女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

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英雄たちの選択 後編 そして、世界の行く末は

天使と精霊の輪舞

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「『ホーリー・ウォール』」
「おらっ!」

 空中でぶつかり合う大剣と、極大魔法による障壁。
 ティナとリッジの死闘が白熱している一方で、北地区の別の場所でもまたジンとミカエルの戦いが展開されていた。
 当初戦闘は北大通りにて行われていたが、大中小と並び建つ建物たちを障害物として攻防を繰り広げながら移動したおかげで、現在彼らは北北東方向に走る中規模の通りにいる。
 北地区の路地は閑散としている。普段はこの通りにも人通りがないわけではないが、「またジンが暴れている」という情報が行き交ったおかげでほとんどの住民は巻き添えを恐れ、家にこもって窓を締め切ってしまっていた。

 ジンの連撃のわずかな隙を縫って、ミカエルがせいけんづきのように短剣を持った手で拳を突きながら魔法を発動する。

「『ホーリー・ナックルバスター』」

 拳の先で小規模ながら強烈な爆発が発生した。ジンはとっさに大剣を横にして防御したものの、身体を後方に吹き飛ばされてそのまま着地する。
 ジンは翼をはためかせて宙に浮くミカエルを見上げながら舌打ちを漏らした。

「ちっ、めんどくせえな」

 「ナックルバスター」は近接戦闘用の魔法だ。そこそこの威力を持ってはいるがMP効率が悪いため、余程のことが無い限り使用する者はいない。
 ミカエルはソフィアも言っていた通り、戦闘経験も浅く近接戦闘には全く自信がないのだろう。短剣ではジンの攻撃を捌き切れないと読んだのか、近づかれる度に隙を見ては「ナックルバスター」を発動している。
 通常ならばMP効率が悪く使いどころのないかの魔法でも、極大魔法版になると話は別だ。威力が格段にあがるので、ジンも極力避けるか防御をしようとするし、防御させれば後退も狙える。ミカエルの場合、近接戦闘においては短剣よりも圧倒的に頼りになるというわけだ。
 ジンは大剣を構えながら、わざとらしく語気を荒げる。

「さっきから近づかれては『ナックルバスター』の繰り返しじゃねえか。逃げてばっかで恥ずかしくねえのかよ」
「そんな安い挑発にはのりませんよ?」
「おばさん」
「どうやら死にたいようですね」

 安い挑発にのったミカエルは手のひらをジンに向けた。

「『ホーリー・ライトニングボルト』」

 網膜を刺すほどに眩い稲光がほとばしる。ジンが走ってそれを回避すると、ミカエルはまた一発、また一発と繰り返し同じ魔法を放っていった。
 しかし技術のないミカエルがジンに攻撃を当てることは難しい。地面を疾走して建物の壁へと移り、また地面へ。かと思えば高く跳びあがって屋根の上へ。街中を縦横無尽に走る彼を眺めながら苦々し気につぶやく。

「くっ、本当にすばしっこいですね。めんどくさいのはどちらなのだか」

 そしてジンはまたミカエルに近付くと、屋根を蹴って宙を舞う。空中で大剣を身体の内側に引いて攻撃の態勢に移った。

「『ホーリー・ウォール』」

 再三に渡り展開される物理、魔法を問わない万能かつ強固な障壁。それは極大魔法にしか存在しない、実質的に天使と神専用の魔法だ。
 通常の魔法の場合、相手の攻撃が物理攻撃であるか魔法攻撃であるかを予測して防壁魔法を張る必要があるが、『ホーリー・ウォール』は違う。物理魔法を問わず全ての攻撃を防ぐことの出来る、戦闘初心者にも優しい魔法なのである。
 ジンは大剣をまるで小枝のようにぶんぶんと振り回して連撃を繰り出す。しかし万能の障壁は変わらずに彼と敵との間に立ちはだかり続けた。
 二、三度剣を振ったところでまたも無駄だと悟ったジンは「ナックルバスター」を警戒して早めに地に降り、戦闘態勢を解いて大剣を肩に担ぎながらミカエルに語りかける。

「しっかしおばさんが極大魔法を使えるなんてのは知らなかったな」
「別に隠していたわけではありませんが、天使であるということは聞かれない限り特に話す必要のないことだと思っていましたので」

 ミカエルも着地してからそう答えると、ジンはそこで何かに気付いたように顔をあげて視線を宙に漂わせた。

「あれっでもさ、神と似たような存在で俺らでいう二十歳とかそこいらってことは今二百歳とかってことだろ? おばさんっていうよりかはおばあさ」
「『ホーリー・ライトニングボルト』」
「うおっ」

