悪役令嬢だって恋したい! ~乙女ゲーの世界に迷い込んだ私が、火あぶりフラグを折りまくる!!~

園宮りおん

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96、王妃様の部屋で

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 王宮の中を、私の手を引いて歩いていくアドニス。
 私は手を引かれるがままに廊下を進んだ。
 視線の先に王妃様の部屋の扉が見える。

(アドニス……)

 アドニスは部屋の前に付くと衛兵に声をかける。

「母上にお会いしたい。扉を開けてもらおう」

 その言葉に衛兵の一人が深々と頭を下げる。

「申し訳御座いません、王太子殿下。どなたも通すなと、マリエティーア様からの命で御座いますので」

 衛兵の答えにアドニスは扉を睨むと声を上げた。

「母上! もし開けて下さらないのであればここから話をさせて頂きます!」

「で、殿下なりませぬ。このような場所で、大きな声を出されては!」

 王宮の侍女達がこちらをうかがうように眺めている。
 アドニスがこんなところで大声でマリエティーア様と談判をしたら、それはあっという間に噂になるだろう。
 暫くすると扉が開いた。
 王妃様の侍女の一人が扉を開けたのが見える。

「……入りなさい、アドニス」

 王妃陛下は奥の椅子に座っておられる。
 その瞳は静かにこちらを見ていた。
 そして侍女達に命じる。

「お前達は下がっておれ」

 王妃様の命令に従って侍女達は部屋を後にする。
 思わず私が入り口を振り返ると、伯爵様やメリエッタさんがこちらを見ている。
 メルファもその傍に立って青ざめていた。

 王妃様とアドニスそして私だけを残し大きな扉はゆっくりと閉まっていく。
 マリエティーア様から感じる氷のような気配に私が体を硬くすると、アドニスは私の手をしっかりと握りしめた。
 美しく豪華な椅子に座った王妃様が私を見て言った。

「何故そなたまでいる。 その様子では、アドニスの新しい婚約者の話を聞いたのであろう? もうそなたに用はない、わたくしの前から消えよ、不愉快だ!」

 どこかアドニスに似た美しい顔が私を睨む。
 私は思わず俯いてしまった。
 王妃様にとっては、もう私はアドニスの婚約者でも何でもない。
 そのお前が何故ここにいると、その瞳はハッキリと言っていた。
 そして椅子から立ち上がるとこちらに進み出て、手にした扇子を振り上げる。

「また逆らうか! 消えよと言っている!!」

 私は思わず目を閉じた。
 王妃様が手を振り下ろす気配がはっきりと感じれらる。
 閉じた扇子が額に打ち付けられるような乾いた音が部屋に響く。
 でも、痛みはない。
 私はゆっくりと目を開ける。
 私の目には王妃様が動揺した瞳で、後ずさりする姿がはっきりと映った。
 
「アドニス!」

 私は思わず叫んだ。
 私と王妃様の間に入ったアドニスの額から、血が流れるのが見える。
 それを見て、アドニスが私の代わりに王妃様から打たれたのだと気付いた。

「母上、これでご満足ですか?」

 マリエティーア様が、アドニスの額を慌てて美しく白い手で拭く。

「愚かな、何と愚かなことをするのですアドニス! 貴方は未来のベネディクティアの王、この女の身代わりなどしていい体ではない!!」

 王妃様の指先の間から流れ出る一筋の血を見て、マリエティーア様が私に怒鳴った。

「そなたが!! ……アドニス、この女が貴方を惑わせているのです。貴方はこの母の言うことを聞いていればいいのです!」

「母上は間違っておられる。今マルルードから妻など迎えれば、あの狡猾なゼロムスどもがこの国の政治の一部を壟断することになるでしょう。もしゼロムスと手を組む不逞の輩がこの国にいるとすれば、誰だとお思いなのです!」

 王妃様はアドニスの言葉を否定するように言った。

「そのようなこと、わたくしがさせぬ! マルルードの王女など逆に利用してやれば良い!」

 アドニスは静かに王妃様を見て口を開いた。

「私はシャルロッテを妻にしたいと思っています。母上がそれを許さぬというのであれば、もう母上と話すことはありません」

 そう言って私の手を引き、マリエティーア様に背を向けて歩き始めるアドニスを見て、私は胸が苦しくなった。
 あのゲームの中で、似たようなシーンを何度も観た。
 ティアの為にアドニスが王妃様と決別する場面。
 そして互いに憎しみ合って争った挙句、最後はアドニスは王妃様を謀殺してしまう。
 ティアが溶かしかけた心がまた凍りついて、最後はそれを諫めたティアも信じられなくなってその手にかけてしまう。
 そんな悲しいバッドエンド。

「駄目よ、アドニス……このまま行っては駄目!」

 私はそう言ってアドニスの手を振りほどく。
 そして王妃様の前に進み出た。

「お許しください、王妃様。愛しているんです! アドニスのこと愛しています! どうかお許しください!!」
 
 跪いてそう願い出る私の姿を見て、王妃様は怒りに満ちた表情を見せた。

「黙りなさい! そなたの愛など必要ない! アドニスはわたくしが……うううぅ!!」

 激高した王妃様が、急に胸を押さえてその場に崩れ落ちた。
 私は驚いてその体を抱きとめる。

「王妃様! マリエティーア様!!」

「母上!!」

 私達の叫び声の中で、青ざめていく王妃様の美しい顔を私は激しく動揺しながら見つめていた。
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