女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

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伝説の武器編 後編 ドキッ! 男だらけの試練の迷宮

試練の迷宮へ

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 それからティナの訓練に費やすこと数日。
 レイナルドからのお墨付きももらえたので、晴れて「試練の迷宮」攻略に挑むことになった。

 俺もティナのご機嫌とりの訓練を終えて自分にお墨付きを出せるほどになり、もはやフィオーレさんに抱きついた疑惑など太古の昔に世界の果てで起きた出来事のようになっている。はずだ。

 そして遂に迎えた「試練の迷宮」攻略当日のこと。
 寝泊まりしている宿屋一階の酒場にて、テーブルとその上に彩られた料理たちを挟んで、俺はティナと座ったまま対峙していた。
 茶番は俺の番から始まる。腕を組みながら少し大袈裟な調子で口を開いた。

「いよいよ今日は『試練の迷宮』攻略だ。よくこれまでの厳しい訓練に耐えてくれたな」
「ありがとうございます。隊長は女の子に鼻の下を伸ばしてましたけど、私はレイナルドさんと頑張りました」

 ティナは背筋をぴんと伸ばして椅子に座り、両手を揃えた足の上に置いている。ように見える。
 その凛とした表情は、爛々と輝く瞳と相まって今日の攻略へかける意気込みをこちらに伝えてきていた。
 俺はそんなティナに一つ頷いてから言葉を返す。

「うむ。本当によくやってくれたと思う。レイナルドには本当に感謝している。そして私は女の子に鼻の下を伸ばしてなどいない」
「何でそこでとぼけるんですか? ものすごく伸ばしててそれはもうびろんびろんでしたよね? フィオーレさんに抱きついてた時、生きててよかったぜ! みたいな顔してましたよ?」
「どういう顔だよそれ。ていうかそもそも抱きついてないから」

 だめだこの子全然許してくれてなかった。
 その表情は険しく、口調は厳しい。俺の一言一句を逃さずに噛みつこうと言わんばかりの勢いだ。

「えっ、じゃああれはなんだったんですか? あれが抱きついてたんじゃないんだったら、私に対してもできますよね?」
「えっ」
「えっ?」
「あっ、あれと同じことをティナにやってもいい、のか……?」
「あ」

 そこでティナは自分がどんなことを口走ったのかに気付いた様子で、俯きがちになって頬を朱に染めた。
 そしてもじもじと身体を揺らしながら口を開く。

「そ、それはその……別に……」
「別に?」

 俺はその反応が気になり過ぎて思わず立ち上がった。やってもいい、と言われればすかさずだっ、だだっ抱きつくための準備でもある。
 ティナは動揺しているのか、身体を引くというちょっとショックな反応をした。

「ちょっと、何で立ち上がるのっ」
「いいから。別に……なんなんだよ」

 気になり過ぎるあまりテーブルを回り込んでティナに少しずつ、でも確実に歩み寄っていく。
 それを見て思わずティナも立ち上がり、俺が進んだ分だけ後ずさりながら言う。

「こっ、来ないで!」
「何でだよ。続きが気になるだろ」
「こっちに来る必要ないでしょ! いいから座って!」
「ティナが続きを言ってくれたら座る」
「も~!」

 こんなに感情をむき出しにするティナは初めて見たかも。
 でも俺も変態っぽいしそろそろやめておこう、と思っていると酒場のあちこちからやじが飛んできた。
 どうやら俺たちの声が大きかったらしく、人目を引いてしまったみたいだ。

「おいおい兄ちゃん、振られたからってやけ起こすんじゃねえぞ」
「男ってのは諦めが肝心だぜぇ」
「うるせえそんなんじゃねえよ!」

 拳を振ってそう外野に向かって吠えてみるも、熱は上がっていくばかり。

「姉ちゃん可愛いもんなあ、そりゃしょうがねえよ」
「なんなら次は俺とよろしくやろうぜえ! よろしくよろしくってなあ! がっはっはっは!」
「えっ、えっ」

 ティナは顔を赤くして固まっている。どうしたらいいかわからず身動きがとれないといった様子だ。
 俺だけならともかくとばっちりをくったティナがかわいそうなので、この話はやめておくことにした。

 もう一歩だけ近寄ると、ティナの肩がびくっと跳ねた。そんなショックな動きにも負けず一言だけ声をかける。

「悪かったな。さっさと飯食って行こうぜ」
「う、うん……」

 ティナはそう言うと、先に席に着いた俺に続いて座ってくれた。
 酒場の客たちからは「何だもう終わりかよ」なんて言葉も聞こえてきたものの、無視して飯をかきこみ、宿屋を後にした。

 すっかりお馴染みになってしまったレイナルド宅への道を歩きながら持ち物を確認する。

「ティナ、おやつは大量に用意してきたか?」
「うん。私たちの分と、レイナルドさんの分だよね」

 今回レイナルドは「試練の迷宮」攻略にも同伴してくれるらしい。俺としてもダンジョン内部の道のりまではわからないから、すげー助かる。
 ただ、あのおっさんは途中で腹が減るとほとんど無口になって道案内が出来なくなる恐れがあるので、補給用のおやつを用意しておこうという話だ。

