女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

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伝説の武器編 後編 ドキッ! 男だらけの試練の迷宮

エピローグ:庶民派勇者ティナ

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 ティナが奥の部屋に消えていってからしばらく。俺はレイナルドとの気まずい時間を過ごしていた。
 なぜ気まずいかというと、レイナルドが何も喋らないからだ。

 空腹で大分口数の減ってきているおっさんに何か食べ物を与えればいいだけの話なんだけど、俺は今諸事情により何も持ってないし、持っていそうなティナは奥の部屋。
 そんなわけで二人して無言でティナを待ち続けている。

 別に無言が耐えられないような性格でもないけど、何となく暇なこともあって話しかけてみることにした。

「なあ」
「…………」

 こちらを振り向きはしたものの、レイナルドは完全に無言だ。
 おいおいまじかよ。まさか空腹の度が過ぎると喋ることすらしなくなるのかこいつ。
 とはいえお互い無言のままいてもしょうがない。俺から話題を振ってみることにした。

「ティナ、遅いな」
「…………」

 レイナルドはただひたすらに無言でこちらを見つめている。

「…………」
「…………」
「…………おい」
「…………」
「…………何か言えよ」
「…………」

 だめだこりゃ。と、おっさんとの会話を諦めた時だった。
 奥の部屋からティナが出てきた。こちらに気付いて手をぶんぶんと元気よく振っている。
 俺はまだ距離があるので、それに対して片手をあげるだけにとどめておく。

 やがて距離が近づくと先にティナが口を開いた。

「お待たせ~」
「どうだったんだ?」

 そう尋ねると、ティナはぱぁっと太陽みたいな笑顔で報告をしてくれる。

「それがね、聞いて聞いて! 何とね、ソフィア様に会えたんだよ! 妖精の姿でもうすっごい可愛かった!」
「へえ、そりゃすげえな」
「うん、本当に勇者になれてよかった~」

 本当に楽しい思い出のように語るティナ。どうやらソフィア様と会えたことが相当嬉しかったらしい。
 まあ俺も綺麗だとは思うからわかるけどな。ただし、俺が好きなのはティナだけでそれは譲れない。

「で、ソフィア様からは何か言われたのか?」
「うん。これから何をすればいいかとか、そのためにどこに行けばいいかとか。そういうのを教えてもらった」
「ふ~ん。親切だな。まっ詳しいことは帰ってから教えてくれ」
「うん」

 そこで会話が一区切りを迎えると、ティナはちらっと横にいるレイナルドに視線をやった。

「お待たせしました、師匠」
「…………」
「あっ、お腹空いたんですね」
「悪いな。俺の分は地下で失くしちまってよ」
「ううん。はいっどうぞ」

 ティナはがさごそとおやつを取り出すとレイナルドに差し出した。レイナルドはそれを無言で受け取り、ばりぼりとやり始める。
 少しの間静かに待つと、やがて食べ終わったレイナルドが口を開いた。

「ご迷惑をおかけしました。それでは参りましょうか」

 そう言って俺たちを先導し出すレイナルド。それに少し遅れてついていこうとすると、後ろからティナに呼び止められた。

「ジ、ジン君っ」
「ん?」

 振り返ると、いつの間にかティナは手の上にアイテムを取り出していた。さっき俺があげたばかりの世界樹の花だ。
 何だ……? もしかしてやっぱり要らないから返却、とかだろうか。

 そう考えていると、ティナが意を決したような感じで口を開いた。目線は花にいっていて、こちらとは合わない。

「これ、あげるっ!」

 そう言いながらさっと世界樹の花を差し出される。えっ。

「な、なんだ? もしかして俺の贈り物、気に入らなかったか?」

 するとティナは顔をあげて何言ってんのこの人、という顔をした。だけどやがて何かに思い至ると、慌ててぶんぶんと手を振り始める。

「あっ、違う違う! そうじゃないの。これは、その、そう! 奥の部屋にあった宝箱の中に入ってたの!」
「ほ~ん。そりゃ偶然だな」
「そうなの! ソフィア様もびっくり、みたいな。それでね、実はこの世界樹の花にはその、おまじないみたいなのがあるの、知ってる?」
「えっ? そうなのか?」

 キースたち精霊陣やムガルたちモンスター陣もそんなことは一つも言っていなかったので知らなかった。思わず間抜けな声が漏れてしまう。

「どんなおまじないなんだ?」

 聞くと、ティナは宙に視線を漂わせながら答えてくれた。

「えっと。怪我とか病気をしにくくなるおまじない、だって。ソフィア様に教えてもらったの」
「へえ、そりゃ知らなかったな」
「でしょ? だからね、これ。新しく手に入ったのをジン君にあげようかなって」

