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「議長殿、緊急のお知らせであります」
「審議中であるぞ。審議妨害は重罪との覚悟が有ってのことか」
「御意、神官長殿のご指示であります」
「何!早く見せろ」
「委員諸君、緊急事態により審議は中止とする」
「議長、休止の間違いではないか」
「いや、中止だ」
ネリウス国貴族院議会場、メニーサ国との和議が整ったネリウス国貴族院では、特別審議委員会により従軍貴族等による告発に基づき王族達の罪状認否が行われていた。
罪名は敵前逃亡。
カサノラ、ケルメス両王子とアムネリウス王女が戦場で敵前逃亡を企てたのだ。
アムネリウス王女以外は供回りの者達が取り押さえて身柄を牢に繋いである。
行軍中の敵前逃亡は重罪である、特に指揮官の逃亡となると極刑が適用される。
王族で有っても適用外では無い、王の許可が得られれば同様に扱われる。
さらに王に対する謀反の疑いも提起されている。
王子達の罪状確定の為の取り調べに関しては、王の許可証が既に発行されており、委員立ち会いによる拷問室での供述の強要が速やかに行われる予定となっていた。
取調べはプロの取調官が技を駆使して綿密に行う、立ち会い希望者、特に委員の代理出席の細君方が待ちかねている。
それだけに委員の間からはアムネリウス王女を捕縛し損ねた供回り達の失策を追求する声が強く上がっていた。
”妖精姫”と呼ばれる王女の自白供述立ち会い希望が、圧倒的に多かったのだから当然である。
他国に嫁いだ王女達からは速やかに王権放棄の宣言書が届けられており、未練たっぷりに全会一致で承認されている。
そんな時、数日前に王女の生存が確認されて委員達は狂喜乱舞した。
軍への迅速な捕縛指令及びメニーサ国への捕獲協力要請親書が速やかに立案され、速やかに全会一致で承認された。
そして今日は姫の取り調べに関し、正確性を期するための慎重な時間を掛けた取り調べと、公平を期すための立会い者の大幅増員を真剣に審議していた。
だがそこに突然神殿からの急使が現れ、浮き立った雰囲気が驚愕に変わる。
すべての審議は急遽中止となり、急使は王宮へと向かった。
病床の王に代わって急使の報告を受けた王妃と宰相は真っ青になった。
神殿に安置されている王族の名前を刻んだ真実の水晶板が光り出し、数日前に刻まれた名前が変化したとの報告だった。
数日前に刻まれたアムネリウスの伴侶の名はゴル、単なる平民だった。
宰相の指揮下、早急に特殊魔道部隊を動員して逆探知による魔法発動場所の特定を行った。
険しい峰々が連なるムラニ山脈を越えた場所での発動との判定に驚きが走ったが、犯罪者捕獲許可の親書を携えた特殊魔道部隊がムルナス国に送り出された。
ところがその捕獲対象の伴侶の名前が昨日突然変化したのだ。
新しい名前は見慣れぬ言語、しかもその名前は迷宮神の加護を示す紫色に輝いている。
そして最大の驚きは出身国がこの世界に存在しない国だったのだ。
”転移者”を異世界から招くのは迷宮神、幼児でも知っている常識だ。
”転移者”は勇者とほぼイコールの意味合いで扱われる。
絶対的な魔力と能力を有し、敵に回せば国軍程度は簡単に壊滅すると言われている。
箝口令を敷いたにも関わらず、アムネリウスが”転移者”の助力を得たとの噂が広がり、王妃支持で固まっていた有力貴族や王宮の官僚達に動揺が走った。
結果、政務が滞り、王宮は機能不全に陥っている。
それでもアムネリウスの捕獲に向かった特殊部隊には辛うじて指示が出された。
出された指示は捕獲命令の取り消しと情報収集であった。
ーーーーー
お役所仕事の常でネリウス国から出された犯罪者捕獲許可の親書はムルナス国関係部局で盥回しにされていた。
人道的な観点からの亡命者保護、大国であるメニーサ国との間での余計な摩擦の回避、軍事侵攻の口実である可能性の有無等有力者の間で意見が分かれ、積極的に担当する部署が無かったのである。
