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不死鳥との契約編 前編 ゴバンまったり道中記
ドワーフの里、ゴバンへ
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翌朝はそこそこに爽快な目覚めだった。身体を起こし、ベッドから降りて窓辺によって外の景色を眺めてみる。
延々と続く森は二階の高さから見るとまるで梢で出来た絨毯のようで、遠くには小高い丘がぴょこぴょこと顔を出していた。
一羽の鳥になって、この景色の中を飛んでみたい。もちろん背中にはティナを乗せて。
そんなことを考えて少しだけ幸せな気分になれた。
でも朝食をとるために一階の酒場に降りて早々、その気分はぶち壊しになる。
どういうわけかラッドが死にそうな顔をしていたからだ。
女性陣は起きてからの何やかんやがあるのだろう、この場にはいない。
とりあえず二人が下りてくるまでに話くらいは聞いておこうと、テーブル席について早々に話しかけてみた。
俺の向かいにラッドが座っていて、エアがその隣という配置だ。
「お前なんでそんなに死にそうな顔してんだよ」
「ふっ、そんなもの。あまり寝ていないからに決まってるじゃないか」
「は? 全員一人部屋だし特にうるさいってこともなかっただろ」
するとラッドはちっちっ、と人差し指を左右に振った。寝不足なだけでうざったい動きや喋りをするだけの元気はあるらしい。
「まだまだうぶなジンにはわからないだろうけれどね。夜這いに行こうかどうかと悩みすぎて眠ることが出来なかったのさ」
「よっ、よばい……」
思わずごくりとつばを飲み込んでしまう。
夜這いってあれか。夜中にこっそりと女の子の部屋に行って……行、って……? あれ?
「夜這いって具体的に何をするんだ?」
俺がそう言うと、ラッドは初めて竜を見た冒険者のように固まり、エアはゼウスがいつもの如く、女の子のお尻がどうのこうの言い出した時のソフィア様みたいに額に手を当ててため息をついた。
少しの間を置いて、ラッドはなぜかひどくうろたえた様子で口を開く。
「ほ、本気で言っているのかい?」
そこから何とか一息ついて落ち着いた後「夜這いというのはね……」とまで言いかけたところで、それをエアが手で制した。
そして俺の方に身を乗り出してから尋ねてくる。
「夜に異性の部屋までこっそりと侵入し、人間として本質的に正しい行為をする、と言えばわかるか?」
「わかんねえよ。具体的にっつってんだろ」
「考えてみろ。そもそも人間とは何のために生きているんだ?」
「これ夜這いの話だよな?」
なんかエアが聖書にでも書いてありそうなことを言いだした。
でもなあ、聖書はやたらとゼウスに都合のいいことばっか書いてあるから、何となくうざくてあんまり読んでないんだよな。
たしかゼウスが昼と夜を作った、みたいなとこで断念したはずだ。
目の前に意識を戻すと、エアが無表情にこちらを見つめていた。
「質問をしているのはこちらだろう」
「いやいや最初に聞いたのは俺だから」
「何話してるの?」
その時、横から大天使のお告げが微笑みと共に割り込んできた。自分でもさすがに何言ってるのかわからん。
エアが何食わぬ顔でそれに応える。
「作戦会議をしていただけだ」
「えっ、何のですか?」
「人生の……いや男の、だな」
「???」
意味がわかるわけもなく、ティナはきょとんとした表情で首を傾げてティナエルになってしまっている。
その後ろにいたロザリアがささっとティナの横に出て来てから言った。
「さあ、朝ごはんをいただきましょうか。ティナちゃんも席について」
「うっ、うん……あっ」
ロザリアの声に意識を引き戻されたティナは、席につこうとテーブル周辺を見渡してからそんな声をもらした。
今俺たちが座っているテーブル席には、三人掛けの椅子がテーブルを挟んで一脚ずつ設置されている。
そしてロザリアが何やら素早い動きでラッドたちの椅子に座ってしまったので、ティナは俺と一緒の椅子に腰かけるしかない。
俺とエアは静かに、ラッドとロザリアはにやにやにこにこと見守る中、ティナはそっと椅子に座った。
