女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

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英雄たちの選択 中編 天国への回廊

赤髪の少女、戦場に散る

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「はあはあ、くっ……お互い、次が最後の一振りのようだね」

 疲労困憊な様子のラッドが何度目かのそんな宣言をする。

「さっきから君、それを何回も言ってるけど……私はそろそろ本当に限界が来ちゃうかもしれない」

 結局「ふんぬっ」を散々いじり倒されたことで本来の力を全く発揮できなかったミザリーは、ロザリアを倒すことも出来ずジリ貧になっていた。
 ラッド同様に肩で息をしている彼女は内心では負けを悟っていて、心の中に様々な想いが飛来する。

(結局彼氏の名前、覚えられなかったなぁ)

 真面目で頑固者で不愛想で。けれど私にはとっても優しくて「ふんぬっ」も何食わぬ顔で受け止めてくれた、大好きな人。
 道端で会ったら小さな子供が泣いちゃいそうな外見によらず、花が好きなんだって教えてくれたあの日。花畑で花を愛でる姿が似合わなくて思わず笑ってしまった私に、あなたは「その笑顔を見る為に、俺は戦う」って言ってくれた。
 正直何を言っているのかよくわからなかったけど、その不器用さに鼓動が高鳴るのを感じた私は、絶対にこの人の名前を覚えようって決めたっけ。

 なのに今はもう……あの人の名前を、思い出すことが出来ない。

 気付けば、目の前にはラッドの「ほのおのけん」が迫っていた。ミザリーは何をするでもなく静かにそれを見つめている。

 ラッドのこうげき。ミザリーをたおした!

「ああっ!」

 ミザリーは数歩よろめいたあと、仰向けに倒れてしまった。手からは愛用のレイピアが零れ落ち、地面と接触してどこか無機質で悲しい音を立てる。
 ラッドとロザリアが側に寄って見下ろすと何かを言おうと口が動いているのがわかったので、二人はその場に座り込んでそれを聞き取ることにした。

「最後に、お願いがあるの」
「聞こうじゃないか」
「もう戦ったかもしれないけど、もし『疾風』の何とかって人に会ったら、ミザリーは最後まであなたを愛していたと伝えて欲しい」
「必ず伝えよう」

 ラッドは短く首を縦に振ってからそう答える。
 もちろんその疾風何某がジンに一撃で吹き飛ばされて失神していたのは覚えているが、ここでわざわざそれを彼女に告げる気にはならなかった。死を間近に控えた者に残酷な事実を教える必要はないという考えだ。
 返事を確認して安心したのか、ミザリーは最後に柔らかく微笑むと静かに目を閉じて全身から力が抜けてしまった。

「この人、何て名前だったかな」
「確かミザリーさんと仰っていましたわ」
「そうか。ティナの恋敵とはいえ悪いことをしたね」

 ロザリアは悲しそうな表情で首を何度か横に振ると、ラッドの手を取って両手で包み込みながら口を開く。

「いえ、ラッド様は何も悪くありませんわ。悪いのは戦争……ひいてはこの世界や運命といったものだと思います」
「そう、なのかもしれない。だから早くこんな戦いは終わらせるべきだ」

 そしてラッドはジンたちが走っていった側に視線をやりながらつぶやく。

「ジン、ティナ……後は頼んだよ」

 そんなやり取りが交わされた一方で、静かな寝息が聞こえてくる。その主は単に疲労が限界に達しただけで、別に死んだわけではないミザリーであった。

 一方「天国への回廊」、天界側出口にそこそこに近い場所ではジンとティナ、ソフィアが敵をなぎ倒しながら疾走していた。
 最前線に主力であるモンスターテイマーズ隊員のほとんどを配置していたため、防衛線のほぼ最後尾に当たるこの場所には実質的に戦闘要員はいない。にも関わらず命令に忠実な精霊たちは、懸命にジンたちに襲い掛かって来た。

「お前らテイマーズじゃねえだろ、攻撃して来んな! こっちだって反撃しなきゃならなくなるだろうが!」
「お願いします、道を開けてください!」
「皆さん、これ以上戦ってはなりません!」

 降りかかる火の粉を払いながら二人と一柱がそう叫ぶも、何ら結果を変えることは出来ない。忠告虚しく、次々に新たな敵が二人に迫り来る。最初から向こう側の精霊たちがソフィアの言うことに耳を貸さないのは、ゼウスが反逆者だとか敵だとか吹き込んでいるせいなのだろうか。
 ジンは苦虫を噛み潰したような顔で舌打ちを漏らした。

「くそっ!」

 テイマーズなら覚悟を持って戦いに赴いている者であるということと、何度も訓練を重ねた同僚なので心置きなくぶっ飛ばせたジンだが、非戦闘要員ともなればそうはいかない。姿形は違えど、感覚としては女子供と戦うそれに似ていた。
 そして、ティナは戦闘要員かどうかに関わらずなるべくなら戦いたくはない。

