女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

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世界の真実編 後編 突撃!魔王城

幹部たちの帰還

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 分身体たちの相手をしつつ何とか隙を見てそちらに目をやると、魔王軍幹部たちがわいわいと部屋に入ってくるところだった。
 緑色の髪をしたメデューサが驚いたような表情で言う。

「何が始まっておるのじゃ……って、勇者パーティーではないか!」
「あらぁ、あれはこの前の。でも、肝心の女勇者がいないわね」
「もう魔王様のとこにいっちまったんじゃねーの?」

 アッチノ山で遭遇したファリスとかいうやつの部下たちもいた。
 くっ、この状況でこいつらまで戦闘に参加されるとさすがにまずい。俺は何とかなるにしてもラッドとロザリアが危険だ。あいつらは今も分身体の相手をするのに必死でこの危機を理解できてないはず。

 奥の方から分身体を生み続けるヌチャが叫ぶ。

「いいところに来たなお前たち! 少しばかり手こずっていたところよ! 全員で協力してこいつらを亡き者にし、魔王様に加勢しようではないか!」
「おう、そうするか~よっこらせっと」
「ヒヒィン」

 恐らくは例のデュラハンが馬に乗って戦闘態勢になったのだろう。

「ふふ、あっちのやつは私に任せてちょうだいな。アッチノ山での借りを返してあげたいから」
「シルビア一人じゃ負けるから私も行くぜ!」
「いやいや俺一人に任せとけって」
「えっと、ぼ、僕は……」

 ムガルもいるのか。そういえばあいつも幹部だって言ってたな。
 そうして今にも幹部たちがこっちに襲いかかる為の準備をしていると。

 轟音。

 幹部たちがいる部屋の入り口を後ろ、魔王の部屋へと繋がる扉を前とするなら、左側から強烈な破砕音がすると同時に震動が空間を揺らした。

「なんだなんだ!? 俺、地震とか苦手なんだけど!」
「ああ、ファリス様が到着したんじゃねーのかな」
「勇者パーティーを倒す為に『嵐竜』を連れて来るとか言ってたわね。魔王様のために頑張るファリス様、可愛いわぁ」
「ということはあやつ、壁を壊してここに入ってくるつもりかの?」
「いやいや、いくらあいつでもそこまで馬鹿じゃないだろ」

 分身体はこの誰もが動揺する状況の中でも変わらずに攻撃を仕掛けてくる。おかげで、俺は未だに周りを充分に見渡す余裕がない。そして。

 轟音。

「うわっ!」
「きゃあっ!」

 俺より壁に近い方にいたラッドとロザリアから悲鳴があがる。
 恐らくは壁が壊れたのだろう。大きな岩の破片が視界の外から飛んできて、いくつかは俺を直撃し、またいくつかは分身体を吹き飛ばしながらまた視界の外へと消えていった。
 いくらか余裕が出来たので、ラッドとロザリアに向かって叫ぶ。

「おい、ラッド、ロザリア! お前らは大丈夫か!?」
「当然じゃないか! ロザリアと一緒ならいつまでも戦っていられるさ!」
「全然だめですわ! 一杯一杯です!」

 何とか生きてくれているだけでもよかった。そう心の中で独り言ちていると、崩壊したらしい壁の方から聞き覚えのある声が届く。
 そちらに視線をやれば、いつかアッチノ山で会ったファリスとかいうやつが全身を翡翠の鱗に包まれた竜に乗って、壁に空けた穴からこちらを窺っていた。

「あら、みんな揃って……えっ、勇者パーティーもいるじゃない! ていうかあいつはこの前の……ふふっ、今こそあの時の借りを返してやるわ! ルドラちゃん、まずは『テンペストブレス』よ!」

 すると「嵐竜」ルドラは、大きく首を持ち上げて息を吸い込んだ。まずい!

「ロザリア、自分に防壁魔法を張れ! 魔法の方だ!」
「えっ!?」

 ロザリアは動揺しながらも何とか指示通りに防壁魔法を展開してくれた。
 一方で、焦ったのは俺だけじゃなかったらしい。デュラハンが馬に支援魔法をかけながらファリスに呼びかける。

「待て待てファリス、俺らもここに居っ」

 その言葉は最後まで紡がれることはない。
 次の瞬間ルドラの口から発生した暴風は、渦を巻いて土埃を巻き起こしながらこちらに迫ってきた。それに成すすべもなく呑まれた瞬間に視界は土と煙に奪われ、身体は凄まじい勢いで後方に吹き飛ばされる。
 気付けば俺たちは魔王軍幹部と一緒になって壁に叩きつけられていた。

「ぐっ!」

 凄まじい衝撃に思わずうめき声が漏れ出てしまう。身体を起こして周囲を確認すると、ラッドとロザリアがすぐ横に転がっていた。
 寝そべったままの状態で二人に声をかける。

「おい、ラッド、ロザリア! 大丈夫か!」
「うぅ……」

 わずかに声が聞こえた。どうやら死んではいないらしい。
 だけど勝機が見えてきたな。悪いけど二人が意識を失ってしまった今ならこの状況をどうにだって出来る。

「チェンバレン! 大丈夫かチェンバレン! ……良かった。よ~しいい子だ。おいファリス、お前俺たちを巻き込むなよ! お前の部下だっているんだぞ!」
「全くじゃな。何を考えておるのじゃ、あの阿呆は」

