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王都ミツメ編 後編 恋する乙女と炎の竜
その頃のティナたち 後
しおりを挟む「ごめんね、私何もできなくて」
ジバクイワとの戦闘を終えて再び山道を歩き出すと、ティナが申し訳なさそうな表情でそんなことを言いだした。
ラッドとロザリアが顔を見合わせる。
恐らくティナは、先ほどの戦闘で自分が遠距離での攻撃手段を持っておらず、後方支援もできずで何もできなかったことを気にしているのだろう。
実は回復魔法を覚えてはいるのだが、「ヒール」という対象が一人で回復量もやくそう並みという初歩の魔法なので、回復が本領のロザリアには遠く及ばない。
しかしそんなティナの謝罪にロザリアは微笑を浮かべて答える。
「いいんですのよ。ジバクイワは特殊なモンスターですから、そもそも最適な対処法など中々存在しませんし。先ほどの戦闘はしゃしゃり出たあげくに真っ先に近接攻撃を仕掛けたラッド様の失態ですわ」
「ふっ、そういうことさ。気にしないでくれたまえ」
柔らかい声で厳しく指摘されたミスを特に気にすることもなく、前髪をかきあげながらラッドが同意した。
それを無視してロザリアが会話を続ける。
「その代わり、通常のモンスターが出た時は頼りにしてますわ」
「うん頑張る。二人ともありがとう」
その後、ジバクイワと遭遇した際にはラッドだけを戦わせて自爆をくらったら二人で回復してという方法で進んでいった。
微妙にひどい扱いを受けているラッドだが、女性陣に励まされてとても気を良くしているようだ。
ようやく頂上付近に到達すると、更に冒険者の数が増える。
「うわ~やっぱり人多いね」
「とりあえず近いところからマラカイト鉱石の採掘地点を見ていこうじゃないか」
頂上付近の山道はどこもかしこも冒険者で一杯だ。
その風景を眺めながらラッドが呟く。
「この様子だと比較的安全な表の山道は全部探されているだろうね」
「じゃあ後は、裏側を探しに行くしかないってこと?」
「そうなるけど……あまりに危険すぎる。みんな同じ状況だけれどさすがに裏道にいくような命知らずはいないだろう。今回勇者には誰も選ばれずに終わりってところかな」
「そっかあ」
残念そうな様子で返事をするティナを見てロザリアが口を開く。
「もう少し上まで行ってみるというのはどうでしょう? ちょっと危険ですけど、見るだけですぐ帰れば大丈夫だと思いますし」
「頂上までかい? あそこはたまに炎竜がうろうろしているから、たしかに人が寄り付かないけれど……ふっ、まあいざとなれば僕が倒せば済むことか」
あまり人が寄り付かないということは、まだそこにあるマラカイト鉱石群を探索した冒険者が少ないということだ。
「まあいけませんわラッド様、足がものすごく震えております」
「二人とも、何だか気を遣わせてばっかりでごめんね」
「構わないよ。ティナが勇者と認められれば僕にも利益があるわけだからね」
「そうですわ。ラッド様は金の亡者なのですから」
笑顔で辛辣な言葉を吐くロザリアだが、ラッドもまた涼しい笑顔でそれを聞き流している。
そんな様子が二人の関係に年季が入っていることを感じさせた。
それはともかくとして、二人の気遣いにもはやティナは遠慮することなどできようはずもない。
軽く頷いて一つ礼を言った。
「ありがとう。それじゃいこっか」
一行は頂上に向けてゆっくりと歩き始めた。
あれだけ多かった冒険者も、頂上に近付くにつれてその数を減らしていく。
すれ違う冒険者も下っていく者ばかりで上へ向かう者は見かけない。
それほどに炎竜アグニというのは恐ろしい存在なのだろうかと疑問に思うティナである。
やがていくつ目かの冒険者パーティーとすれ違った時、ラッドが口を開いた。
「何だか下る冒険者ばかりでもう登っているのは僕らだけみたいだねえ」
「そうですわね。頂上付近が危険とは言っても、あまりに人が少ないですわ」
「まさか炎竜が出たとかじゃないだろうね」