 脊髄反射による背面跳びでの見事な回避をしたのち、ジンはミカエルを睨みつけながら抗議の声をあげる。
 ちなみに市街地であることも手伝って、彼女はあまり派手な魔法は使用しないことにしているようだ。仮にもゼウスに仕える者として一般市民に迷惑がかかるようなことは極力控えなければならない。既にいくらか建物に被害を出してはいるが。

「なにすんだよ」
「貴方は小さい頃から生意気だとは思っていましたが……よりにもよっておばあさんですって?」
「だって実際そうだろ」
「……っ!」

 ミカエルは奥歯を強く噛みしめ、額には青筋が走る。
 それを見たジンは露骨に背中を見せて走り始め、細い路地に入るためか建物と建物の間にある細い隙間を目指した。

「逃がすものですか! 『ホーリー・テンペスト』!」

 ミカエルの手のひらから小規模の竜巻が発生すると、それは砂ぼこりを巻き上げながらジンを目掛けて急速に伸びていった。しかし、間に合わない。
 もう少しで魔法が命中しようかというところで、ジンは右折して視界から消え失せてしまった。そして『ホーリー・テンペスト』の餌食になった家屋の窓が開いて「何すんだばかやろー!」という怒号があがる。

「くっ、待ちなさい!」

 少し考えればジンの行動が罠っぽいと気づきそうなものだが、戦闘経験も浅く頭に血が上っているミカエルは一般市民に謝罪もしないまま、低空飛行によって一目散に彼の入り込んだ路地を目指してしまう。
 そして案の定、路地に入った瞬間に一つの影が彼女を襲来した。
 「ホーリー・ウォール」が間に合わないと判断したミカエルはたまたま先ほどからずっと手にしていた二本の短剣を構える。

 振り上げ、振り下ろす。いとも大味な動作によって繰り出されたジンの攻撃はしかし、一本一本確実にミカエルの武器を弾き飛ばしていった。そして次に身体の外側に腕を引いて構えると、スキル名を宣言した。

「『雷刃剣』!」
「ぐっ!」

 武器を飛ばされた反動で身動きが取れないのと、ジンの素早い動きについていけないのとで成すすべもなく攻撃をまともにもらったミカエルは、勢いよく後方に吹き飛んでいく。
 かの「炎竜」すらも気絶させるほどのジンの「雷刃剣」だが、イベントモンスターはHPが高い割りに防御力が低い。大してミカエルはHPもそこそこに、何より防御力や魔法防御力が非常に高い為、致命傷にはなり得なかった。
 すぐに体勢を立て直したミカエルは手のひらをジンに向ける。

「『ホーリー・ヘルファイア』!」

 希望も絶望も呑み込んで灰に変える地獄の業火は、ものの見事にジンではなくその周辺の家屋を火刑に処してしまう。消火活動をすべく表に出て来た周辺住民から非難の声があがった。

「窓から見てたぞ! ジンかと思ったらミカエルの仕業じゃねえか! ふざけんなこのやろー!」
「苦情、修繕費の請求はゼウス様にお願いします!」

 上司にさりげなく全ての罪を押し付けつつミカエルが住民から敵へと視線を戻そうとしたが、見当たらない。だが自身の視界がわずかに暗くなったことで、彼女は敵がどこにいるのかを察知出来た。

「上ですか! 『ホーリー・ウォール』!」

 天に向かって万能の障壁が展開されると、それはジンの大剣とぶつかり合って激しい衝撃波を巻き起こす。
 弾かれて後方に着地したジンは舌打ちをしながら、敵に防壁魔法を使用する猶予を与えた自分の行動を反省した。

「ちょっと高く跳びすぎたか……」

 視界の先では、ミカエルが無表情にこちらを見つめている。その双眸からは先刻までの怒りは感じられず、ただ任務を遂行すべく次の行動に思索を巡らせているような、そんな無機質な色を見て取ることが出来た。
 ジンにとってはある意味それも普段通りの彼女だ。また大剣を肩に担いで戦闘態勢を解くと、気になっていたことを尋ねる。

「なあ、おばさんは何でゼウスなんかのとこで働いてんだ?」
「何で、ですか?」

 ミカエルは眼鏡をくいと押し上げながら続ける。

「天使というのはそういうものだから、ですよ」

 その言葉の意図を汲み取ることが出来ず、ジンは眉根を寄せた。
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