神の鏡・・・兄妹異世界放浪記、妹を嫁にします。

切粉立方体

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Ⅱ 王都にて

32 立合い

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翔・・・主人公、高1十五歳
彩音・・主人公の妹、中1十三歳

マッフル・・・王都冒険者ギルドの幹部
ファネル・・・元公爵の御婆ちゃん、翔の骨董仲間でこの国の実力者
アリア・・・ファネルさんの館のメイド長
ナンノ・・・国軍の騎士団大隊長
ムラーノ・・・公爵の館の守備隊長

キャル(キャロライン)・・・スノートの王族に近い貴族の娘、金髪の妖精の様な超絶美少女
アミ(アルミナス)・・・スノートの王族に近い貴族の娘、銀髪でキャルと同じく妖精の様な超絶美少女。

東部下マナ原・・・王都の川向にある東部平原地帯

ーーーーー
(カケル)

ナンノさんが肩を怒らせて歩く後ろを、俺とファネルさんが付いて行く。
その後ろにアミやキャル達の新米騎士連中、その後ろから野次馬と化した訪問客らがぞろぞろと賑やかに歩いている。

ファネルさんが訪問客全員を大広間に通して挨拶を交わし、その場で俺達の、騎士団大隊長と蟻討伐の指揮者との立ち会いを発表したのだ。
皆大喜びだった、ナンノさんが強いことは勿論有名な話なのだが、無責任な吟遊詩人達のお陰で蟻討伐の指揮者も強いことになっている。
指揮者がどのくらい強いかなんて馬鹿な話題が、時々酒場で盛り上がってたのも知っている。

「カケル、大丈夫なのか。大隊長は強いぞ」
「それにおまえ、鍛錬を怠ってただろう。その腹じゃ」

アミとキャルは誤解、正確には俺に連絡する気がまるで無かったから誤解とも言えないのだが、が解けたようで俺の心配をしてくれている。

「まあ、何とかなるだろう」

確かにこの数ヶ月で太ったが、筋力は衰えていない、筋肉の上に贅肉が乗ったので余計に太って見えるだけだ。
むしろ、アミやキャル達と始めた会った時に比べて遙かに強くなったと思っている。
数ヶ月、森に籠もって蟻と命の遣り取りを繰り返して来たからのだから当然だと思う。
それに俺はこの世界に来てから視力が無茶苦茶良くなっている。

練武場は兵舎前に作られており、小さなグランドくらいの大きさがあり、地面が良く踏み固められていた。

兵士達が得物、もちろん木製で真剣じゃない、を入れた箱を運んで来て俺達の前に置いた。
夜勤に備えて寝ていた兵士達もぞろぞろ出て来て見守っている。
ナンノさんはこの世界の基本スタイル、左手に盾を持って、右手に片手剣を模した木刀を構える。
俺は勿論両手持ちの木刀だ、腕力が着いた分、少し重めの物を選んだ。

「小僧、勘違いするな。両手剣は見栄えと長さで強くなったと勘違いするが、所詮は防御を蔑ろにした邪険に過ぎぬ。思い知らせてやる」

大達長さんは勘違いしてるようだが、直に解るだろう。
審判はムラーノさんが勤める、俺達は練武場の中央に歩み出た。

「両者構えて、魔法の使用は無し、大怪我や続行不可能、勝負有りと俺が判断した時点で俺が止める。遺恨は残さないこと、良いな」
「おう」
「はい」
「なら、始め」

ナンノさんが半歩後ろに下がって身構える、得物の長さの差を生かした奇襲への警戒だろう。
半身に構えて、左手の盾を前に出して、右手の剣を身体の後ろに隠すように引く。
剣の動きと間合いを相手に悟らせない理に適った構えだ。

俺もオーソドックスに青眼に構える、見慣れない構えに野次馬や兵士達からざわめきが漏れる。
ナンノさんも、最初、苦笑しなが打ち込もうとしたが、流石上級者だ、途中でぴたりと動きを止めて飛び退いた。
侮りが消え、冷徹な氷の様な眼差しに変わると、全身からオーラの様な迫力が迫って来た。

