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本編
いち
しおりを挟む「やったぁ!これで全EDクリアしたね!有難うお兄ちゃん!」
「あぁ………良かったね光。」
俺は今大切な大切な大好きな俺の妹と、その俺の妹が好きだという乙女ゲームをやっている。
俺の妹はそのゲームの中でも攻略対象者である次期国王である王太子が好きだという。
俺はそんな俺の妹の一途に恋している相手が大嫌いである。何故かって?何故なら………
その王太子とやらは俺様な自己中で傲慢で我儘でクズでナルシストで……etc
とにかく俺は王太子が嫌いだ。更に言えばそいつは架空の世界の人物であって俺の妹は叶わぬ恋をしているから尚の事嫌いだ。
俺の妹には幸せになってもらいたい!
俺の妹には俺の妹に相応しい男と結ばれてほしい!
俺の妹は可憐で愛らしく優しく気配りができ慈悲深く頑張り屋で、そして純粋で傍にいるだけで暖かい雰囲気になり場が和み……etc
とにかく俺の妹は俺の癒やしで、とても大切な血の繋がった妹なのだ。
とある日、妹に「お兄ちゃん!私、運命の人を見つけた!」と言われた時は持っていたマグカップを落とし熱いコーヒーが膝にかかったのに気付かない程頭が混乱したものだ。
後に膝から痛みがジワジワと浸透し現実に戻り「あっつーーーー!!!」と大絶叫したのはあれが最初で最後だったよ。
それから妹に問い詰めたらテレビの中に存在する二次元のキャラクターに恋をしたとモジモジと両手を擦り合わせたり髪弄りしたりしながら言い出したので言葉を理解する前に目の前にいる俺の妹の姿を目一杯愛でた。
そして俺の妹の言葉をやっと理解した時にはまた詳しく問い詰め、何故か中々攻略できないキャラがいるから手伝ってくれと上目遣いでお願いされたので、その可愛い仕草に悶えながら「仕方ないな、手伝ってやろう」とこの愛でたい可愛がりたいというグルグルと渦巻いてる激情を押し殺し優しく笑みを作って妹とゲームをし始めたのだ。
ちなみに俺は俺の妹に好かれるように完璧な兄を演じている。妹の目の前限定だ。
何故なら幼い頃、親に俺が余りにも妹を可愛がりすぎて「そのうち嫌われるわよ」という母の無情な一言でピタリと妹を可愛がるのを控えたのだ。
本当は頭を撫でて柔らかなマシュマロの様な頬を撫でたり高い高いしたり可愛い洋服やアクセサリーを買ってあげて欲しい玩具をあげて好きなおやつを俺自らの手で給餌したりお風呂に一緒に入って傷まないよう丁寧に髪を洗ったり肌を……etcをしてやりたいのを血反吐が出る思いで我慢した。
だって、嫌われたら元も子もない!妹に、我が愛しの俺の妹に嫌われたら俺は、俺は…………死ぬ。絶対に死ぬ。想像したくもない。妹に、妹に、我が愛しの俺の妹に嫌わr………ガクッ。
と、あっという間に時が過ぎ俺は完璧な兄を目指した。それが功を奏したのか「お兄ちゃん格好いい」だの「友達にお兄ちゃんの事羨ましがられた。嬉しい!」だの言われたら……冥利に尽きる。その一言一言、妹に称賛される度に「俺、もう死んでも悔いはない」って呟き一人感激で涙を流した。
だがな。本当に死ぬとは思いもよらなかった。
『言霊』ってあるのだなと悟ってしまったよ。
俺は今、真っ白なフカフカなベッドで寝ている。頭が痛い気がして手をやると何故か頭には包帯が巻かれていた。……てか頭が重い。
俺は一体どうなってるんだ?それより妹は……?
頭に疑問符がポツポツと思い浮かべていると「キィ…」と何か古い扉が開いたような音がしたなと思い頭をそちらに向けた。
「失礼しま────………っ!?ア、アキラウルお坊ちゃま!お目覚めにっ!だ、旦那様をお呼びします!」
………?
音がした方を向けば立派な形の扉があり、そこからメイド服着た、顔は見えなかったが女性が俺に気付き何か叫び扉を閉めずに出ていってしまった。
………アキラウルお坊ちゃま?
アキラウル…アキラウル…どこかで聞いた事が………?
頭を捻ってると、マンガでお馴染の効果音の様に少し開いてる扉の向こうからドドドドド~って音がしだし、扉の前でピタッと音が鳴り止んだ。…………な、何事?
少しの沈黙の後、キィ…と音を立てて扉が開き誰かが入ってくる気配がした。下には絨毯が敷かれているのか布が擦れるような音を立てて近くにやってきた。
頭痛が酷く半目しか開かない目を開いて相手の顔を見る。
「アキラ、大丈夫か?」
「っ……」
あれ?この男の顔、何処かでみた覚えがあるぞ。知ってる顔を若くした感じの顔だが……
「ち、父上……っ」
「意識が戻って安堵したぞ。お前は丸2日床に伏せてたのだぞ?何処か痛い所はあるか?」
「あ、あたまが………」
「頭か。すぐ鎮痛剤を用意させる。……セバス。」
「すぐご用意いたします。医師も派遣させます。」
「頼む。ああ、それとリールライにも知らせてくれ。多分、神搭で祈ってるだろう。」
「承りました。失礼します。」
おお……どんどん話が進んでいく。
ん?てか、父上?セバス?リールライ?
