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高年期[一学期編]

子鷹狩家にて⑤…外出

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・・・子鷹狩くんの機嫌がすこぶる悪い。



・・・何故か。それは弟くんも一緒だからだ。



買い物を済ませ車に乗ると弟くんが一緒に乗っていたのだ。さきにホテルの方へ向かいその場でさよならするはずが一緒に降りてきて席も確保していたらしい。・・・子鷹狩くんが予約していたのは2人分のはずがレストランに入り案内された席は3人用に変わっていた。






「俺はいつになったら2人になれるんだ・・・?」

「兄さんの見張りですよ。薫風さんはまだ兄さんを受け入れるつもりはないみたいですし。否定してましたよね?兄さんが強行にはしらないよう見張りです。」

「・・・余計なお世話だ。それに煌がいては口説くどころではない。・・・食事が終わったら先に帰れ。」

「無理ですね。兄さんの初めての姿ばかり見てますので信用なりませんね。薫風さん。もし迷惑に思ったら僕に言ってくださいね。すぐに抑えますので。」

「・・・その必要はない。」








ん~・・・この二人仲悪いのか?周りが静かな為、二人は小声で喧嘩している。・・・そこは弁えてるらしい。






「あの、せっかくの食事が不味くなってしまいます。・・・煌くんは今日何を買いに行ったのですか?」

「来年に備えての資料です。僕も聖陵高等学校へ行く予定ですので。兄さんと入れ替わりです。」

「そうなんですね。勉強熱心ですね。」

「・・・ただの口実だ。こいつは学年首位だ。」

「えっ頭良い!ならそんな今から切羽詰まらせなくてもよいのでは?」

「口実とは失礼ですね兄さん。」






僕も交えてじゃれあうような会話をし始めた。徐々にフルコースが運ばれる。辺りは静かだがピアノの演奏やバイオリンなどのクラシックが生演奏されている。とても落ち着いた雰囲気で居心地良かった。






・・・うん、それもあって浮かれてたのかな?運ばれてくる食事の何種類かに少量のアルコールが入ってたのをしらず美味しい美味しいと食べてしまっていた。・・・もちろん飲み物も果実酒だったらしい。






頭がフワフワと浮遊感を感じ始めた頃、昼間の劇団四季の事を思い出し、今でも何故あんな行動をしたのか不思議だが、急に歌いたい気分になってしまいフラフラした足取りで近くにいるスタッフに声をかけ紙とペンをもらい思い出す限りの楽譜を書き始めた。






「あの・・・薫風さんは一体?」

「・・・知らん。というか顔が赤いような・・・?」

「っ!?兄さん、もしかして料理にアルコール入ってませんか?この飲み物とか!」

「・・・ああ、入ってる。・・・薫風、あれ酔ってるのか?」

「「・・・。」」






僕の行動を不可思議に眺めている2人。お構い無く楽譜を3枚4枚と書いていく。それをスタッフが見て固まっている・・・あー僕には今の状況があまり気にならずにひたすら手を動かす。





「これ、ピアノの人に渡して練習してもらえませんか?」

「・・・は?」

「そんな、難しくないので・・・」

「・・・すまない、頼まれてくれないか?」

「こ、子鷹狩様!!か、畏まりました。」

「ん~?」





フラフラしながら子鷹狩くんの声がした方を向く。すると両肩を捕まれ、ゆっくり歩きながら元の席に戻った。






「・・・何を考えてる?」

「へへ~・・・なんだか気分が良くって~・・・少し、あの場所で歌いたいなって思って・・・」

「あ?」

「昼間に行った~あのコンサート?あれに感動して~僕も歌いたくなったの~!」

「お前・・・酒に弱いのか?」

「ん~・・・ん?僕、お酒飲んだの?」

「あの飲み物とか食事にアルコールが少量含まれてる。・・・薫風、かなり甘い声だすな。」

「そ~ぉ?」






なんだか気分が良いなぁ~と思ったら酒飲んでたのかぁ~・・・まぁ、風間くんの時みたく眠たくもないから平気だろう!







