女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

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世界の真実編 後編 突撃!魔王城

魔王軍幹部たち 一

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 不気味で薄暗い石造りの魔王城。その一階と二階の中央を縦断するように走る一筋の大通りには、美麗かつ豪奢な真紅の絨毯が走っていた。
 その上を、無骨な大剣を手に猛然と駆ける影が一つ。
 狙い通りに奥の部屋と仲間二人から注意を逸らし、自身に注意を引きつけることに成功したジンは心中でほくそ笑んでいた。

 もし敵をこちらに集めきることが出来なかったとしても、ムガルが何とかしてくれる。
 ジンは人の気持ちの動きにはやや察しの悪いところがあるが、モンスターのそれとなれば仕事柄ある程度は鋭い部分がある。短時間での触れ合いではあったが、試練の迷宮でムガルの人となりを判断し、信頼するに足るという評価を下していた。

「はやっ! もうあんなところにいるぜ!」

 玉座の間へと繋がる部屋の入り口ではサキュバス三人娘の一人メイが、随分と小さくなったジンの後ろ姿を指差してそんな声をあげる。

「私たちもファリス様みたいに、何か連れてくれば良かったわねえ」
「元々お主らサキュバスは戦闘そのものは得意ではないからのう。まあ、たまに例外もおるようじゃが……」

 腕を組んでシルビアの横に並び、ティノールがそう口にする。そこに分身体たちを引き連れたヌチャピュリョスが前に出て、後ろを振り返りながら言った。

「おい、何をしておる! さっさと追いかけるぞ! このままいいようにやられては幹部としての威厳にかかわる!」
「言われなくてもわかってるっての、ほらお前ら置いていくぞー」

 颯爽と廊下を駆けていくメイ。身体能力が高いのか、その背中はあっという間に小さくなってしまう。

「本当にあの子はいつも元気ねえ」
「何をばあさんみたいなことを言っておるのじゃ。ほれ、さっさといくぞ」

 そんなやり取りを交わしながら二人も走り出すのであった。

 そしてその更に奥、玉座の間へと繋がる部屋の中ではウォードが人間二人にちょっかいをかけようとしている。
 ムガルの足下に横たわる無駄に装飾の施された装備を身に纏う戦士と、ドレスのような服を着た女性ににじり寄りながら、ウォードが兜の下で下卑た笑いを浮かべていそうな雰囲気で言う。

「なあムガル、ちょっとだけでいいから俺にも殴らせてくれよ。最近人間と戦ってないし、ストレスたまってんだよ」
「だ、だめです。これは僕の獲物なので」

 この場を凌ぐための嘘とはいえ、「僕の獲物」などと言う猟奇的な言葉を発することに抵抗がある様子のムガル。
 しかしどうしたことかウォードはそんなムガルの態度に露ほども気付かずに、手と手を合わせて甘えたような声音で懇願する。

「なあ~頼むよ。じゃあ一発だけ! 一発だけでいいから! なっ」

 平時なら頼みごとは基本的に断れない性格のムガルだが、今回はジンからの依頼でもあるため、何がなんでも引くわけにはいかない。ムガルは深呼吸をして意を決すると、これまでしたこともなかったような怒りの形相と声で叫んだ。

「だめです! こいつらは僕が一人でじっくりと痛めつけて、悲鳴を聞きながらなぶり殺しにするんです! 絶対に譲れません!」
「おっ、おお。そうか……あれ、お前ってそんなやつだったっけ」

 ムガルの口からそんな言葉が飛び出るとは予想だにしていなかったのだろう、目に見えて狼狽してしまうウォードである。
 ムコウノ山での戦闘を目撃して実はムガルが自分よりも強いということを知っているだけに、これ以上粘るのはまずいと判断したらしい。ストレスが溜まっているのだと考え、慰めの言葉をかけていく。

「わかったわかった、もうこれ以上は言わないから。なんていうかその、あんまり思いつめるなよ? そのうちいいことあるから、なっ?」
「ガルルルル……」

 返事代わりの唸り声を聞いて更に怖気づき、そのまま逃げるようにチェンバレンに飛び乗った。

「よーしいくぞチェンバレン! はいやぁー!」

 号令と共に駆け出すチェンバレン。が、しかし。

「ごぶっ!」

 入り口の高さが足りておらず通過しきれなかったウォードは、壁に顔面をぶつけて落馬するのであった。

 誰もいなくなった部屋で一人、気絶している人間二人を眺めながらムガルは誰にともなくつぶやいた。

「こちらは何とかなりそうです。ジンさん、後は頑張ってください……!」



 一方、二階の通路をひた走るジンは若干その足を緩めていた。どうにも魔王軍幹部たちの動きが緩慢だからだ。
 今は逃げる為ではなく幹部たちの注意を引きつけつつ、比較的暴れやすい屋上へといざなう為に走っているのであって、彼らがきちんとついて来てくれなければ意味がないと言える。

