女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

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王都ミツメ編 後編 恋する乙女と炎の竜

ぼくらはみんな生きている

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 ファリスが片付いたので後は部下の方だ。
 
 ティナの邪魔になりそうなやつは全部こらしめておきたいしな。
 周囲をぐるりと見渡すと、消火活動をもうすぐ終えそうな部下サキュバスを発見した。
 最後にファリスが「ヘルファイア」を発動した地点だ。

 時間もないのでささっと走り寄っていく。

「よーし、これでお終いっと」

 そんな独り言をつぶやきつつも、俺たちが背後までくるとすぐに気付いてこちらに振り返った。
 紫色をしたショートカットがよく似合う活発そうなサキュバスが、片手をあげて友達みたいに気さくに話しかけてくる。

「よぉーあんたがジンか。助かったよ~ファリス様無茶すっからさあ。あんま戦闘が長引いたら帰ろうかと思ってたんだよね」
「いいってことよ」

 あれ、あんまり悪いやつじゃなさそうだな。

「ちょっと何仲良くなってんのよ。こいつも敵なんでしょ? さっきのチョロそうなのみたいに角とか翼とか生えてるし」
「それはそうなんだけどさ」
「ぶはっ、チョロそうなのってファリス様のこと!? だはは! いいねえやるねえちびすけ」
「誰がちびすけよ」

 なんだか普通にいいやつそうだしぶっ飛ばしづらくなってきた。
 う~ん、とりあえず聞くだけ聞いておくか。

「おいあんた」
「ん? おっと、あたしはメイだ。よろしくな」
「よろしく。それでさ、メイはティナの敵か味方かどっちなんだ?」
「何よその質問……」

 エリスの呆れたような声が降ってきた。

「ん~別にどっちでもねえかな。けどファリス様はあたしたちがいないとだめだから味方してやんないとだし、あえて言えば敵ってことにはなるかな~」
「わかった」
「なんでええええぇぇぇぇ~…………」

 とりあえずファリスと同じく星になってもらった。
 ティナの敵は俺の敵なんだからしょうがない。
 それはどんなにいいやつであろうと例外じゃないのだ。

 メイが星になると同時に「魅了」されていたチビ竜も我に返ったらしい。
 急に何かに気付いたように顔をあげ、辺りを見回し始めた。
 そして向こうの山道に横たわるアグニを発見するとすぐさま飛んでいく。

 俺も慌ててそちらに向かうとチビ竜は悲しそうな鳴き声をあげながら親の顔をじっと眺めていた。

「悪いな、俺がやっちまったんだ」

 言葉もテレパシーも通じないから、これはただの独り言だ。

「本当あんた最低ね。完全に悪役じゃない」
「なんでお前がそれを言うんだよ。あの状況なら仕方ないだろうが」

 これも全部ファリスのせいだ。あいつ次会ったらぶっ飛ばしてやる……あ、でももうぶっ飛ばした後だったわ。
 そんなことを考えていると、麻痺がとけたのかアグニが起き上がり始めた。

 チビ竜は喜びにぱたぱたと小振りな翼をはためかせ、右に左に忙しなくウロチョロしながらその様子を見守っている。
 やがてアグニは二本の足でしっかりと立つと、こちらを見据えたまま微動だにしない。
 襲い掛かってこないってことは危険な状況ではないってことか。

「ちょっとこれやばいんじゃないの?」
「いや、多分だけどやばくはない」

 エリスはさすがに少しだけ怯えている。
 とはいえ少しだけっぽいところにこのちびっこの強さが垣間見える気もした。

 念の為に剣の柄に手をかけて見守っていたその時だった。
 アグニが頭を俺の目線の高さまで下げてこちらに差し出してくる。
 モンスターテイマーズの俺でもさすがにどういう状況なのか理解できない。

 「イベントモンスター」は例外なく自分たちの縄張りから出ないからだ。
 だからテイムする機会もないし、それは同時にこいつらの習慣とかそういうのを知る機会もなかったということ。

 とにかく戦闘になる可能性は消えたと考えていいらしい。
 剣の柄から手を外してアグニを見つめる。頭を撫でてみよう。

「あら、中々可愛いじゃない。私にもやらせなさいよ」

 炎竜が他の動物みたいにゴロゴロと声をあげている。
 エリスも俺の肩から降りて頭を撫で始めた。
 信じられないけど、どうもアグニは俺に懐いてくれたらしい。

 かかったことがないからわからないけど「魅了」されてる時に意識があって、怖い思いでもしたのかもしれないな。
 自分の意志を無視して身体が勝手に動く的な。

 だからぶん殴ってしまったとはいえ、ファリスから解放したことに感謝でもしているのかもしれない。ぶん殴ったけど。
 そんな感じで少しの間二人でアグニの頭を撫でていた時のことだった。

