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英雄たちの選択 後編 そして、世界の行く末は
ミカエルという天使
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「さっぱりわからねえんだけど」
「天使というのは神に仕えるもの、ということですよ」
「う~ん、ていうかそれ以前にまずおばさんが天使ってのが気持ちわる」
「『ホーリー・アイシクルスピア』」
突如ミカエルの指先から放たれた氷槍が水平に滑空する。ジンはそれを横っ飛びに回避してすぐさま身体を起こし、怒声をあげた。
「さっきからいきなり攻撃すんじゃねえよ!」
「失礼なことばかり口走るからです」
「で、天使は何で神に仕えてるんだ?」
問われ、ミカエルは簡単に天使が神に仕える理由について説明する。
天使の神の卵としての存在意義と、神へ昇格するには時間がかかること。そしてすぐに昇格するにはいずれかの神に仕えて実績を残し、推薦をしてもらうしかないこと。
「だから私はゼウス様に忠誠を誓い、どんなことも必死でやってきました。ある程度はあなたも知っているでしょう」
「ああ、何でこんなジジイの為に一生懸命働いてんだろうなっていつも思ってた」
いつも通りの老神に対する侮辱に触れることはせず、ミカエルは続ける。
「知られざる第四の精霊部隊の存在は知っていますか?」
「何じゃそりゃ」
聞き慣れない単語に、ジンは露骨に眉をひそめた。
「モンスターテイマーズ、ワールドオブザーバーズ、ダンサーズに続く第四の精霊部隊。私はそこの唯一の部隊員兼隊長として、天使ながらにシナリオに関わるような仕事をやっていました」
「名前は?」
「『オペレーターズ』……私はそこの部隊長兼唯一の部隊員、『傲慢』のミカエルとしてゼウス様と魔王との間に入り、連絡係としての役割を果たしていました」
ジンはそれを聞いて、今まで何となく無視をしていたが言われてみれば不自然な出来事を次々に想起した。
魔王軍幹部たちがいつも都合よく自分たちの前に現れていたこと。ティナの顔や名前を初めとして、勇者に関する情報がモンスター側に洩れていたこと。なるほどミカエルがゼウスと魔王の間に居たとなれば説明がつくことばかりだ。
だがどれも所詮は過去の話であるし、正直に言えばどうでもいい、というのがジンの正直な感想だった。
「ほ~ん、それで?」
どこかぼけっとしたような表情で反応をしたジンに、ミカエルが少しばかり呆れたように言う。
「どうしてそんなに興味がなさそうなのですか……一応あなたも被害にあっているのですよ?」
「被害って。ティナの敵になりそうなサキュバスたちは余裕で撃退出来たし、ムガルはそもそも敵にならなかったし。後から聞いた話だけど、幹部たちが一斉にムコウノ山に来た時には知らない内にリッジが追い返してたみたいだしな」
「まあ、そうですね。リッジ隊長に関しては我々も想定外でしたが」
「お前ら何やってんだよ。どうせおやつ絡みなんだろ、リッジは昔っからああなんだし全然予想出来ないなんてこともないと思うけど」
痛いところを突かれたミカエルは「ぐっ」とうめき声をあげてから、半ば強引に話を戻すことにした。
「とにかく。私はゼウス様に神に推薦していただくため、どんな仕事でもこなしてきたということです」
「なるほど。まあわかった」
「といっても、それらも全て今回の事件で水泡に帰すかもしれませんがね」
ジンは肩をすくめてから口を開く。
「だったら俺を黙ってティナのところに行かせてくれよ」
「それとこれとは話が別です。仕事は仕事としてきっちりこなしておけば別の神が私を評価してくださるかもしれませんから」
「ったく、そんなに神になりてえのか」
「当然です。神への昇格が天使の存在意義なのですから」
その言葉にジンは再び大剣を構えてミカエルを睨み据えた。
「どうしても俺とやる気なんだな」
「それがゼウス様の望みへとつながるのならば」
