女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

文字の大きさ
190 / 207
英雄たちの選択 後編 そして、世界の行く末は

天界の中央都市ゼロ

しおりを挟む
 ゼロは、下界と天界を繋ぐ「ゲート」がある巨大な円形の中央広場を中心として放射線状に通りが伸びていくのが特徴的な天界の中央都市だ。
 その街並みは一見して下界のそれと大差がないようにも思えるが、実際のところは違う。ゼウスが、精霊たちが仕事をしやすいようにと、人間の文化や生活に合わせてそうしているに過ぎない。
 そういった事情もありところどころに下界にはないものが見受けられるため、ティナはそういったものが視界に入る度に感嘆の声をあげていた。

「ねえねえジン君、あれは何のお店なの? お茶はお茶みたいだけど」
「あれは紅茶とかとは別のお茶を専門に扱ってる店だ。そういやゼウス以外の神様が別の世界からここに持ち込んだらしくて、地上には置いてないんだったかな」
「へえ~。あっ、じゃああれは?」
「あれはな……」

 このように天界に入って以来延々と、ゼロの街中を歩きつつティナからの質問にジンが答えるという時間が続いている。
 好奇心旺盛なティナにジンとソフィアがほっこりとする一方で、退屈なこともあって冷静に現在の状況を分析しているのがキースとエアだった。

「おかしいな」
「そうですね。これではいつものゼロと何ら変わりがありません」

 「天国への回廊」での戦闘が嘘のように、ゼロでは襲い掛かって来る者が誰一人としていない。おかげで先ほどのような、ティナののんびり観光タイムへと移行しているのであった。

「あ、ああ」

 エアの応答に少しばかりキースが動揺した様子を見せる。その反応を訝しんだのか、エアはいつもの無表情で尋ねた。

「どうしたのですか?」
「いや、お前が真面目に返すなんて珍しいと思ってな」
「あなたは俺を何だと思っているのですか」
「稀少なモンスターか何かといったところだな」
「それジンと同じこと言ってますよ」
「何だって!? っしゃああああぁぁぁぁ!!!!」

 突然両膝をついて二つの拳を天高く掲げながら叫び出したキースに、ジンたちだけでなく道行く精霊たちからの視線までもが集まる。
 しかしジンとキースの兄弟は互いに別の路線ではあるが有名人なので、二人の姿を目にした者たちは「何だまたキースか」「またジンか」といった言葉をつぶやくと、また日常に戻っていった。
 とはいえジンは何の問題も起こしていないので、今回ばかりは完全に兄の巻き添えをくらった形だ。
 真顔になってから立ち上がってスラックスに付いた土を払うと、キースはもの静かにその言葉を口にする。

「やはり、私とジンは『血』という名の鎖で繋がっている……」
「キース隊長、それは気持ち悪すぎます。繋げているものの例えとして糸とかじゃなくて鎖を使う辺りもちょっと」
「ソフィア様、現在の状況をどう思われますか?」

 エアの言葉が地味に辛かったのか、キースは即座に話題を切り替えた。ソフィアはティナを見ていた時のだらしない表情を引き締めてから答える。

「住民のみなさんは、まるで何事もなかったかのようにのんびりと過ごされていますね。私たちを油断させるためのゼウスの罠なのか、それとも住民のみなさんにはばれないようにしているのか。恐らくは後者でしょうが……」
「どうしてですか?」

 きょとんと首を傾げながらのティナの質問に、ソフィアは綻んでしまいそうになる顔の筋肉を必死に制御しながら応じた。

「あまり多くの人に自分の悪行が知られてしまうと、誤魔化して言うことを聞かせるのが大変だからです。『天国への回廊』でもすでに、『もう人間の方々の前で精霊剣技を使ってもいい』という情報を伝えていないなど、想定されるであろう事態に備えることが出来ていないゼウスの失態が見て取れましたし」

 今まで通りに「人間に自分たちの素性を知られてはならない→精霊剣技を使ってはならない」という制限を課していれば、いざ人間と戦闘をした時に精霊側が不慣れな戦い方を強いられることになる。
 その為あらかじめソフィアがティナたちに精霊の存在を伝えている、という事態を考慮して、ゼウスは状況によっては精霊剣技を使ってもいいという話をしておくべきだったというのがソフィアの考えだ。
 実際には精霊たちはジンに「人間の前で精霊剣技を使ってはだめなんじゃないのか」と動揺しながらも文句をつけるだけだった。これは明らかなゼウスの準備不足であり、普段の老神ならば考えられない失態だと言えるだろう。
 話を聞きながら顎に手を当てて思索を巡らせていた様子のキースが、何かに納得したように一つうなずいてから口を開いた。

