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番外編…ユーリオン視点

俺様の唯一②

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その後、父様も来て苦笑いして部屋に入ってきて仲裁(?)にはいり部屋から皆出ていった。去り際父様が「朝食ができている。準備してきなさい」と言ってきた。

…………一体、何が起きたのだ?




いつも通り朝食を済ませ、その後は隣国の語学の時間だ。
部屋で待機していると教師と、あの二人も一緒にやってきた。


「「俺(私)たちも殿下の傍で勉強させていただきます。」」


同時に同じことを言ってきた。教師の方も承諾済みのようで前もって教科書が3つあるのを見つけた。

……………俺の事なのに勝手に決められた。俺は何も知らされてない。何故当たり前のように一緒にいるのだ。


「…………お前たちは俺より年上だろう。なぜ1年も前に習った物をまた習おうとするのだ。」

「「………………………………」」


つい皮肉を言ってしまった。それに対し二人は互いに顔を見合わせ無言。
………なんなのだ気まずい雰囲気は。いや、俺がそうしたんだ………だが場を和ませる言葉は思いつかない。

俺が頭を捻って言葉を探してると………クスクスと小さな笑い声が聞こえた。振り向くとパルバハムの息子が目を細め口元に手を当て喉を震わせていた。

……馬鹿にされた笑い、ではない、な。令嬢の様に上品に笑う器用な奴だな………いや、令嬢でもこんな綺麗に笑わないな。だが何故笑ってる?可笑しな事、ましてや笑われるような事は言ってないんだが………?


「申し訳ございません殿下。私は殿下とアレキウスの付添で参りました。………アレキウスの方は背中を押す役割も含まれてますが。」

「うぅぅぅ…………別に剣を振るって殿下を守れればいいだろぅ?なんであんな文字しか書かれてない本と睨めっこしなきゃならないんだよ~」

「………いつか詐欺に会いそうだから少しでも、常識程度に知識を付けてくれないと困るんですよ。私だけでは殿下をお支えできませんから。」

「勉強したら詐欺に会わないのか?」

「知識を身につけるだけで大きく変わります。………だから殿下と一緒に1から覚えてください。」

「アキラウルは?」

「…………私を誰だと思ってるんですか?宰相の息子ですよ?もう初級、中級と覚えました。」

「……………自信満々だな。じゃあ先生からいくつか問題だしてもらって答えてみろよ~」

「わかりました。では先生、いくつか問題を出してください。項目は何でも構いません。」

「え、ええ……………」


いつも無表情な先生が口元を引くつかせて困惑してる。……そんな表情初めて見た。

そして先生が何問か問題を出しては間を置かず答えているパルバハムの息子。そして見事全問正解している。……間違いなく勉強する必要がない知識の持ち主だな。そしてルーラインの息子、間抜けヅラした顔でパルバハムの息子を見ている。………ほんと、対象的な奴らだな。


それから遅れながら勉学が始り、俺の隣に嫌々ルーラインの息子が座り一緒に学んだ。
………俺はそんな頭が悪いわけではないので直ぐに覚え先生の手を煩わす事なくスムーズに進んだ。
だが、ルーラインの息子は………


「アレキウス様、そこはPではなくLでございます。……………あぁ、そこ!数字が間違ってます。そこは6ではなく5でございます。」

「アレキウス、そこは「そこ」ではなく「あれ」だ。…………ここ、文字が違う。ここも、ここもだ。」

「…………………………………………………………カエリタイ」



顔を少し真っ青にし涙目ながら先生とパルバハムの息子に指摘されながら勉強していた。

………奴は裏表のないスレた所がない側近としては側に置いて問題ない奴だが、この阿呆さ加減は危ない域だ。これは本当に知恵を身に着けてもらわないと危ない。「これは体に良い薬だ」と持たされ俺の食事に毒を盛られそうだ。だが体格はいい。遠くから見れば太って見えるだろうが実際は筋肉がしっかり付いている。成長期に入れば自ずとわかるだろう。


「う~~~っっっもうっ!無理!アキラ何か頂戴!」

「はぁ、まだ始めて一時間も経ってませんよ。……………あ~仕方ありませんね、紅茶の準備を致します。先生、キリの良い所で休憩を取らせてください。」

「は、あ、わかりました………」


………どっちが大人なのやら。何故かパルバハムの息子が指揮をとってる。先生も虚をつかれたような顔して反射的に応えたような感じだ。



__________________________




「うんまっ!クッキーうまっ!」

「………本当ですね。贅沢にバターを使ったのか香りが良く美味ですね。」


キリの良い所で休憩に入った。するとメイドと一緒にパルバハムの息子が紅茶と菓子を皿に乗せて持ってきた。
……………ん?見たことのない物だな。いつも出されてる物ではない。
それを何の迷いもなくルーラインの息子が手に取り口に運んだ。俺は呆気にとられ奴を眺めた。
………そんな怪しい物を意図も簡単に口にするとか……やはりこいつは馬鹿なのか警戒心が無さ過ぎる。
だが、口に運んだ後「サクッ」と乾いた音が聞こえ、絶賛の声をあげた。先生もそれを見て菓子に手を伸ばし口に運んだ。そして目を見開き先生も絶賛した。…………一体なんなのだ?