これ以上話しても無駄だと悟り、時間もあまりないことを思い出したジンは地を蹴り駆け出した。ミカエルもまた戦闘の再会と共に翼をはためかせてわずかに砂埃を巻き上げながら空中へと浮かび上がる。
ジンはいきなり立ち止まると、その場で武器を横なぎに払った。
「『爆裂剣』!」
「『ホーリー・ウォール』!」
ミカエルが爆炎に包まれたかと思うと、次第に収まり消えゆくその中から健在な彼女の姿が現れる。
ジンはその様子を見上げながら舌打ちをした。
「物理と魔法どっちにも対応してんのかよ。便利だなおい」
「極大魔法専用魔法ですからね」
「なるほど。俺とは相性が悪いわけだな」
魔王城での会議の際に一応ながらティナがミカエルと、ジンがリッジと戦うという話になっていたのは、当然ながら雑に決定されたわけではない。
ミカエルには足りない戦闘経験を補って余りあるだけのステータスと何より、極大魔法という強力な武器がある。逆に、リッジにはミカエルほどに強力なステータスや極大魔法はないが、豊富な戦闘経験から来る技術がある。
ティナは、最大出力の「ティナスラッシュ」を放てばどんなものであろうと一刀両断出来るが、ジンほどの戦闘技術はない。ジンは、戦闘技術は高いがティナのような一撃必殺の武器はない。ない、とは言ってもこれらは相当に高い次元での話ではあるが。
これらの事実を並べて端的に結論を述べるなら、ジンはリッジと、ティナはミカエルと相性がよく、逆の組み合わせなら相性は最悪ということだ。
ミカエルはジンを見下ろしながら口角をわずかに吊り上げた。
「そういう割には少し楽しそうですね」
「久々に強いやつと戦えるって思ってな!」
笑顔でそう言いながら、ジンは脚に力を込めて勢いよく大地から飛び立った。
「『ホーリー・ウォール!』」
早くも防御態勢をとったミカエルに対し、ジンの猛攻が始まる。
上から下へ。右から左へ。まるで「ガトリングブロー」といった高速連打系のスキルを発動していると錯覚してしまいそうな程の、雨嵐のような斬撃が天使に襲いかかっていった。
ミカエルはこれを防ぎながらも、どこかに違和感を覚えている。
どうしてだろうか。少しずつ「ホーリー・ウォール」という魔法の詳細を知りつつあるのにも関わらず、ジンの行動は戦闘を開始した当初と変わりがない。さすがに通常攻撃の連打が無駄だとわからない彼ではないはずだが……まさか。
違和感の正体に気付いたミカエルは、ジンの滞空時間が終わる頃合いを見計らって後方に飛翔し、近くの屋根の上に降り立った。
ミカエルはお得意の無表情ながら、わずか一滴ほど頬を伝う冷や汗を拭うこともせずに口を開く。
「まさか、あなた……壊す気ですか? 『ホーリー・ウォール』を」
「まさか、とか言われてもな。そうするしかなくね?」
さも当たり前のように言うジンに、ミカエルは呆れたようにため息をついた。
「たしかにそれはそうですが……本当に、あなたという人は昔からめちゃくちゃなことばかりをしますね」
防壁魔法というのは、耐久値分のダメージを肩代わりしてくれる魔法だ。無制限になんでもかんでも防げるというわけではない。
例えばある防壁魔法の耐久値を千としよう。その場合、受けたダメージの合計が千に達すると消失してしまうのであって、千未満のダメージの攻撃を遮断しているのではない、ということだ。
とはいえ、発動しなおせば防壁魔法の耐久値は復活する。だから通常は一つの攻撃につき一枚の防壁で対応することになるので、先述した違いを気にする者はあまりいない。一度だけ防ぐことが出来ればそれでいいのである。
しかしジンが今しようとしているのは、正にそういった話だ。つまりは一枚の防壁魔法を発動しなおされる前に破壊し、そのままミカエルに攻撃を加えようとしているということ。
「あなた、わかっているのですか? 私が扱うものとはいえ、『ホーリー・ウォール』はれっきとした極大魔法なのですよ? 耐久値はあなたたちの防壁魔法とはまるで比べ物になら」
「うるせえ!」
吠えるようにミカエルの言葉を遮ったジンは、再び彼女を目掛けて矢のように飛んで屋根に着地する。
