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16 秘密のお茶
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翌々日、喫茶所のテーブルに真剣な顔をしたベテラン8名と向かい合うようにサラ座っていた。
各人の前に厚い本1冊と布袋に入れた素焼きの小さな壜が一つ。
全員が紙と墨壺をテーブルに置いて筆を構えている。
ベテランだけあって、姿勢が正しい。
「皆さんの前にお配りしたのが、今若い子が持ってる本です。開けて下さい。1頁から50頁が今説明した方法ですが、男性に負担を掛けるものが多くなっています。」
皆、真剣に目を通している、少々赤くなりながらも。
「次に、51頁から80頁まで、これは若い子には教えてません。女性側で対処する方法です。お奨めが30-1番、31-5番、38-8番です。すべて町の薬草屋で手に入りますが、季節によって手に入る薬草が若干変わります。飲み薬も書いてありますが、個人差が大きいのとタイミングが難しいのでお奨めできません。塗り薬や張薬の方が良いようです。使い方を良く読んで、練習してから実践することをお勧めします」
皆、真剣に筆記しながら頷いている。
「次の81頁から100頁。これは、今お配りした薬の処方を説明したものです。私の友人が作ったもので」
ここで、頭を乗り出し、周りを警戒する様に小声で話す。
「男性をその気にさせる薬です」
“グビリ”全員が生唾を飲み込む。
大なり小なり、全員がこの手の薬の勉強はしているし試している。
ただ、効果があった事が無い。
「サラさん、惚れ薬ですか」
一人が声を潜めて聞く。
「うーん、その呼称は正確ではありません。良く、一瞬にして相手を惚れさせる薬と称して、興奮剤や発情剤を高価に売りつける薬師が居ますが、あれは詐欺です」
俯く女性数人。
「確かに、強い発情を引き起こす薬草は有りますが、珍しい薬草なので簡単に手に入りませんし、値段が極端に高いんです。この薬草の噂が独り歩きして“惚れ薬”として広まったんですが、これに便乗して普通の薬草で作ったまがい物が流通してるんです。勿論は効果が少ないですよ。しかも、成分から考えれば千倍近い値段で効果の無い薬を売りつけているんです」
悔しそうに唇を噛む女性数人。
「そもそも、本物の“惚れ薬”ですら一過性ですから、結局婚姻に至った事例は統計的に物凄く少ないんですよ、金貨50枚も払って」
サラの顔を穴が開くほど見つめるのは薬事処の女性、薬の専門部署所属の彼女は他の7人よりも多少知識がある。
サラの説明を冷静に聞いていたが、本物の値段を聞いて驚く。
彼女は数年前に起きた、とある貴族の婚姻に関する争いの裁判記録に目を通したことがある。
その中に本物の“惚れ薬”の使用と購入値段の口述があった。
購入値段は金貨53枚なので正解。
「でも、これは違います」
サラが無い胸を張る。
「そもそも原理がそんな稚拙な物とはダンゴ虫と陸王虫です」
ダンゴ虫は小指の先ほどの小さな鎧虫、陸王中とは小山ほどある鎧虫。
「説明書きに書いてありますが、まず最初は、相手のお茶と自分のお茶にこの薬を入れて飲むこと。楊枝の先にちょっとだけですよ。そこで重要なのが相手に直接茶を渡して印象を残すこと。自分も先にお茶を飲むこと。この薬にはちょっとだけ習慣性があります。ええ、もちろん中毒性はありません。直ぐにでも止められます。ただ何となくとても飲みたくなる、その程度です。相手に姿を見せてお茶を飲ませる。そう、条件付けですよ。お茶が飲みたくなる、あなた方を思い出しながら」
サラが一人一人を指差し、全員が生唾を飲み込む。
「そこでここが今回のオリジナル。この薬には女性ホルモンを活発にする成分も入れました。相手にあなた方だけを識別させるために。御茶を渡す、姿を見せる、ホルモンを吸わせる。これを地道に繰り返して、脳裏と本能にあなた方の印象を焼き付けるんです」
サラが邪悪な笑みを浮かべてにやりとする。
全員が息を詰める。
「印象付けが終わったら、個人的に会って、焼き付けを強くして、食事に薬を盛って、酒に混ぜて。で、致すとこまで辿り着いたら、ここからが大事、これからが本番です」
全員、怪訝そうな顔をする。
そこがゴールと思っていた。
「あなた方が飲む量を増やして分泌ホルモン量を増やします。そして、微臭の香水に薬を少し溶かして全身に振りかける。そう、今度はあなた方がお茶の代わりになります。そう、習慣にしちゃう。その時に備えて、この本の前の部分を良く勉強してね。でね、この薬を作ってくれた友人から効果を記録したいって頼まれたの。定期的に話を聞かせて貰えるかしら」
サラが目を輝かせて聞く。
全員が頷く、“作ったのは絶対お前だろう”との突っ込みを我慢しながら。
彼女達の我慢の1週、忍耐の2週が過ぎ、成果が表れ始める。
と同時にサラは誤算を悟っていた。
彼女達の燻ぶった印象が変化したのである。
相手に印象を残す服装をアドバイスしたので、当初はちぐはぐな若造りであったものが、違和感が無くなったのである。
肌艶が良くなり、明るく健康的な印象に変わった。
各効果の検証が難しくなる。
8人も居たのだ、比較群を作って検証すべきだった、拳を握って後悔するサラであった。
もう一つの嬉しい誤算、仕事の連携が妙に改善され、役所全体で仕事がスムーズに進むようになった。
