘できる場所がないことはないんだが……それが山の裏側にある『竜の巣』と呼ばれるところでね。文字通り『炎竜』アグニの餌場だったり散歩コースだったりする場所だから誰も行きたがらないのさ」
「すっごく強いモンスターだって言ってたもんね。私たちも遭遇しないように気をつけなきゃ」
「うむ。まあ『竜の巣』にさえ行ったりしなければ、後はせいぜい頂上くらいしか出現しないから大丈夫だとは思うけれどね。目撃情報が出ればすぐに山からは下りた方がいいだろう」

 一通りラッドの解説が終わり再び頂上へ向けて歩を進める。
 すると目の前に一つの岩の塊が転がり出てきた。
 女性二人を手で制してからラッドが声を張り上げる。

「ジバクイワだ! 君たちは下がっていたまえ」
「わ、私も戦うよ」
「ティナちゃん、ここはラッド様に見栄を張らせて下がるべきですわ!」
「確かにそのつもりなんだけど、もうちょっといい言い方はないのかい!?」

 三人とも戦闘態勢に入り、ロザリアが全員に支援魔法をかける。
 支援魔法がかかったことを確認すると同時にラッドが突っ込んでいった。
 どうやら直接剣で斬りかかるつもりらしい。

「はあああっ!」
「まあいけませんわラッド様! 自爆するのですからなるべく魔法で攻撃しながら様子を見ませんと!」

 ロザリアの心配は見事に的中するにもほどがあった。
 まさかの初撃と同時の自爆。ラッドの身体は後方に吹き飛ばされてティナの横を通過し、ロザリアの下へと行き着いた。

「ラッド君!」「ラッド様!」

 ロザリアがラッドの身体を抱き起こす。
 二人が息を呑んでしばらく待つと、ラッドは呻きながらも辛うじて目を開いて喋り出した。

「ロザリア……このままもし、僕が死んだら……骨はクリスティンの家の裏手にある山に埋めてくれるかい?」
「まあいけませんわラッド様! あの山はこの前借金のカタに売り払ってしまったではありませんか! 勝手に骨を埋めては怒られてしまいますわ!」
「ふっ、そうだったね。ぐふっ」

 その言葉を最後にラッドの身体から力が抜けてしまう。
 ティナは目の前で起こった悲劇に、喉の奥から込み上げてくるものを感じた。
 ロザリアは泣きそうな表情でラッドの身体を揺さぶっている。そして。

「ラッド様! ラッド様! 『ヒール』!」
「よし、それじゃ行こうか」

 回復魔法をかけてもらった瞬間に起き上がって歩き出すラッドに、ティナは思わず前のめりにこけそうになってしまった。

「い、今のやり取りはなんだったの?」
「ラッド様お得意の茶番ですわ」
「ふっ、いつまで経ってもロザリアが回復魔法をかけてくれないからやった方がいいのかと思ってね」
「自爆は見た目の派手さに反して威力はそこまで高くありませんから、ラッド様に悲劇の英雄ごっこをさせて差し上げるにはちょうどいいのですわ」

 何でもないことのように言う二人に、心配をかけさせたことの文句を発するタイミングを逃してしまうティナであった。
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