50 / 56
50 太陽神殿の祭り その8
しおりを挟む式典の進行が止まってしまい、皆から祈られてしまった。
魔法とは別の現象が起きたような気がするので、後でファラ師匠に聞いてみよう。
逃げ出そうと思ったのだが、注目を浴びているので逃げられなかった。
あたふたと周囲を見回していたら、神官さん達に拘束されて、山車ごと神殿へ連れて行かれた。
早く帰って飯を食いたい。
既に空はラーナ様の世界なのに、オーラ神殿から帰して貰えない。
「これはオーラ様からの天啓なのです。聖女様は現世での神代であると光輪を以って今日お示しになりました。聖女様は、北大陸に留まるべきお方ではないのです。我々が訪れた時期に、女神様がこのような奇跡を二度も賜られたのは、盲人に等しき私共に、尊き聖女様がここにいらっしゃること示されたかったのでしょう。これは、私共にまだまだ尽くせとの女神からのお叱りなのですわ」
港から船で出て、ひたすら南下すると中央大陸という陸地に着くそうだ、僕は行ったことが無いので良く知らない。
文化レベルが僕らの大陸よりも高く、中央大陸品というだけで値段が釣り上がり、豪商や貴族にありがたがられている。
帆船なら一月、水切りの魔道具を搭載した高速船なら五日で着くそうだ。
その中央大陸のど真ん中に聖心公国というありがた~い宗教国家があるそうで、複数の神殿の合議で国が運営されており、中央大陸全土に睨みを効かせているそうだ。
その宗教国家の太陽神殿から、毎年聖都の太陽神殿の祭りに併せて視察団が派遣される。
”神殿からお役御免を言い渡された、口煩い頑固爺と頑固婆の物見遊山よ”と王妃様が言っていたが、言葉通り、神官服を着た気難しそうな爺さんと婆さんが目の前に座っている。
神殿長室なのに視察団が場を仕切っており、可哀想に神殿長様と神官長様は部屋の隅で、背凭れの無い粗末な椅子に座らされている。
昨日見掛けなかったのは、文明の低い大陸の王族が披露する芸には一切興味が無いし、芸の奉納自体がカテゴリー的に宗教的式典に含まれないそうだ。
陽を拝む行為は重要な宗教行為なので、今日は参加したそうだ。
「聖女殿」
「は、はい」
僕の前に座っていた、俯いて殆ど何も喋らなかったお爺さんが急に顔を上げて僕を呼んだ。
顔を上げたら僕をじっと見つめていたので、驚いて声が裏返ってしまった。
品の良い、学者風の老神官様だ。
「先日、中央聖文研究所が、オーラ様の式典で捧げる聖句は歌であるとの記述を古代聖文書の解読中に偶然発見しました」
僕は歌と知っていたので当然歌うべきものと思い歌ってしまったが、違っていたらしい。
そう言えば僕が歌い始めたとき、皆凄く驚いていたような気がする。
「古代聖言語学会で発表されましたが、文書自体の出所が明確でないことや、厳かなる聖文を”歌う”という発想自体が不謹慎であるとの儀形原則主義者達からの猛烈な反発もあり、学会は大荒れになりました」
僕は歌が好きだ。
退屈な朗読を聞かされるより、女神様も歌った方が喜ぶと思う。
「古代聖文書の多くは、冒険者が燃料として使う前に研究者が掻き集めたものです。出所が判らなくて当然です」
遺跡から出た本は、古代文字で書かれているため誰も読めないから利用価値がない。
そのくせやたら遺跡で発見されるので、流民街でも格安燃料として重宝している。
「歌うことを不謹慎と思うのは、儀形原則主義者達の根拠のない感情にしか過ぎません。遺跡の祭壇から楽器が出土することは珍しくありませんので反論は十分可能なのです。ですが、大声で威嚇してくるため、発表者を好き好んで援護しようとする者もおりませんでした」
うん、よくあることだ。
父さんと母さんは何時もそうだ。
大声を出さなくても、母さんは十分怖い。
父さんの言い分が正しいと思っても、睨まれただけで負けてしまう。
「結局、発表者は若い女性達の集まりだったのですが、遺跡にも潜る気の荒い者が多く、儀形原則主義者達に掴み掛って殴る蹴るの暴行に及ぶ事態となってしまいました」
うん、頭より身体に言い聞かせるのは、感情を説得させるための常套手段だ。
口の達者な男子生徒が女生徒に懇々と拳で説得されている姿は、学院でも良く見る光景だ。
勝てる相手ではない、儀形原則主義者達は相手を見誤ったのだろう。