聞いた覚えが………あ!
今まで疑問符で埋め尽くされていた頭が感嘆符に変わった瞬間、生まれた時から現在に至る記憶が蘇ってきた。
俺は……俺は……
___________________________
俺の名はアキラウル・シルフリーフ。
この国、セヴェル国の宰相パルバハム・シルフリーフの1人息子で現在6歳。
俺は日々、次期宰相の座を期待され猛勉強中、図書館で立ち読みをしていた所に強い地震が発生し、俺は本棚にしがみついた所に上から分厚い図鑑が落ち見事俺の頭に直撃してしまい倒れたらしい。
そこで侍女が頭から血を流している俺を見つけ青褪め医師を呼び父上を呼び大騒ぎになったらしい。
俺が倒れてから父上は仕事はするも上の空、母上は俺の看病をしながら神搭(教会のような場所)で俺が無事目が覚めるよう祈り続けたらしい。
………うん、一大事になってたんだなぁ。
そして目が覚めたが今度は熱を出し更に3日間ベッドの住人になってしまった。……多分、前世と現世の記憶がごちゃまぜになったせい。まぁ知恵熱の様なものだろう。
熱が下がり体を動かせるようになってから一ヶ月。とにかく自分の事を振り返った。そして俺は急いで妹を探し始めた。
直感ではあるが我が愛しの俺の妹もこの世界にいると確信している。
だってこの世界は妹との最後の記憶にある乙女ゲームそっくりの世界だからだ。
俺はゲームをやりながらよく「光はこのゲームの主人公によく似ているな(内面も外面も)」と言って、妹も「そんなお兄ちゃんは宰相の息子に似ているね!」と満面の笑みで言われていた。もうこの時の妹の笑顔は………写真に撮ってアルバムの1枚にしたい程可愛くて神がかっていた!
前世の死因は今の俺のあの事故と似ていて、やっと全攻略者のエンドを終わらせて二人で喜びを分かち合ってた所に急にスマホの警報が鳴り響き数秒後に強い地震が起き、2メートルある大きな本棚が倒れてきて妹を懐に庇い本棚に押しつぶされ死亡したのだろう。
そして同じ状況が起こり、前は本棚で現は分厚い図鑑で死に目に合い前世の記憶が戻ったようだ。
転生してからもう6年の年月が経っている。早く俺の妹を迎えに行かなければならない!
それが俺の使命だ!!!
___________________________
とある孤児院。そこに赤子から12歳くらいまでの子供が教会の周りで追いかけっ子をしている。
そこにいたピンクプラチナの髪をしている一人の女のコが一人で野花を積んでいる。
ああ………あそこに我が愛しの俺の妹が………っ!
セバスにお願いして馬車を走らせた。始め、断られると思ったらセバスはすんなり俺のお願いをきいてくれたのだ。うむ、セバスはデキる執事だな!
そして我が妹がいるであろう隣町のこじんまりとした孤児院に来て、馬車を降り孤児院の中へと入っていった。
やはりただ妹を探しに来ただけでは怪しまれると思い手土産を持ってきている。それは大量のお菓子と寄付金と+αだ。
そしてすぐに妹を見つけ孤児院を経営しているシスターにお菓子と金を渡し「少し辺りを見ても…?」と質問すると了承の返事が返ってきて急いで妹のところへ向かった。
「こんにちは」
「あ……こ、こんにちは」
「君の名前はなんていうんだい?」
「……私はルーチェといいます。」
「そっか。お、私はアキラウルというんだ。」
「っ」
息を呑む音がした。先程までオドオドしていたのが俺の名前を聞いた途端、硬直したのがわかった。
俺は片膝を地面に付け女のコと目線を合わせて、怖がらせないよう妹の事を思いながら笑みを作り話しかけた。……この話を聞いた時の反応によってわかる。
「面白いお話をしようか。……とある兄妹がいました。兄妹はとても仲がよく近所では有名でした。ある日、妹がある人に恋をしました。それを兄に相談したらその恋を協力してもらえることになりました。」
「…………」
「何通りのシュミレーションをして恋を成熟させていきました。様々な困難があり苦労しましたが、何ヶ月もかけて攻略していき……ついに恋は実りました。」
「っ……」
「恋が実り兄妹は喜びました。……その時、大きな地震が起きて────っ!?」
死ぬ前の記憶を思い出しながら少し俯いて話していると女のコの異変に気付き顔を上げると………女のコは泣いていた。
その姿を見て確信が持てたが、まさか泣くとは思ってもみなかったのでピキッと固まってしまった。
すると、か細く女のコが呟いてきた。
「あ……あの、あの、そのお話の……き、兄妹の、お名前は……?」
「名前は、兄が御子柴明、妹が御子柴光っていうんだよ。」
「…………お、にい、ちゃん…?」
『お兄ちゃん』
