時の宝珠

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29 魔法国の陰謀

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 土方処の担当が遠間から見ていると、なにやら組合長が一方的に脅されている様に見える。
 事実、こちらに戻って来た組合長の顔色が青く足も心無し震えていた。
 組合事務室で監査を行うが、サラが計算違いを数カ所指摘して終了。
 税額は昨年の1割アップ、担当が目を丸くしている。
 昨年は処長が胃に穴が開くほど頑張ってなんとか現状維持。
 今年は何の反論も無く一割アップして無事監査終了。
 事務室を出ようとすると、サラが動かない。
「私この後組合長さんとお話があるの。あなたも聞いてく。面白い話よ」

 子供らしい表情で笑い掛けられたが、背中に悪寒が走る。
 首を大きく左右に振った。
 そして、監査以上に厳しい取り調べが始まった。

 サラは役所に戻り所長に概略を説明した。
 その帰る足で登用処に向かい、登用処長に詳しく説明した。
 登用処長は役所のNo2であるが、国都から派遣された若いエリートである、
 そして説明する。

「これはね、対処間違うと、所長もあなたも、これよ。本物のこれ」

 サラが首を切る仕草をする。
 処長が黙って頷く、エリートは理解が速い。

「だから、王都で根回しできる人を知りたいの。もちろん外交ができる人よ。来週その男が見に来る予定だから、王都からここまでの移動の3日が勝負よ。だれか知り合い居る」

 処長が席を立って金庫を開ける。
 中から薄い紙を数枚取り出す。
 そして、宰相の家紋の入った小さな封筒も添える。
 サラが眉を片方だけ上げる。

「私のことはどの位報告したの」
「サラさんのことは逐一」
「そう、じゃ話が速いわ」

 筆を持ち上げ、サラが薄紙に小さな文字を書き始める。
 “クルべの末裔サラより宰相殿へ・・・”
 サラからの手紙は隼便で翌朝宰相の元に届く。
 宰相ヤルナスは最初の一文で驚き、読み進めてさらに驚く。
 極秘りに、外交、警備担当を呼び集め、サラの手紙の指示を伝える。
 魔法国の領事館に見張りが付き、警備処が家宅捜査の準備を進める。
 将軍に情報を伝え、軍艦を目的港に向かわせる。

 今日の騒動をカムに話す。
 今日の夕食のパスタシチューを食べながら。
 平原牛の乳とバターを煮て、岡猪のベーコンを刻んで炒める。
 へメル菜の葉を千切り、乳とバターに加え、最後にパスタとベーコンを加える。
 分捕って来た牡蠣も入れようか考えたが、素材の味を楽しもうと考え殻ごとストーブに乗せてある。

「カムだったら如何する」

 来週現れる依頼者の話である。
 サラが今日気付いた理由は筏の縄に結界が張られていたから。
 解り難い結界でそのため術者の素性は解り易かった。
 2週に1回の割合で確認に現れるらしい。

