女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

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英雄たちの選択 後編 そして、世界の行く末は

世界の中心で、君と

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『ティナ、今はイチャイチャしている場合ではないぞ』
「ちょっと、ぴーちゃん!」
「どうした?」
「なっ、何でもない!」

 背後が急に騒がしくなったので振り返ったジンは、そう言って慌てて手を横に振るティナに首を傾げた。
 ティナは顔を赤くしたまま、小声でフェニックスを怒鳴りつける。

「ちょっとぴーちゃん! 何でこういう時だけ冷静なの!?」
『我はいつでも冷静だが』
「うっ、そう言われればそうだけど」

 フェニックスは常日頃からあくまで冷静にティナに関するイチャイチャに反応しているだけだ。彼女が問うべきは、何故今だけイチャイチャに反対したのか、という点だったのだが、動揺していてそこまで気が回らないらしい。
 そんなティナの事情を知る由もなく、ジンは早くも次の本棚のところへと移動して手をかけている。

「よっと。どうだ?」

 振り返ってみると、どうしたことかティナは少し離れたところにいた。というより先程の本棚の前から移動していない。それに、こちらを見る彼女の瞳が何となく熱を帯びているようにも見える。

「お~い」

 再度呼び掛けるも、ティナがその場から動く気配はない。
 まあ、言ってしまえば「本棚の後ろに通路があるかどうかの確認役」などというものは、自分が本棚を動かすためにティナに与えた名義上の役割でしかない。
 だからティナがやらないなら自分で確認すればいいだけなのだが。

「あっ、うん。通路はないみたい」

 ジンの声で我に返った様子のティナは、ようやく言葉を発した。しかしその場から一歩も動いてはいない。

「何でそんな遠くから?」
「すっ、少し離れた方がよく見えることもあるかな~って」
「そういうもんか」

 何かの謎かけかな? と、首を傾げるジン。と同時に、そういえば昔キースが女の子と別れた時に似たようなことを言っていたな……と思い出す。
 緊張して何となく近付けない、などという気持ちをこの場で吐露するのも気が引けるティナはそのまま勢いよく首を縦に振った。

「うんっ、だからジン君は気にしないで!」
「おう」

 よくわからんけど、慌ててるっぽいティナもいいな。その後ろでフェニックスがすごく活力に満ちあふれてるように見えるけど気のせいかな。などと再度首を傾げながら、ジンは次の本棚へと移動していった。

 ティナは焦っている。狭い空間に二人っきりということを意識した瞬間に、ジンと上手く接することが出来なくなってしまったからだ。そして、それどころではないとわかっていても、思考もどんどんそっち方面に向かっていってしまう。
 思えばグランドコースト、そして魔王城での出来事を経てほぼ完全に想いが通じ合ったものの、まだ何も恋人らしいことはしていなかった。
 上手くアカシックレコードを壊してみんなのところに帰れば、また騒がしい日々が始まるだろう。別にそれはそれで好きだからいいのだが、ジンと二人きりになる機会というのは中々に訪れないのかもしれない。
 つまり何か恋人らしいことをしたいのなら、今が絶好のチャンスなのでは。

(最初に気持ちを伝えてくれたのはジン君だったんだから、こういうことは私が頑張らなきゃ!)

 最終目標を前にしてそんなことを決意したティナは、二つの拳を胸の前で力強く握り、真剣な表情になって気合をいれた。当面の標的をアカシックレコードからジンの手へと変更し、ロックオン。背後から気配を消して忍び寄る。
 ジンは今、また新たな本棚に手をかけて移動させているところだ。今なら突然手を握って彼をびっくりさせることが出来るはずだとティナは考える。
 そろりそろりと距離を詰め、もう手を伸ばせば届くところまでやってきた。自分の手が、ジンの手に近付いていく。緊張の一瞬である。かつてないイチャイチャンスにフェニックスがほくそ笑んだ、その時だった。

「よし、今度はどう……うおっ」
「きゃっ」

 突然振り返ったジンに、逆にびっくりさせられてしまう。
 実は棚をずらし終えて普通に振り返っただけなので突然でも何でもないのだが、ジンの手に夢中になっていたティナにはそのように映ったらしい。
 対するジンはいつの間にか急接近してきたティナに驚きつつも、距離の近さに嬉しくとも恥ずかしい気持ちで一杯だ。脈が速くなるのを感じながら、でも今はそれどころじゃないだろと自身を制して口を開く。

「ごっ、ごめんな。それでどうだ?」
「こちらこそごめんね。……あっ」

 顔を赤らめつつもティナが本棚があった場所に視線を向けると、そこには地下へと続く階段のようなものがあった。
 ジンとティナの知る階段というものは木や石で出来ている。それが建物の内部に作られるものである以上、ほぼ全ての建物が木や石で構成されているフォークロアーにおいては当然の話だ。
 だが、目の前にある階段はどうやらそうではないらしい。

「何だこれ」

 ジンが階段の入り口に片膝をついてその表面を指でなぞる。
 見た目や硬さからして明らかに石ではないが、かといって木や土でもない。表面は滑らかでやや弾力性があるにも関わらず、紙や布のように人の力で容易くちぎったりすることは出来ない程度には頑丈そうだ。
 上から膝に手をついて覗き込んでいるティナがぽつりと言った。

