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不死鳥との契約編 前編 ゴバンまったり道中記
魔法剣士ラッドの憂鬱
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道がそこそこに整備されているミツメ周辺を走っている間は、馬車の揺れもそこまで感じることはない。
車輪が地面をならす音と、梢を憩いの場とする鳥たちのさえずり、時折近くに出没するモンスターの鳴き声なんかを聞きながら、馬車は穏やかに進んでいく。
そんな中、俺の横に座るラッドがゆっくりと口を開いた。
「で、そろそろこちらの方を紹介していただけるかな」
「商人をやっているエアだ。よろしく頼む」
「俺が紹介する前に自分から名乗んな」
紹介しようとエアを手で示したままの姿勢でそう言った。相変わらず自分からぐいぐいいくエアは手間いらずらしい。
続いてラッドとロザリアも自己紹介をしていく。
「誉れ高きクリスティン家の偉大なる魔法剣士、ラッドだ」
「司祭のロザリアですわ。よろしくお願いいたしますね」
そこでティナがぴょこっと身を乗り出し、ラッドとロザリアの顔を交互に見ながら補足をした。
「エアさんは副業で情報屋もやってるんだって。だから何でも知ってるんだよ」
「へえ。じゃあわからないことがあったらどんどん聞いていこうじゃないか」
自らまいた種でティナに追い詰められてしまうエア。
ラッドはこれはいいことを聞いたとでもいわんばかりの表情だ。
「ああ。私の出来る範囲で答えよう」
フォースに向かう馬車の中では「何でも聞いてくれ」って言ってたのに。さすがに安易な設定だったと後悔しているのか、少し控えめになっている。
ラッドやロザリアが「頼もしい仲間が出来てよかった」と喜ぶ声で一旦会話が締めくくられた。
その後しばらく雑談をしていると馬車が突然止まり、御者台にいる運転手がこちらを振り返って声をあげた。
「お客さん方、モンスターですわ! ちょっと待っててください!」
これに、魔法剣というスキルをみんなに見せびらかしたくてたまらないラッドがいち早く反応して立ち上がる。
「ふっ、世界が僕を必要としているようだね。こんなところで僕の切り札である魔法剣を使うのは気が引けるけれど……いいだろう」
「おらっ!」
「ギョロギョロ~!」
ラッドがぐだぐだと口上を述べている間に、運転手が素手でモンスターを倒してしまったらしい。ていうか運転手強いな。
手を天高く掲げた姿勢のままで固まるラッド。
「…………」
「もう大丈夫ですから! いや~お待たせしました、そらっ!」
「ヒヒィィィィン」
勇ましい馬の鳴き声に続いて馬車がゆっくりと動き出す。
「私はいつでもラッド様の味方ですわ」
「わ、私もっ」
「私もだ」
ロザリアが慰めにならない慰めの言葉をかけると、ティナとエアがそれに続く。
ラッドは何も言わずに席に着くと、それからしばらくの間その口が開かれることはなかった。ロザリアの言葉が逆にとどめになったんだと思う。
そんな俺たちにも構わず馬車はこの上なく順調に進んでいく。
やがていくつかの休憩所を経て、馬車は今日泊まる予定の休憩所に到着。
宿屋と酒場の入った大きな建物の他には馬車を停める為の場所が広がっているだけの簡素な土地だ。
周りは自然に囲まれていて、あえてここに歩いてやってくる人たちもいるんじゃないかってくらいに景色も空気もいい。
遥か彼方の空に沈みかけている陽を眺めながら、馬車は緩やかに停車する。
先に俺、ティナ、エアが降りると、背後からは立ち上がろうともしないラッドを何とか元気づけようとするロザリアの声が聞こえてきた。
「ほらラッド様。休憩所に着きましたよ」
「大丈夫だよロザリア。世界に必要とされていない僕には野営がお似合いなのさ」
「お前いつまで落ち込んでんだよ……」
よっぽど俺たちに魔法剣を披露したかったらしく、ラッドはあれからもずっと落ち込んでいる。
ちなみに言うとあれからモンスターが行く手を阻むことは一度もなく、ラッドが名誉を挽回する機会はとうとう訪れなかった。
それでも落ち込みはじめよりは大分ましになったものの、まだぶつぶつと亡霊のように喋るくらいで、いつものお調子者はすっかり影を潜めている。
俺は励ますより逆にすこし怒るくらいがちょうどいいだろうと続けた。
「あのなあ、モンスターならこれからいくらだって出るんだからその時魔法剣を見せ付ければいいだけの話だろうが」
「さっきじゃないとだめだったんだ……」
だめだこいつめんどくせえ……。