そんな状況をムルナス国宰相ケンロットは敢えて傍観して回答を引き延ばしていた。
自国が先に身柄を確保できれば外交カードになると考えていたのである。
だがネリウス帝国から取り下げの依頼文が送付され、探っていた密偵から驚くべき情報が報告された。
急遽神殿に使者を送り、密かに捜査の協力を依頼した。
そして現在進めている王女達の全ての婚姻計画の停止を王に進言するために、王の執務室へと急いだ。
ーーーーー
メニーサ国宰相リトノタスは特殊魔道部隊長を執務室に呼び出し派遣部隊の再編を指示していた。
当初は事後承諾を前提とした多少強引な捕獲を想定し、十日程度の作戦期間を設定していた。
ところが先遣隊が魔法の発信場所に急行して後を追ったが痕跡が突然途絶えてしまったのだ。
急いで逃亡先をケロニサロンと予想して、主要な街道に網を張っているが現在までのところ発見の報は届いていない。
それに加えて昨日ネリウス国の守護者神殿に潜ませた間者から予想外の報告が有ったのだ。
神殿に安置してある真実の水晶板が突然もの凄い紫色の光を放ち、アムネリウスの伴侶を書き換えたと言う報告だった。
神殿はパニックになったと報告者は記している、大地の芳醇を司る女神の神殿内で迷宮神が力を行使したのだから当然だ。
その力は強く、神殿全体が共鳴したと報告されている。
リトノタスはアムネリウスの伴侶が”転移者”である確度は高いと考えている。
報告者からは”転移者”は二十歳前後で、アムネリウスと絆を渡す魔法が執行された可能性が高いとの判定結果が付記されていた。
絆が強くなる前に対抗魔法で鎖を付け替えなければならない。
幸いなことにメニーサ国には呪い系の刻印魔法が得意な王女がいる。
少々変わった性癖で王宮内では持て余していた。
ムルナス国へ長期滞在させれば悩みの種が一つ減って一石二鳥だろう。
被害者の一人であるリトノタスは頬が緩むのを押さえられなかった。
「審議中であるぞ。審議妨害は重罪との覚悟が有ってのことか」
「御意、神官長殿のご指示であります」
「何!早く見せろ」
「委員諸君、緊急事態により審議は中止とする」
「議長、休止の間違いではないか」
「いや、中止だ」
ネリウス国貴族院議会場、メニーサ国との和議が整ったネリウス国貴族院では、特別審議委員会により従軍貴族等による告発に基づき王族達の罪状認否が行われていた。
罪名は敵前逃亡。
カサノラ、ケルメス両王子とアムネリウス王女が戦場で敵前逃亡を企てたのだ。
アムネリウス王女以外は供回りの者達が取り押さえて身柄を牢に繋いである。
行軍中の敵前逃亡は重罪である、特に指揮官の逃亡となると極刑が適用される。
王族で有っても適用外では無い、王の許可が得られれば同様に扱われる。
さらに王に対する謀反の疑いも提起されている。
王子達の罪状確定の為の取り調べに関しては、王の許可証が既に発行されており、委員立ち会いによる拷問室での供述の強要が速やかに行われる予定となっていた。
取調べはプロの取調官が技を駆使して綿密に行う、立ち会い希望者、特に委員の代理出席の細君方が待ちかねている。
それだけに委員の間からはアムネリウス王女を捕縛し損ねた供回り達の失策を追求する声が強く上がっていた。
”妖精姫”と呼ばれる王女の自白供述立ち会い希望が、圧倒的に多かったのだから当然である。
他国に嫁いだ王女達からは速やかに王権放棄の宣言書が届けられており、未練たっぷりに全会一致で承認されている。
そんな時、数日前に王女の生存が確認されて委員達は狂喜乱舞した。
軍への迅速な捕縛指令及びメニーサ国への捕獲協力要請親書が速やかに立案され、速やかに全会一致で承認された。
そして今日は姫の取り調べに関し、正確性を期するための慎重な時間を掛けた取り調べと、公平を期すための立会い者の大幅増員を真剣に審議していた。
だがそこに突然神殿からの急使が現れ、浮き立った雰囲気が驚愕に変わる。