ミカエルは攻撃から逃れようと前を向いたまま後ろに向けて移動するが、意味はない。次の低空飛行のような走行で、ジンは彼女の元に到達した。
屋根の上で、再三に渡る剣と盾による攻防が始まる。
大剣を鋭く振り回しながら、ジンが叫ぶ。
「めちゃくちゃだろうがなんだろうが、他に手段がないならやるしかねえだろ!お前らが邪魔しようとしてるティナとの、みんなとの未来のためにな!」
「っ……!」
ミカエルにもミカエルなりの事情があるとはいえ、幼い頃から知る少年の言葉に彼女は心をうたれた。
戦うことに夢中で、まるでおもちゃを扱うように剣を振り回してばかりいたあの子にも、今やそこまでして欲しいものがあるということか。しかし、冷静に考えれば意外というわけでもない。
あの子が強くなりたいと思った理由は、たしか「強い男はモテるから」だったはず。ゼウス様と一緒になって「そんな単純な話ではない」と説得はしたものの、彼はその忠告をまるで耳に入れることなく鍛錬に励んでいた。
大切な人が出来た今、その人の為に剣を振るうというのはむしろ当然のことのようにすら思える。
思い出に浸っている最中も、少年は必死に諦めることなく攻撃をしかけ続けていた。防御以外の行動を許されない剣筋の檻に囚われながら。ミカエルはこの戦いの中で初めて笑顔と言える笑顔を浮かべた。
「いいでしょう、ジン君。私はあなたの前に立ちはだかる壁です。そこまでして欲しいものがあるというのなら、私を乗り越えて見せなさい!」
「言われなくても、やってやるよ!」
受けて立つと言わんばかりに、無邪気に笑うジン。
だが、言っている側から防壁魔法は塵と化した。
「「!?」」
いやちょっと待って、魔法壊れるの早くないですか? そこは死闘の果てに……みたいなものだと思うのですが。と、内心でミカエルはつぶやく。
とはいえ何が起きたのかわからず、身体の方は両者共に目を見開いたまま固まっている。だが絶好な機会を見逃すはずもなく、先に動いたのはジンだ。
「おらっ!」
「ホーリー・ウォール」を打ち消した勢いのまま、無防備になっているミカエルを大剣で横なぎに払う。
「ぐあっ!」
ミカエルの身体は放物線を描きながら近くの建物の壁にぶつかり、無様に落下していった。
「天使というのは神に仕えるもの、ということですよ」
「う~ん、ていうかそれ以前にまずおばさんが天使ってのが気持ちわる」
「『ホーリー・アイシクルスピア』」
突如ミカエルの指先から放たれた氷槍が水平に滑空する。ジンはそれを横っ飛びに回避してすぐさま身体を起こし、怒声をあげた。
「さっきからいきなり攻撃すんじゃねえよ!」
「失礼なことばかり口走るからです」
「で、天使は何で神に仕えてるんだ?」
問われ、ミカエルは簡単に天使が神に仕える理由について説明する。
天使の神の卵としての存在意義と、神へ昇格するには時間がかかること。そしてすぐに昇格するにはいずれかの神に仕えて実績を残し、推薦をしてもらうしかないこと。
「だから私はゼウス様に忠誠を誓い、どんなことも必死でやってきました。ある程度はあなたも知っているでしょう」
「ああ、何でこんなジジイの為に一生懸命働いてんだろうなっていつも思ってた」
いつも通りの老神に対する侮辱に触れることはせず、ミカエルは続ける。
「知られざる第四の精霊部隊の存在は知っていますか?」
「何じゃそりゃ」
聞き慣れない単語に、ジンは露骨に眉をひそめた。
「モンスターテイマーズ、ワールドオブザーバーズ、ダンサーズに続く第四の精霊部隊。私はそこの唯一の部隊員兼隊長として、天使ながらにシナリオに関わるような仕事をやっていました」
「名前は?」
「『オペレーターズ』……私はそこの部隊長兼唯一の部隊員、『傲慢』のミカエルとしてゼウス様と魔王との間に入り、連絡係としての役割を果たしていました」
ジンはそれを聞いて、今まで何となく無視をしていたが言われてみれば不自然な出来事を次々に想起した。
魔王軍幹部たちがいつも都合よく自分たちの前に現れていたこと。ティナの顔や名前を初めとして、勇者に関する情報がモンスター側に洩れていたこと。なるほどミカエルがゼウスと魔王の間に居たとなれば説明がつくことばかりだ。