かといって、置いていけばロザリアも運転手もかわいそうだしなぁと思っていると、エアが一歩馬車の方に歩み寄って口を開いた。
「大丈夫だ。人生には色々ある。やりたいことがやれない時だってあるわけで、そう毎回全てがうまくいくということはない。だからこそ日々鍛錬を怠らないべきなのであり、その苦しみを乗り越えて次に魔法剣を使えた時には、その達成感は何十倍にもなって返ってきてくれるだろう」
「いやいやお前は誰なんだ」
「エアだが」
「そういう意味じゃねえよ」
またもよくわからないところでぐいぐい来たエアの言葉は、ラッドの心には全く響いていないらしい。反応すらもない。
結局こういう時はロザリアに任せるのが一番だろうと思って話を振ってみる。
「なあロザリア、なんかないか? うまいことラッドを慰める方法」
するとなぜかロザリアはうっすらと赤く染まった頬に手を当て、もじもじしながら何か言い出した。
「まあいやですわジン君ったら。そんな恥ずかしいこと、みんなの前で出来るわけないじゃないですか」
「は? 何言ってんだおま……」
「ジン君の変態!」
「ジン貴様、見損なったぞ」
「エアは黙ってろ」
エアがどういう立ち位置を目指してるのか全くわからん。ていうかティナから変態とか言われたの何気にきつい。
そんなこんなで全員でラッドを慰める戦いは続き、宿屋の中に入る頃にはすっかり日が暮れてしまっていた。
宿屋に入って部屋を取ると、腹が減っていたこともあってすぐに一階の酒場へ。
適当なテーブル席に腰かけて全員が料理を注文し終えたところで、すっかりいつもの調子を取り戻したラッドが口を開く。
「待たせてしまって悪かったね。天才魔法剣士ラッド=クリスティン、この通り完全復活さ」
「本当にな。もしダンジョンとかでああなったら置いていくからな」
「ふっ、望むところだ」
ラッドのよくわからない軽口を聞きながら周囲を見渡してみる。
外観からわかってはいたことだけど、この酒場はかなり広い。
ドワーフの里とミツメのちょうど真ん中ぐらいにある施設だから、客もひっきりなしに訪れるとのこと。ちなみにこれは道中でエアから聞いた情報だ。
客の割合はドワーフが一番多くて次に人間といった感じかな。
店内にはパイ生地や肉の焼ける匂いが漂っていて食欲をそそられる。主にティナが。
ティナは店内を見渡しつつ、かき集めるように匂いをかぎながら言う。
「いい匂いだね~私お腹空いちゃった」
「ふふ、そうね。ラッド様のせいですっかり時間を取られてしまいましたから」
「うっ」
ロザリアが口元に手を添えて上品に微笑む。
ラッドは一番迷惑をかけたという自覚はあるのか、さすがにロザリアに対しては軽口を叩くことは出来ないみたいだ。
やがて料理が到着すると、飯を食いながらエアが口を開く。
「これからゴバンに行くのなら、何か手土産は用意してあるのか?」
「ああ、荷物の中に『エリス』がある」
「中々いい選択だな。あいつらは酒が好きだ。酒というよりはそれを飲んでからするどんちゃん騒ぎの方が、かもしれないが」
「そうなのか」
「ああ」
一つうなずいてから、エアは手樽を手に取って口につけるとくいと傾ける。
そんな何気ない仕草もさまになっていて、こいつ黙っていればただの美少年だなとかすごく悔しいことを思わされてしまった。
そういえば、旅に出てからこいつと「コンタクト」で会話してねえな……まあ目の前にいるから特殊な用件でもない限り必要ないんだけど。
ティナが使っていた食器を置いてから口を開く。
「あの、ドワーフの里ってどんなところなんですか?」
「どんな所……か」
エアは宙に視線を躍らせながら手樽をテーブルに置いた。ごとっという鈍い音が静かに響く。
「すでに知っているかもしれないが、ドワーフは製作が得意だ。そしてその分野は武器防具、アクセサリー、ただの飾りやアイテムなど多岐に渡る」
全員がうなずいたり、ふむ、とかなるほど、といった声をあげている。それを聞きながらエアは続けていった。
「その為材料には鉱石類が多く使われる。だから、ドワーフの里というのはそれらが多く採れる岩場の近くにある。まあ岩場とはいっても、周りは自然に囲まれているし、ゴバンの街並みもその建築技術をふんだんに生かしていて中々面白いぞ」
「ほ~ん」
こいつよく知ってんなあ、と素直に感心したら鋭く睨まれた。どうやら精霊部隊に所属する精霊の間では常識の部類らしい。
俺は少しだけ慌てて、取り繕うように口を開いた。
「い、いやーさすがエアはよく知ってんな。ほら、ためになる話も聞けたことだしさっさと飯食っちまおうぜ」
