IT学園○学部

阿井上男

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第一話

私立IT学園・説明会6

「ん……」

姉とはまた違う温もりが唇表面に広がる。

ややひんやりとした唇は、きゅっと引き締められていて、力がこもっているようだ。キスに慣れていないのかもしれない。

合わせた唇はきつく締まり、息が漏れることがない。

先ほどの紡姉さんとの濃厚なキスとは打って変わって、互いの唇を触れ合わせるだけのキスだ。それでも真姫の美貌もあってか、姉とするキスとはまた違う味わいだった。

「ん、く……」

真姫の唇の感触を堪能する俺の意識に、真姫の吐息が入り込んできた。

薄く目を開き、真姫の様子を観察してみる。距離が近すぎて全貌はわからなかったが、真姫が悩ましく眉をひそめ、目元を赤く染めているのがわかった。

普段の様子を知っているだけに、恥じらう妹の姿は見たこともない色香に満ち溢れている。

真姫は少し唇が擦れ合うたびに「ん」とか弱い声を鼻から漏らし、俺の肩に乗せた手の指に力を込めてくる。

真姫は体育会系のすっきり系美人なのだが、今日はそれに加えて女子っぽい色気をところどころ醸し出していた。今のキスの最中の様子など、あまりにも乙女らしすぎて、実の妹であることを忘れてしまいそうになるほどだ。

胸の高鳴りを抑えきれず、真姫から視線を離すことができない。

と。

「ん、は……」

真姫は白い喉を小刻みに動かし、か細い声を漏らす。

「は、ん」

初めて漏れた吐息は生ぬるく、張り詰めたものを感じた。真姫はうっすら瞳を開く。真姫の様子を見ていた俺の視線と交差した。

「……ッ」

俺が見ているとは思わなかったのだろう。真姫の瞳が大きく見開かれ、声にならない声が唇を震わせていた。

俺の肩に回す腕には力がこもり、痛いほどに指が食い込んでいる。

再びぎゅっと閉じられた目元は赤く染まっている。見ようによっては恥ずかしがっているようではあったが、それよりも困っているような色が浮かびあがっており、当惑に揺らいでいるように見えた。

俺は真姫の背中に回した手を、ゆっくりさすった。びく、と真姫が体を震わす。

「んッ」

驚いた表情の真姫が、いったん唇を離し、間近から俺の目を覗く。

「あ、あの」

真姫は怯えているようにも緊張しているようにも見えた。

「少しだけ、待って」

途切れがちな声で、俺の首元に顔を埋める。真姫は口元を指先でなぞり、うろんな目を伏せ勝ちにしている。

その瞳に浮かんでいた戸惑いの色に、俺は心が揺れ動くのを感じていた。俺は間違ったことをしてしまったのかもしれない。頭の中を支配する妙な感覚に促されるまま、妹の唇を奪うだなんて。

いくら兄妹だからといっても、求められたからといっても、ここまでのことをしてしまえば戸惑うだろう。姉と再会し、その流れであんなことをしてしまったのは俺だ。そんなものをみせられれば、妹2人だって雰囲気に飲まれてしまうのは考えづらいことではない。

勢いに任せた行動で後悔するのはよくあること、とは言っても、妹をそれに巻き込んでしまうのは決して許されない。どうにか誤魔化して話をなかったことにしておけば、妹を戸惑わせるようなことはなかったのではないか。

「ごめん」

「な、なんで謝るの?」

「兄妹でキスするなんて、戸惑うよな」

「そんなことないよ。私がして欲しいって言ったのに」

「だけど、困ってるじゃないか」

「困ってる? 私が?」

「違うのか?」

「違うよ」

真姫はきっぱりと告げる。

「兄さんとキスしたいって言ったのは私だよ」

「それはそうだけど」

姉さんの言葉に乗せられて、そういう気になってしまっただけじゃないのか?真姫の表情を見ると、そんなことは言えない。

だが、しかし。

「さっきの、私のファーストキスだよ」

「えッ」

「初めては絶対に兄さんに捧げたかったの。だけど、気持ちが強すぎて、ぎこちなくなっちゃった」

「……」

唐突な告白に言葉も出ない。

真姫くらいの美少女なら彼氏だっているだろうし、兄妹でキスするくらいなんとでもないのかと思っていた。

戸惑っていたのはそれが原因だと思っていたが、まさか初めてだったとは。

「後悔してないのか?」

「しないよ。絶対にしない」

「う」

迫力ある声に気圧されてしまう。

「私、兄さんと今よりずっと仲良しになりたいの。うぅん。仲良しじゃなくて……もっともっと、強い絆が、欲しの」

目を潤ませて上目遣いで俺を見上げる真姫は、女優やアイドル顔負けの可憐さである。こんな近くからこんな目で見上げられてしまえば、どんな男だって骨抜きにされてしまうだろう。