人一人分よりも少し狭いくらいの微妙な間隔を俺との間に空けて。
何だこの距離感……どういう意味なんだ、色々考えてしまう。
「…………」
「…………」
ティナは膝に手を置いたまま、黙って俯いている。謀ったのかと視線で抗議をするも、ラッドのにやにやは止まりそうにない。
やがてそろそろいいでしょうとでも言うように、ロザリアがぽんと手を合わせてから口を開いた。
「さあ、それでは朝食にしましょうか」
その後料理を注文すると、妙な緊張感が漂う待ち時間の後にテーブルに運ばれてくる。戸惑いと緊張で味のよくわからなくなった朝食を終えると、早速ゴバンに向けて出発した。
しばらく馬車に揺られながら雑談を楽しんでいると、御者台から声がかかる。
「お客さんモンスターですわ! 少々お待ちを!」
その瞬間全員の視線が魔法剣士に集まった。
でも何かの余裕を見せ付けているつもりなのか、魔法剣士は足を組んで座ったまま瞑目して俯いている。ぴくりとも動かない。
「おらっ!」
「ギョロギョロピャ~!」
モンスターを素手で殴り倒す音や声が聞こえてきた。今回も一瞬で決着がついてしまったらしい。
ラッドの態度がなんなのかよくわからないので聞いてみることにした。
「おい、魔法剣を見せ付けるチャンスだったんじゃねえのか?」
「僕ほどの存在にもなるとね、魔法剣を使わずともモンスターが倒れるよう、運命の歯車が回り出してしまうのさ」
「すげえ……」
あまりの意味のわからなさに思わず感心してしまう。これはもう妄想だとかそんな領域は超えてしまっている。
どれだけ想像を膨らませても、魔法剣の披露を諦めるためのあんな強引な言い訳は、俺には思いつくことすらできなかった。
ティナとエアも同様らしく唖然とした表情をしてたけど、ロザリアだけはそんなラッドをただ笑顔で見守っていた。これが愛なのか……!?
その後いくつかの休憩所を経て進み、陽が傾き始めた頃にようやくドワーフの里ゴバン付近までやってくる。
ゴバン周辺は、凹凸のある広大な草原地帯に岩石群が点在するようなやや珍しい地形だった。
そんな景色をティナと一緒にを眺めてふーんとかほーんとか言っていると、ゴバンに到着。馬車乗り場に入る。
馬車から降りて周辺を見渡してみると、他の街に比べて全体的にレンガや石造りの家が多いような印象を受けた。街路も、微妙に色の違うレンガや石を敷き詰めることでちょっとした模様のようなものを編み出している感じだ。
総じてお洒落な街並みになっていて、さすがは建築や製作に長じたドワーフといったところ。
運転手に別れを告げてから全員で街へと繰り出す。とはいっても辺りはすっかり暗くなっているから、まずは宿を探さないといけない。
ティナに歩み寄って声をかけた。
「どうする? 今回もお姉さんの宿を探すか?」
「うん」
「よし、じゃあそうするか。他も全員それでいいな? よし決まりだ」
「ちょっと強引な気もするがまあ構わないよ」
ラッドの返事を聞かずとも俺はすでに歩き出していた。
本当はある程度金にも困らなくなってきたことだし、ちょっと高そうな宿に泊まってみてもいいかなとか思ってたけど、ティナがそういうならしょうがない。
この世はいつだってティナが正しい。ティナがルールなのだ。
今回は運転手に宿屋の場所を聞くのを忘れていたけど、お姉さんたちのそれなら大体の場所は見当がつく。
あの宿はどの街でも入り口からそう遠くない大通りに面した一角にあるからだ。
まあ正直エアに聞けばかなりの時間短縮にはなるんだけど、どうやってそれを知ったかっていう演技を考えるのがまた面倒くさいからな。
そんなわけで全員にお姉さん宿に関する情報を伝えて歩き出す。
隣を歩くティナがふらふらしているので体調でも悪いのかなと見てみると、ある色のレンガや石だけを避けて歩く遊びをしているみたいだ。
ティナエルの正体がばれてしまわないか心配していると最初の大きな十字路に差し掛かったところで見慣れた宿屋を見付けた。
ボロ過ぎず、高級過ぎず。
ツギノ町やミツメのそれと一切変わらない宿の見た目に安心感すら覚える。
後ろにいるみんなの方を振り返って、建物を指差しながら言った。
「ここだ」
そして中に入るとカウンターにはいつもと見た目の変わらないお姉さん。これまで会ったお姉さんの中で一番年上のはずなんだけど、違いがわからない。