すべての審議は急遽中止となり、急使は王宮へと向かった。
病床の王に代わって急使の報告を受けた王妃と宰相は真っ青になった。
神殿に安置されている王族の名前を刻んだ真実の水晶板が光り出し、数日前に刻まれた名前が変化したとの報告だった。
数日前に刻まれたアムネリウスの伴侶の名はゴル、単なる平民だった。
宰相の指揮下、早急に特殊魔道部隊を動員して逆探知による魔法発動場所の特定を行った。
険しい峰々が連なるムラニ山脈を越えた場所での発動との判定に驚きが走ったが、犯罪者捕獲許可の親書を携えた特殊魔道部隊がムルナス国に送り出された。
ところがその捕獲対象の伴侶の名前が昨日突然変化したのだ。
新しい名前は見慣れぬ言語、しかもその名前は迷宮神の加護を示す紫色に輝いている。
そして最大の驚きは出身国がこの世界に存在しない国だったのだ。
”転移者”を異世界から招くのは迷宮神、幼児でも知っている常識だ。
”転移者”は勇者とほぼイコールの意味合いで扱われる。
絶対的な魔力と能力を有し、敵に回せば国軍程度は簡単に壊滅すると言われている。
箝口令を敷いたにも関わらず、アムネリウスが”転移者”の助力を得たとの噂が広がり、王妃支持で固まっていた有力貴族や王宮の官僚達に動揺が走った。
結果、政務が滞り、王宮は機能不全に陥っている。
それでもアムネリウスの捕獲に向かった特殊部隊には辛うじて指示が出された。
出された指示は捕獲命令の取り消しと情報収集であった。
ーーーーー
お役所仕事の常でネリウス国から出された犯罪者捕獲許可の親書はムルナス国関係部局で盥回しにされていた。
人道的な観点からの亡命者保護、大国であるメニーサ国との間での余計な摩擦の回避、軍事侵攻の口実である可能性の有無等有力者の間で意見が分かれ、積極的に担当する部署が無かったのである。
そんな状況をムルナス国宰相ケンロットは敢えて傍観して回答を引き延ばしていた。
自国が先に身柄を確保できれば外交カードになると考えていたのである。
だがネリウス帝国から取り下げの依頼文が送付され、探っていた密偵から驚くべき情報が報告された。
急遽神殿に使者を送り、密かに捜査の協力を依頼した。
そして現在進めている王女達の全ての婚姻計画の停止を王に進言するために、王の執務室へと急いだ。
ーーーーー
メニーサ国宰相リトノタスは特殊魔道部隊長を執務室に呼び出し派遣部隊の再編を指示していた。
当初は事後承諾を前提とした多少強引な捕獲を想定し、十日程度の作戦期間を設定していた。
ところが先遣隊が魔法の発信場所に急行して後を追ったが痕跡が突然途絶えてしまったのだ。
急いで逃亡先をケロニサロンと予想して、主要な街道に網を張っているが現在までのところ発見の報は届いていない。
それに加えて昨日ネリウス国の守護者神殿に潜ませた間者から予想外の報告が有ったのだ。
神殿に安置してある真実の水晶板が突然もの凄い紫色の光を放ち、アムネリウスの伴侶を書き換えたと言う報告だった。
神殿はパニックになったと報告者は記している、大地の芳醇を司る女神の神殿内で迷宮神が力を行使したのだから当然だ。
その力は強く、神殿全体が共鳴したと報告されている。
リトノタスはアムネリウスの伴侶が”転移者”である確度は高いと考えている。
報告者からは”転移者”は二十歳前後で、アムネリウスと絆を渡す魔法が執行された可能性が高いとの判定結果が付記されていた。
絆が強くなる前に対抗魔法で鎖を付け替えなければならない。
幸いなことにメニーサ国には呪い系の刻印魔法が得意な王女がいる。
少々変わった性癖で王宮内では持て余していた。
ムルナス国へ長期滞在させれば悩みの種が一つ減って一石二鳥だろう。
被害者の一人であるリトノタスは頬が緩むのを押さえられなかった。
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