女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

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世界の真実編 前編 世界の真実とそれぞれの「これから」

エリスが夢見る未来(これから)

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 一日中休まることのないシックスの街並みと同じく、グランドコーストの喧騒は俺が出ていく前のそれとほとんど変わりがない。
 寄り道をすることなくスロットコーナーに足を運ぶと、そこにはメダル箱の数をなおも増やし続けているティナの姿があった。

 ティナとエリスに近付くと、俺が声をかけるより先にエリスがこちらに気付き、口角を上げて意地の悪そうな笑みを浮かべた。

「あら、遅かったじゃない。もうあんたの出る幕なんてないわよ」
「みたいだな」

 ティナのメダル箱を見やる。これだけで魔王城の地図と交換ができる分くらいはあるかもしれない。
 メダル箱の縁にはフェニックスがとまっていて、ティナがスロットをうつ様子をじっと眺めていた。こうしてるとただの飼い慣らされた鳥みたいだ。

 手持無沙汰になってフェニックスと一緒にスロット台を眺めていると、俺の視線に気付いたのかティナがこちらに振り向いた。さっきまであんな話をしていたからか、心臓を射抜かれたかのように鼓動が跳ねる。

「あっ、ジン君おかえり。なんだかよくわかんないけど、たくさんメダルもらっちゃった」

 ティナの顔には苦笑が浮かんでいる。

「すげえじゃねえか。これも勇者専用スキルだったりしてな」
「きっと勇者だから、神様もティナに味方してるのよ」

 何故か得意げな顔でそう語るエリス。ゼウスや、セイラに汚い金を貢いだソフィア様なら本当にやりそうだから笑えない。
 そこにセイラとノエルがやってきた。セイラはあごに手を当てて、真剣な顔でメダル箱を眺めながら口を開く。

「ティナちゃん、すごいわね……ちょっと分けて欲しいくらいだわ」
「お前リッジ並みに強欲だな。てかちょうどいい、メダル数えるの手伝ってくれ」

 俺がそう言うと、セイラはあからさまに不満気な顔をした。

「何で私がそんなことしなきゃいけないの?」
「どうせ暇だろ」
「今はちょっと休憩してるだけ。これからまたスロットをうつのに忙しくなるんだから」

 俺は肩をすくめてため息をついてから応じる。

「お前なあ、ソフィア様に出させた汚い金を我が物顔で使ってんじゃねえよ」
「だから汚い金って言わないでよ。大体私がもらったお金なんだからどう使おうと私の勝手でしょ」
「はあ?」
「待て待てお前ら落ち着け」

 ノエルがそれぞれの手で俺とセイラに待ったをかけながら割って入ってきた。
 俺たちの刺すような視線を受けながら、ノエルは呆れた表情で手を下ろしてからため息を一つ漏らす。

「セイラはスロットのやり過ぎだ、ちょっとくらいは休憩しろ。ジン、この箱にはメダルが千五百枚ほど入るようになってる。それを知ってれば一人でもすぐに数えられるぞ。ぴったり千五百枚とはいかないだろうから、あくまで目安だけどな」
「ほ~ん、そうなんか」

 セイラの唸り声を無視しながらティナのメダル箱に視線を移す。本当に一箱千五百枚だとするともう十箱ほど積まれているから、ちょうど魔王城の地図と交換できる一万五千枚を達成しているということになる。
 スロット台に注意を戻していたティナに声をかけた。

「ティナ、ラッドとロザリアはどこにいるかわかるか?」

 こちらに顔を向け、あごに人差し指を当てて考え込むティナ。

「うーんと、何だっけかな。あのトランプのゲームのとこ。あれがお気に入りみたいだったから、あそこにいると思う」
「おっけ。じゃあ、あいつら呼んでこのメダルを景品と交換してくるけどいいか? これ、もう普通に魔王城の地図と交換できるくらいあるっぽいからさ」

 俺がメダル箱の塔を親指で示してそう言うと、ティナは少しだけ驚いたような表情をした。わずかばかりに開いた口が動き、言葉が漏れる。

「えっ、そうなんだ。すごい勝ってるから美味しいもの食べられるかなーくらいに思ってた……。じゃあ、お願いしようかな」
「おう任せろ」

 するとエリスがスロット台から視線を外して、不敵な笑みを作って俺に声をかけてきた。

「じゃあ私の分を美味しいものに交換するといいわ。今日はパーティーね」
「お前も結構稼いでんなぁ」

 ティナほどじゃないけど、エリスの横にも結構な量のメダル箱が積まれている。
 神の仕業だとしたらゼウスというよりは明らかにソフィア様のそれか。ゼウスが女の子を気に入るには見た目だけじゃなくて髪型や色、そしてスタイルも関係してくるからだ。とまあ、今はそんなことはどうでもいい。