(くそっ、あいつらやる気あんのかよ)

 心中でそう独り言ちたところで、ちょうど階段から登って来てこちらへと歩くサイクロプス兄弟が視界に入る。どうやら目を覚ましたらしい。

「全く、あのスキルは使う場所を選べと言っていただろう」
「ごめんよ兄ちゃん」

 自身の失敗を恥じてぽりぽりと頭をかいてはいるが、のほほんとしていてあまり反省の色は見えないバルバロス。
 そんな弟の様子に肩をすくめ、しょうがないやつだとばかりにため息をつくダイダロスは前方からこちらに向かって来る何かを発見して弟に声をかけた。

「ん? あれは……さっきの勇者パーティーの一員か?」
「そっか! 人間って小さい代わりに足が速いんだね、兄ちゃん!」
「そういうわけでもないと思うが。む、やはりこちらに向かってくるようだな」

 ダイダロスはゆっくりと棍棒を構えて口上を述べる。

「止まれ人間! ヌチャピュロッ、に怖気づいて一人で逃げてきたといったところか。しかし残念だったな! ここには我らサイクロプス兄弟がいる!」
「わあ、兄ちゃんかっこいい!」

 ヌチャピュリョスの名前を噛んでしまったところは気にならないようだ。兄の晴れ舞台に、バルバロスは目を宝石のように輝かせている。
 対して人間の方は走りながら振り返って何かを確認すると、サイクロプス兄弟の前で足を止めた。
 ダイダロスは口角を吊り上げながら口を開く。

「ほう、逃げ出した割には中々潔いではないか。よかろう、我らサイクロプス兄弟の棍棒の餌食になるがいい!」
「そうだそうだ! 僕の棍棒はもうないけどね!」
「む、そう言えばそうだったな。仕方ない、では我の棍棒をやろう」

 中々に弟想いの兄である。自身の攻撃力が低下することもいとわずに棍棒を差し出すダイダロスだが、バルバロスは急に元気を失くした様子で肩を落として俯き、それを受取ろうとしない。
 どうしたものかと、ダイダロスは弟の顔を覗き込みながら尋ねた。

「どうした弟よ。早く受け取れ」
「ねえ。もしかしてそれ、キャサリンからもらったやつなんじゃないの?」
「なっ……」
「だったらいらないよ。僕、早くキャサリンのことを忘れた」
「『風刃剣』!」

 ジンのこうげき。風刃剣。バルバロスに大きなダメージ。

 傷心の中で彼女への想いを語ろうとして完全に無防備だったバルバロスを、真空の刃が襲う。会話が終わるのを多少なりとも待っていたジンが、しびれを切らして先制攻撃を仕掛けた形だ。
 後方に吹き飛んで動かなくなった弟を一瞥したダイダロスが吼える。

「人間、臆病なだけでなく卑怯とはどうしようもないな!」
「こっちはお前ら全員に追いかけられてんだよ、そんな悠長に会話が終わるのを待ってられるかっての!」
「おのれえっ……よかろう、仲間の増援を待つまでもない! ここで貴様を地獄へと送ってやる!」

 地を蹴り駆け出すダイダロス。その巨体に見合わぬ俊敏な動きは、一般の冒険者ならば対応できる者を探す方が難しい。
 ほぼ同時に駆けだして自身へと向かってくるジンを捉えて、ダイダロスはキャサリンから貰った棍棒を横なぎに振るう。

 ダイダロスのこうげき。ミス! ジンにあてることができない!

 ジンはそれを何でもないことのように前方に跳躍しながら避けると、着地してすぐに相手の懐に潜り込み、大剣を身体の内側に引いた。そして隙の生まれた巨体に斬撃を横なぎに叩き込む。

 ジンのこうげき。雷刃剣! 

「ぐおっ!」

 ダイダロスは後方に吹き飛び、仲良く弟の横に並んで伸びたまま動かなくなってしまった。
 大剣を肩に担いで兄弟を眺めながら、ジンが笑顔でつぶやく。

「キャサリンが誰かは知らねえけど、これからも仲良くしろよ」
「待てこのやろ~!」
「我ら四天王の餌食にしてくれるぞ~!」
「よし、ようやく追いついてきたな」

 ジンは後ろを振り返ってしたり顔になりながら、屋上を目指すべく脇にある細い通路へと入っていく。
 細い通路では号令でもかかったのか、今までどこにいたのかという疑問を感じざるを得ないほどの量の魔物が次々に行く手を阻む。殺さないように、ジンはそれらを素手で蹴散らしたり眠らせたりしながら進んでいった。

 この状況ならば倒してしまってもモンスターテイマーズとしての評価にそこまで傷はつかないだろうが、出来る限りそうしたくはないようだ。
 人情や良心の呵責、ムガルの部下がいるかもしれないと、理由は多岐に渡る。

 そうして巧妙に幹部たちを引き連れて、ジンは遂に屋上へとたどり着いた。
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