「彼女達は今、私が座長を務めて居た縁で、私達の神殿で留め置かれています。他神殿の高位者の娘さんも多く、国から身柄と一緒に処分も私達の神殿に丸投げされて困り果てておりました。お陰様で、彼女達の暴力沙汰を有耶無耶にすることができそうです」
「他神殿から随分と申し入れがあり、国を二分しかねない事態でしたので、神殿長もお困りでした。きっと、お喜びになられるでしょう」
「ええ、神殿長も直接お礼を申し上げたいと思いますから、是非とも我々とのご同行をお願いしたい」
長期間同行すれば、必ず男と判ってしまう。
それは困るので、必死に良い言い訳を考える。
「私にはそんな知識はありません。昨日夢を見て、なんとなくその夢に従っただけですわ。実は、その夢の中で、ラーナの森の遺跡を巡礼している自分の姿も見えたのです。ですから、お誘い頂けるのは非常にありがたいのですが、私にはまだなすべきことが残っています」
「おお!古の聖文書には、聖女様が邪素の源の浄化を担ったとの記録がございます。歴史に埋もれて忘れられてしまった聖儀式の一つと言われておりますが、おそらく女神様は、その役割を聖女様にお望みなのでしょう。これは伝承されるべき歴史的な出来事です。合議会で報告させて頂き、聖者巡礼部隊を組織して随行させましょう」
「そうと決まればぐずぐずして居られませんわ。早急に帰国せねば、ネイサイ、急いで明日の船便の準備をなさい」
「はい、畏まりました」
ネイサイと呼ばれた中年の女神官さんの顔が引き攣っている。
もうだいぶ夜も更けている、間に合うのだろうか。
なんか気の毒だ。
「いいえ、そんな大袈裟な夢ではありません。私一人でちょこちょこっと巡礼の旅をしている夢でしたから御気になさらないで下さい。私一人でちょこちょこっと行ってきます」
思い付きの口からの出任せが雪玉が転げ落ちる様に大きくなっている。
夢なんて見てないし、巡礼なんぞ行く気は毛頭ない。
何とか止めなければ。
「聖女様、この歴史的な偉業を行うにあたり、それはなりません。末代まで語り継がれる我々の恥になります」
「ですが!」
「マロネーゼ、私に任せなさい」
第一王子が援護射撃をしてくれそうだ。
「はい、お兄様」
「失礼いたしました。明日の船便の手配も巡礼団の受け入れ準備も、我が国が責任を持って執り行なわせて頂きます」
「まあ、ありがとうございます」
「助かります。合議会に報告しましょう」
「ありがとうございます」
援護射撃と思っていたのに敵だった。
背後から矢が飛んで来た。
ーーーーー
「聖心公国に逆らったなんて噂が立ったら、この国の周囲の国が一斉に攻めてくるぞ。逆の立場だったら、俺も絶対に同じ事をする。あの国は、それだけ影響力が強い国だ。その国の合議会に具申できる人物が決めたことならば、神の声に等しい。我が国の意思なんぞ、髪の毛一本入る隙間なんてない」
離宮に帰って来れたので、やっと飯が食えると思ったのだが、今度は裏切り者の第一王子に拘束されている。
「ユーリが偽物ってばれたら大事ね。大丈夫なの」
「大丈夫じゃない、たぶん我が国と我が国民は滅びる。だが走り出してしまった以上、後戻りは不可能だ。ユーリ、マロネーゼが戻ったら、歌や聖魔法を死ぬ気で仕込め」
「間に合うかしら、あの子年だし覚えが悪いし」
「駄目だったら、ユーリに責任を取らせる。あそこを切り取って、男と判らないようにしてからマロネーゼとして生きろ。マロネーゼは一生幽閉だ」
「ひー!」
「身から出た錆だ、諦めろ」
「まあ、まあ、何の責任も無いのにマロネーゼが可愛そう。あの子疫病神が憑いているのかしら」
1
あなたにおすすめの小説
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
俺が信長で、幼馴染が吉乃と濃姫!? ~転生幼馴染トリオ、本能寺フラグ回避して戦国スローライフ目指します
月影 流詩亜
ファンタジー
全 60話 完結まで予約済みです。
事故で転生したのは、まさかの織田信長!?
しかも、隣にいたはずの可愛い幼馴染(双子)も、なぜか信長の側室「吉乃」と正室「濃姫」に!
史実の本能寺フラグを回避するため、うつけの仮面の下、三人は秘密の同盟を結ぶ。
現代知識と絆を武器に、戦国スローライフを目指すサバイバル開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる