女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

文字の大きさ
85 / 207
伝説の武器編 後編 ドキッ! 男だらけの試練の迷宮

一人の少女としての

しおりを挟む
 一方、ジンが穴に落ちた直後のティナとレイナルド。
 当の本人がいつの間にか姿を消しているとは露知らず、ティナはジンに対する当てつけのような会話をレイナルドと続けていた。

「……というわけですから、これからどんな敵が出て来ても私に任せてください! 師匠の力を借りずとも『試練の迷宮』を攻略してみせます」
「ほっほっほ」

 頼もしい限りですな、などと続きそうなものだが言葉はそこで終わっていた。
 大分腹が減って来た様子のレイナルドである。ティナはそのことにすぐ気付いたらしく、クッキーを取り出す。

「はい師匠。案内が出来なくなるからこれ食べてください」
「御意」

 クッキーを受け取り、もしゃもしゃと食べ出すレイナルド。
 ティナはその様子を見ながらふふんっと得意気な顔になって口を開く。

「あれれー? ジン君もクッキーを持ってたはずなの、に……」

 気が利かないなあ、と続けようとして後ろを振り向き、ティナは初めて異変に気が付いた。
 いつの間にかジンがいなくなっている。

 しかし拗ねたジンが悪戯でもしていると思ったのだろうか。

「まあいっか。放っといて行きましょ」
「ですが……」

 そう言いながら、ティナはツンとした表情でやや戸惑い気味のレイナルドの先をずんずんと歩き出す。
 そしてある程度歩いたところでちらっ。また少し歩いてからちらっ。そう後ろを振り返るも、一向にジンが出て来る気配はない。

「…………」
「…………」

 思わず二人が顔を見合わせると、ティナはてててっとジンがいなくなったと思われる十字路まで走り、きょろきょろと左右の通路を確認しながら呼びかける。

「ジン君? ジンく~ん」

 そのまま脇の通路に入って行こうとするも、追いついてきたレイナルドに肩を引っ張られて引き留められた。
 ティナが振り返るとレイナルドが落ち着いた声音で語りかける。

「落ち着いてくだされ。我々まで道に迷っては合流することはますます困難になります。張り巡らされた罠の中には落とし穴もありますから、姿を消したとなるとジン殿は地下に落ちた可能性が最も高い」
「地下……そんな……」

 ティナは俯き、胸の前で手を組んで悲しそうな表情をした。すると次に右の手は拳を強く握り、心配や後悔といった気持ちを表わし始める。
 その様子を見たレイナルドは優しく微笑みながら声をかけた。

「大丈夫です。平時の立ち居振る舞いを見たところ、ジン殿はかなり戦闘に慣れておられる様子でした。冒険者カードで拝見したステータスから考えても、守護者程度ならそうそう遅れをとることはないでしょう」
「そうでしょうか……」

 レイナルドの言葉を受けてもその顔があがることはない。
 さっきまでのジンへの態度はどこへやら、今のティナからは元気のげの字も感じることが出来なかった。

 自分の娘ほどの年齢の少女を元気づけようと、レイナルドは力強くうなずいてから言う。

「もちろんです。それよりも、地下をうまく抜けることが出来た場合は試練の部屋のすぐ近くに出るはずですから、このまま進みましょう。先にそこで待っておくのが一番合流しやすいはずです」
「わかりました」

 いつまでも落ち込んでいてもしょうがないと考えたようだ。説得に応じてティナが元の道へと歩き出すと、レイナルドもそれに続いた。

 そうして再び最奥の試練の部屋へと向かって進み始めたものの、ティナには今いち元気が戻らない。
 やがて四角い部屋のような空間たどりついた。どうやら守護者もいないらしいことを確認すると、レイナルドは声をかける。

「どうですか勇者殿、ここらでちょっと休憩にしては」
「そうですね」

 部屋の真ん中辺りにレイナルドが腰を落ち着けると、それにティナも続いた。
 ティナはレイナルドと向かい合うように座って、何やら左手の人差し指にはめたリングを撫でながら浮かない表情で眺めている。
 話題の一環としてレイナルドは尋ねてみることにしたらしい。

「そのリングはなんですかな?」

 するとティナは顔をあげて返事をした。

「これは、ジン君にトチュウノ町で買ってもらったものなんです」
「ほほう。中々に良さげな効果を持っていそうですが」
「はい。『力と体力+2%』だとか……でも、そっちは正直に言えば割とどうでもよくて」
「どうやらそのようですな」