 幹部たちも身体を起こして愚痴を垂れ流し始める中、俺は「テレパシー」をムガルだけに向けて発動した。

(おい、ムガル聞こえるか?)
(あ、はい。ジンさんこんにちは)

 試練の迷宮で一緒に過ごした時の感じからしてムガルには俺たち、少なくとも俺と戦う意思はないはずだ。
 そんな期待があって、俺はムガルにある頼みごとをすることにした。

(この人間二人、ラッドとロザリアを守って欲しい)
(えっ!?)
(お前の立場上それがまずいのはわかる。でも、そこは何とか「こいつは俺の獲物だから触れるな」的なこと言って誤魔化してくれ)
(出来るかなぁ……)
(お前にしか頼めないんだ)
(わっ、わかりました。僕も部下を助けていただいたことですし……必ず!)

 何とか引き受けてもらえて安心した俺は呼吸を整えて立ち上がる。
 こちらに気付いたデュラハンが剣を抜き、それで俺の方を指し示しながらさっきまでとは違う、厳かな口調で言った。

「クックック……ジンとか言ったか。ツギノ町では世話になったな。ここで会ったが百年目、あの時の借りを今ここで返してきゅれよう」
「無理をするでない。お主は真面目な台詞を口にしようとするとすぐ噛むんじゃからな……あ、わしはメデューサのティノールじゃ、人間よ」

 ティノールと名乗ったやつがデュラハンに並びながらそう言うと、サキュバス二人もその後ろからこちらに顔を覗かせる。

「別にあなたたちに恨みはないのだけれど……これも仕事なのよねぇ」
「そこの人間たちもまとめて倒しとかねーと、後で魔王様に怒られんだよな~」
「ちょっと、私もいるわよ! あんたらだけで始めようとしないでよ!」

 遠くからはファリスの声。幹部たちそれぞれの口上を耳に入れながら、その更に後ろにいるムガルに目配せをした。するとムガルは軽やかな跳躍で一気に俺の背後に回ると、ラッドとロザリアの前で口を開く。

「こ、この二人は僕の獲物なので……くっくっく……えと、その強そうなやつは皆さんにお譲りします」

 そんな無理していかにもな台詞にしなくても良かった気もするけど、ムガルが何とか依頼をこなしてくれた。これで俺は気兼ねなくこいつらと戦える。
 俺は側にあった大剣を拾って、幹部たちの癇にさわるよう、わざと挑発的な声音を作ったつもりで言った。

「さっきから黙って聞いてれば、ほとんどのやつが俺に一撃で倒されたくせに何言ってんだよ。まあいい、ティナが魔王とかいう雑魚を倒すまでの間、暇だから相手してやるよ。全員まとめてかかってこい」
「何だとぉ……? このっ、このっばーか! ほんとばーか! もうほんっとお前……ばーか!」
「ウォードよ、お主それしか言えぬのか」

 呆れた顔でため息をついてからティノールは続ける。

「しかし、言うたな人間よ。わしらとて魔王軍の幹部じゃ……そう簡単にはいかぬやもしれぬぞ?」
「それに、我の存在も忘れたとは言わせんぞ」

 その声に振り返れば、背後には「テンペストブレス」で消滅した分身体を作り直したヌチャが立っている。もちろん存在すら忘れていた。
 俺はそのままの調子で返す。

「そうだな、さすがにこれだけの数に囲まれると俺だってきつい……だから切り札を使わせてもらうぜ?」
「きっ、切り札? こいつの切り札とかまじやばそうじゃん! ちょっと俺もう実家帰るわ!」
「お前動揺しすぎだろ。めちゃめちゃ敵の術中にはまってんじゃねーか」
「それに実家には帰ってきたばかりなのではなかったのかしら?」

 サキュバス二人が何か言うのを聞きながら、俺はスキル名を宣言した。

「『スモーク』」

 敵味方を巻き込んでの目くらましにしか使えない、初級中の初級魔法。もちろんこいつらにこんなものは通用しない。
 ただ一瞬でも驚かせることが出来たら儲けものだと思っただけだ。

「うわーやべーやべー! この煙吸い込んだらすげーダメージ入って死ぬとかじゃねえの!? ティノール助けて~!」
「やかましいわ!」

 ……何だかデュラハンに対して予想外に効果を発揮しているみたいで何よりだ。それはともかくとして「スモーク」を発動した瞬間、俺は部屋の入り口へと全力で走った。

「え、逃げるの!? ちょっと待ちなさいよ!」
「ファリス、お主は城の入り口に回れ! どちらにしろここには入れんじゃろう」

 それは外れだ。なぜなら俺が目指すのは屋上だから。
 ラッドとロザリアの安全を確保するために、今はとにかくこいつらをこの部屋から離す必要がある。ここで戦闘が行われる限り二人を巻き込む危険性が常にあるからだ。特にまた「テンペストブレス」を撃たれたら目も当てられない。
 それに、思う存分にスキルを使うには屋内もなるべくなら避けたい。あまり建物を破壊してティナのいる奥の部屋に影響を及ぼしたくないからだ。
 外ではなく屋上なのは、単純に一階を通ってないので、罠とかの余計なトラブルに巻き込まれることを考慮してのこと。

 俺は頭の中に地図を思い浮かべながら、屋上に向けてひたすらに走った。
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