「まあいいや、それじゃまずはティナの分からっと」

 まずは二箱くらい景品交換所に持っていってそれからラッドたちに声をかければいい。
 メダルの交換自体には手伝いが必要な量でもないけど、そこから地図以外の景品も色々と持って帰ることを考えればあいつらもいた方がいいだろ、とそう考えながらメダル箱の一つに手をかけると、その縁にとまっていたフェニックスがティナの肩の上に移動しながら言った。

『すまんな。私も手伝えればいいのだが』
「いいよ、いくら不思議な力があるっていってもこれは持てないだろ」

 それから最初の二箱を交換所に運んでからラッドとロザリアを見付けると、ラッドと二人でさらにメダルを運んでいく。
 メダルを全て運び終わったところで、まだゲームが続いているティナとエリスを置いて、ラッドとロザリアの三人で魔王城の地図を受け取りに交換所へとやってきた。
 景品交換所の、茶髪を後ろで一本に結った元気なお姉さんが俺に地図を両手で丁寧に渡しながら声をあげる。

「おめでとうございます! こちら魔王城の地図でーす!」
「ありがとうございます」

 俺もそれを大袈裟な所作で丁寧に受け取った。

「ご利用ありがとうございました」

 店員さんたちの礼を背中に浴びながら去ると、交換所から少し離れたところで不思議そうな顔をしたロザリアが口を開いた。

「驚くほどすんなりと手に入りましたわねえ」
「ティナがわけわからんくらいに勝ってるからな」
「やはり勇者、何かを持っているんだろうね」
「ポーカーで負けに負けて落ちぶれたラッド様とは大違いですわ」
「遠慮ない物言いの君も素敵だね」

 笑顔で辛辣な言葉を吐くロザリアにも屈せず、軽口を叩くラッド。まあこいつの場合、屈せずというより慣れているだけか。

 スロットコーナーに戻ると、何とまだティナのゲームが続いていた。エリスは四箱ほどを積んだ状態でやめて、身体と椅子を完全にティナの方へと向けて座ってそれを見届けているみたいだ。
 俺が近づくとティナが顔をあげてくれた。その顔にはやや気まずそうな笑みが張り付いている。

「あ、あはは……ごめんね。全然止まらなくって」
「結局負け知らずですごかったけど。もういいじゃない、行きましょ」
「そうしよっか。みんな、待たせてごめんね」

 エリスに促されて立ち上がると、ティナはそう言った。

 セイラとノエルが泊まっている宿に入った俺たちは、早速料理を注文した。
 グランドコーストで仕入れた食材の調理も依頼したりして、心を躍らせながらテーブル席で待機しつつセイラとノエルも合流する。気づけば人数もそこそこに膨れ上がっての豪華なパーティーとなっていた。

 次々に運び込まれてくる料理に舌鼓をうっていると、楽しそうにしながらどこか冷静な様子のエリスが隣に腰かけて話しかけてくる。

「ねえ」
「ふご?」
「食べてるもの飲み込んでから返事しなさいよ……」

 エリスはやや呆れ顔だ。言われた通りに食べているものを飲み込む。

「んぐっ……何だよ」
「あんた、ティナとのことはどうするつもりなの?」

 そういやこいつ、前から俺とティナの仲を気にかけてくれてたな……。別に隠すことでもないし、さっき決めたことを教えておこう。

「おう。それだけどな、これから飯食った後にでも呼び出して、その、き、気持ちを伝えようと思ってんだけど……」

 エリスは少しの間黙ったまま、目をぱちくりとさせた。

「……へえー、意外。あんたのことだからいつまでたっても『好きとか言えるわけねえだろばかやろぉ!』とか言って自分からは動かないのかと思ってたわ」
「俺ってそんなにわかりやすいの?」
「今更何言ってんのよ」

 俺が人間ならもう少し様子を見てから、という選択肢もあったかもしれない。エリスが俺の行動を読み違えたのはそこだろうな。
 ため息をついてから急に真剣な表情になったエリスは、テーブルを賑わす料理たちに視線を落としてから続けた。

「まあそれなら良かったわ。その……手伝えることがあったら言いなさいよね」
「おう、ありがとな」

 エリスが照れてる時ってのはからかってやる絶好の機会なんだけど、今は俺を応援してくれているのが伝わってきたので、感謝の言葉を送りつつ頭をわしゃわしゃと撫でてやった。
 すると、エリスは頬をほんのりと赤く染めたまま、急に不機嫌そうにこちらを睨みつけてきた。

「なっ、なによ……」

 腕を振り払われるかと思ったけど、そんなこともなくエリスはされるがままになっている。こういったエリスは珍しいので逆に何か怖い。
 俺たちのそんなやり取りを発見したティナが声をかけてきた。

「あれ、今日は二人とも一段と仲良しだね。何かあったの?」
「だろ? よくわからんけどエリスがちょっと俺に優しいんだよ」
「うるさい! 仲良しじゃないし優しくもない!」

 顔を真っ赤にしながら放たれた怒りの言葉に、俺とティナは顔を見合わせて一緒に笑い出した。
 ずっとこんな時間が続けばいいのにな、とか思ってしまった。
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