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Ⅱ 王都にて

14 光平

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翔・・・主人公、高1十五歳
彩音・・主人公の妹、中1十三歳

ミンク・・・冒険者ギルドの事務職員
ケーノス・・・ナラスの商人ギルドの長
ダン・・・ナラスの荷車組合の長

マッフル・・・王都ギルドの幹部
カエデ・・・荷車隊の護衛の一人、王都のEランク冒険者
ケスラ・・・彩音の治療魔法の師匠、王都で治療院を経営している
ケケロ・・・翔と同行してる荷車隊の護衛、Gランクの冒険者
ミリ・・・翔と同行してる荷車隊の護衛、Gランクの冒険者
ミラ・・・翔と同行してる荷車隊の護衛、Gランクの冒険者、ミリの妹
ミユ・・・翔と同行してる荷車隊の護衛、Gランクの冒険者
ユリア・・・翔と同行してる荷車隊の護衛、Gランクの冒険者、貧乳

カルバ隊・・・翔達と並行して蟻の巣探索を行っている隊
シルバ隊・・・翔達と並行して蟻の巣探索を行っている隊
ハロ隊・・・翔達と並行して蟻の巣探索を行っている隊
シリカ隊・・・翔達と並行して蟻の巣探索を行っている隊
ブロム隊・・・翔達と並行して蟻の巣探索を行っている隊

東部下マナ原・・・王都の川向にある東部平原地帯
ナラス・・・東部下マナ原の中心都市
クス・・・東部下マナ原のストロノス大河の河口にある港
ヘス・・・東部下マナ原の港
ジレノミラ王国・・・翔達が飛ばされた国の名前
ストロノス大河・・・ジレノミラ王国東部を流れる大河
ジトロノス大河・・・ジレノミラ王国西部を流れる大河
ミリアノス山脈・・・東部下マナ原北部に聳える山脈
リアノス大森林・・・ミリアノス山脈の裾野に広がる大森林

グロッサ草・・・蟻退治に使用する神経麻痺殺虫剤

1日=24鐘=(24時間)
1鐘=60琴=(60分)
1琴=60鈴=(60秒)

一歩=百爪=(100センチ)
一街=千歩=(1Km)
一狼煙=十街=(10Km)

ーーーーー
(カケル)

俺達は昨日乗って来たユニコーンを放してから、ひたすらリアノス大森林の外周をミリアノス山脈に向かって歩いている。

そして俺達は歩きながらひたすら蟻塚を探している。
蟻塚とは呼んでいるが、それ自体は蟻の住処ではなく、蟻がトンネルを掘った時に出る残土を巣の外に投棄して作った山にである。

俺達が相手にしている蟻の大きさならば、蟻塚は小さい物でも直径三百メートル、高さ百メートルくらいはある。
そして蟻塚の近くには必ず蟻の巣に入るトンネルの入口があり、蟻塚の大きさがそのトンネルの規模、深さ、主脈のトンネルなのか従脈のトンネルなのかを教えてくれるのだ。

俺達は区域を決めて外周を往復しながら少しずつ森の奥へと入って行き、虱潰しに蟻塚を探す予定なのだ。
俺は北側の西部、ミリアノス山脈の裾野部分を担当した。

昇りの勾配が徐々にきつくなり、周囲の木の丈が低くなり、木々が密集した林に変わる。
ほっと息を吐いた、この林の中へ蟻は入れない、山の生き物が細々と暮らす安全地帯だ。

更に昇り続けると、畜光草と呼ばれる、昼の光りを貯めて夜光る、ソーラーライトの様な草が光の絨毯の様に輝く、幻想的な池塘が散在する草原に出た。
光平と呼ばれる有名な場所で、山越えの峠道の幕営地としても利用される。

ここが今日の目的地だ、振り返ると地平が薄らと白み始めたグルアノス海が広がり、ヘスの港が小さく見え、広大なリアノス大森林が一望できる。
あれっ?何か視力が物凄く良くなった様な気がする。
ここから蟻塚の場所が解れば簡単なのだが、蔦に覆われているらしく、天然の小山と見分けが付かない。