だがどれも所詮は過去の話であるし、正直に言えばどうでもいい、というのがジンの正直な感想だった。
「ほ~ん、それで?」
どこかぼけっとしたような表情で反応をしたジンに、ミカエルが少しばかり呆れたように言う。
「どうしてそんなに興味がなさそうなのですか……一応あなたも被害にあっているのですよ?」
「被害って。ティナの敵になりそうなサキュバスたちは余裕で撃退出来たし、ムガルはそもそも敵にならなかったし。後から聞いた話だけど、幹部たちが一斉にムコウノ山に来た時には知らない内にリッジが追い返してたみたいだしな」
「まあ、そうですね。リッジ隊長に関しては我々も想定外でしたが」
「お前ら何やってんだよ。どうせおやつ絡みなんだろ、リッジは昔っからああなんだし全然予想出来ないなんてこともないと思うけど」
痛いところを突かれたミカエルは「ぐっ」とうめき声をあげてから、半ば強引に話を戻すことにした。
「とにかく。私はゼウス様に神に推薦していただくため、どんな仕事でもこなしてきたということです」
「なるほど。まあわかった」
「といっても、それらも全て今回の事件で水泡に帰すかもしれませんがね」
ジンは肩をすくめてから口を開く。
「だったら俺を黙ってティナのところに行かせてくれよ」
「それとこれとは話が別です。仕事は仕事としてきっちりこなしておけば別の神が私を評価してくださるかもしれませんから」
「ったく、そんなに神になりてえのか」
「当然です。神への昇格が天使の存在意義なのですから」
その言葉にジンは再び大剣を構えてミカエルを睨み据えた。
「どうしても俺とやる気なんだな」
「それがゼウス様の望みへとつながるのならば」
これ以上話しても無駄だと悟り、時間もあまりないことを思い出したジンは地を蹴り駆け出した。ミカエルもまた戦闘の再会と共に翼をはためかせてわずかに砂埃を巻き上げながら空中へと浮かび上がる。
ジンはいきなり立ち止まると、その場で武器を横なぎに払った。
「『爆裂剣』!」
「『ホーリー・ウォール』!」
ミカエルが爆炎に包まれたかと思うと、次第に収まり消えゆくその中から健在な彼女の姿が現れる。
ジンはその様子を見上げながら舌打ちをした。
「物理と魔法どっちにも対応してんのかよ。便利だなおい」
「極大魔法専用魔法ですからね」
「なるほど。俺とは相性が悪いわけだな」
魔王城での会議の際に一応ながらティナがミカエルと、ジンがリッジと戦うという話になっていたのは、当然ながら雑に決定されたわけではない。
ミカエルには足りない戦闘経験を補って余りあるだけのステータスと何より、極大魔法という強力な武器がある。逆に、リッジにはミカエルほどに強力なステータスや極大魔法はないが、豊富な戦闘経験から来る技術がある。
ティナは、最大出力の「ティナスラッシュ」を放てばどんなものであろうと一刀両断出来るが、ジンほどの戦闘技術はない。ジンは、戦闘技術は高いがティナのような一撃必殺の武器はない。ない、とは言ってもこれらは相当に高い次元での話ではあるが。
これらの事実を並べて端的に結論を述べるなら、ジンはリッジと、ティナはミカエルと相性がよく、逆の組み合わせなら相性は最悪ということだ。
ミカエルはジンを見下ろしながら口角をわずかに吊り上げた。
「そういう割には少し楽しそうですね」
「久々に強いやつと戦えるって思ってな!」
笑顔でそう言いながら、ジンは脚に力を込めて勢いよく大地から飛び立った。
「『ホーリー・ウォール!』」
早くも防御態勢をとったミカエルに対し、ジンの猛攻が始まる。
上から下へ。右から左へ。まるで「ガトリングブロー」といった高速連打系のスキルを発動していると錯覚してしまいそうな程の、雨嵐のような斬撃が天使に襲いかかっていった。
ミカエルはこれを防ぎながらも、どこかに違和感を覚えている。
どうしてだろうか。少しずつ「ホーリー・ウォール」という魔法の詳細を知りつつあるのにも関わらず、ジンの行動は戦闘を開始した当初と変わりがない。さすがに通常攻撃の連打が無駄だとわからない彼ではないはずだが……まさか。