「わかりませんけど、急いだほうがよさそうですわ」
「頂上ってまだ遠いのかな?」
上の方を見ながらティナが呟いた。
しかしアッチノ山は視界の先で天に向かって伸びるのをやめている。
「いや、もうすぐそこさ。見るだけ見てすぐに帰ろう」
ラッドの言葉で三人は少し早足になって進みだした。
途中にもいくつかマラカイト岩があり、さっと流すように確認する。
ドラグーンマラカイトはマラカイト岩の中にあってその部分だけ色が違うので目視ですぐにわかるというのは有名な話だ。
もっとも最終的には専門家に鑑定してもらうべきなのだが。
「見えてきたね。あれが頂上だ」
ラッドの指さす方向をティナが見上げると、そこで斜面が終わっていた。
少し前から他の冒険者パーティーとは全くすれ違わなくなっている。
途中、下の方から悲鳴のようなものが聞こえた気もしたがわからない。
ただジバクイワと戦闘をしただけなのかもしれないし、とにかく今の三人には真相を知りようはずもなかった。
頂上に到達すると三人はすぐに周囲を確認した。
樹木は生えておらず、外周に岩石群が連なっていて非常に殺風景だ。
荒々しい土石のみで構成された地面には生命の息吹は全く感じられない。
そこそこに広く、端から端まで行くには少し時間がかかりそうだった。
少し歩き出してから振り返るとラッドが指示を出す。
「外側にマラカイト岩らしきものがいくつかある。手分けして見てすぐに帰ろう」
「うんっ」「はい!」
そうして三人が散開して少し経った時のことだった。
咆哮。
自分たちが登ってきた山道とは逆の裏道から、この世のものとは思えない恐ろしい雄叫びが轟《とどろ》いてきたのである。
三人とも遭遇したことはないがすぐに理解してしまった。
ラッドが山の裏方面を見ながら声を張り上げる。
「炎竜の咆哮……? 本当に出たのか! 急ごう!」
全員が既に岩石群の前まで来ていた。
それぞれざっとマラカイトドラグーンがないかを確認して中央へ集まる。
ラッドとロザリアの顔を見ながらティナが尋ねた。
「どうだった?」
「やはり見つからなかったね。それじゃさっさと帰ろ……」
ラッドは言葉を最後まで発することができなかった。
ティナとロザリアがラッドの背後を凝視したまま固まっていて、何があるのかを確認するために振り返ったからだ。
ちょうどラッドは山の裏側を背にする形で立っていたのだが、そっち側からあるモンスターが姿を現すところだった。
全身赤の鱗に鋭い爪と牙に、空を支配するための大きな翼。
かの有名な山の主だと言うには少し身体が小さい気もするが、そこを口に出して言うことのできる余裕は三人ともにない。
翼をはためかせてこちらを睨む竜を見上げながらロザリアが呟く。
「これが炎竜……!?」
「とにかく逃げるんだ! みんな走れっ!」
ラッドがそう発するが早いか三人が一斉に山道へ向かって駆け出した。
しかし竜が飛行する速度の方が遥かに速い。
竜は行く手を阻む様に横からぐるりと旋回してティナたちの前に回り込み地面に降り立つ。
そして顎を引いて少し空を見上げるように首を反らせた。
ドラゴン系のみならず、モンスターが使う攻撃系ブレス系列にあたるスキルを発動する際の共通した予備動作だ。
「まずいっ! 避けろ!」
それにいち早く気付いたラッドはそう叫ぶとティナを横に突き飛ばしてロザリアを抱きかかえ横に飛ぶ。
その直後、ティナたちのいた場所を灼熱の業火が焼き尽くした。くすぶる熱と地面のこげる匂いが一行の肝を冷やす。
山道に繋がる部分以外の外周は全て崖になっていて、逃げ道はない。
ラッドは無駄に装飾の施されたはがねのつるぎを、腰の鞘から抜いて構えると叫んだ。
「くそっ、こうなったらやるしかないじゃないか! みんな、いくぞ!」
「「はいっ!」」
ティナは買ったばかりのてつのつるぎとどうのたてを構え、ロザリアはそこそこに汚れの目立ってきたてつのつえを身体の前に掲げた。
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