女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

文字の大きさ
142 / 207
世界の真実編 前編 世界の真実とそれぞれの「これから」

そして、二人は

しおりを挟む
 いつもより人数を増してのパーティーは、俺とセイラの喧嘩やラッドとロザリアの茶番、それらを穏やかに見守るティナといういつも通りの、けれど同時には見ることの出来なかったものを繰り広げながら過ぎていく。
 料理を全部平らげてからもしばらくは皆で喋り続けたから、ふと窓から外に目をやると、街並みを照らし出す主役が陽光から街灯へと切り替わっていた。

 そろそろ頃合いだな……。
 勢いよく椅子から立ち上がるとがたんと音がした。その音でこちらを向いたエリスの視線を受けながらティナのところに歩み寄っていく。

 何だかめちゃくちゃ緊張するな。自分が座っていた場所からティナのところに移動するまでのわずかな時間で、心臓がもうどうしようもないくらいに暴れ出してしまっていた。
 手には嫌な汗がじわりとにじみ、言葉が外に出ようとするのを喉が抑えつけようとするような、そんな感覚の中でティナに声をかける。

「ティナ」
「ん?」

 いつも通りの柔和な、たんぽぽとかひまわりみたいな笑み。
 どうやらおやつを食べていたらしく、右手でテーブルの上に小さく広げられたクッキーを摘まんだままでこちらを振り返ってくれている。
 酒場の扉を親指で示しながら、何とか誘いの言葉を口にした。

「ちょっと話があるんだ。二人で散歩でもしないか?」
「う、うん……いいよ」

 俺の緊張がうつってしまったのか、ティナの返事はどこかぎこちない。立ち上がったティナを連れて二人でぎくしゃくいそいそと店を出た。

 たまに振り返ってティナがついてきてくれているかを確認しつつ、俺はずんずんと不自然に勢いよく足を運んで街の外を目指した。ティナも緊張しているのか、特に話しかけてくるようなこともない。
 やばい、何か話しかけた方がいいんだろうか、っていうかこういう時っていつも何話してたっけ……わかんなくなってきた。
 あれこれと悩みながら歩き、結局何もしないまま街を出る。

 外の草原地帯を歩きながらふと夜空を見上げた。
 まるで宝石を砕いて散りばめたような星々が煌めいていて、大きさはばらばらだけど、どれも一生懸命に輝いている感じが何かいい。
 これから気持ちを伝えるための緊張とか、先行きの不安とか。そういった陰りのある気持ちが少し和らいだような気がして、俺はようやくティナの方を振り向く。

 どこか不安げに揺れる瞳は、俺を捉えたと思うとすぐに足下を向いた。
 街中から漏れてくる明かりに照らされたティナの顔は、少しいつもと違うように見える。
 もう一度ティナと視線が合わさるのを待ってから口を開いた。

「あのさ……これからの、ことなんだけど」
「……うん」

 ティナは後ろで手を組んだまま話を聞いてくれている。その表情からは、どんなことを考えているのかがうまく読み取れない。
 ここまで来て俺はまだ躊躇してしまう。けど、一瞬の間を空けてからその台詞を思い切って口にしようとして……ふと気付いた。

「おい、フェニックス」
『何だ?』

 ティナが「あっ」という顔で後ろを振り向く。

「いやその、大事な話をするからちょっと離れてて欲しいんだけど」
『イチャイチャするのなら別に私は構わんぞ?』
「うるせえよ! いいからちょっと離れててくれ!」
『言ってなかったかもしれんがな、私は契約を交わした対象から一定の距離以上は離れられんぞ』
「えっ、そうだったの? ずっと一緒にいてくれて嬉しいな、とは思ってたけど」

 開いた口を手で隠しながら普通に驚くティナ。

「せめてティナには話しとけよ、それは」
『申し訳ない』
「まあいいや、じゃあどれくらいまでなら離れられるんだよ」

 フェニックスはティナのやや後ろから俺たちの横方向へと飛んでいって、地面に着地した。更にその後ろの茂みで何かががさがさ動いた気がするけど気にしないようにしよう。

『これくらいだな』
「う~ん、まあそれが限界なら仕方ねえ。聞こえても内容は誰にも話さないでくれよ?」
『了解だ』

 小声で話せばぎりぎり聞こえないくらいの距離だけど、こんな大事な話をこそこそしたくはない。フェニックスに聞こえるくらいはもう我慢するしかないか。

 俺は気を取り直そうと一つ深呼吸をしてからティナに向き直った。少しの間、互いに期待と不安の入り混じった視線を交錯させる。
 もう一度深呼吸をしてから話を切り出した。

「……で、ティナ。これからのことなんだけど」
「うん」
「俺はさ、ティナに、ずっとそばにいて欲しいって思ってるんだ」
「……!」

 遂に言ってしまった。心臓が痛いと感じるほどに鼓動を速めているのに身体は熱くならず、全身は魔法で石にでもされたみたいに強張って動かない。
 ティナはその瞳を大きく見開いてから俯くと、後ろ手を組んだままゆっくりとフェニックスとは逆の横方向に歩き出す。返事を促すことも出来ずに静かにその様子を見守っていると、やがてティナはゆっくりと口を開いた。