おっ?ピアノの演奏が始まった。・・・うん、ぎこちない音程だが懐かしい曲が流れてきたなぁ~






「・・・あれ、薫風が書いた曲か?」

「はい~・・・あれに箏も交えて歌うと最高なんだよ~。」

「そうか。薫風は箏も扱えるのか?」

「少~しね。遊び程度だけど~好きな曲は弾けるよ~。」

「・・・兄さん、薫風さん大丈夫ですか?口調が、呂律は回ってるようですが・・・なんだか子供のような口調ですね。」

「・・・そうだな。まぁ本人は楽しそうだから危ない事をしない限り平気だろう。・・・薫風、水を飲め。」

「あ~有難~ございます~・・・ふふ!」

「・・・箏があるか聞いてみよう。弾きなが歌えるのか?」

「えっ!マジっすかっ!あれば嬉しいですよ!えーもちろん歌えるよぉ!」






あまりの嬉しさに子鷹狩くんの胸ぐらにしがみついた。椅子に座ってる状況なので前のめりになったが嬉しくて構ってられない!うわぁ~箏があるなら久々に触りたい!弾きたい!






「っ!!?あ、あぁわかった。今スタッフに聞いてみよう。」

「はい!お願いします!」

「・・・薫風さん、大丈夫ですか?とにかく水を。」

「有難う煌くん!」

「っ!?な、なんて顔をするんですか・・・っ!」





えー?ただ嬉しくて笑顔向けてるだけでしょ~?・・・あーてか顔がパサパサしてきたなぁ・・・トイレ借りようかな。





フラフラ~と歩きながらトイレへ行こうとしたら弟くんが支えて案内してくれた。さすが子鷹狩くんの弟。優しいね~!





弟くんが気を使ってくれてメイク落としを用意してくれた。その間に用を足し洗面所で顔を洗う。・・・はぁ~サッパリ。





「薫風さん、化粧しなくてもいいのでは?」

「ん~?ああ、朝は女装してたからねぇ。執事服に着替える時に落とせば良かったよ。」

「・・・そうですね、女性の身支度は大変ですよね。」

「そうだねぇ~姉を見てると大変だなぁってつくづく思うよ。」

「・・・4人兄弟、でしたね。」

「そうだよ~。僕の妹はそれは天使の様な可愛さで優しい子なんだよぉ~!今年中学に入ったんだ。煌くん同じ中学かな?会った事あるかもねぇ~?」

「・・・そうですね。探してみます。声、掛けても?」

「全然構わないよ~!何かあったら手助けして欲しいな。」

「わかりました。」






和やかな話をしながら髪を軽くセットしトイレを後にする。・・・まだ頭がフワフワするが一晩寝れば大丈夫だろう。






「薫風、箏が準備できるらしい。どうする?」

「あっ・・・では弾かせてもらって良いですか!」

「・・・少しは酔いが冷めたか?一応他の逆に声を掛けたから迷惑にはならないぞ。」

「すみません我が儘いってしまって。」

「いや・・・また新しい薫風の曲が聞けるから安いものだ。」







そう言ってウキウキした気分でステージへと行く。








ステージには薄暗いオレンジのライトが照らされ目を凝らせば手元が見える位の明るさだ。



まずは弦を弾く。・・・うん、糸もしっかり張ってて良い音がした。




頭の中でイメージトレーニングする。ピアノを弾く人と打ち合わせる。自分が箏を弾きながら歌うと言ったら驚かれた。・・・まぁそうだよね。





でも何でも気になった物を満足するまで練習してたのである程度は一人で何でもできる。






軽く音を合わせたあと、ステージのライトが少し明るくなった。それを合図に演奏する。



曲は美○ひばりのあの曲。




「知らず、知らず、歩い、て来た・・・細く、長い、この・・・道。振りか、えれば、遥か、遠く・・・」





辺りは静まり僕の声が響き渡る。うん、この歌なら食事中でも不快にはならない、はず・・・。





ん~爽快!そして快感!酒のせいかな?僕、今すごい大胆な事してない?いや、気のせいだろう!とにかく今は楽しむのだぁ~!




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