 必要なくなってもおやつならティナが食べれるしな。甘いものなら別腹なティナ……いいな。

 森の中に規則正しい石畳の道が走ったようなフォースの街並みには、たくさんの落ち葉が見受けられる。
 見た目にも賑やかで、踏むとかさっと音を立てるそれらがどことなく気分を高揚させてくれていた。

 雑談をしながらしばらく歩くとレイナルド宅に到着。庭に顔を出すと、レイナルドがなぜか仁王立ちで待ち受けていた。
 右手には槍を持ち、穂先を天に向けて地面に立てている。
 このおっさんいつからこの体勢で待っていたんだろうと思いながら、片手を上げて挨拶をした。

「おはよう、レイナルド」
「おはようございます、師匠」
「お二方おはようございますいやあいい天気ですな今日は『試練の迷宮』攻略ということで年甲斐もなく高揚して早起きなどしてしまい恥ずかしい限りでございますが本当に今日はよろしくお願いします」

 どうやら朝食を腹一杯食べたらしく、レイナルドは饒舌モードだ。
 そこで俺には一つひっかかることがあってティナに話しかけた。

「っていうか何、レイナルドのこと師匠って呼んでんのか?」
「うんそうだよ。だって戦闘のことを色々教えてもらったんだもん」

 な、何てうらやましい。俺もティナに師匠って呼ばれてえ。
 それからティナはとててっと訓練用人形の方に走り寄っていくと、俺たちの方に振り向いてから言った。

「師匠! ちょっと剣を振っていってもいいですか?」
「どうぞどうぞむしろ少しくらいやっていった方がいいかもしれませんかく言う私もちょっと身体を温めてから行こうかと悩んでいたものでしてもちろん訓練用人形はたくさんあるからどうか私には構わず好きなだけ」
「ありがとうございます!」

 やや食い気味に言われて、おっさんは言葉を失ってしまったようだ。
 ティナも段々レイナルドの扱いに慣れてきたみたいだな。
 その後は三人でそれぞれ別の訓練用人形を叩いて身体を温めた。

 全員の気が済んだところでレイナルド宅を発つ。
 「試練の迷宮」へと向かって歩く道中、俺とティナの少し前を行く形で先導してくれているレイナルドが不意にこちらを振り返って口を開いた。

「『試練の迷宮』について聞きたいことなどがあれば今の内からお答えしておきたいのですが、ありますかな」
「…………っ」

 どうやら身体を動かしたことで少し口数が減ったらしい。レイナルドはそれだけ言うとまた前を向く。
 この前だって色々聞いたけどお前のせいでほとんど何もわからなかったんだろうが、と言葉が出そうになるのを堪えた。

 気を取り直して聞きたいことを考えてみたものの、特に思い浮かばないのでティナに尋ねてみる。

「ティナは何かあるか?」
「えっ、私? う~ん……」

 顎に指を当てて視線を宙に漂わせるティナ。ややあって、こんなのでいいのかな……といった様子でおそるおそる口を開く。

「『試練の迷宮』の中って広いんですか?」

 その言葉を聞いたレイナルドがまたこちらを振り返った。

「広いと言えば広いですかな。我々が歩く予定の道のりだけだとそうでもないのですが、内部には幾重にも余分な道が張り巡らされていまして、一つ道を間違えばすぐに迷子になってしまいますのでお気をつけください」
「へえ~そうなんですね。ありがとうございます」
「道が複雑なだけでなく、罠なども正解の道以外には多数張り巡らされておりますので、迷宮内では必ず私からはぐれないようにお願いします」

 何でそんなややこしい作りにしたんだろうか。つまりレイナルドは戦闘要員でもあるのかもしれないけど、文字通りの「案内」が今回の主な役割なんだな。
 引き続き何かないかと思案していたティナが、見付けたと言わんばかりにぱっと笑顔になってまた一つ口を開く。

「迷宮にモンスターは出ますか?」
「出ます。『迷宮の守護者』という石で出来たいわゆるゴーレムのようなモンスターですが、今の勇者殿なら十分に勝利できるかと」
「だといいですけど……」

 この辺はレイナルドの口から直接は聞いていなかったから、ティナに教えておけたのは良かったかもな。
 おっさんの言う通り、今のティナなら一人でも勝てるんじゃねえかな。ただ、もう一つその辺に関して気になるところがあった。

「モンスターはそれだけか?」

 そこでまたレイナルドはこちらを振り返る。

「少なくとも、試練の部屋までは。その部屋には勇者殿がいなければ入れないように封印が施されていますから、その中に何があるのかによります」
「なるほどな……」

 試練の部屋の中にモンスターがいるのかいないのか。
 そもそもそこで迷宮が終わっているのかどうなのか、入ってみないとレイナルドでもわかんねえってことだな。

 ふと横を見るとティナが不安そうな顔をしていたので、心配になって尋ねた。

「どうした?」
「あ、ううん……結局私ってエリスちゃんに認められただけで本物の勇者とは限らないし、その封印を解けるのかなって」

 ああ、そう言えばみんなからすりゃそうなるのか。俺は知ってるからあれだけどティナの心配ももっともかもな。
 だから俺は言い聞かせるように少し強くいってやった。

「大丈夫だって! ティナは勇者だ。俺が保証する」
「! うん、ありがとう」

 端から聞けば何の根拠もない妄言じみた台詞だけど、ティナは俺のそんな言葉で笑顔になってくれた。
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