「そっか。ジン君も……だったんだね」
「えっ」

 まさかティナも……? 余計なことは言わず、言葉の続きを待った。
 ティナの横顔は微笑みながらも強張っていて、声も震えてしまっている。

「私もなんだ」

 顔を上げてこちらを振り向いたティナの瞳は儚げで、夜の風に撫でられて綺麗な黒髪がふわりと揺れた。
 そして。

「私も……魔王を本当に倒せるのかなって、みんなで無事に帰ってくることができるのかなって、不安で」

 ん?

「今日はジン君がそばにいてくれたらなって、思ってたから」

 …………あー。
 その時フェニックスの背後の草むらで、葉擦れの音と一緒に何本もの枝が折れる音がした。フェニックスが一瞬だけそちらを振り向くも、それ以上は気にすることもなく俺たちに視線を戻す。

「ジン君も不安だったのはちょっと意外かも。どんな時でも私を引っ張ってくれててそんな風に見えたことなかったし」
「ティナ、あのさ」
「あっ、別にね! 他のみんなが頼りにならないとかそういうわけじゃないよ? みんな強くて楽しくて、いい人たちばかりだし」

 そこでもまだ震える声のままで。けど、ようやくいつもの自然な微笑みを浮かべて、ティナは言ってくれた。

「……でも、やっぱりジン君といるときが一番落ち着く、かな」
「えっと」

 すげー嬉しいけど欲しかった返答とは違うので、何と言っていいかわからない。でもとりあえず何かを言おうと口を動かす。
 けどそれも妙に勢いのあるティナの言葉に遮られてしまう。

「だっ、だからね! この後部屋に来て、眠くなるまでお話とかしてくれると嬉しいなーなんて!」
「お、おう。もちろん」

 ティナの顔は紅潮しているように見える。興奮してるん……だろうか。正直に言って今のティナがどんな気持ちなのか全くわからない。

「それじゃ私、おやつとかまだ食べ足りないから! 先に戻ってるね!」
「あっ、おい」

 引き留める間すらなく、ティナはそう言って走り去ってしまった。フェニックスもこちらを一瞥してからティナを追いかけて飛び去っていく。
 右手を出した体勢でしばらく固まった後、手を引っ込めて一つため息をついた。すると、さっきから騒がしかった草むらからキースとエアが出てくる。

「やっぱりお前らかよ。ばれる位置にはいるなって言っただろ」

 二人を睨みつけながらそう言うと、キースが俺の前まで歩み寄って来てから肩に手を置いた。

「ジン、よくわからない感じになったが元気を出せ。お兄ちゃんはいつでもジンの味方だからな」
「俺の言い方、悪かったかな」

 すると、キースはまるで本当の兄貴みたいな優しい顔になった。

「そんなことはない、ジンは頑張っていたぞ。それにな、あれは気持ちが伝わらなかったわけじゃないんじゃないかとお兄ちゃんは思う」
「どういうことだよ」

 訝し気な視線をキースに向けたものの、その返事をしたのはエアだった。

「お前たちは似た者同士、お似合いカップルということだ」
「まあ言い方はあれだが、そうとも言えるな」

 俺の肩から手を外し、ため息をついてからそう言うキース。こいつらの言っていることがよくわからないので沈黙で続きを促す。

「ただ一つ言えるのは、これ以上はジンからは何もせず、様子を見た方がいいかもしれんということだな」
「そうなのか?」
「うむ。もどかしいし、シナリオの完遂までに決着をつけたかったのはわかるが。こうなった以上、強引に行くのもまずい」
「そうか」

 キースは俺の気持ちを汲んでくれた上で言っているんだから、俺もそれに反論する気は毛頭起きなかった。それに、これ以上強引にいくのはまずいというのは大いに賛成出来る。
 ティナは思っていることが割と顔に出やすい。俺の言葉を受けてのあの一連の反応はどういうものかわかりづらかったけど、少なくとも魔王を倒して無事に帰ってこられるか不安に思っているのは本当だと思う。

 もしかしたら、タイミングを間違えたのかもしれない。自分の都合で無理に今気持ちを伝えようとして失敗したのかもしれない。
 ティナは勇者としての責務を負って、真剣に魔王を倒して人々を救いたいとそう思っているんだろう。それに、小さい頃からの勇者への憧れとかそういうのもあるはずだ。
 だから、今ティナは魔王討伐という任務と正面から向き合っている。なのに、俺は……。
 ぐっと奥歯を噛みしめて拳を強く握りしめた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)

たぬころまんじゅう
ファンタジー
 小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。  しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。  士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。  領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。 異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル! 圧倒的不利な状況を武と知略で切り抜ける! ☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。 ※本作は小説家になろうでも投稿しています。

処理中です...