勤勉な怠惰の生存ライフ 〜元魔王で元英雄な元地球人は生き残りたい〜

黒城白爵

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第二十七話 ネームドキャラとの初戦闘

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 ◆◇◆◇◆◇


 転移された先の試験場のフィールドは森の中だった。
 それなりに拓かれてはいるが、周囲には草木という障害物が多く、全体的に視界が悪い。
 気配や魔力を隠せるならば、これほど潜伏と奇襲に適した環境もないだろう。


「──『闇の御加護ダーク・ブレッシング』、『深闇なる鎧壁ディープダークシールド』、『闇の多幻晶体ダークプリズム』、『幻惑の衣イリュージョナリィクロス』、『闇すら見通す瞳ダークレス・アイズ』」


 取り敢えず、立て続けに複数の闇系魔法を連続発動させて自己強化を行う。
 多対一という状況になるならば、ゲーム本編のアンリに倣って魔法砲台と化した方が効率的だ。
 だが、今の俺は本来のアンリとは違って移動しながらの攻撃も可能なため、魔法砲台というよりは魔導戦車と表現した方が近いかもしれない。
 しかも、剣を使った接近戦も可能な魔導戦車なので、距離を詰められても問題ない。
 それどころから近付いてからが本番だ。

 そういう戦闘スタイルで行くため、まずは遠距離から攻めさせてもらうとしよう。
 闇の結晶体から周囲の草藪に向かって複数のレーザーが照射される。
 草藪の向こうから小さな悲鳴が聞こえた後、そこにあった気配が消滅した。
 草藪を掻き分けて確認しに行くと、そこには銀色の指環だけが落ちていた。


「お、ラッキー。銀じゃないか」


 銀の指環を拾ってから指に嵌めた金の指環に吸収させる。
 同じように他の草藪の中に落ちていた2個の銅の指環も吸収し、計32ポイントを獲得した。
 開始早々にポイントが3割も増えてしまったな。


「フハハハ。向こうから獲物が寄ってくるなんて、良いじゃないか金の指環」


 さぁ、ドンドン掛かってくるがいいッ!!
 声には出さず胸の内でテンション高く笑っていると、再び近付いてくる気配を感じ取った。
 そちらの方角に顔を向けて確認すると、気配の主は見覚えのある人物だった。
 今の俺は『闇すら見通す瞳ダークレス・アイズ』の魔法で一時的に透視能力を得ている。
 この魔法は以前フェルナンのオークション会場で使った『万闇を見通す真眼ダークレス・トゥルーアイズ』の下位互換魔法だが、防諜魔法が掛けられているわけでもない森の中ならばコレで十分だ。
 だから、森の中という障害物だらけの環境であっても問題なく相手を視認することができたのだった。


「クアン・スアハか」


 気配の主は、体力試験を俺と同様にトップの成績で突破した〈イビルミナス〉のネームドキャラであるクアン・スアハだった。
 視線の先にいる青い長髪のイケメンは、肩に担いでいた相棒の魔槍を肩から離して、腰の高さに構え直していた。
 タイミングからして俺に見られていることに気付いたようだ。
 まだあちら側からは視線が通っていないが、これは互いに戦闘状態に入ったとみていいだろう。
 魔槍を担ぐ手がチラッと見えたが、クアンも金の指環の持ち主だったので、彼を倒せば一気に100ポイントも増加することになる。

 実戦試験が開始して間もないため、クアンは初期保有ポイントのままだ。
 効率という面で考えると今のタイミングで戦うのは非効率だが、現時点で戦士系ネームドキャラとどこまで戦えるかを確認するのは悪くない。
 試験場という不殺空間でもあるし、力を振るいつつ相手を殺さずに済む場は滅多にないため、クアンとは此処で戦うとしよう。
 そうと決めてすぐに、傍らに浮かぶ結晶体から闇のレーザーを掃射させた。
 間にある草木を焼き貫きながら突き進むレーザーだが、クアンが眼前で回転させた魔槍に容易く弾かれてしまった。


「流石は高位魔槍。上級魔法のレーザーすら弾くか」


 攻防ともに優れたクアンには、ゲームの時はパーティーメンバーとして世話になったものだ。
 アカデミー入学前でも槍術名家の出身としての実力は変わらないな。
 槍を回転させた面としての防御を止め、縦横無尽に鋭く魔槍を振るう線としての防御術に切り替えたクアンが駆け出し、彼我の距離を詰めてくる。
 レーザーに対する線の防御術は、レーザーだけでなく目の前に広がる草木をも薙ぎ払っていた。
 魔槍とレーザーの乱舞によって、中間にあった全ての障害物が取り除かれ、互いの視線が直接通るようになった。


「やぁ。元気か?」

「666番か」

「アンリ・ラグナローグだ。よろしく、スアハ家のホープ」

「クアン・スアハだ。お前の指環を貰い受ける」

「できるといいな。『常闇の奔流ダークストリーム』」


 闇の結晶体の持続発動状態を解除して、代わりに新たな魔法陣を構築した。
 魔法の基部であり砲座でもある魔法陣から闇色の砲撃が放たれる。
 先ほどまでの闇のレーザーが貫通力に優れている一方で、この魔法は破壊力に優れている。
 知識か直感かは分からないが、クアンも防げないことは分かったようで防御ではなく横へ跳んで回避することを選択していた。


「〈イヴァル〉ッ!」


 闇の砲撃を躱わしたクアンが、魔槍の能力発動の起動句コマンドワードを唱えた。
 クアンが持つ〈魔槍ガエ・アッサル〉の全身に光が宿ると、間髪入れず投擲された。
 〈必中〉効果が発動した魔槍ガエ・アッサルは、瞬く間に俺へと迫ったが、直撃しようとした瞬間に可視化した闇の障壁によって阻まれた。
 投擲の勢いを止められたが、代わりに闇の障壁にも大きく破損したのが見える。
 このレベルの障壁が一撃で破壊されるとは、流石はスアハ家が保有する名槍の一つだな。

 移動力が低下する代わりに強固な防御力を持つ障壁を張れる『深闇なる鎧壁ディープダークシールド』だが、クアンを相手取るには不向きだ。
 だから再度魔法を張る必要はないだろう。
 投擲した魔槍を自分の手元に召喚したクアンが再び間合いを詰めてくるのを見据えながら、俺も腰に佩いた魔剣を鞘から引き抜いて迎え撃った。



 
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