君に噛み跡を遺したい。

卵丸

文字の大きさ
6 / 40
営業のエースは・・・・・。

番外編 結衣のおつかい

しおりを挟む
「あれ、かなちゃん書類を忘れてるよ」

隆志はダイニングテーブルに置いてあるファイルに入っている書類に気づいて、会社まで持って行こうとしたが、スマホから電話が鳴った。

「はい、箕輪です。・・・原稿ですか?はい、もうすぐ短編が終わる予定です・・・ええっ!?夕方に取りに来るんですか!?あっあっあ・・・頑張って終わらせるので、暫くお待ちくださーい!!」

それだけ言うと隆志は慌てて自分の部屋に戻ってしまった。 それを絵本を読んでた結衣はしっかり見ていた。

「・・・ママ、困ってる・・・・・結衣、届ける!」

結衣は隆志のズボンのポケットに入ってある名刺を持ってセイメイブルーの顔型ポシェットに入れ、次にクローゼットの奥に隠してあるクッキー缶の中から隆志のへそくりの二万円もポシェットに入れてファイルを片手に持ち、隆志にバレないようにこっそり出ていった。生憎、要の母親と父親は買い物に出掛けていたので知る由もなく結衣は一人で書類を届けに行った。
駅は要と何回か出かける時に行ったことが有った。結衣は駅員さんに名刺を見せて説明した。

「ここに行きたいんけど、どうしたらいい?」

すると駅員さんはにこやかに丁寧に教えてくれた。

「この会社に行くなら三回目で止まる駅で降りて、たい焼き屋さんが有るからそこを真っ直ぐ進むと、この会社に着くよ。」

「ありがとう・・・どうやって電車に乗ればいいの?」

その駅員さんは切符の買い方も丁寧に教えてくれて、電車の中まで着いてきてくれた。

「気をつけて行くんだよ。」

「ありがとー!!」

結衣は駅員さんに手をブンブン振って歩いて行ったがたい焼き屋が分からなくて自転車に乗ってたおばちゃんに聞いた。

「たい焼き屋さんはどこにあるの?」

おばちゃんは自転車から降りて一緒に連れて行ってくれた。

「ここだよ、お嬢ちゃんはたい焼きを買いに来たの?」

「違う、ここに行くの!」

結衣は名刺を見せるとおばちゃんは少し驚いていた。

「結構、歩くけど大丈夫かい?」

すると結衣は元気な声で宣言した。

「結衣は強い子だから大丈夫!!」


おばちゃんと離れた後、結衣はテクテク会社まで歩いたが大人の歩数で十分くらいかかるので小さい結衣の歩数だと倍以上はかかってしまい、汗だくだし、会社に全然着かなかったが結衣は諦めずに「セイメイジャー」の主題歌を歌って歩いていたが流石に限界が来た。

「・・・・うぅ・・・・会社に着かない・・・・ママに会えない・・・・・。」

すると結衣は良いことを思い付いたがそれは危険な行為でもあった。
結衣はとある男性に声をかけて名刺を見せた。

「あっあのね、ここに行きたいの!抱っこして連れて行って!!」

結衣は疲れて半泣きになりながらスーツの男性に名刺を見せるとその人が飯村だった。

「えっ?・・・氷室絢斗・・・・・氷室の知り合い?」

飯村は混乱しながら結衣を見つめていたが色んな人にチラチラ見られて危険に思い、渋々結衣を抱っこして会社まで行くと丁度良いタイミングで絢斗と要に遭遇した。

***

要は早退をして今、ファミリーレストランに来ていた。

「ママはどれにするの?」

「ん~ママはチーズケーキにしようかな。」

二人で仲良くメニューを選んでいるとヒソヒソと女性二人組が要達の事を話していた。

「ママって事はΩなのね。」

「ヒートしなければいいけど。」

「あの子も可哀想よね、男性が母親なんて。」

「こんな時間帯にいるんだし、幼稚園に行ってないでしょうね。」

「いじめられたんじゃない?」

嫌味しかない会話は全部、要に聞こえていて堪えるのに必死になってベルを押して、店員さんにメニューを言った。
その後、要は結衣が幼稚園に行かなくなった事を思い出していた。

それは参観日の事、母の日が近かったので幼稚園では折り紙のカーネーションを作って「お母さん」に感謝を込めて渡す行事をしたのだが・・・

「ママ、いつもありがとう!」

「結衣、ありがとう」

結衣がカーネーションを渡すと他の園児と母親達が異常な目で二人を見ていた。そして参観日が有った次の日、久しぶりに要が迎えに行くと結衣は泣きながら要の方に歩いてきた。

「結衣、どうしたの?何かあったの?」

すると結衣は泣きながら話したが内容が残酷だった。

「あのね、・・・優奈ゆうなちゃんがね、結衣のママは男で気持ち悪いから遊ばないって言われて・・・それとね・・・ひっく」

「結衣、ゆっくりで良いよ。」

「・・・先生がね・・・・・・。」

今日、おやつのプリンを運んでいたが結衣は何も無い所で転んでしまい、プリンを落としてしまった。それを見た女性先生は呆れたようにプリンを片付けながらボソッと呟いた。

「Ωの娘だもんね。そりゃあ、変な所で転ぶわ。」

それを結衣の目の前で鼻で笑ったのだ。それがショックで結衣は要を見ると悲しくて泣いてしまったのだ。

「おめがはおバカにされちゃうの?」

その言葉で要は悲しくなりながら自分の娘を抱きしめた。すると結衣も要を抱きしめ返した。

「・・・結衣は幼稚園行きたくない?」

「うん、行きたくない・・・。」

それかは結衣は幼稚園を辞めてしまって、今は箕輪家で一日中暮らしている・・・。


「マ・・・ママ、お子様ランチのオムライスに旗付いてたよ!」

結衣の声で我に返るとテーブルの上にチーズケーキとホットコーヒーが届いており、結衣の前にはお子様ランチとオレンジジュースが届いていた。

「おお、良かったね。じゃあ・・・手を合わせて・・・・」

「「いただきます!!」」

結衣はスプーンでオムライスのチキンライスをボロボロ零しながら食べていたが目を輝かせていた。

「おいしい!!」

「そうか、美味しいんだ。」

すると結衣はスプーンでオムライスを掬って要の方に近づかせた。

「ママ、あ~んして!!」

口元がケチャップ塗れの娘が愛しく思いながら要はオムライスを食べた。

『・・・せめて、公園でお友達が出来れば良いんだけど・・・その前に会社の付き添い失敗出来ないな・・・。』

「・・・ママ、おいしい?」

何も言わなくなった要が心配になり結衣は恐る恐る聞いてきたので慌てて笑顔で答えた。

「すっごく美味しいよ、ありがとう結衣。」

すると結衣はとっても愛らしい顔で要に言った。

「やっとママ笑ってくれた!」

その言葉で少しは結衣の前では笑顔でいようと思う要だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話

降魔 鬼灯
BL
 ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。  両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。  しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。  コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。  

断られるのが確定してるのに、ずっと好きだった相手と見合いすることになったΩの話。

叶崎みお
BL
ΩらしくないΩは、Ωが苦手なハイスペックαに恋をした。初めて恋をした相手と見合いをすることになり浮かれるΩだったが、αは見合いを断りたい様子で──。 オメガバース設定の話ですが、作中ではヒートしてません。両片想いのハピエンです。 他サイト様にも投稿しております。

悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!

水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。 それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。 家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。 そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。 ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。 誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。 「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。 これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

処理中です...