定期打ち合わせと誤解した所長から、特別会議室の使用を許可され、定期報告がお茶付、菓子付の秘密会議になったのである。
彼女達の仕事にも余裕が生じ、せっせとお茶を振る舞う時間が多くなった。
各人の前に厚い本1冊と布袋に入れた素焼きの小さな壜が一つ。
全員が紙と墨壺をテーブルに置いて筆を構えている。
ベテランだけあって、姿勢が正しい。
「皆さんの前にお配りしたのが、今若い子が持ってる本です。開けて下さい。1頁から50頁が今説明した方法ですが、男性に負担を掛けるものが多くなっています。」
皆、真剣に目を通している、少々赤くなりながらも。
「次に、51頁から80頁まで、これは若い子には教えてません。女性側で対処する方法です。お奨めが30-1番、31-5番、38-8番です。すべて町の薬草屋で手に入りますが、季節によって手に入る薬草が若干変わります。飲み薬も書いてありますが、個人差が大きいのとタイミングが難しいのでお奨めできません。塗り薬や張薬の方が良いようです。使い方を良く読んで、練習してから実践することをお勧めします」
皆、真剣に筆記しながら頷いている。
「次の81頁から100頁。これは、今お配りした薬の処方を説明したものです。私の友人が作ったもので」
ここで、頭を乗り出し、周りを警戒する様に小声で話す。
「男性をその気にさせる薬です」
“グビリ”全員が生唾を飲み込む。
大なり小なり、全員がこの手の薬の勉強はしているし試している。
ただ、効果があった事が無い。
「サラさん、惚れ薬ですか」
一人が声を潜めて聞く。
「うーん、その呼称は正確ではありません。良く、一瞬にして相手を惚れさせる薬と称して、興奮剤や発情剤を高価に売りつける薬師が居ますが、あれは詐欺です」
俯く女性数人。
「確かに、強い発情を引き起こす薬草は有りますが、珍しい薬草なので簡単に手に入りませんし、値段が極端に高いんです。この薬草の噂が独り歩きして“惚れ薬”として広まったんですが、これに便乗して普通の薬草で作ったまがい物が流通してるんです。勿論は効果が少ないですよ。しかも、成分から考えれば千倍近い値段で効果の無い薬を売りつけているんです」
悔しそうに唇を噛む女性数人。
「そもそも、本物の“惚れ薬”ですら一過性ですから、結局婚姻に至った事例は統計的に物凄く少ないんですよ、金貨50枚も払って」
サラの顔を穴が開くほど見つめるのは薬事処の女性、薬の専門部署所属の彼女は他の7人よりも多少知識がある。
サラの説明を冷静に聞いていたが、本物の値段を聞いて驚く。
彼女は数年前に起きた、とある貴族の婚姻に関する争いの裁判記録に目を通したことがある。
その中に本物の“惚れ薬”の使用と購入値段の口述があった。
購入値段は金貨53枚なので正解。
「でも、これは違います」
サラが無い胸を張る。
「そもそも原理がそんな稚拙な物とはダンゴ虫と陸王虫です」
ダンゴ虫は小指の先ほどの小さな鎧虫、陸王中とは小山ほどある鎧虫。
「説明書きに書いてありますが、まず最初は、相手のお茶と自分のお茶にこの薬を入れて飲むこと。楊枝の先にちょっとだけですよ。そこで重要なのが相手に直接茶を渡して印象を残すこと。自分も先にお茶を飲むこと。この薬にはちょっとだけ習慣性があります。ええ、もちろん中毒性はありません。直ぐにでも止められます。ただ何となくとても飲みたくなる、その程度です。相手に姿を見せてお茶を飲ませる。そう、条件付けですよ。お茶が飲みたくなる、あなた方を思い出しながら」
サラが一人一人を指差し、全員が生唾を飲み込む。
「そこでここが今回のオリジナル。この薬には女性ホルモンを活発にする成分も入れました。相手にあなた方だけを識別させるために。御茶を渡す、姿を見せる、ホルモンを吸わせる。これを地道に繰り返して、脳裏と本能にあなた方の印象を焼き付けるんです」
サラが邪悪な笑みを浮かべてにやりとする。
全員が息を詰める。
「印象付けが終わったら、個人的に会って、焼き付けを強くして、食事に薬を盛って、酒に混ぜて。で、致すとこまで辿り着いたら、ここからが大事、これからが本番です」
全員、怪訝そうな顔をする。
そこがゴールと思っていた。
「あなた方が飲む量を増やして分泌ホルモン量を増やします。そして、微臭の香水に薬を少し溶かして全身に振りかける。そう、今度はあなた方がお茶の代わりになります。そう、習慣にしちゃう。その時に備えて、この本の前の部分を良く勉強してね。でね、この薬を作ってくれた友人から効果を記録したいって頼まれたの。定期的に話を聞かせて貰えるかしら」
サラが目を輝かせて聞く。
全員が頷く、“作ったのは絶対お前だろう”との突っ込みを我慢しながら。
彼女達の我慢の1週、忍耐の2週が過ぎ、成果が表れ始める。
と同時にサラは誤算を悟っていた。
彼女達の燻ぶった印象が変化したのである。
相手に印象を残す服装をアドバイスしたので、当初はちぐはぐな若造りであったものが、違和感が無くなったのである。
肌艶が良くなり、明るく健康的な印象に変わった。
各効果の検証が難しくなる。
8人も居たのだ、比較群を作って検証すべきだった、拳を握って後悔するサラであった。
もう一つの嬉しい誤算、仕事の連携が妙に改善され、役所全体で仕事がスムーズに進むようになった。
定期打ち合わせと誤解した所長から、特別会議室の使用を許可され、定期報告がお茶付、菓子付の秘密会議になったのである。
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