「別にジンに促されなくても堪能しているけれどね」
それからも歓談をしながらの食事は続いた。
ひとしきり盛り上がった後はもう遅い時間ということもあり、各自部屋に戻って眠りについたのだった。
車輪が地面をならす音と、梢を憩いの場とする鳥たちのさえずり、時折近くに出没するモンスターの鳴き声なんかを聞きながら、馬車は穏やかに進んでいく。
そんな中、俺の横に座るラッドがゆっくりと口を開いた。
「で、そろそろこちらの方を紹介していただけるかな」
「商人をやっているエアだ。よろしく頼む」
「俺が紹介する前に自分から名乗んな」
紹介しようとエアを手で示したままの姿勢でそう言った。相変わらず自分からぐいぐいいくエアは手間いらずらしい。
続いてラッドとロザリアも自己紹介をしていく。
「誉れ高きクリスティン家の偉大なる魔法剣士、ラッドだ」
「司祭のロザリアですわ。よろしくお願いいたしますね」
そこでティナがぴょこっと身を乗り出し、ラッドとロザリアの顔を交互に見ながら補足をした。
「エアさんは副業で情報屋もやってるんだって。だから何でも知ってるんだよ」
「へえ。じゃあわからないことがあったらどんどん聞いていこうじゃないか」
自らまいた種でティナに追い詰められてしまうエア。
ラッドはこれはいいことを聞いたとでもいわんばかりの表情だ。
「ああ。私の出来る範囲で答えよう」
フォースに向かう馬車の中では「何でも聞いてくれ」って言ってたのに。さすがに安易な設定だったと後悔しているのか、少し控えめになっている。
ラッドやロザリアが「頼もしい仲間が出来てよかった」と喜ぶ声で一旦会話が締めくくられた。
その後しばらく雑談をしていると馬車が突然止まり、御者台にいる運転手がこちらを振り返って声をあげた。
「お客さん方、モンスターですわ! ちょっと待っててください!」
これに、魔法剣というスキルをみんなに見せびらかしたくてたまらないラッドがいち早く反応して立ち上がる。
「ふっ、世界が僕を必要としているようだね。こんなところで僕の切り札である魔法剣を使うのは気が引けるけれど……いいだろう」
「おらっ!」
「ギョロギョロ~!」
ラッドがぐだぐだと口上を述べている間に、運転手が素手でモンスターを倒してしまったらしい。ていうか運転手強いな。
手を天高く掲げた姿勢のままで固まるラッド。
「…………」
「もう大丈夫ですから! いや~お待たせしました、そらっ!」
「ヒヒィィィィン」
勇ましい馬の鳴き声に続いて馬車がゆっくりと動き出す。
「私はいつでもラッド様の味方ですわ」
「わ、私もっ」
「私もだ」
ロザリアが慰めにならない慰めの言葉をかけると、ティナとエアがそれに続く。
ラッドは何も言わずに席に着くと、それからしばらくの間その口が開かれることはなかった。ロザリアの言葉が逆にとどめになったんだと思う。
そんな俺たちにも構わず馬車はこの上なく順調に進んでいく。
やがていくつかの休憩所を経て、馬車は今日泊まる予定の休憩所に到着。
宿屋と酒場の入った大きな建物の他には馬車を停める為の場所が広がっているだけの簡素な土地だ。
周りは自然に囲まれていて、あえてここに歩いてやってくる人たちもいるんじゃないかってくらいに景色も空気もいい。
遥か彼方の空に沈みかけている陽を眺めながら、馬車は緩やかに停車する。
先に俺、ティナ、エアが降りると、背後からは立ち上がろうともしないラッドを何とか元気づけようとするロザリアの声が聞こえてきた。
「ほらラッド様。休憩所に着きましたよ」
「大丈夫だよロザリア。世界に必要とされていない僕には野営がお似合いなのさ」
「お前いつまで落ち込んでんだよ……」
よっぽど俺たちに魔法剣を披露したかったらしく、ラッドはあれからもずっと落ち込んでいる。
ちなみに言うとあれからモンスターが行く手を阻むことは一度もなく、ラッドが名誉を挽回する機会はとうとう訪れなかった。
それでも落ち込みはじめよりは大分ましになったものの、まだぶつぶつと亡霊のように喋るくらいで、いつものお調子者はすっかり影を潜めている。
俺は励ますより逆にすこし怒るくらいがちょうどいいだろうと続けた。
「あのなあ、モンスターならこれからいくらだって出るんだからその時魔法剣を見せ付ければいいだけの話だろうが」
「さっきじゃないとだめだったんだ……」
だめだこいつめんどくせえ……。
かといって、置いていけばロザリアも運転手もかわいそうだしなぁと思っていると、エアが一歩馬車の方に歩み寄って口を開いた。
