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2.彼の背中

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聡志さとし

「ん?」

「ごめんね」

「別に」

「ほんとに?」

「うん」

「そっか」

 綾子あやこは包帯が巻かれた足をバタつかせる。

「痛っ」

 バタ足が聡志の太ももにヒットした。

「あんま動くなよな」

 聡志はそう言って、背負いの体制を取り直した。

「だって、一緒に帰るの久しぶりなんだもん」

 綾子が言う。

「いっつも部活ばっかでさ、あたし達」

「そうだな」

「デートらしいこともできてないじゃん?」

「まぁな」

「けど、部活をサボるわけにもいかないじゃん?」

「あぁ」

「だからさぁ…………本当は別れたかったんだよね」

 綾子の本音を聞いた途端、聡志は立ち止まった。

「綾子」

「なに?」

「ごめんな」

 河原道の夕焼けが黒く染まりつつある。
 そこに広がる沈黙が、綾子の手指と聡志の足裏を重くさせた。

「聡志」

「ん」

「大好きだよ」

「うん」

 聡志の首から制汗剤の爽やかな匂いが香った。
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