負け犬REVOLUTION 【S】

葦空 翼

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第一章 希望と欲望の街、シャングリラ 前編

第05話02 忙しい1日〜サイモンの場合〜

「おかみさん、ご馳走さまでした。俺たちもう行きます」
「アラモウ?本当ニ急イデルノネ」
「すみません。何せ今夜も忙しいので」

 立ち上がり苦笑する。
 するとグリルパルツァー亭の女性二人がにんまり笑った。

「「勝ち抜き戦!」」

「はい!」

 サイモンが立ったのを見て、ビッグケットも立ち上がる。
 しっかり闘技場から持ち帰った黒いストールを肩に羽織り
 (幸い血はついていなかった)、
 寝間着と言っていた白いワンピースの裾を翻す。

 その姿は昨日大暴れした凶気の獣人とは思えぬ清楚さだった。

『サイモン、行くんだろ?
 おかみさんに飯美味かったって伝えてくれ』

 黒髪を揺らし、片方だけの金の瞳を細めて笑う。
 これで礼儀知らずというわけでもない。
 会話についてこれずとも、
 きちんと礼をしたいと言った彼女は良い人間に思えた。

「ああ。おかみさん、ビッグケットが飯美味かったですって」
「アラアリガトウ。マタイツデモゴ飯食ベニ来テネ」
「はい、また」

 そして二人は連れ立ってレストランを後にした。
 急いで支度をして出かけよう。今日は忙しい一日になる!








 オークの亭主にも挨拶を済ませ、いざ出発。
 まずは銀行で小切手を出し、本人証明と手続きを済ませてお金を下ろした。

 身分証明証なんて持ってないのにどうするのかと思ったら、
 闘技場側がいつの間にかこちらの“写真”を撮っていたらしい。
 まさかの顔パスで審査を通った。

 この世に写真という存在があること、
 それを撮るマジックアイテムがあることは知っていたが、
 あの場にあったなんて驚きだ。
 ものすごい高級品らしい。少しでいいから見たかった。

 審査を通ると“出納帳簿”となる羊皮紙を手渡される。
 恐る恐る覗き込み、改めてその額の多さに震えた。
 ずらずらと長い数列。
 ちゃんと振り込まれている。
 そのうち、金貨を100枚ほど出した。

 金貨100枚というとものすごい額だが、
 数だけで言うなら10枚が10セット。
 あらゆる知人に礼として配って回るならこれくらい必要な気がした。
 革袋をもらい、ぎゅっと握りしめる。
 さすがに重い。笑ってしまった。

「さて…」

 無事大金も手に入れた。二手に別れよう。
 その前に…

『ビッグケット、今日ハ急グカラドラゴンライダーヲ雇オウ』
『ドラゴン?なんだそりゃ』
『ドラゴンヲ操ッテ乗セテクレル職業。
 金ハカカルガ今ノオレタチナラ余裕ダ』
『へぇー、空の移動か!』

 ビッグケットの両耳がピンと立つ。
 説明したサイモン自身、利用したことなど一度もなかった。
 本当の金持ちになるとお抱えのドラゴンライダーすら居るらしいが、
 とりあえず今日は短期の契約でいい。
 ドラゴン屋に向かう。

「すいません、二人乗りを一頭お願いします」
「はい、ありがとうございます!どちらまでですか?」

 亜人獣人のメインストリートから歩いてほど近く。
 比較的上流なエリアの一角にその店があった。

 店舗はさすがに煤けた石なんかでは出来ていない。
 きちんと磨かれた美しい内装だ。
 入って正面のカウンターで短い耳のエルフらしき店員が微笑んでいる。
 これはハーフエルフ(人間との混血)だろうか。

「まずはノーマンエリア、西部にお願いします。
 そこで用事があるので少し待ってもらって、
 そのあとはまた東部に向かって、
 指定の店に行ってください。

 で、もっかい西部のノーマンエリアに戻る。
 とりあえずはそれで終わりです」

「わかりました、シャングリラ内の短距離飛行ですね。
 ではお代は飛んだ距離の後払いでお願いします。
 今一頭用意しますので、外で少々お待ち下さい」

「はい」

 契約を終え、外に出てしばし待つ。
 やがて鈍重な足音が聞こえ、ドラゴンがやってきたことを悟った。
 しなる長い尾、鋭い爪と牙、強そうな角。
 恐ろしげな見た目なのに、その一対の目は利発そうに澄み切っている。
 二足歩行タイプのドラゴンが羽を畳んでこちらに近づいてきた。

 脇にライダーである人間ノーマンが寄り添っている。
 へぇ、ライダーは人間ノーマンなのか。
 これでドラゴンをしっかり従えてるんだからすごい技術だ。
 あるいはそういう家系があったりするのか?

 珍しい光景に目が奪われる。
 街ゆく人々も目を丸くしてざわめき、物珍しげに視線を寄越した。
 サイモンたちの、そして通行人の視線を集めたライダーが軽く頭を下げる。

「ご利用ありがとうございます。
 さ、お乗りください」

 手を差し出され、サイモンはライダーに手伝われて、
 ビッグケットは自分でひらりとドラゴンに飛び乗った。
 二人の手荷物が鞍に括られた鞄に丁寧に仕舞われる。
 その後それぞれの腰がベルトで固定され、
 更に一番前の鞍にライダーが跨がる。

「では飛びます、鞍の手すりに掴まって下さい」
「わっ…」

 バサリ、バサリ。ドラゴンが力強く羽ばたき、
 徐々に空中に上がっていく。

 すごい、飛んでる!

『わーーっ、飛んでる!面白い!』
『スゴイナ!オレモ初メテダヨ!』

 やがて充分な高度を確保したドラゴンは、大きな翼をしならせ前進した。
 途端に体がぐんと後ろに引っ張られる感覚があり、
 本能的に恐怖を覚える。

 その後空中旋回。

 サイモンの家である西部ノーマンエリアのアパートを目指して飛び始めた。
 都会ほど高い建物はないとはいえ、かなりの高さをすいすい進んでいく。

『すごいな、人があんなに小さい!速い!』
『アア、モウスグ着クゾ。サスガニアットイウ間ダナ』

 後ろに座るビッグケットの声音が弾む。
 サイモンも同じ気持ちだ。こんな光景今まで見たことない。
 金持ちしか見られない世界。
 心が踊らないわけがなかった。

「まもなくノーマンエリア、第一門に辿り着きます。
 下降しますので気をつけて下さいね」

 本当にあっという間。
 ドラゴンライドの興奮もつかの間、
 もう人間ノーマン専用居住区に辿り着いてしまった。
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