「大丈夫だ。人生には色々ある。やりたいことがやれない時だってあるわけで、そう毎回全てがうまくいくということはない。だからこそ日々鍛錬を怠らないべきなのであり、その苦しみを乗り越えて次に魔法剣を使えた時には、その達成感は何十倍にもなって返ってきてくれるだろう」
「いやいやお前は誰なんだ」
「エアだが」
「そういう意味じゃねえよ」
またもよくわからないところでぐいぐい来たエアの言葉は、ラッドの心には全く響いていないらしい。反応すらもない。
結局こういう時はロザリアに任せるのが一番だろうと思って話を振ってみる。
「なあロザリア、なんかないか? うまいことラッドを慰める方法」
するとなぜかロザリアはうっすらと赤く染まった頬に手を当て、もじもじしながら何か言い出した。
「まあいやですわジン君ったら。そんな恥ずかしいこと、みんなの前で出来るわけないじゃないですか」
「は? 何言ってんだおま……」
「ジン君の変態!」
「ジン貴様、見損なったぞ」
「エアは黙ってろ」
エアがどういう立ち位置を目指してるのか全くわからん。ていうかティナから変態とか言われたの何気にきつい。
そんなこんなで全員でラッドを慰める戦いは続き、宿屋の中に入る頃にはすっかり日が暮れてしまっていた。
宿屋に入って部屋を取ると、腹が減っていたこともあってすぐに一階の酒場へ。
適当なテーブル席に腰かけて全員が料理を注文し終えたところで、すっかりいつもの調子を取り戻したラッドが口を開く。
「待たせてしまって悪かったね。天才魔法剣士ラッド=クリスティン、この通り完全復活さ」
「本当にな。もしダンジョンとかでああなったら置いていくからな」
「ふっ、望むところだ」
ラッドのよくわからない軽口を聞きながら周囲を見渡してみる。
外観からわかってはいたことだけど、この酒場はかなり広い。
ドワーフの里とミツメのちょうど真ん中ぐらいにある施設だから、客もひっきりなしに訪れるとのこと。ちなみにこれは道中でエアから聞いた情報だ。
客の割合はドワーフが一番多くて次に人間といった感じかな。
店内にはパイ生地や肉の焼ける匂いが漂っていて食欲をそそられる。主にティナが。
ティナは店内を見渡しつつ、かき集めるように匂いをかぎながら言う。
「いい匂いだね~私お腹空いちゃった」
「ふふ、そうね。ラッド様のせいですっかり時間を取られてしまいましたから」
「うっ」
ロザリアが口元に手を添えて上品に微笑む。
ラッドは一番迷惑をかけたという自覚はあるのか、さすがにロザリアに対しては軽口を叩くことは出来ないみたいだ。
やがて料理が到着すると、飯を食いながらエアが口を開く。
「これからゴバンに行くのなら、何か手土産は用意してあるのか?」
「ああ、荷物の中に『エリス』がある」
「中々いい選択だな。あいつらは酒が好きだ。酒というよりはそれを飲んでからするどんちゃん騒ぎの方が、かもしれないが」
「そうなのか」
「ああ」
一つうなずいてから、エアは手樽を手に取って口につけるとくいと傾ける。
そんな何気ない仕草もさまになっていて、こいつ黙っていればただの美少年だなとかすごく悔しいことを思わされてしまった。
そういえば、旅に出てからこいつと「コンタクト」で会話してねえな……まあ目の前にいるから特殊な用件でもない限り必要ないんだけど。
ティナが使っていた食器を置いてから口を開く。
「あの、ドワーフの里ってどんなところなんですか?」
「どんな所……か」
エアは宙に視線を躍らせながら手樽をテーブルに置いた。ごとっという鈍い音が静かに響く。
「すでに知っているかもしれないが、ドワーフは製作が得意だ。そしてその分野は武器防具、アクセサリー、ただの飾りやアイテムなど多岐に渡る」
全員がうなずいたり、ふむ、とかなるほど、といった声をあげている。それを聞きながらエアは続けていった。
「その為材料には鉱石類が多く使われる。だから、ドワーフの里というのはそれらが多く採れる岩場の近くにある。まあ岩場とはいっても、周りは自然に囲まれているし、ゴバンの街並みもその建築技術をふんだんに生かしていて中々面白いぞ」
「ほ~ん」
こいつよく知ってんなあ、と素直に感心したら鋭く睨まれた。どうやら精霊部隊に所属する精霊の間では常識の部類らしい。
俺は少しだけ慌てて、取り繕うように口を開いた。
「い、いやーさすがエアはよく知ってんな。ほら、ためになる話も聞けたことだしさっさと飯食っちまおうぜ」
「別にジンに促されなくても堪能しているけれどね」
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