野営の準備が終わったころ、再びリアノス大森林を望むと、細い煙が五本、空に向かって伸びていた。
打ち合わせておいた狼煙だ、狼煙の位置を地図に落として、梟に持たせて各隊の位置を確認させるのだ。

最も遠い場所を担当したブロム隊は、森に入ったばかりで、一番近い場所を担当したハロ隊は、だいぶ森の内部に入っている。

梟達が飛んで来た、各隊共に異常無し、順調だ。
ん?梟達がカエデさんの周りを飛び回っている、ごめんよ、次の時間には用意しとくからさ。
地図を持たせて送り返した。
ギルドにも全隊の位置を落とした地図を梟に持たせて送り出した。

飯を食べてからテントに入り、寝る支度をする。
高所なので少し寒い、なんか人肌が恋しい。
カエデさんでもと立ち上がったら、テントの扉布が上がってユリアが入ってきた。
ボーイッシュな魅力のある人で、胸は彩音と良い勝負だ。

「隊長、俺は女だからな、男じゃないからな。尻は駄目だぞ、絶対だぞ」

どうやら今日はユリアが相手をしてくれるらしい。
スマホを取り出す。

「はい、じゃ、ゆっくり服を脱いで」

”カシャ、カシャ、カシャ、カシャ、カシャ、”

日暮れになったら幕営を畳み、東に二キロほど移動して、今度はひたすら林の中を下る。

ーーーーー

「カエデの姐さん」
「何だい、ケケロ」
「今日はユリアが梟に懐かれてますぜ」
「ああ、何か理由が判った気がするよ」
「何をでやんすか」
「昨日梟につつかれた夢みたんだよ」
「へっ?」

ーーーーー
(カケル)

十日目の夜明け、ついにハロ隊から蟻塚発見の第一報が入った。
俺の予想よりも二日早かった、規模はまだ未確認。
字から興奮と緊張が伝わって来る。

俺自信も気持ちがはやったが、大きく深呼吸して、昼の行動は慎んで、夜になるまで野営地を離れず寝て体力を養うようにとの指示を手紙にしたためた。

急いで各隊の梟にも蟻塚発見の報を持たせて、危険な地域が目前に迫っていることを知らせた。
発見が二日早かったのは凶報だ、発見が早かったということは、それだけ蟻達のトンネル工事が順調に進んでいることを示している。

隊員に蟻塚の発見を知らせる、皆に興奮と緊張が伝搬していく。
この十日間の苦労が報われてことになるのだから当然だ。
だが本番はこれからだ。

「今夜から忙しくなる。だから今日は落ち着いた気持ちで十分に休養を取って明日に備えてくれ」

野営の設営を始める。
飯を食った後、ギルドからの返信に目を通す。
向こうも興奮している様だ。

住民の避難は順調に進んでおり、三日後には全員町に受け入れられる予定だという。
逆らう住民が多いことを懸念していたのだが、周囲の生き物の変化を敏感に感じ取って不安感を抱いていたらしい。
間一髪の村もあったようで、村人が忘れ物を取りに戻ったら、蟻の群が村を占拠していたそうだ。

船着き場と港からの人の移動も順調、すべてが上手く回っている。
町に人が増えて賑やかになったとミンクさんが手紙に記してきた。
商売を始める人や、仮住まいで仕事を始める職人さん達も増え始め、冒険者として俺達の仕事に加わる者も多いという。
これは良い誤算だ、手の空いた護衛達はグロッサ草と藁と蔦の採取に回るように次の便で指示を出そう。

扉布が開いて、今日はミラが入って来た。

「隊長、今日は十分に休養とる日って言ってましたよね」
「うん、そーだよ」
「巣が近いですよね」
「うん、そーだよ」
「隊長も休養した方が良いですよね」
「うん、そーだね」
「だから今日はお休みしましょうよ」

俺は音が出るくらい首を左右に強く振った。
それはそれ、これはこれだ、梟君達も楽しみにしてるし。
スマホを取り出す。
画像がだいぶ溜まって来た。
今は見返す暇が無いが、楽しみだ。

「さあ、脱いだ、脱いだ」

”カシャ、カシャ、カシャ”
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