違和感の正体に気付いたミカエルは、ジンの滞空時間が終わる頃合いを見計らって後方に飛翔し、近くの屋根の上に降り立った。
ミカエルはお得意の無表情ながら、わずか一滴ほど頬を伝う冷や汗を拭うこともせずに口を開く。
「まさか、あなた……壊す気ですか? 『ホーリー・ウォール』を」
「まさか、とか言われてもな。そうするしかなくね?」
さも当たり前のように言うジンに、ミカエルは呆れたようにため息をついた。
「たしかにそれはそうですが……本当に、あなたという人は昔からめちゃくちゃなことばかりをしますね」
防壁魔法というのは、耐久値分のダメージを肩代わりしてくれる魔法だ。無制限になんでもかんでも防げるというわけではない。
例えばある防壁魔法の耐久値を千としよう。その場合、受けたダメージの合計が千に達すると消失してしまうのであって、千未満のダメージの攻撃を遮断しているのではない、ということだ。
とはいえ、発動しなおせば防壁魔法の耐久値は復活する。だから通常は一つの攻撃につき一枚の防壁で対応することになるので、先述した違いを気にする者はあまりいない。一度だけ防ぐことが出来ればそれでいいのである。
しかしジンが今しようとしているのは、正にそういった話だ。つまりは一枚の防壁魔法を発動しなおされる前に破壊し、そのままミカエルに攻撃を加えようとしているということ。
「あなた、わかっているのですか? 私が扱うものとはいえ、『ホーリー・ウォール』はれっきとした極大魔法なのですよ? 耐久値はあなたたちの防壁魔法とはまるで比べ物になら」
「うるせえ!」
吠えるようにミカエルの言葉を遮ったジンは、再び彼女を目掛けて矢のように飛んで屋根に着地する。
ミカエルは攻撃から逃れようと前を向いたまま後ろに向けて移動するが、意味はない。次の低空飛行のような走行で、ジンは彼女の元に到達した。
屋根の上で、再三に渡る剣と盾による攻防が始まる。
大剣を鋭く振り回しながら、ジンが叫ぶ。
「めちゃくちゃだろうがなんだろうが、他に手段がないならやるしかねえだろ!お前らが邪魔しようとしてるティナとの、みんなとの未来のためにな!」
「っ……!」
ミカエルにもミカエルなりの事情があるとはいえ、幼い頃から知る少年の言葉に彼女は心をうたれた。
戦うことに夢中で、まるでおもちゃを扱うように剣を振り回してばかりいたあの子にも、今やそこまでして欲しいものがあるということか。しかし、冷静に考えれば意外というわけでもない。
あの子が強くなりたいと思った理由は、たしか「強い男はモテるから」だったはず。ゼウス様と一緒になって「そんな単純な話ではない」と説得はしたものの、彼はその忠告をまるで耳に入れることなく鍛錬に励んでいた。
大切な人が出来た今、その人の為に剣を振るうというのはむしろ当然のことのようにすら思える。
思い出に浸っている最中も、少年は必死に諦めることなく攻撃をしかけ続けていた。防御以外の行動を許されない剣筋の檻に囚われながら。ミカエルはこの戦いの中で初めて笑顔と言える笑顔を浮かべた。
「いいでしょう、ジン君。私はあなたの前に立ちはだかる壁です。そこまでして欲しいものがあるというのなら、私を乗り越えて見せなさい!」
「言われなくても、やってやるよ!」
受けて立つと言わんばかりに、無邪気に笑うジン。
だが、言っている側から防壁魔法は塵と化した。
「「!?」」
いやちょっと待って、魔法壊れるの早くないですか? そこは死闘の果てに……みたいなものだと思うのですが。と、内心でミカエルはつぶやく。
とはいえ何が起きたのかわからず、身体の方は両者共に目を見開いたまま固まっている。だが絶好な機会を見逃すはずもなく、先に動いたのはジンだ。
「おらっ!」
「ホーリー・ウォール」を打ち消した勢いのまま、無防備になっているミカエルを大剣で横なぎに払う。
「ぐあっ!」
ミカエルの身体は放物線を描きながら近くの建物の壁にぶつかり、無様に落下していった。
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