「さっすがアキラが作ったクッキーだな!これを店で出せばいいのに!」

「「…………は?」」

「……………アレキウス?」

「ハッ!あ、いやつい口が滑って………」


聞き捨てにならない事を言わなかったか?アキラ……パルバハムの息子が作った、だと!?侯爵家嫡男がか?
………ありえないだろ。

それから悪寒がするような笑みでパルバハムの息子がルーラインの息子に迫って、挙げ句殴られていた。……どうやら内緒にしていたらしい。ルーラインの息子は頭も軽ければ口も軽いらしい。

ちなみに俺もクッキーを食べた。確かに美味しかったな。






時は流れ俺は7歳になった。俺はそれなりに充実な毎日を過ごしたと思う。
あれから常にアキラウルとアレキウスが側に付き勉学の時も剣術の訓練の時も常に二人が付いてきた。
俺も二人なら気を許せるようになり名前を呼ぶようになり信用するようになっていった。


そんなある日。


「ご紹介します。私の妹のルーチェ・シルフリーフです。今年で6歳を迎えましたので社交デビューいたしました。」

「お初にお目にかかります、ルーチェ・シルフリーフと申します。以後お見知り置きを。」


綺麗にカーテシーをするピンクプラチナの髪をした少女がアキラウルに促されやってきた。
……………ああ、確かこの娘は養子に引き取ったと聞いてたな。今日が社交デビューの日か。


俺は今アレキウスと一緒に城の広間で今年6歳になる令息令嬢の社交デビューの場に居合わせている。これも王太子の役目だとか言われ(父様に)上段で椅子に座り辺りを見回している。
俺のお披露目会の時のように、今度は俺の所に令息令嬢たちが挨拶しに来ている。

そこでまず先頭に挨拶してきたのがこのアキラウルの妹だった。パルバハムも一緒だ。


「ユーリオン殿下。うちの娘を紹介させて頂きます。」

「お前はアキラウルの妹か。ま、当たり前だが全然似てないな。」

「ルーチェは孤児院から引き取った養子ですから当たり前です。………ルーチェ、殿下の後にいるのがアレキウスだ。身分も私より上だ。挨拶しようか。」

「あ、はい!……お初にお目にかかりますギーラム様。ルーチェ・シルフリーフでございます。以後お見知り置きを。」

「あ、はははいっ!宜しくお願いします!」


…………ん?アレキウスの様子が……?
うわっ………もしやアレキウス、あのアキラウルの妹に惚れたのか?
まぁ、見た目可愛らしいという言葉が似合いそうな娘、いや令嬢だな。俺は何とも思わなかったがな。

………ん?アキラウルもいつもより………?
なんだアキラウルも妹に惚れてるのか?あんな惚気てるような顔……初めて見るな。

よく見れば他の令息もあの妹を見てるような………?ふん、あんな娘のどこがいいんだか。


「アレキウス」

「………………………………」

「アレキウス!」

「ぅあ!?あ、は、はい!どうしましたか殿下?」

「お前もアキラウルの妹に惚けているのか?」

「えっ!?な、何でわかったんですか!?」

「ふん、あからさまだぞ。あんな娘のどこがいいのだ?」

「え、殿下の目は節穴ですか?あんな可愛らしい、守ってあげたくなるような儚くて優しそうな令嬢。一目惚れしないなんて、ありえない!」

「………お前に節穴かと言われる筋合いはないな。それにほら見ろ。アキラウルが物凄く恐ろしい血相で周りを牽制しているぞ。お前、あの娘を口説くならまずアキラウルを説得しなければ無理なんじゃないか?」

「………………うげっ、マジっすか………難的な相手だ………」


二人でアキラウルを見る。物凄い殺気を振りまいているな。だが娘には気付かれないようにしている。なんとも器用な奴め。




この場にいる全員が俺に挨拶をし、和やかなムードになる。俺は辺りを見回しながらチラッとアキラウルを見る。………あの妹と楽しく話してる姿を見ると胸焼けがする。何故だろう………?




あの二人を信頼するようになったきっかけは一年前………


『王子といえど邪魔なら排除される。それが頂点に立つ『王家の血筋』というものだ。…………邪魔なら殺される。その理は王家であれ貴族であれ平民であれ変わらないって事だ。……俺たちは未来の国王陛下をお守りできるのは名誉であり誉れ高い事だ。側に寄り添って何があっても俺たちは絶対に殿下を一人にしないようにしよう。』



俺はアキラウルのこの言葉を聞いて人を、いやアキラウルを信じようと思う事ができたんだ………



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