「でしたら、創世の神殿に突入するまでは戦闘が起きる可能性は非常に低い、ということですね」
「そういうことになります」

 同様にうなずいて、ソフィアが返事をする。

「でしたら少し寄りたいところがあるのですが、よろしいですか?」
「ええ、構いませんが……一体どこに?」
「それは到着してからのお楽しみということにさせてください」
「お前この状況で何言ってんだよ。さっさとゼウスんちに乗り込むべきだろ」

 顔をしかめながらのジンの苦言にティナは苦笑を浮かべながら諭す。

「いいじゃない。お兄さんも何か考えがあってのことだと思うし」
「まあ、ティナがそう言うなら……」
「ありがとう。だが私はお前のお義兄さんではない」
「ふふっ。それでは行ってみましょうか」

 穏やかに微笑みながらの女神の一言でキースの先導が開始された。

 ソフィア一行は現在、中央広場から南に位置する場所にいる。これは意図してのことではなく、単純に「天国への回廊」から出た際に南側にいたというだけだ。
 ゼロに到着してすぐに後ろを振り返っても何もなかったことから、「天国への回廊」を経由して戻って来た時の場所は無作為に選ばれる、という結論が出た。決まった場所に出るなら「天国への回廊」にもう一度戻る出入り口が残されるだろう。
 そういった理由もあって現在地がゼウスの謀略によるものである可能性も低く、一行はのんびりと街中を歩いていく。

 細い裏路地を出て南大通りへ。この辺りは一般市民の中でも奇抜な趣味をしていない者たちの住居が連なっているといった事情が、一つ一つの建物があまり大きくない、庶民的で親しみやすい風景を生み出している。
 地面からは土埃が舞い、特にティナにとっては故郷のハジメ村やツギノ町といった懐かしの街を想起させる一方で、木や煉瓦、石造りなど材料も造り方もばらばらな家屋たちがのびのびと並んでいる様子は目新しく映っていることだろう。
 南大通りを行き交う精霊たちの数は多く、歩くのにやや不自由な位だが、ミツメの人混みに慣れた彼女にとってはどうということはない。街並みを眺めて楽しむ余裕も存分にあるらしかった。

「ティナ、ちゃんと前を見ないと危ないぞ」
「は~い」

 ジンはそう注意しながら、ミツメに来たばかりの頃もこんなやり取りをしたな、などと感慨にふける。
 思えば随分と遠くまで来たものだ。あの頃はアルミラージを倒せるくらいだったティナも、今は魔王を倒せるまでになった。想いも互いに伝わったことだしアカシックレコードを壊せば幸せな生活が待っているのか……。
 自然と頬の緩むジンの横顔を見ながら、エアが肩をすくめてため息をついた。

 中央広場に差し掛かる。ここの目玉は何と言っても下界と天界を繋ぐ「ゲート」だ、といっても精霊たちには見慣れ過ぎているが。
 特に何かに区切られたわけでもない広場を視覚的に明示しているのは、地面を彩る芝生の絨毯だ。ところどころに樹木や長椅子、噴水なども設置されてさながら大きな公園の様相を呈している。
 ティナがハジメ村を旅立ったあの日にジンの精霊剣技で爆散したそれらも、現在ではゼウスの手によって完全に修復されていた。

 二人の世界に入り浸る恋人たち、人々の笑顔が見たいと芸を披露する芸人、肩から紐をかけて持ち運ぶ板に商品を並べて売り歩く商人。三者三様な精霊たちを見てティナの瞳の輝きはより一層増していく。

「ここがジン君の生まれ育った街かぁ……」

 そう言われると、何だか妙に照れくさい。
 ティナの思わず漏れたつぶやきにジンはどこか気恥ずかしくなり、ソフィアは口の端からよだれをたらしている。エアはいつもの無表情。キースは「そこで俺も生まれ育ったんだぞどうだ参ったか」と言わんばかりに得意げな表情だ。
 そんな中央通りを歩きながら、ジンはぼそっとキースに尋ねる。

「それで、結局どこに行くつもりなんだよ?」
「まだ秘密だ。まあぼちぼちわかるさ」
「何でもったいぶってんだよ……」

 文句を垂れるジンに兄が静かに微笑みを見せたところで、一同は中央広場を東側から出ようとしていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。 ※本作は小説家になろうでも投稿しています。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

処理中です...