「特殊結界が張れるならそれなりの魔道士かな、軍の小隊長クラスの。だから監視も同行していると思うよ。おれがそいつだったら消され難くするよ、仲間にね。同行者を撒いてからこの国の将校や役人と会って、領事館に立て籠もるとこかな。漏れた情報が解るまで生きてられる。でもサラの話を聞くと頭悪そうだからそいつは直ぐ逃げ出すと思うよ」
「じゃ、親玉は」
「仕掛けの大きさに依るな。小さな仕掛けなら放って置くし、大きな仕掛けなら監視にプロを付けるよ。盗賊を装って殺させて、自分も被害者を装ってゆっくり痕跡を消していくかな。サラが真っ先に狙われるかな。大丈夫かなー、ふ、ふ、ふ・・・」
「まったく、他人事と思って。でも紫斑貝だからねー。かなり危ない橋だと思うよ。この国じゃばれないと思っても」
「小遣い稼ぎなら心配ないよ。魔法国とこの国じゃ勝負にならないから歯牙にも掛けないよ。でも、大掛かりな仕掛けが裏に有ったら警戒が必要だよ。やつら容赦無いし手段も選ばないからね。先制攻撃で潰して置かないとね。籠に手を入れれば噛まれるって解らせないと危ないよ」
「うーん、情報が少ないよね。網の大きさを決めないと危なそうよね」
「うん、明日仕事で駐屯所に行くからキーロに情報を聞いて見るよ、構わないだろ。案外、監視者の方が面白い収穫かも知れないからね」
「いいよ。軍も軍艦動かすし。でも、もし捕まえちゃったらこの国と魔法国じゃ勝負に成らないわよ。交渉なんて成り立つのかしら。脅かされてお終いじゃないの」
「奴らの敵も多いんだ。特に隣国達が魔法国の足を引っ張ろうと躍起になってる、魔法国内の派閥争いに乗じてね。常に監視されているから、そいつを馬車に乗せてカムラ王国の領事館の周りを回れば気づくさ。魔法国の派閥争いは凄まじいから隣国の干渉を恐れてやつら同士で動けなくなる。その隙に情報を集めてカラム王国に情報を売る振りをすれば、魔法国も強く出られないよ。ハムラ王国でも良いけどあそこだと馬車ごと平気で攫われかねないからね。それと、政府の高官に腹痛起こさせて、ふらりと領事館の便所に入らせるってのも有りだよ。喜んで便所貸してくれるよ」
「でも変じゃないの。便所貸せって」
「この大陸は純朴だから解らないけど、普通、中央大陸で便所貸せってのは面白い話が有るって合図なんだよ」
「へー、で、タイミングは」
「そいつが王都を出ると同時がいいな。王都から隼便が飛んでくるからホグの拠点と港の拠点も解る。多分油断してると思うよ。昔から北国の連中は舐められてるから。やるんだったらキーロに言っとくよ」
「うん、面白そうだからやる。宰相に便所へ行かせる」
「宰相か」
「うん、宰相」

 翌日カムがキーロに話をすると聞いたキーロの顔が怒りで赤くなる。
 キーロから情報がもたらされる。
 この数年で北大陸に麻薬が広がっている。
 狩猟民に広がると事態が深刻になるため、各国が協力して拠点を潰している。
 今年の秋の終わりに、大国であるキラタナ国で大量の麻薬が流通前に押収された。
 冬の間は新たな麻薬の製造はできない。
 流通する“ブツ”が減れば組織は自壊するので摘発も容易となる。
 
 各国共に、今年の冬は芋の蔓を引っ張り上げる機会と手ぐすね曳いて待っている。
 情報はもう一つ。
 ホグの町の公事所で最近借金の契約絡みの訴えが数件続いている。
 内容は同じ、契約書の利率が増えているとの訴え。
 契約書の利率の数字は魔法文字で記載されているが異常は無い。
 契約書は転売されたもので、最初に契約した貸金業者も呼び出されている。
 貸金業者も首を傾げている、この利率ならそもそも転売などしないと。
 
 紫斑貝の取り締まりは麻薬材料の取り締まりよりランクが高い。
 関わりのみで死刑とする国も多い。
 理由はこの貝の紫斑から抽出される成分を使って作られる油は魔法文字の写し書きが可能となるためである。
 署名の書き換えは難しいが数字の書き換えは可能。
 商用の契約書で悪用された時期があり、以来取り締まりのランクが上昇した。
 カムは後の情報に注目した。
 魔法の油の作成は詐欺師レベルでは無理であり、国家レベルの思惑が背後に有ると考えられる。
 経済テロによる国の弱体化である。
 麻薬と金による属国化政策が浮かび上がって来る。
 サラの命も危ないと感じ、キーロと綿密な打ち合わせを行う。

「この場所に配置する魔道士が足りんな」

 逃走経路と捕縛場所を書き入れてからキーロが呟く。
 北大陸では魔道士の数が致命的に不足しているがカムに心当たりがある。

「おれが手配します。魔道士の護衛も含めて軍の費用でお願いします」
「了解した。頼む」

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