強い絆……? 兄妹っていう絆よりも、もっと強い絆、か……

そんな風に考え込んでいると、真姫は俺を上目遣いで見上げつつ、俺の首の後ろに回した手にぎゅっと力を入れなおしてきた。

真姫の美しい顔が、眼前に広がる。愛しさを抱いてやまない実妹の顔は、喜びと恥じらいに赤らんでいた。

「お願い。もういっかいキスして?」

「え? いや、しかし」

「もっとちゃんとしたキス、したい。兄さんとの初めてのキスを、もっとステキな思い出にしたいの」

真姫は俺にぐいぐいと迫ってくる。その桜色の唇は、さきほどのキスの名残か、わずかに湿っていた。真姫の美貌からは例えようもない色香が漂い、それは次第に増してきていた。肉親であることを忘れそうになるほどの魅惑的な美貌を、余すところなく俺にあててくる。

「巧くん、真姫ちゃんの気持ちを汲んであげて」

遠くから俺達を眺めていた姉さんが声をかけてくる。俺がそちらを向くと、姉さんは緩やかな頬笑を浮かべていて、おもしろがっているような様子ですらあった。

元凶の姉さんがそんなことを言うのか。

「真姫姉の次は私だからね、巧兄。早くしてあげて」

真姫の後ろで見ていた結までそんなことを言う。俺はためらいながらも、俺を見上げる真姫に目を戻す。

不安そうな、それでいて何かを期待しているような真姫の瞳は泣き出しそうなほどに潤んでいる。目元が赤く、唇を引き締めて、俺をまっすぐに見つめ返してくる。

誘惑されている、と感じるほど、みずみずしい色気を放っていた。

ドクン、と胸が脈打つ。頭がまたクラクラし始めた。

甘ったるそうな真姫の桃色の唇が、俺を誘惑するように息づいている。

俺は蜜に吸い寄せられるように、真姫の唇に自らの唇を重ね合わせた。

「ンん、ふぅん」

重ねた瞬間、真姫が悩ましい声を漏らす。

唇の感触はさっきのキスよりも柔らかく、ふっくらと俺の唇を受け入れてくれる。それだけでなく、さきほどまでとは違って真姫が自ら唇を蠢かし始めた。

「ン、あン……ンぅッ」

少しこすれあうたびに、真姫のくぐもった声が、重ね合わせた唇の狭間から漏れ出る。

いつもの妹の声からは考えられないほどにしっとりとした声だ。

「ふぅ、ん、んん、んッ」

俺達は最初、お互いを試すように細やかに唇を擦れ合わせていた。細やかな動きであるものの、真姫にとっては未知の感覚らしい。

表面が滑り合うたびに真姫がビクンビクンと肩を上下させる。

俺にとってもこの感覚はあまりにも愉悦がすぎる。

触れ合わせるだけなのに、擦れ合うだけなのに、ぴりりっと電気じみた感覚が脳の中を駆け巡り、理性がかき消されるような感覚に陥ってしまう。

もっと強く真姫の唇を味わいたい。実の妹の唇を味わい尽くしたい。

そんな欲望がこみ上げ、我慢できないほどに膨れ上がってしまう。

俺は真姫の唇を吸い、柔らかくついばんだ。今までとは違った刺激に、びくん、と真姫の身体がひときわ大きく縦に揺れる。

しかし拒絶はない。

背中を押された気持ちになって、俺は何度も実妹の唇をついばむ。

すると。

「ん、ちゅ、ちゅく……」

真姫も俺の動きに答えるようについばみ返しはじめた。くちゅ、ちゅる、と互いの唇をついばみ合うたびに音が立つ。吸いあうたび、お互いの唇が形を変え、強い快感が脳内に迸る。

