女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

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不死鳥との契約編 前編 ゴバンまったり道中記

ウォード、覚醒?

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 翼を持たない生物では決して越えることの出来ない山脈に囲まれた陸地に悠々とそびえたつ城。
 そんな魔王城の一室では、多くの幹部が顔を連ねての会議的なものが行われていた。縦に長いテーブルの、いわゆるお誕生日席に座った魔王が重苦しくゆっくりと口を開く。

「勇者パーティーがムコウノ山に向かおうとしている。恐らくは不死鳥と契約をするためだ」

 一瞬にして室内を動揺と喧騒が覆う。ヒヒヒィィィインと暴れ出したチェンバレンをなだめながらウォードが言った。

「やばいじゃないですか。かなりやばいですよそれ」
「やばいを連呼するの、頭悪そうだからやめてくれない?」

 とは頬杖をつきながらのサキュバスのファリス。
 そこに重く低く、それでいてよく通るにも関わらず震えた声が割り込む。

「不死鳥と契約してしまえば後はここに来るだけですものね……うう、怖いなぁ」

 筋骨隆々で六本腕という驚異の肉体を持つというのにどこか及び腰なのは、パワードゴリラのムガルだ。
 そしてそこに、甲高くて少ししわがれたような女性の声が飛んでくる。

「臆するでないぞ、ムガル。いつも気弱なのはお主の悪いところじゃ。男で幹部でもあるならばもっとどっしりと構えい」
「は、はいすいません……」

 まるで瑞々しい植物のように神秘的な緑色の髪が肩まで流れ、左分けにされた長い前髪の隙間からはちらりと左眼が覗く。
 容姿だけで年齢を推定するのは困難だが、その物腰や言葉づかいはファリスのそれとは全く正反対と言って差し支えない。
 ムガルの次に女性の声に反応したのはそのファリスだった。

「どこに行ってたのよ、ティノール。今まで全然顔を出さなかったくせに」
「何じゃお主、余に興味があったのか。思いのほか勇者たちの旅の進行が早かったでな、単純に出遅れたというだけの話よ」
「ふうん……ま、メデューサとかいう辺境の地に住む種族なんて初めから当てにしてないけど」

 椅子の肘掛けをつきながらつまらなそうに言うファリスに、勝気な笑みを口元に湛えながらティノールが対抗した。

「ふっ、言うてくれるのう。お主はすでに失敗したと聞いておるが。それも部下まで連れて行ってとのことではないか」
「あれはね、相手が悪かったのよ相手が。あんたも戦えばわかるわ」
「ほう」
「まあともかくだ、やつらがムコウノ山を目指そうかという今の段階ではもうそんなことも言っていられなくなった」

 魔王の言葉と共にやや弛緩した空気の流れが変わり、場には緊張が走る。
 全員の視線が自分に集まったのを確認して正直ちょっと嬉しくなってから魔王は続けた。

「でだ。ふと思ったんだが、お前ら全員で行けばいいんじゃないか?」
「…………」

 一同は互いに顔を見合わせてしばし押し黙る。
 何とも言えない空気を破ったのは首無し鎧男のウォードだ。

「さすがにちょっと恥ずかしくないですか? それ」
「恥ずかしいとはなんだ」
「いや、一人一人で行っても勝てないから全員でって」
「何? あんた魔王様の言うことに何か文句でもあるわけ?」

 ファリスが不機嫌そうにむくれた様子で割って入ってきた。
 ウォードは表情……は兜で覆われていてわからないが、さっきまでとは変わらない雰囲気で返事をする。

「あるから言ったじゃん、今。なに、お前言葉わからないの?」
「そういう意味じゃないでしょ。魔王様のいうことに文句をつけるなってこと」
「おい、またかお前ら。いちいち喧嘩をするな」

 魔王が制止しようとするもその効果は全く現れず、二人の言い争いは続く。

「じゃあお前魔王様が死ねって言ったら文句も言わずに死ぬのかよ」
「魔王様がそんなこと言うわけないでしょ。魔王様にはね、あたしが必要なの」
「その自信ってどこから湧いてくんの? ねえ魔王様、ちょっとこの残念ボディのサキュバスに死ねって言ってみてくださいよ」
「乙女に対して残念ボディとか信じらんない。あんたなんか頭がないじゃない」
「いやいや俺はこういう種族だし。そもそもここにちゃんとあるから」

 ウォードはテーブルの上に置いた自身の頭部を指差しながらそう言った。
 するといつかは終わることを信じて二人の戦いを見守っていた魔王がついにしびれを切らして椅子を立ち、両手を広げながら叫び出した。