からんころんとなるベルの音を聞きながらそちらに向かうと、お姉さんは俺たちに気付くなり笑顔で言ってくれた。
「ようこそ旅人の宿屋へ。今日はこちらにお泊りかしら?」
延々と続く森は二階の高さから見るとまるで梢で出来た絨毯のようで、遠くには小高い丘がぴょこぴょこと顔を出していた。
一羽の鳥になって、この景色の中を飛んでみたい。もちろん背中にはティナを乗せて。
そんなことを考えて少しだけ幸せな気分になれた。
でも朝食をとるために一階の酒場に降りて早々、その気分はぶち壊しになる。
どういうわけかラッドが死にそうな顔をしていたからだ。
女性陣は起きてからの何やかんやがあるのだろう、この場にはいない。
とりあえず二人が下りてくるまでに話くらいは聞いておこうと、テーブル席について早々に話しかけてみた。
俺の向かいにラッドが座っていて、エアがその隣という配置だ。
「お前なんでそんなに死にそうな顔してんだよ」
「ふっ、そんなもの。あまり寝ていないからに決まってるじゃないか」
「は? 全員一人部屋だし特にうるさいってこともなかっただろ」
するとラッドはちっちっ、と人差し指を左右に振った。寝不足なだけでうざったい動きや喋りをするだけの元気はあるらしい。
「まだまだうぶなジンにはわからないだろうけれどね。夜這いに行こうかどうかと悩みすぎて眠ることが出来なかったのさ」
「よっ、よばい……」
思わずごくりとつばを飲み込んでしまう。
夜這いってあれか。夜中にこっそりと女の子の部屋に行って……行、って……? あれ?
「夜這いって具体的に何をするんだ?」
俺がそう言うと、ラッドは初めて竜を見た冒険者のように固まり、エアはゼウスがいつもの如く、女の子のお尻がどうのこうの言い出した時のソフィア様みたいに額に手を当ててため息をついた。
少しの間を置いて、ラッドはなぜかひどくうろたえた様子で口を開く。
「ほ、本気で言っているのかい?」
そこから何とか一息ついて落ち着いた後「夜這いというのはね……」とまで言いかけたところで、それをエアが手で制した。
そして俺の方に身を乗り出してから尋ねてくる。
「夜に異性の部屋までこっそりと侵入し、人間として本質的に正しい行為をする、と言えばわかるか?」
「わかんねえよ。具体的にっつってんだろ」
「考えてみろ。そもそも人間とは何のために生きているんだ?」
「これ夜這いの話だよな?」
なんかエアが聖書にでも書いてありそうなことを言いだした。
でもなあ、聖書はやたらとゼウスに都合のいいことばっか書いてあるから、何となくうざくてあんまり読んでないんだよな。
たしかゼウスが昼と夜を作った、みたいなとこで断念したはずだ。
目の前に意識を戻すと、エアが無表情にこちらを見つめていた。
「質問をしているのはこちらだろう」
「いやいや最初に聞いたのは俺だから」
「何話してるの?」
その時、横から大天使のお告げが微笑みと共に割り込んできた。自分でもさすがに何言ってるのかわからん。
エアが何食わぬ顔でそれに応える。
「作戦会議をしていただけだ」
「えっ、何のですか?」
「人生の……いや男の、だな」
「???」
意味がわかるわけもなく、ティナはきょとんとした表情で首を傾げてティナエルになってしまっている。
その後ろにいたロザリアがささっとティナの横に出て来てから言った。
「さあ、朝ごはんをいただきましょうか。ティナちゃんも席について」
「うっ、うん……あっ」
ロザリアの声に意識を引き戻されたティナは、席につこうとテーブル周辺を見渡してからそんな声をもらした。
今俺たちが座っているテーブル席には、三人掛けの椅子がテーブルを挟んで一脚ずつ設置されている。
そしてロザリアが何やら素早い動きでラッドたちの椅子に座ってしまったので、ティナは俺と一緒の椅子に腰かけるしかない。
俺とエアは静かに、ラッドとロザリアはにやにやにこにこと見守る中、ティナはそっと椅子に座った。
人一人分よりも少し狭いくらいの微妙な間隔を俺との間に空けて。
何だこの距離感……どういう意味なんだ、色々考えてしまう。
「…………」
「…………」