 な、なんだって。それはつまり、ティナが俺の身体を心配してくれてるってことか? 生きててよかった……。

「そういうことなら遠慮なくもらっとくぜ。ありがとな!」

 そう言って世界樹の花を取ると、ティナは上目遣いでこちらを見ながらおずおずと口を開く。

「それ、絶対になくさないでね? もちろん捨てるのもだめだから」
「お、おう」

 思いも寄らぬ言葉に一瞬戸惑ってしまった。そんなことをするわけがない。むしろ王城の自室に額縁にでも入れて飾ろうかと思っていたくらいだ。
 だけど俺の微妙な返事だけでは納得が出来なかったらしく、ティナは更に念を押してきた。

「な、失くしたら怒るからっ」
「何だよ絶対になくさねえって。心配なら飾りにしてもらって服にでもつけるか? 俺じゃ似合わないだろうけど」
「それは絶対にだめ! お、おそろいみたいだし、私が色々と恥ずかしいし!」

 ティナは突然顔を真っ赤にしてぶんぶんと手を振り出した。声もかなり大きかったので先を行くレイナルドが振り返る。
 ていうかおっさんの存在を完全に忘れてた。

「どうなされました!?」
「あっ、ごめんなさい! 今行きます!」

 レイナルドの声にそう返事をすると、ティナは俺を置いて走り出した。
 色々と恥ずかしいしってなんだろうな。まあ、おそろいが恥ずかしいってのはわかるけどさ。

 もしすでにティナと恋人になれてたら、むしろそういう関係ですと周囲に誇示するために100個くらい体中に張り付けて歩くんだけど。
 ティナを見送りながらぼんやりとそう考えていると、突然のその背中がこちらを振り返って叫んだ。

「ジン君も早く~! 置いていくよ~!」
「今行く!」

 まあいっか。とにかく俺はティナからもらった世界樹の花を後生大事にしようと心の中で誓いながら駆け出した。



 試練の迷宮から無事帰還しての帰り道。
 レイナルドと別れて宿屋に向かっていると、道中梢を見上げて立ち尽くすちびエルフの姿があった。やんちゃそうな男の子だ。
 その顔は今にも泣きだしそうで、ティナが話しかけようと思わせるには十分だったらしい。

 俺と顔を見合わせると、ティナは早速その子供の方に歩み寄っていく。そして膝を折って目線を合わせてから話しかけた。

「どうしたの?」
「あれ」

 ちびエルフが指さした先を追うと、何やら枝の上に猫がいる。登ったはいいものの降りられないというやつか。
 ティナはそれを確認すると、ちびエルフの方を見て微笑んで言った。

「わかった。お姉ちゃんに任せて」

 そうは言ってもどうする気だろうか。その樹は高所にしか枝が無く、樹皮も滑らかで登るのは難しそう。
 むしろあの猫がどうやって登ったのか不思議なくらいだ。

 俺もちびエルフとティナの方に寄って声をかける。

「俺も何か手伝うか?」
「あっ、じゃあ猫が落ちてきたら受け止めてくれる?」
「お、おう」

 落ちてくるって何だ? と思ったけど何となく聞かなかった。
 ティナが樹の下に移動したので俺もついていき、猫の下で身構える。

「よし、いつでもいけ……」

 と言いつつ振り向くと、ティナはさきほど入手した剣の柄を身体の前に立てる形で構えた。まさか。
 そう思った瞬間、剣の柄から炎のように燃える朱色の刃が顕現する。

 そしてなぜか俺の方をちらっと見てからティナが瞑目すると、その刃が猫のいる枝まで届く長さにまで伸びた。
 伝説の武器の力を猫の救出に使うティナ……いいな。

「んしょっ」

 ごうごうと燃え盛る「しん・ゆうしゃのつるぎ」を構えたティナは、剣を立てたまま背伸びなどもしつつ、恐る恐る動かして位置を調整する。
 そして見事に枝だけを切り落とした。

 俺が落ちてきた猫を受け止めると、ほぼ同時に枝も地面に落下。
 結構でかい梢のついた枝だったからかなりすごい音がして、近くにいた人たちからの注目を一斉に浴びる。

「ご、ごめんなさい」

 思わずティナは「ゆうしゃのつるぎ」を引っ込め、周囲を見渡しながら小さくそう言った。
 とりあえずちびエルフのところに猫を運んでやる。

「ほれ」
「ありがとう! お兄ちゃん、お姉ちゃん」

 礼を言うとすぐにちびエルフは走り去っていく。一方でティナは固まってしまっているので、枝を拾い上げながら声をかけた。

「とりあえずこれを長老のとこに持っていって相談だな」
「う、うん。なんかごめんね……」
「何言ってんだよ。いいことしたんだから胸張れよ」
「そうかな。ありがとう」

 ティナはそう言ってはにかんだ。

 そんな庶民派勇者を眺めながら、二人で歩みを揃えて長老の家に向かって行くのであった。
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