女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

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王都ミツメ編 後編 恋する乙女と炎の竜

vs 火竜

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「僕が注意をひきつける! ティナは横から攻撃を加えるんだ!」
「はいっ!」

 火竜との戦闘が始まると、ラッドがそう指示を出しながら真っ先に攻撃を仕掛けていった。
 ロザリアは何も聞かなくとも既に少し離れた場所で魔法の準備を始めている。

 ラッドのこうげき。はがねのつるぎを振り下ろした。
 袈裟斬りの軌道で繰り出される斬撃が火竜の腹に命中する。
 火竜は鳴き声をあげて怯む姿を見せるが、大きな効果があったかはわからない。

 後方ではロザリアが手に持った杖を高く掲げてパーティーメンバー全員の防御力を上昇させる支援魔法を発動した。
 一方、ティナは右側面に回り込んで攻撃を加えようとしている。

 ティナのこうげき。てつのつるぎを横なぎに振った。
 こちらもそこまで効果があるようには見えない。
 しかし確実にダメージは与えているはずだと信じてラッドとティナは剣を振り続けていく。

 火竜が大きく息を吸い込み身体をのけ反らせる、攻撃系ブレスの予備動作に入った。
 ラッドはそれを見て盾を構える。

 あちこち動けば他の仲間を巻き込む恐れがあるし、そもそも並みの人間の足の速さではブレスから完全に逃れることなどできようはずもない。

「ラッド様!」

 悲鳴のような声をあげながら、ロザリアは慌てて味方の魔法防御力を上昇させる支援魔法を発動する。
 このような場合「マジックウォール」という魔法が使えれば一番いいのだが、あいにくロザリアは習得していないらしい。
 そして遂に燃え盛る火炎がラッドに向けて放たれた。

 火竜のこうげき。フレイムブレス。

「ぐうっ!」

 盾で防御し支援魔法で魔法防御力を高めてもなお入ってくるダメージにラッドの顔が歪む。

「このっ!」

 ティナのこうげき。わずかなダメージ。
 その一撃で標的が変わってしまったらしく、火竜はティナの方に身体を向けるとブレスの予備動作に入った。

「うっ」

 ティナはラッドにならって盾を構えるが、どうのたてしか持っておらずレベルも低いティナでは「フレイムブレス」のダメージは致命傷になるかもしれない。
 ラッドを回復し終えたロザリアがその様子を見て叫んだ。

「だめよティナちゃん、避けて!」

 もちろんそんなことができるはずもない。
 誰もが思わず顔を背けてしまうような、その次の瞬間だった。

「ギャオオオッ!!」

 目の前にいる火竜とは違う別の竜の鳴き声が山頂に響いてきた。
 どうやら山の裏側から聞こえてきたらしく、火竜が気をとられて一瞬そちらを振り向く。
 ティナたちも気をとられたものの、すぐに我に返って動き出した。

「ティナ! 同じ場所に張り付かず、定期的に位置を変えるんだ!」
「相手の身体がティナちゃんの方を向いたら、とりあえず移動するのですわ!」
「はいっ」

 ブレスは予備動作を見てから避けたのでは普通は間に合わない。だから予備動作をしそうになったら逃げる。
 先輩冒険者からのアドバイスを素直に聞き入れ、ティナは竜の背後へと回り込みそれを見たロザリアも移動を開始した。

 ロザリアはラッドの右斜め後方にいたが、ティナが見えるようにそこからやや右斜め前方へと走った形だ。

 ラッドのこうげき。少しのダメージ。
 この攻撃により火竜の標的が再びラッドに切り替わった。
 火竜が再びラッドの方へと向き直る。

 ティナのこうげき。わずかなダメージ。
 相変わらず決定的なダメージとは言えないが、ラッドの攻撃と合わせて再び火竜をのけ反らせることができたようだ。火竜はたたらを踏んでやや後退する。

「わわっ」

 ティナは自分の方に火竜が下がってきたので慌てて後退したが。

 火竜のこうげき。テイルアタック。
 右から横なぎに振られた尻尾によって、ティナは吹き飛ばされてしまう。
 致命傷ではないが決して無視はできないダメージを受けた。

「ううっ」
「ティナちゃん!」

 ロザリアのヒーリング。ティナのHPが回復した。
 「ヒーリング」は回復の初級魔法「ヒール」の上位魔法で、味方一人のHPを大幅に回復することができるスキルだ。

 しかし邪魔者を排除して前に意識を集中した火竜が再び予備動作に入る。
 ラッドもはがねのたてを構えて防御態勢に入った。

 火竜のこうげき。フレイムブレス。
 手痛いダメージを負うラッドだが、レベルとステータス値、そしてはがねのたてを使った防御によるダメージ軽減もあって致命傷というほどではない。

 ラッドのこうげき。少しのダメージ。
 その時、吹き飛ばされていたティナがようやく戦線に復帰した。
 パーティーメンバーから見て火竜の右側に張り付く。

「やあっ!」

 ティナのこうげき。わずかなダメージ。
 攻撃を終えるとティナはそのまま火竜の背後へと移動する。
 
 ロザリアのヒーリング。ラッドのHPが回復した。
 火竜のこうげき。右腕を大きく後ろに引いてためを作り、一気に横なぎに振る。
 鋭利な爪を持った右手がラッドに襲い掛かっていく。
 ラッドははがねのたてを構えて防御しようとするが。