ティナは膝に手を置いたまま、黙って俯いている。謀ったのかと視線で抗議をするも、ラッドのにやにやは止まりそうにない。
やがてそろそろいいでしょうとでも言うように、ロザリアがぽんと手を合わせてから口を開いた。
「さあ、それでは朝食にしましょうか」
その後料理を注文すると、妙な緊張感が漂う待ち時間の後にテーブルに運ばれてくる。戸惑いと緊張で味のよくわからなくなった朝食を終えると、早速ゴバンに向けて出発した。
しばらく馬車に揺られながら雑談を楽しんでいると、御者台から声がかかる。
「お客さんモンスターですわ! 少々お待ちを!」
その瞬間全員の視線が魔法剣士に集まった。
でも何かの余裕を見せ付けているつもりなのか、魔法剣士は足を組んで座ったまま瞑目して俯いている。ぴくりとも動かない。
「おらっ!」
「ギョロギョロピャ~!」
モンスターを素手で殴り倒す音や声が聞こえてきた。今回も一瞬で決着がついてしまったらしい。
ラッドの態度がなんなのかよくわからないので聞いてみることにした。
「おい、魔法剣を見せ付けるチャンスだったんじゃねえのか?」
「僕ほどの存在にもなるとね、魔法剣を使わずともモンスターが倒れるよう、運命の歯車が回り出してしまうのさ」
「すげえ……」
あまりの意味のわからなさに思わず感心してしまう。これはもう妄想だとかそんな領域は超えてしまっている。
どれだけ想像を膨らませても、魔法剣の披露を諦めるためのあんな強引な言い訳は、俺には思いつくことすらできなかった。
ティナとエアも同様らしく唖然とした表情をしてたけど、ロザリアだけはそんなラッドをただ笑顔で見守っていた。これが愛なのか……!?
その後いくつかの休憩所を経て進み、陽が傾き始めた頃にようやくドワーフの里ゴバン付近までやってくる。
ゴバン周辺は、凹凸のある広大な草原地帯に岩石群が点在するようなやや珍しい地形だった。
そんな景色をティナと一緒にを眺めてふーんとかほーんとか言っていると、ゴバンに到着。馬車乗り場に入る。
馬車から降りて周辺を見渡してみると、他の街に比べて全体的にレンガや石造りの家が多いような印象を受けた。街路も、微妙に色の違うレンガや石を敷き詰めることでちょっとした模様のようなものを編み出している感じだ。
総じてお洒落な街並みになっていて、さすがは建築や製作に長じたドワーフといったところ。
運転手に別れを告げてから全員で街へと繰り出す。とはいっても辺りはすっかり暗くなっているから、まずは宿を探さないといけない。
ティナに歩み寄って声をかけた。
「どうする? 今回もお姉さんの宿を探すか?」
「うん」
「よし、じゃあそうするか。他も全員それでいいな? よし決まりだ」
「ちょっと強引な気もするがまあ構わないよ」
ラッドの返事を聞かずとも俺はすでに歩き出していた。
本当はある程度金にも困らなくなってきたことだし、ちょっと高そうな宿に泊まってみてもいいかなとか思ってたけど、ティナがそういうならしょうがない。
この世はいつだってティナが正しい。ティナがルールなのだ。
今回は運転手に宿屋の場所を聞くのを忘れていたけど、お姉さんたちのそれなら大体の場所は見当がつく。
あの宿はどの街でも入り口からそう遠くない大通りに面した一角にあるからだ。
まあ正直エアに聞けばかなりの時間短縮にはなるんだけど、どうやってそれを知ったかっていう演技を考えるのがまた面倒くさいからな。
そんなわけで全員にお姉さん宿に関する情報を伝えて歩き出す。
隣を歩くティナがふらふらしているので体調でも悪いのかなと見てみると、ある色のレンガや石だけを避けて歩く遊びをしているみたいだ。
ティナエルの正体がばれてしまわないか心配していると最初の大きな十字路に差し掛かったところで見慣れた宿屋を見付けた。
ボロ過ぎず、高級過ぎず。
ツギノ町やミツメのそれと一切変わらない宿の見た目に安心感すら覚える。
後ろにいるみんなの方を振り返って、建物を指差しながら言った。
「ここだ」
そして中に入るとカウンターにはいつもと見た目の変わらないお姉さん。これまで会ったお姉さんの中で一番年上のはずなんだけど、違いがわからない。
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