「ゼウス様が神聖魔法とかで作った素材なのかな?」
「まあ、そういうことなんだろうな」

 その問いに対する正解はここにはない。ジンは立ち上がって手で手を払いながら笑顔で口を開いた。

「じゃ、行くか」
「うん」

 地下室への具体的な道筋も見えたことで、ティナはよこしまな気持ちを一時的に忘れることにした。ジンの後ろについてゆっくりと階段を下りながら、「しん・ゆうしゃのつるぎ」の柄を取り出す。
 どうやら通路は壁や天井も階段と同じ素材で出来ているらしい。ジンが照明用に指先から灯した魔法によって朧げに照らされたそれらは、何を表現するでもなくただ無機質に光を反射している。
 触れると温かくもなく冷たくもなく、まるで温度を感じられない。この世のものとは思えない不気味な感触に、ティナはわずかに寒気を覚えた。

 わずかに曲がり、ゆるやかな螺旋状となっている階段をしばらく下るとやがて部屋のような空間に出た。
 半球状になっていて、天井のところどころに照明のようなものがある。この照明もまた二人が見たことはなく、ボウルのような形をした穴にガラスで出来た球状のものが埋め込まれていて、それが強く白い光を発していた。
 そして、部屋の中央には巨大な時計台、あるいはホールクロックとでも言えるようなものがそびえたっている。

 入り口から中央へ向けて一歩を踏み出しながら、ティナがつぶやいた。

「これが……アカシック、レコード?」
「だろうな」

 見渡せば、この部屋には時計台以外に何もない。キースやソフィアから話に聞いていた通りだ。
 確信をしたジンはすぐにアカシックレコードを壊そうとはせず、腰に手を当ててそれを見上げながらしみじみと語り出した。

「これで冒険も終わり、だな」

 ティナは横でジンの方を振り向くも、同じように時計台を見上げてつぶやくように、一言一句を噛みしめるように返事をする。

「うん。長いようで、短かったね」
『そうだな……』
「最初は二人だけだった」

 微笑を口元にたたえながら、ティナはゆっくりと首を横に振った。

「ううん」

 そして再び時計台を見上げる。

「私一人だけだったんだよ。そこに、ジン君がついてきてくれたの」
「そうだったな」
「それで、ラッド君やロザリアちゃん、エリスちゃんにソフィア様に。他にも王様とか師匠とか、色んな人と出会って仲良くなって」
「ああ」
「敵だと思ってた魔王さんやモンスターのみんなとも仲良くなって。気付けばこんなところまで来ちゃったね」
「…………」
『…………』

 無視されたあげく自分の名前がないことに衝撃を受けたフェニックスだが、さすがに空気を読んだのかここに来て奇跡的に無言を貫き始めた。何となく、ここで口を開いたらまずいと本能が理解したというところだろうか。
 ティナはジンの方に身体ごと振り向くと、熱を帯びた瞳を潤ませながら、ゆっくりと大切な言葉を紡いでいった。

「ジン君。ずっと私を助けてくれて、支えてくれて本当にありがとう」

 ジンも照れたように頬を赤らめながら。されどしっかりと答える。

「ティナなら俺が助けなくても何とかなったと思うけどな」
「ううん、そんなことない。ジン君がいなかったら辛くて寂しくて、途中で旅をやめちゃってたかもしれないし、それに……」

 そこでティナは懐から世界樹の花を取り出した。

「これがなかったら私、魔王さんに負けちゃってた」
「世界樹の、花……」

 そう言って、ジンも懐から同じ物を取り出す。それを見たティナが、宝物を見つけた子供のようにぱっと瞳を輝かせた。

「ジン君も持っててくれたんだ」
「ああ。何かあった時、ティナから元気をもらえるようにってな」

 ジンがうなずいてそう言ったのを最後に、二人の間には静寂が訪れた。無言のまま何かを伝えるように、想いを味わうように互いを見つめ合う。
 やがて先に「それ」を口にしたのはティナの方だった。

「ジン君。この戦いが終わった後も、ずっと……私と一緒にいてくれますか?」

 ジンはティナの瞳を見つめ、内心緊張はしながらも堂々と胸を張って答える。

「もちろん。こんな俺で良ければ」
「ありがとう。大好き」

 そうつぶやくと、ティナはジンの方へとゆっくりと吸い込まれていく。愛する人の胸に顔を埋めて、瞑目しながら微笑を浮かべた。
 ジンもティナの背中に腕を回して、今この時がどこにも行ってしまわないようにと願うかのように、けれど彼女の驚く程に華奢な身体が壊れてしまわないように、わずかばかりに力を込めて抱きしめる。

「俺も……大好きだよ」
「うん……」

 そっとジンが肘を伸ばしてティナの身体を離すと、二人は瞳の中に映る互いを確認出来そうな距離で再度見つめ合った。そして目を瞑ると、驚くほど簡単に、まるで約束されていたかのように、どちらともなく顔を近付けていく。

 今この時を永遠に刻み付けようと、二人は互いを抱きしめ合ったまま静かに唇を重ねていた。光のない視界の中で、唇から伝わる熱で相手の存在を確かめる行為はどこか神秘的なものすら感じさせる。
 緊張は解けないまま気分は高揚するという不思議な感覚が全身に伝わりきる頃、やがてまたどちらともなく、二人は身体を離した。

 初めてだったが、終わってみるとどうにも照れくさい。もう一度……という気持ちを抑えつつ、顔を赤くした二人はアカシックレコードに向き直る。

「じゃ、じゃあさっさと壊しちまおうぜ!」
「うっ、うん、そうだね!」

 震える手で「しん・ゆうしゃのつるぎ」の柄を取り出して、ティナがアカシックレコードの方を向きながら刃を顕現させ、戦闘態勢を取ったその時だった。



『敵意を感知しました。シナリオ遂行装置アカシックレコード、防衛モードを起動します』



 女性のものではあるが、まるで人間から発されたとは思えないような、感情の全くこもっていない声がどこかから響き渡った。
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