 うんうんと頷きながら、レイナルドはそう言った。今は独り身ではあってもさすがに元妻子持ち、女性の心の機微もわかる男のようだ。
 その言葉を受けてティナは、少しばかり頬を赤らめた。
 それから今まで心に溜まっていたものを吐き出すように、勇者ではなく一人の少女としての悩みを打ち明ける。

「昨日から、今思えばとっても些細な理由でジン君につらく当たっちゃって。それで私のことが嫌になって帰っちゃったのかなぁって……」

 レイナルドの言う通り、ジンは落とし穴にはまった可能性が一番高い。
 それを頭では理解しつつも、心では嫌われたのかもしれないという思いを捨てきれずにいたのだろう。
 悩みを言い切った今、ティナは両手を膝の上に落としてしゅんとしている。

 そんなティナを眺めながら、やはり勇者とはいってもまだ少女であるのだなとレイナルドは思う。
 目を細め、在りし日の娘との思い出を振り返った。

 一番に思い浮かぶのは「もうお父さんとはお風呂に入らない」と言われた日のことだ。あれはショックだった……。
 当時のレイナルドはショックのあまり訓練用人形ジョゼフィーヌの先代、エリザベートを泣き叫びながら槍で突きまくって破壊した。
 時刻が夜だったことも手伝って、近所や家族から苦情が来たことは言うまでもない。

 しかし今、そんなことは全くもって関係がないことに気が付いたレイナルドは、眼前に意識を戻すと首を横に振ってからゆっくりと口を開く。

「それはないでしょう。ジン殿はいつも勇者殿のことを気にかけておられました。先に帰るなどという行動をとることはまずあり得ません。もっともここまで断言できるのは、私が同じ男であるからなのかもしれませんが」

 がっはっは、と笑うレイナルド。
 するとそこで、ティナの顔に色彩が戻り始めた。みるみるうちに眼は輝きを取り戻し、頬はほんのりと色づき、唇が艶やかな動きで開かれる。

「そっか、そうですよね。何だか少しでもジン君が帰ったとか思っちゃった自分が恥ずかしいです」

 顔をあげて立ち上がると、ティナは一歩を踏み出してから言った。

「行きましょう。こうしている間にもジン君が頑張ってくれているかもしれないですから」
「そうですな。それでは試練の部屋まで、一気に参りましょう」

 そこから二人の進軍は一切止まることなく続いた。
 凛とした表情で前を向いて歩き、守護者が現れれば一切迷いのない太刀筋でそれを両断してみせるティナ。

 これまでの旅で様々な経験を積んだティナは、昔よりもずっと強くなっていた。
先程までの悩みも消え、今は思う存分にその力が発揮されている。
 何としてでも試練の部屋までたどり着くという気概と共に振るわれる剣は、一層その迫力を増していた。

 守護者があらわれた。
 守護者があらわれた。

 通路の左右から一体ずつ守護者が出て来ると、即座にティナとレイナルドは戦闘態勢に移る。
 左側の守護者を視界に捉えながらティナが声を張りあげた。

「師匠! 私が左の守護者をやります!」
「かしこまりました!」
「はああぁぁっ!!」

 レイナルドの返事を聞くと同時に地を蹴り、駆け出す。
 剣を上段に構えてから力強く振り下ろした。

 ティナのこうげき。かいしんのいちげき! 守護者をたおした。

 レイナルドも負けじと、槍を円状にくるくる回すあのかっこいいやつを無駄にやってから守護者に向かっていく。

「『八双突き』!!」

 レイナルドのこうげき。八双突き! 守護者をたおした。

「いえ~い!」

 戦闘を終えてレイナルドの元にティナが駆け寄ると、二人は手を高く掲げて勢いよく合わせる。
 ぱぁん、という乾いた音が辺り一帯に響き渡っていった。

 それからも特に問題はなく進んで行き、やがて遠くの方にこのダンジョン内では見たことのなかった、やや大げさな装飾施された扉が見えた。
 扉を指差しながらレイナルドが口を開く。

「勇者殿、あれが試練の間へと通じる扉です。あそこの前はちょっとした小部屋になっていますから、そこでジン殿を待ってみましょう」
「はいっ」

 そしてティナは、軽やかな足取りで駆けていくのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)

たぬころまんじゅう
ファンタジー
 小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。  しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。  士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。  領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。 異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル! 圧倒的不利な状況を武と知略で切り抜ける! ☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。 ※本作は小説家になろうでも投稿しています。

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

処理中です...