剣道は防御を蔑ろにしている訳じゃない、むしろ青眼は防御の構えだ。
剣自体が相手の動きに即応できる目に見えない盾なのだ。
ナンノさんの動きを見極めるため、じっと待ちに徹した。

ナンノさんが動く、左足を深く踏み込んで、頭上から剣がもの凄い勢いで落ちて来た。
勿論剣を受け止めたりはしない、ナンノさんの左足に合わせて回り込み、ナンノさんの木刀が俺の身体ぎりぎりに振り下ろされる瞬間に、俺は木刀をナンノさんの頭に振り下ろす。
器用に身体を捻ったナンノさんに、俺の木刀が盾で受け流され、逆にナンノさんの木刀が跳ね上がって来る。
身体を開いて受け流し、今度はその木刀を追いかけるように俺が木刀を振り上げる。
盾で守られたが、今度はまともに盾が衝撃を受け止めた、一瞬ナンノさんの身体浮いたが、追撃に振り下ろした木刀は、紙一重で避けられて飛び退かれた。

再び正対する、今度は俺から仕掛けた、ナンノさんが動こうとした瞬間に片手突きを入れる。
虚を突かれたようだったが、大きく仰け反って避けられてしまう。
盾で俺の木刀が弾き上げられ、今度はナンノさんの突きが飛んでくる、だが木刀の長さが違うから余裕で避けた。その瞬間、盾の横殴りの攻撃が飛んできた、こっちが本命だったらしい。
木刀でなんとか受け止めた瞬間、ナンノさんの足が動くのが見えた、足を払いに来たらしい、なんとかバランスを崩しながらも、ナンノさんの足を払い返す、燕返しだ。
二人同時に倒れて、さっと飛び起きて身構える。

剣と盾のバランスが凄く上手い、なかなか付け入る隙が見つからない。
その後も互いに技を駆使するのだが決定打にならない、互いの動きを見極めて行く。
そして再び静かに対峙して神経を研ぎ澄ます、たぶん次の攻防で勝負は決するだろう。
気配が膨らんで行き、まさに爆発しようとしたその瞬間。

「はい、そこまで」

のんびりしたファネルさんの声が響いた。
互いに木刀を下ろす、気が付いたら汗だくだった。

「そこまでよ、新年早々死人を出したくないですから」

歩み寄って握手を交わす。

「先ほどの発言は許して欲しい。君の剣は一流だ」

見物人達から拍手が巻き起こった、アミとキャルが飛びついて来た。

「さすがカケルだ。命の義理を誓った相手だけのことはある」
「ああ、我々の目は間違って無かった」

両手に花だがちょっと持て余す。
ナンノさんと一緒に兵舎の風呂を借りて、ファネルさんから夕飯をご馳走になる。
彩音の分も頼んで包んで貰った。

ナンノさん達を見送った後、お茶を飲みながらファネルさんに言われた。

「カケルちゃん、命の義理って凄く重たいのよ」
「でも俺には連れ合いがいます」
「大丈夫よ、貴族になれば奥さんは何人いても良いのよ」
「でも俺は平民ですし」
「ふふふふふ、カケルちゃんは自覚が無いかもしれないけど、あなたって一番爵位に近いのよ。さっき命の義理は凄く重たいって言ったでしょ」
「はい」
「あなたに命を救われた東部下マナ原の人達はね、あなたが謀反を起こしたら直ぐに義勇軍起こしてくれるわよ」
「ははは、謀反なんて大それたこと俺は考えませんから」
「でもね、心配する人は心配するのよ。だから話が有ったら断っちゃだめよ」
「はい、解りました」

家に帰ったら彩音が腹を減らして待っていた。
包んで貰った料理を広げたら大喜びで食っている。
その無邪気で嬉しそうな顔を見ていたら、アミやキャルの手紙の事も、今日会ったことも言い出せなかった。
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