元獣医の令嬢は婚約破棄されましたが、もふもふたちに大人気です!

園宮りおん

文字の大きさ
60 / 67
連載

124、城壁の前で

しおりを挟む
 ルナの帰還から一年。
 獣人の国エディファンの都であるエディファルリアは、大きく様変わりをしていた。
 以前よりも更に活気にあふれ、町を囲む城壁に作られた都への入り口である大きな城門には数多くの商人が溢れている。
 そして、観光に訪れた人々は城門の左右に描かれた二枚の見事な壁画を見上げていた。
 一枚はかつて悪の宰相バロフェルドの卑劣な策謀により、この都を襲撃したユニコーンの前に立つ凛々しい王子と少女の姿。
 そして、もう一枚はジェーレントとの海戦で死んだと言われていた少女の帰還を描いたものだ。

「美しい……」

「まるで女神だ」

「ああ。あれが、エディファンの王太子妃殿下か」

 白い翼を羽ばたかせこの地に舞い降りるその姿に、通りがかる者たちは見とれている。
 あの日、ルナが城壁に舞い降りる姿を見た者が、この町で一番の絵描きである女流画家のアンナに事細かくそれを伝え描かれたものである。
 美しい壁画が描かれたこの場所は、今ではすっかりエディファルリアの観光名所である。
 行きかう人々の足元で小さな子犬が二頭、寄り添ってその絵を見上げている。

『ねえ、お兄ちゃん。ミアお腹すいたよぉ』

『ミア、もう少しだ! ここに噂の女神さまがいるんだから』

 どこからやってきたのだろうか?
 長旅をしてきたのか白い毛並みがすっかり泥で汚れてしまっている。

『うん……でも、カイお兄ちゃん。女神さま、ミアたちを助けてくれるかな。それに、一杯人がいるよ。これからどうしたらいいの? うえ……うえええん』

 ミアと呼ばれた一回り小さな子犬が、不安をこらえきれない様子で泣き始めた。

『な、泣くなよミア! 泣かないでくれよ……俺だってどうしたらいいのか。ここに来たら会えると思ってたのに』

 二人は実はさっきからずっとここに立ち尽くしていたのだ。
 目的にしていたはずの場所にたどり着いたのだが、会うべき相手は王宮の中で、自分たちはその絵を見上げることしかできない。
 小さな子犬たちにもすっかりと薄汚れてしまった自分たちが、都の奥に見える美しい王宮の中へと入るなんて無理だと思えたのだ。
 そう思うと悲しくてしょうがない。
 つぶらな瞳からぼろぼろと涙をこぼす妹を見て、カイもこらえきれず涙を流した。

 そんな中、よその国からきた商人だろうか、足元で鳴く二頭の子犬を見て顔をしかめる。
 泣いている子犬たちに気が付かずに壁画を見上げていたために、そのズボンにミアの体が触れ泥がついてしまったのを見て憤る。

「何だ? さっきからキャンキャンとうるせえ犬どもだな! 薄汚いお前のせいで、俺のおろしたての服に泥がついちまったじゃねえか!」

 怒りに顔をゆがめると、その足でミアを蹴り飛ばそうとする。
 それを見て、カイは必死に妹を庇って男の前に飛び出した。

「きゃぅううううん!!」

 大きく跳ね飛ばされるカイの姿。
 それを見て、ミアはべそをかきながらカイのもとに走った。

『お兄ちゃん!!』

 蹴られた勢いで城壁にぶつかり、地面に落ちてぐったりとするカイの姿を見てミアは大きな声で泣いた。

『わぁあああん! お兄ちゃん、カイお兄ちゃん!!』

 自分を庇って額から血を流す兄を見て、ミアは悲しく悲しくて涙が止まらなかった。
 あまりの惨さに周りの者が止めようとするが、その男はミアを見下ろして言った。

「うるせえって言ってるだろうがこの犬が!!」

 ミアは自分まで蹴り飛ばそうとする男に恐怖して動くことが出来なかった。

(助けて! 誰か助けて!!)

 その時──
 ミアは何かが自分の傍に舞い降りてくるのを見た。
 白い羽根が辺りに舞い散る。
 小さな子犬のミアは、自分を守るように目の前に舞い降りた生き物を見つめた。
 とても逞しいその姿。

 そこに立っていたのは純白の白鷲竜だ。
 一声大きく吠える。

『その子から離れろ! 僕が許さないぞ!!』

 まだ幼さは残しているが凛々しいその横顔。
 商人の男は腰を抜かしたようにその場に尻もちをつく。

「ひ! ど、ドラゴンだと!?」

 その時、空から声が聞こえた。

『ピピュオ!』

 人々は確かに見た。
 白く美しいドラゴンの傍に、純白の翼を持った少女が舞い降りるのを。
 人々は思わず呟く。

「お、おいまさか……」

「ああ、間違いない。あの姿、あの絵と同じだ」

 少女はカイの姿を見ると駆け寄った。
 そして、その右手をカイの傷に当てる。
 傷が塞がり、流れる血が止まっていく。
 気を失っていたカイの目が静かに開いていくのをミアは見た。

『お兄ちゃん! カイお兄ちゃん!!』

『ミア……』

 しっかりと体を寄せ合う二人。
 静まり返る人々、そして冷たい視線が子犬を蹴り飛ばした男に集まっていく。

「お、俺が悪いんじゃねえ! その小汚い犬が俺の服を汚しやがったんだ!!」

 その言葉に振り返ると、静かに男を睨む少女の姿。

「たったそれだけのことで、この子にこんな怪我を負わせたと言うの?」

 少女の傍にいる白鷲竜がもう一声吠えた。

「ひっ! ひぃいいい!!」

 商人は情けない声を上げて、逃げ出していく。
 その背中には人々の冷ややかな視線が投げかけられている。
 そして、少女と幼い白鷲竜に向けての歓声が鳴り響く。

「あれがエディファンの王太子妃……」

「ルナ殿下だ!」

「まさか、こんなところでお会いできるとは」

 少女は、男が立ち去るのを見てほっと息を吐くとしゃがんで子犬の兄妹の頭を撫でると問いかけた。

『こんにちは、私の名前はルナ。そんなに泥だらけになって貴方たち、一体どこから来たの?』

『お兄ちゃん、女神さまだよ!』

『ああ、ミア! 俺たち会えたんだ、ここまで来たのは無駄じゃなかったんだ!』

 その言葉に首をかしげるルナの姿。
 優しいその微笑みに、ミアとカイはほっとしてその手に頭を擦り付けた。
しおりを挟む
感想 240

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。