そう言われただけで身体が震えた。笑顔を保てず顔が徐々に歪んでいくのがわかり、「ひかり」と吐息のような声で言うと女のコが小さな身体がで飛びついてきた。
それから「うわぁ~ん!」と大声で光、改めルーチェが泣いた為シスターとセバスがやってきて俺とルーチェが泣いてるのを見て驚かせた。
___________________________
ルーチェは赤子の時に孤児院の前で捨てられていたらしい。「ルーチェ」という名前は拾ってくれたシスターが付けてくれたらしい。
そして、ルーチェが俺の妹というのを思い出したのはついさっきらしい。わんわん泣いた後、気を失い俺同様熱をだして寝込んでしまったようだ。
俺は妹が寝ている間に親にお願いをしに行った。お願い事は……
「ルーチェを養子にしてほしい」
という事だ。
乙女ゲームではコンジュ男爵家の養子になるはずだが、俺は現世でも俺の妹でいてほしかった。前世の俺の妹は可憐で愛らしく優しく気配りができ慈悲深く頑張り屋で……etc俺の天使だったが、現世の妹は容姿以外は変わらず可憐で愛らしく優しく気配りができ慈悲深く頑張り屋で……etc変わらず天使だった!それはあの孤児院のシスターに聞いてわかったことだ!さすが俺の妹だ!前世の記憶がなくても天使は天使だった!
妹に話したら「ゲームのシナリオが」とか「迷惑じゃ」とか色々と心配していたが、それは俺が解決する!我が愛しの俺の妹の為に!
……と言うことで父上に交渉中。
さすが現宰相。そう簡単にはいかなかったが、条件付きでルーチェを養子に迎える事ができた!ぃよしっ!
条件はこれ。
1・俺の1つ年下である王太子殿下の信頼を勝ち取る事。
2・学園で首位を守り抜く事。
3・15歳になったら父上の仕事を手伝いをする事。
この3つ。正直言って………余裕すぎる。
1は……まぁ、とりあえず王太子殿下に対面しなければわからない。あの乙女ゲームの舞台のような性格でないことを祈るしかない。まぁ、ク○ガキだったら俺が幼いうちに徹底的に叩きのめしてやる!
2は余裕。まず、俺は勉強は苦にならないタイプ。むしろ知らないことを知るのは面白い。乙女ゲームの中であっても細かな設定なんてないのだから1から習い始めるのは寧ろ楽しみである。俺の日本の知識がどれくらい役に立つか………いやはや楽しみである。
3の宰相の仕事を手伝うのはまだ始まってないが書類整理などは生徒会長やってた経験があるから大丈夫だろう。
父上の条件をあっさり承諾した俺に対し、父上は唖然としていたが……父上としては無理難題を叩き付けたつもりだったのだろうか?なら余裕だな。
さて、では身元引受人としてセバスと一緒に妹を迎えに行った。
シスターは快くルーチェを見送ってくれた。
なんでも、俺が初めて訪問した日に二人で抱き締めながら泣き合ってた姿をみて信頼してくれたらしい。俺の元なら大丈夫だろう、と。
「ルーチェ。俺はここでは貴族だから……お兄様と呼んでくれるか。」
「はい!おにいさま!」
グハッ!!
なにこの天使!笑顔の破壊力半端ない!マジ天使!マジ尊い!あ~俺は妹の為なら死んでもいい!
はぁ~これからは前世同様ずっと傍にいられるな……感・無・量・・・ガクッ
親にルーチェと会わせたら二人もルーチェを気に入ってくれたようだ。それはそうだ!なんせ俺の可愛い俺の妹だからな!
馬車から降りて侍女に風呂と身支度をさせてもらい、夕方になり両親が帰ってきた所で玄関で「おおおお義父さま!おおおお義母さま!これから、お世話になります!」と顔を真っ赤になりながら習いたてのカーテシーをぎこちない仕草で一生懸命挨拶した。
その初々しい姿をみて父上はルーチェの頭を撫でて母上はルーチェの小さな手を両手で包んで握って「よろしく」と言ってた。もちろん笑顔で。
ただ、ルーチェはこれから立派な貴族令嬢として教育が施される。……大丈夫!俺の天使も要領が良いからすぐに慣れる!
さて、次は婿選びだな。できれば俺は次期宰相となるべく勉強してるわけだから俺は宰相の職を全うしたい。だから今父上が納めてる領土を守ってくれるような奴がいい。だから婿が必要だ。
もしゲーム通りヒロインであるルーチェが男爵家に引き取られていれば王太子の下に嫁いでも問題ないのだが……俺の我儘でシナリオを歪ませ俺の妹になってしまったから今後どうなるかわからない。
まぁ……とりあえず王太子にはあの俺様で我儘な性格を直してもらうがな。だって、俺、王太子大嫌いだからな!
応援ありがとうございます!
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