「もぉ何なのお前ら! だったら知らないよ勝手にやれよもぉ! どうせ俺が何を言っても喧嘩するじゃんほんとにもぉ!」

 魔王は部屋の隅まで歩いていくと、そこで膝を抱えながら壁に向かって座り込んでしまう。
 ティノールは額に手を当ててため息をつき、ムガルは姿勢を正したまま静かに成り行きを見守っていた。
 拗ねた様子の魔王を見たファリスが慌てながら、ウォードを責めるかのように声を荒げる。

「ほらあんたがうるさいから魔王様が拗ねちゃったじゃないの!」
「うるせえな、それはお前も一緒じゃん。まあ見てろ、俺と魔王様は親友だからこういう時の対処法くらいわかってんだよ」

 ウォードはどこからかクッキーを取り出すと左手で自身の頭を拾いあげ、椅子から立ち上がって歩き出す。
 魔王の目の前まで行くと片膝をついてそれを差し出した。

「ほら魔王様、おやつですよ。これで機嫌を直してください」
「…………」

 魔王は文字通り目もくれず微動だにしない。
 ウォードの惨状を目撃したファリスが腹を抱えて指を差しながらけたけたと笑い出した。

「親友って全然だめじゃない。ていうかあんたそもそも友達なんているの?」

 聞き捨てならぬといって様子で立ち上がり、ウォードが口を開く。

「言っていいことと悪いことがあるってわかんねえの? もういいわ、お前はここで俺の暗黒の力の餌食にするわ」
「あら、やるつもり? 望むところよ」

 ウォードは左手に自らの頭部、右手には愛用の長剣を構えてファリスが椅子から立ち上がる。
 相変わらずティノールは静観を決め込んでいるが、ムガルはそんな二人を見ながらどうしようかとおろおろしている様子だ。
 ちなみに、チェンバレンはやれやれいつものやつかという雰囲気を出しながらムガルの側で眠る体勢に入った。

 やがてウォードが地を蹴り駆け出しながら叫ぶ。

「くらえ! これが俺の暗黒の」
「『誘惑』」

 ウォードが走る態勢からぴたっと止まり、直立不動になる。手からこぼれおちた長剣が石の床に落ちてがらんがらんという音を立てた。
 ファリスが意地の悪そうな笑みを浮かべながら勝利を宣言する。

「はん! ちょろいわね、これで私の勝ちよ」

 しかしウォードは「魅了」にかかったとは思えないような自然な動きで一歩を踏み出し、ファリスを見つめたままで口を開いた。

「あれ……何かお前って可愛くね? めっちゃドキドキするんだけど」

 そう言いながらファリスの方へと手を伸ばしつつ、ウォードはふらふらとまた一歩、更に一歩と歩み寄っていく。
 突然の意外な発言に、ファリスは一歩後ずさった。

「なっ」
「やべえ俺、お前のこと好きだわ。嘘だろ……今までこんな気持ち、自分でも気付いてなかった。だから頼む、俺と付き合ってくれ!」
「嫌よ、何であんたなんかと……ちょっ、来ないでよ!」

 ウォードの動きに合わせてファリスも一歩ずつ後退していく。

「逆に何で逃げるんだよ。これからは俺とチェンバレンと三人で暮らそうぜ」
「き、気持ち悪っ。何これ誰か助けてよ!」
「『メデューサの眼』」

 必死で周囲に助けを求めるファリスに対し、ティノールがスキルを発動した。
 途端にファリスの動きがぴたりと止まる。

「ちょっと、こんな時に何してくれてんのよ! スキルを解除しなさい!」
「目の前でギャーギャー騒いでくれた罰じゃ。しばらくは自分が誘惑した男と仲良くするがよいわ」
「やっ、やめて! ごめんなさい! 何でもするから助けて!」

 目線と言葉だけで許しを請うファリス。どうやら一部を除いて身体が動かない状態にあるらしい。
 対してティノールはわざとらしくそっぽを向いて無視を決め込んでいる。その一方で確実に一歩ずつウォードがファリスに近付いてきていた。

 もう自身へのスキルを解除する気がないと悟ったファリスは、ティノールを睨みつけながら恨みがましく言葉を吐く。

「あんた覚えてなさいよ」
「さあファリス、毎日俺とチェンバレンの世話をしようぜ」
「ふ、ふざけんじゃないわ……いやああああああああああ」

 悲鳴が魔王城に響き渡った。その後、ウォードの部屋に担ぎ込まれたファリスは二人でめちゃめちゃチェンバレンの世話をしたそうな。

 そして各自が落ち着いた後日。再度会議が開催され、魔王軍幹部たちによるムコウノ山への一斉出撃が決定したのであった。
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