女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

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英雄たちの選択 後編 そして、世界の行く末は

地下室へ

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 神々の死闘が開始される少し前。
 ティナを探してミカエルの元を旅立ったジンは、急ぎ足でまず北大通りへと戻ってみたのだが。

「あっ、ジン君」

 まるで朝の挨拶のように、軽く手を振りながら微笑むティナがいた。ジンは一旦立ち止まり、呆けた様子で尋ねる。

「ティナ……もしかして、リッジに勝ったのか?」
「えっ? うん。何とかね」

 遠慮がちに苦笑するティナを見て、ジンは思わずといった感じで吹き出した。
 ティナは突然のことに驚いて戸惑いながら問い掛ける。

「どうしたの?」
「いや、ティナはやっぱすげえなってな」
「?」

 何を言われているのか理解出来ず、首を傾げているティナの先を数歩歩いてから振り返ったジンは、

「それじゃ、行くか!」
「うん!」

 そう言って、創世の神殿へと急ぐのであった。

 遠くからでも視認できるほどの大きさだった神殿ことゼウスんちは、近づく内に更に巨大になっていく。北大通りは騒ぎが一時的に収まったからか、先ほどとは違ってまばらに精霊の歩く姿が見受けられた。
 照りつける太陽のような何かが心地よく、初めて天界に来たティナは、ここに来て浮足立つ気持ちを抑えきれずにいる。
 ティナの少し先を走るジンが振り返って尋ねた。

「大丈夫か?」
「うん、平気。ありがとう」

 ジンはティナのペースに合わせてややゆっくりめに走っている。とはいっても、ティナも今回の冒険のうちに少しばかり足が速くなっていて、ジンもそこまで速度を落としているわけでもなかった。
 道行く精霊の中に「敵」はいないらしく、遮るものもない二人はあっという間に神殿へとたどりつく。

「これが創世の神殿……」

 入り口に近付いたところで、ティナが神殿を見上げながらそうつぶやく。だがゆっくりと観光をしている暇もない。立ち止まることもなく、二人は一気に中へと入っていった。

「……って……」

 と、ちょうど入り口を通過した辺りで、どこからか聞き慣れた声が。

「ん?」

 それに気付いたティナが走りながら一瞬だけ後ろを振り返るも、何もない。

「どうした? ティナ」
「ううん、何でもない」
「みたいものがあったら、終わった後に一緒にみにいこうな」
「うん!」
『イチャイチャ……』

 久しぶりに言葉を発したフェニックスを気に留めることもなく先を急ぐ二人は、騒々しく足音を立てながら神殿内を駆けていった。
 左右に並び立つ巨大な石柱群の間に、豪奢な深紅の絨毯が走る。そんな荘厳な風景がゆっくりと後ろへと飛んでいく。通路全体も広ければ天井も空のように高く、ティナはまるで自分が巨人の住処に迷い込んだような錯覚に囚われた。

「…………」

 一方で、ジンは久方ぶりに訪れる、すでに懐かしいような気がしてくる景色を走りながらただ静かに眺めている。
 ゼウスは一体いつからここであんなことを企んでいたのだろうか。知っていればさっさと装置を破壊してやったものを……とは言ってもまだティナのことを知らなかったし、どちらにしろ自分では壊すことも出来ないか。
 結局自分は何も出来ないという悔しさが心に漂うのを感じながら、ふと後ろを走る大切な人を眺める。その瞳は決意にあふれ、凛とした表情でただただ前だけを見据えて走り続けていた。
 そうだ、もう余計なことを考えるのはやめよう。今は二人の未来の為に、やれることをやろう。
 ジンは前に向き直ると、口を真一文字に結んで疾走する。

 創世の神殿内には、精霊の姿は一つとして見当たらなかった。
 普段この建物内をうろついているのはほとんどが精霊部隊の隊員であるため、天国への回廊での戦闘が行われている現在は出入りする者が自然といなくなる。
 静謐な廊下には二人の硬質な足音だけが響き渡っていて、これから決戦に向かう心を整理するのにはうってつけだった。

 言葉を発することなく真っすぐに目的地へと向かう二人は、やがて大広間に差し掛かる。
 ジンがティナに一目惚れをして飛び出すように下界へと旅立ち、この冒険の幕を開けるきっかけになった思い出の地だ。
 あの時はあいつらも一緒だったな。セイラとノエル、うまくやってるかな。この戦いが終わったら飯でもおごってやるか。