 突然アグニが顔を空に向けて喉を鳴らし始めた。

「えっどうしたの?」
「何だろうな、ブレスとは動きがちげえし」

 次の瞬間、ぺっと俺たちの前に見たことのない石を吐き出してくる。

「なんだこれ」

 するとエリスがそれに近付いてじっと観察してから言った。

「ねえこれ、もしかして……ドラグーンマラカイトじゃないの?」
「そうなんか? たしかにマラカイト鉱石と色以外は同じに見えるけど」
「私も見たことはないけど。とにかく持って帰って専門家に鑑定させるわ」
「ふ~ん。じゃ洗ってやるよ」

 さすがに口の中から出てきたもんを素手で掴むわけにもいくまい。
 水魔法でぱしゃっと鉱石を洗ってやると、エリスはそれを懐にしまいこむ。

「さて、思いのほか時間くっちまったな。急いで頂上まで行くぞ」

 そう言って屈むと肩にエリスが乗ってきた。
 それを確認して走る体勢を取った時のことだ。

「あら、何かしら」

 アグニが何やら唸り声をあげた後、頭を下げたままの体勢でこちらに背中を向けてぺちんぺちんと尻尾で地面を叩いている。

「まさか乗れって言ってんのか?」
「かもね」
「……乗ってみるか?」
「まあ、攻撃はしてこないみたいだし乗るだけ乗ってみたらいいんじゃない」

 というわけでエリスを先に乗せてから俺も乗ってみた。
 当たり前だけどアグニの背中はかなり広くてこの上で生活できそうだ。

「おお」

 俺たちが乗るとアグニが翼をはためかせて身体を浮かせる。
 浮遊感にわくわくしつつもエリスが落ちたりしないように気を配ってやるのも忘れない。

「しっかり捕まってろよ。落ちるぞ」
「命令すんなって言ってるでしょ」

 アグニとの戦闘中に比べれば随分と余裕の出たエリスににやけていると、アグニが動き出した。
 気を使ってくれているのか常日頃からそうなのか、一直線に上に行くんじゃなくて水平に近い体勢でゆっくりと上がっていく。

「…………」

 エリスはぽかんと口を開けて空高くからの眺めに目を奪われている。
 その顔はまるで宝物を見付けた子供のように輝いていた。ていうかまあ子供なんだけどな。

 そして今にも山頂に到達しようかという時だった。
 アグニがどこか一点を見つめて唸り声をあげている。

「どうした?」

 身を乗り出して見てみると、山頂の裏側が崖になっていてそのいくらか下に超巨大な鳥の巣みたいなのがある。
 恐らくはあれがアグニたちの家なのだろう。

 そこで何やらくつろいでいる一つの影があった。

「なるほどな。任せろ。お前はこのままエリスを適当なところで降ろしてくれ」

 言葉は通じていないはずなので、それだけ言って俺は立ちあがった。

「何する気よ」
「あいつをぶっ飛ばしてくる」
「ちょっと!」

 そのまま飛び降りて近くの手頃な裏の山道に降りると、助走をつけて一気にアグニの家目指して崖を駆けあがる。
 アグニの家に着くと、そこには何かいいものがないかと漁るような動きをしているサキュバスがいた。

「ふふ、中々いいところじゃない。でも臭いとかがやっぱり気になるわね」
「よう。お前もファリスの部下か」

 声をかけると驚いたような顔でこちらを振り向いた。
 巻き毛で金髪、どこか気品のある雰囲気を漂わせているやつだ。
 ドレスっぽい服が無駄に身体のラインを強調している。

 サキュバスはすぐに妖しい笑みを浮かべて口を開いた。

「あらあ、もしかしてあなたが」
「お前がこんなとこで何をしてるかはもうわかってる」
「…………」

 笑みを消してただこちらを見つめるサキュバス。
 俺はそいつの下に歩み寄り、見下ろしながら聞いた。

「お前はティナの敵だな?」
「そういうことになるわね。あなたが守ってるティナって子、一生懸命頑張ってるわよ」
「ティナはいつだって一生懸命だよ」
「それで、私をどうするつもりかしら?」
「今すぐ上にいるチビ竜の『魅了』をとけ」

 ファリスは、アグニの子供がティナたちと戦っていると言っていた。
 消去法で考えればこのサキュバスが「誘惑」した竜ということだろう。
 こいつはここでチビ竜を「魅了」状態にした後ここでくつろいでいたのだ。

 サキュバスは立ち上がりこちらに問いかける。

「嫌だと言ったら?」

 俺が無言で歩み寄るとサキュバスは艶やかな声で宣言した。

「『誘惑』」
「…………」

 歩みが止まることはなく双方の距離は縮まっていく。
 そこで余裕の笑みは崩れ、サキュバスは明らかに動揺し始めた。

「えっ? 嘘でしょう? どうして」
「お前程度の『誘惑』が通じると思ってんじゃねえぞ。いいか、俺を『誘惑』することができるのはなあ……」

 そこで俺は拳を強く握り、振りぬきながら叫んだ。

「ティナだけだばかやろう!!」
「おぴょろぉ~~…………」

 他のサキュバス同様、金の巻き髪野郎も星にしてやった。
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