やがて、俺達は示し合わせるように、次第に強く唇を吸い合うようになっていた。

「ちゅ、ちゅぅッ! ちゅる、ちゅるッ」

真姫はどうやら熱中してきたようだ。

音を立てて吸い合うごとに俺に身体を預けてきて、肩に乗せていた両手を首の後ろに回し、絡みつかせてくる。

俺は実妹のささやかな体重を感じながらしっかりと受け止める。

もっと真姫を、実妹を味わいたい。欲望はとどまることをしらなかった。

俺の唇をついばむ真姫の間隙をついて、実妹の唇表面を舌先で舐めた。

「はんッ」

声が一度跳ねた。しかし、それは一瞬のこと。真姫は全く嫌がる素振りを見せず、逆に自らの舌を伸ばして俺の舌に触れ合わせてきた。

「ん、ん、ん、んッ」

唇を割り、その狭間から伸ばした舌で舐めあう。さっき紡姉さんとしたのと同じようなキスになりつつある。

あんな濃厚なキスになってしまったら、真姫がどうなってしまうのか。

ちらっとそんなことを考えたが、俺の理性はほとんど歯止めが効かなくなっていた。

真姫の放つ色気が魅惑的すぎて、いま手放すことなど不可能だ。

そして真姫も、俺にしがみついて離れようとはしなかった。

「ちゅる、くちゅるッ、ちゅぶッ、ちゅぶッ!!」

真姫が俺の唇を割開き、口内へと舌を差し込んできた。差し込まれた舌に呼応するように、俺も舌を伸ばす。

実妹の舌と俺の舌が舐め合い、絡み合う。

「ぢゅるッ! ぢゅるるんッ! ちゅ、ちゅ、ちゅ、くちゅるるンッ」

自然、唇が開き、その間から唾液がこぼれ落ちそうになる。真姫は音を立てながら唾液をすするが、それでも吸いきれなかった唾液が床へとこぼれ落ちる。

そんなことはお構いなしに、俺達は口の中で舌を絡ませ、唾液を混ざり合わせる。実妹味の唾液は甘く、延々と口の中で弄んでいたくなるほどだ。

真姫はもはや俺とのキスに夢中になっていた。俺の後頭部を両手で押さえ、がっちりと固定している。

真姫は積極的に俺の唇に自らの唇を強く押し付け、結合を確かめるように擦れあわせながら、舌をねぶり立ててくる。

真姫は俺の舌を吸いながら斜めに顔を動かしたり、唇を締めたり緩めたりと、思う様にキスを堪能していた。

「ん、んふぅ、んぁ……んふッ」

ふと、真姫が唇を離した。銀色の唾液の糸が俺と真姫の間にかかり、たわんで床へと落ちる。

「兄さん、兄さァん……ッ」

「どうした?」

「コレ好き、好きなのおッ……」

「真姫」

「兄さんのキス、ステキすぎて……ッ」

「うぁ」

真姫の目はトロンと蕩け、俺を見つめる瞳はやや虚ろだ。唾液に濡れた実妹の唇はテカリを増して、俺の口づけに歓喜するように緩んでいる。

「ずるいよ、姉さんとばっかりこんなことしてたなんて」

「ごめん」

「これからは私ともして。毎日、私とキスして」

必死さを感じるほどの懇願だった。

「ずっとこうしてたいの、兄さんッ」

真姫は俺にぎゅっとしがみついてくる。懇願する表情はまだ蕩けていたものの、あまりにも真剣でひたむきなお願いだった。

こんな風になった妹のお願いを断れるほど、俺は朴念仁ではない。

「わかった」

「ホント!?」

「ああ、お前がしたいなら俺に断る理由なんてない」

「毎日キスしてくれるの?」

「ああ」

「嬉しいッ」

ぱぁっと鮮やかな頬笑が実妹の美しい顔に咲く。この表情を見れただけでも兄冥利につきるというものだ。

「兄さん、ぎゅってして」

「ああ」

俺は真姫を抱き寄せる。力を込めるには細すぎる実妹の身体を慎重に抱き寄せる。

俺は改めて真姫を見つめた。

「可愛いな、真姫」

「兄さん……」

「真姫は可愛い。最高の妹だ」

「やだ、恥ずかしい」

「本当のことだ。これくらい言ってもいいだろ?」

「やぁ……」

恥じらう真姫の顎を、くぃっと持ち上げる。そして、不意打ちに唇を奪う。

「んッ」

さっきまでのとはまた違う、しっとりとしたキスだ。

重ね合わせるだけだが、体温を確認しあうためのキスである。

ちゅ、ちゅぅ、と微かにヌメる唇をじっくり味わう。

何分そうしていただろうか。

「兄さん……あぁ、兄さん……」

びっくりしたように目を見開いていた真姫が、やがて目をとろけさせ、うっとりと目を閉じた。

「や……あぁ、兄さん……」

不意に、真姫が唇を離し、切羽詰った声を上げた。

「どうした?」

「嬉しいの、嬉し……すぎてぇッ」

真姫がぶるるッと身震いし、俺の背中に腕を回す。

「ま、真姫?」

「や、あ……んッ!」

ぷるぷると小刻みに震え、何かに耐えるように全身を引きつらせる。

どうしたというのか。

「気持ち悪くなっちゃったのか?」

真姫は目をぎゅっと閉じ、赤らんだ顔のままぶんぶんと首を横に振る。

体調が悪い、というわけでもないようだ。

俺は真姫を抱きかかえたままでいると、真姫は一度、大きく身震いし、俺の背中に回した腕に強い力を込めた。

びくん、びくんと小刻みな痙攣を繰り返したあと。

「ふぁぁぁ……ん……」

艶やかな溜め息とともに、真姫は脱力したように俺にもたれかかってきた。
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