 大広間を通り過ぎると、再び廊下へ。ジンは後ろを振り返った。

「よし、ゼウスの部屋までもうすぐだ!」
「わかった!」

 真剣な表情で。しかしいつも通りの元気なうなずきを見せるティナ。
 ジンの言葉通り、執務室にはあっという間に到着した。二人と一羽で並び立ち、木製の簡素な、されどしっかりとした造りの扉を眺める。

「ここがゼウス様の部屋?」

 ティナの問いに、ジンは首を縦に振った。

「ああ。キースの話だと、この中にアカシックレコードがある地下室へと続く階段みたいなのがあるはずだ」
「よしっ」

 決意を新たにティナが先行して扉を開け、中に入っていく。

「お邪魔します」

 お決まりの文句を誰にともなくつぶやきつつ、部屋の中を一通り見渡す。
 中央にローテーブルと長椅子があって、奥には執務用と思われる長机。そして壁際にはいくらかの本棚が設置されている。一見してどこにでもありそうな、ごく普通の正に執務室といった印象の部屋だ。
 きょろきょろと視線を巡らせながら、ティナが尋ねた。

「たしか本棚の裏って言ってたよね?」
「だな。そんなに多くないし、一つ一つ動かしてみるか」

 そんなジンの提案により、各自散開しての本棚の移動が開始される。

「う~ん……」

 ティナが体重を乗せて懸命に本棚を押しているものの中々動かせない。懸命に力を込めて全身を震わせるさまは小動物を思わせた。

「ふぅ、やっぱり重いなぁ」

 汗を拭う仕草をして一息ついているとジンがやってきて顎に手を当て、何事かを思案してから口を開く。

「よし、壊すか」
「えっ?」

 そう言ってジンはティナの横に並ぶと、本棚を足で蹴飛ばしてしまう。舞い踊る棚からこぼれた本はどれも真面目な本……ばかりではなく、中にはさりげなく低俗なものが混じっていた。
 まるで木を森の中に隠すかのようなゼウスの所業に、ジンが呆れた様子でため息をつく。

「堂々とこんなとこに置くんじゃねえよ、まったく」
「ちょっとジン君、だめだよ乱暴なことしちゃ」

 困り顔のティナに注意をされて、肩をすくめた。

「別にいいじゃねえか、あいつの部屋なんだし」
「ジン君も自分がいない時に誰かが部屋をめちゃくちゃにしてたら嫌でしょ?」
「う~ん、まあ、そうだな」

 嫌っていうかとりあえず犯人をぶっ飛ばすな……と思ったが、ここでそれを言えば余計にティナが怒ると感覚的に悟ったので口には出さなかった。
 とにかく、好きな女の子が目の前で力仕事をしているとどうにも落ち着かない。それをさせてしまっているという事実に、どこか男として間違っているような気分にさせられてしまう。
 そんなジンは、ティナに向けてこんな提案をした。

「じゃあ俺が本棚を動かしていくから、ティナはその後ろに通路とかがないか確認してくれるか?」
「えっ、でも……わかった」

 少しばかり気が引けるが、ジンの気遣いが嬉しいティナは大人しく提案を受け入れることにしたようだ。

「よっと」

 早速、ジンはテーブルや椅子でも動かすような感じで中身のぎっしりと詰まった本棚を移動させていく。

「…………」

 さりげなく今までの冒険においては少なかった、ジンの男の子な部分を感じる場面にティナの鼓動がわずかに高鳴る。正直男の子というかもはや人間や精霊の域をやや超えているものの、そこは気にならないらしい。
 本棚が今まで接していた壁に通路があるかを確認することもせず、ティナは頬をほんのりと赤らめたまま、ぼうっとジンの背中を見つめていた。

「どうだ?」
「えっ! あっ、何もないみたいだよ」

 振り返ったジンに問われたことで我に返ったティナは、胸の前で自分の両手を重ねながら慌ててそう返事をする。

「そうか。じゃ次だな」

 こんな時にばかりティナの気持ちの機微に目のいかないジンは、さっさと次の本棚を目指して歩き出してしまった。

「…………」

 一方で、ティナは気付いてしまう。
 今、狭い空間にジンと二人きりであるという事実に。
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