 つうこんのいちげき。ラッドの身体が大きく後方に吹き飛んだ。
 その際にはがねのたても手からこぼれ落ちてしまう。

「ラッド様!」
「くっ……だめだロザリア! 来るな!」

 悲鳴のような声をあげながら、ロザリアがラッドの元へと走り寄る。

「このっ!」

 ティナのこうげき。わずかなダメージ。
 しかし攻撃を加えたところで火竜は依然として前方にいるラッドたちを睨みつけたままで、注意をひきつけることすらもできない。

 ロザリアのヒーリング。ラッドのHPが回復した。
 ヒーリングをかけたもののラッドの傷は想像以上に深く、まだ予断を許さない状況となっている。
 ロザリアは、いざとなればその身を賭してラッドをかばうつもりで走り寄ってきたのだ。

 火竜は地を鳴らしながら前進してラッドたちとの距離を詰めていく。
 それを見てラッドの前に立ちふさがるロザリア。

「だめだロザリア! どいておくれ!」

 火竜のこうげき。フレイムボール。
 ラッドは片膝をついたまま立ち上がることができない。
 火竜の口から放たれた火の球がロザリアに迫る。

「ああっ!」

 ロザリアが悲鳴をあげた。
 火の球をまともにうけて後方に倒れるその身体をラッドが受け止める。

「ロザリア! ロザリア!」

 身体を揺さぶるもどうやら意識がないらしく、まぶたがあがらない。

「やあっ!」

 ティナのこうげき。わずかなダメージ。
 仲間の元へ迫る命の危機に、ティナは涙を流しながら攻撃を加える。
 しかしダメージ量が低くまたも注意をひきつけることができない。

 前進を続ける火竜は歩みを止めると、息を吸い込み身体をのけ反らせた。
 パーティー全員が絶望に覆われたその瞬間。

 激しい衝撃音と共に強烈な振動が山全体を揺らした。
 あまりの激しさにティナは転んだが、火竜もたたらを踏んだ。
 火竜の攻撃が中断されたのを見てティナはすぐさま起き上がり、火竜の正面に回り込んでラッドが落としたはがねのたてを拾った。

 そしてその瞳に強い意志を込めて仲間に背を向け立ちふさがる。

「ティナ、何をしてるんだい、君だけでも早く逃げるんだ!」

 ラッドの叫びを聞きながらもティナは微動だにしない。
 頬を伝う涙が陽光を反射して力強く輝いている。
 ティナはミツメに来てからこれまでの日々を思い起こしていた。

 お調子者で見栄っ張りなラッド。
 そんなラッドを支える心優しいロザリア。
 二人の笑顔が日々を充実させてくれた。

 楽しい時は肩を組み、不安な時は肩を支えられ。
 今日だって自分を気遣ってここまで足を運ばせてくれた。
 そんな二人を置いて逃げるなんてできるわけ、ない。

 ジン君は、ジン君なら、ジン君だって。
 きっとこうするはずなんだ。

 ティナは静かにてつのつるぎを、はがねのたてを構えた。
 左半身に構えて盾を持った左腕を前に突き出す形だ。
 衝撃から回復した火竜がまた一歩前進してブレスの予備動作に入る。

「ティナ!」

 ラッドが叫ぶ。しかしティナはその瞳で火竜を見据えたまま動かない。
 お願い、力を貸して――――。
 誰にともなく心の中でそう呟いた。すると。

 突然ティナを中心として半円球の形をした光の膜がパーティーを覆った。
 ラッドは何事かと周囲を見渡す。

 火竜のこうげき。フレイムブレス。
 三人共揃ってHPが尽き倒れていただろう。本来ならば。

 しかし炎が晴れた視界の先に火竜が見たものは、凛として前を向いたまま盾を構え続ける一人の少女の姿。
 それは、まごうことなき勇者の姿そのものであった。

 勇者専用スキル「ゆうきのあかし」。
 自身から一定の範囲内にいる味方のダメージを全て肩代わりした上でそれを半減させるスキル。
 真の勇気ある者にだけ使うことを許された、仲間を救うためのスキルである。

 三人がまともにフレイムブレスに巻き込まれれば耐え切れなかったのだが、二人を隠す形で立ったおかげで総ダメージは実際のところほぼティナが受けたダメージのみであった。
 つまりほとんどティナが受けるダメージのみを半減させた形だ。

 おまけに今はラッドのはがねのたてを使っている。
 まだHPが残っているティナはそのまま駆け出した。

「はああっ!」

 ティナのこうげき。かいしんのいちげき。
 火竜は悲鳴をあげながらふらふらと後退する。
 しかしそれだけで倒せるはずもない。

 まだまだ予断を許さない状況でラッドが固唾を飲む。
 しかし次の瞬間ラッドとティナは目を見開いた。

 火竜の背後、ティナとラッドの正面奥の山の裏側から巨大な影が飛び出してきたのである。
 火竜もそれに気付いて背後の上空へ身体を向けた。

「そんな……この状況で……」

 絶望に呑まれたラッドがそんな言葉を漏らす。
 今まで戦っていた火竜を二回りも三回りも巨大にしたような竜が翼をはためかせて空中でこちらを睨んでいた。

「炎竜……アグニ、なのかい?」

 アグニと呼ばれた巨大な竜は息を深く吸い込む。そして。

 咆哮。

 衝撃波だけで砂ぼこりが舞い上がり岩石群からいくつもの石が剥がれて飛んでいく。
 ラッドもティナも身をすくませ冷や汗が頬を伝った。しかし。

「キュルルル……」

 次の瞬間、火竜がこれまでの戦闘中には出さなかった弱々しい唸り声をあげて炎竜の方へと飛び立っていった。
 まるでお母さんに怒られた子供のような姿である。

 二人が呆然とその光景を見ていると、やがてそこにもう一匹の火竜が合流して三匹仲良くどこかに飛び去っていってしまった。
 しばし立ち尽くす二人。だがしばらくして、

「ふぅ~……死ぬかと思った……」

 と、ティナはその場にへたり込み安堵の息を漏らすのであった。
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