 そうして精神的に悪戦苦闘をする二人の前に一人の男が歩み出て来た。

「愚かな反逆者たちよ、そこまでだ!」

 どこかで会ったことのあるような気もするが、名前を思い出せない。だが髪は短くとも戦士然とした風貌や細長の眼には見覚えがあり、ジンは即座にその男が何者なのかを推測する。
 男は胸を張り、大声で高らかに名乗りをあげた。

「ここからは好き勝手にはさせん! 私こそは『爆炎』の」
「『風刃剣』!」
「ぎょろぴー!」

 信じられないほどに間抜けな悲鳴をあげた爆炎の何たらは、真空の刃を受けて後方に吹き飛びそのまま気絶してしまった。
 それを見たティナが、やや後ろからジンを注意する。

「ジン君、さっきからだめだよ。せめて名前くらいは聞いてあげなきゃ」
「戦えないやつらならいいけど、こいつはテイマーズでさっきの副隊長の弟だぞ、油断してたらこっちがやられる」
「そうなんだ……」

 気付けば二人と一柱を囲んでいた精霊たちはじりじりと距離を開けていた。
 この場でただ一人のテイマーズだったところを見るあたり、最後尾を任された指揮官的立場にあったのだろうか。副隊長の弟がやられて、精霊たちは戦意を喪失したようにも見える。

「よし、今のうちに行こう」

 今なら何の問題もなく天界へ向かえるだろうと考えたジンが、ティナとソフィアにそう合図を出して走りだす。だがティナは申し訳なさそうに爆炎の……を見ながら、懐からあるものを取り出した。
 歩いて爆炎何某の側で屈みこむと、それをそっと添えてつぶやく。

「名前も聞かずに倒してごめんなさい。起きたらこれでHPを回復してください」

 そしてジンを追いかけて走り去った。ソフィアもその様子を冷や汗と共に見守ったのちに続く。
 一方でその場に残された精霊たちの間では戦慄が走っていた。原因はもっぱらティナが残していったものにある。

「おい、あれってねむりぐさだろ? 『ねむりぶくろ』を作るのに使う……」
「どういうことだ?」
「そりゃお前決まってんだろ。『てめえはここで一生眠ってろ』っていう勇者からのメッセージだよ」
「可愛い顔して結構えげつないことするんだな」
「ああ、どう考えたって鬼畜の所業だ」

 ティナは、ソフィアのせいでねむりぐさをやくそうの一種だと思い込んでいた。最初こそ疑問に思ったが、ソフィア様もああ言っていることだしちゃんと効果はあるに違いない、と考えて回復アイテムとして所持していたのである。
 当然申し訳なさからせめてもの誠意としてねむりぐさを置いていったのだが、そんな背景を知る由もない精霊たちの瞳にはティナが邪神のように映った。

 鬼畜のティナ、邪神ティナリス……など数々のあだ名が精霊たちの間でついてしまうのは、この事件からそう遠くない未来の話である。

「見えてきましたね! ジン君、ティナちゃん、あともう一息ですよ!」

 ソフィアの声にジンが走りながら先を見やると、通路の終わりに空間の歪があって、そこからは懐かしい風景が見えている。

「久しぶりだな、父さんと母さん、元気に……してるだろうな、間違いなく」
「会っていくの?」
「いや、さすがにそれどころじゃねえだろ」

 苦笑するジンの背後から声をかける者がいた。

「天界が今どうなっているか次第ではそれもありだと思うぞ」
「ですね。というか俺も行ってみたいです」
「お前らついて来てたの!?」

 その正体はキースとエアだ。混戦地帯から抜け出して以来全く声を発していなかった彼らだが、静かにジンとティナから距離を開けてついて来ていたらしい。
 走りながら、ジンがそんな二人に文句をつける。

「いたんなら手伝えよ」
「手伝っていたぞ。そこそこにダンサーズの隊員が配置されていたのでな、そいつらは説得して戦いに参加しないようにしておいた」
「まじか、全然気づかなかった」
「俺はただ単に戦えないだけだ」
「自信満々に言うな」

 実際は少しばかり戦えるのだが、めんどくさいのでそういうことにしておいたエアだった。
 そんなやり取りをしているうちに一行は遂に出口に到達する。

「あっ、ティナちゃんにジン君も、待ってください! それっ!」

 入り口でソフィアが言った「人間は生身では天界に入れないから出口で一旦止まって欲しい」という話をティナはすっかり忘れているようだ。
 後ろから急ぎでソフィアステッキを振り、追放扱いを受けているジンもろとも神聖魔法による支援をティナに施してソフィアは一つ安堵の息を吐くと、他の面々と共に空間の歪をくぐって天界に出た。

 未知の風景に瞳を輝かせながら、ティナがぽつりとつぶやく。

「ここが天界……ジン君の、故郷……」
「そうだ。ここが俺たちの故郷、天界の中央都市……ゼロだ」

 こうして、ジンたちは遂に最終決戦の地へと到達したのであった。
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