34 / 38
第三十四話 Sクラス寮にて
しおりを挟む◆◇◆◇◆◇
アカデミーの全ての学生は、4年間の在学中は身分問わず寮生活を送ることになっている。
夏季休暇といった季節ごとの長い休暇期間中は、アカデミー自体が休みなので帰省ができるが、基本的には学生の間は寮で暮らすことになるだろう。
殆どの学生は相部屋だが、AクラスとSクラスの学生には個室が割り当てられており、特進クラスであるSクラス用の寮に至っては、他の寮よりも各種設備に金が掛かっていた。
「……高級ホテルみたいな内装だな」
ゲームでも主人公はSクラスだったため、ユーザーだった俺も当然知っていたが、現実として観るとSクラス寮の絢爛さがどれほどのモノかが実感できる。
「流石に実家よりは質素ね」
「そりゃそうだろうよ……」
Sクラス寮のロビーで俺と同じように寮の内装を見渡していたアウラが、そんな当たり前のことを言ってきた。
大貴族の御屋敷と学園寮のレベルが同列なわけがないからな。
「ところで、皇女様への挨拶はもう済んだのか?」
「ええ。元々知り合いだから簡単な挨拶だけで終わりよ」
「そんなものか。その皇女様は? 姿が見当たらないけど」
「戻ってきてないなら、まだ解放されてないんじゃない? 私は挨拶を済ませた後、軽く学園内を観てきて寮に来たばかりだから、今どこにいるか知らないわ」
「なるほどね」
ゲームの時はどうだったかな?
確か、ゲーム開始時点では皇女様とは同じ寮という以外に接点がなかったから、特に情報はなかったはずだ。
後々の展開も見据えて顔合わせはしておこうと思ったんだが、こりゃ後回しだな。
「それなら挨拶は後にするか……皇女様になんて挨拶をすればいいと思う?」
「普通にすればいいと思うわ」
「普通とは一体……」
「格式ばった挨拶をする必要はないわよ。元々そういうのに細かいタイプじゃないから。多少失敗しても笑顔で流してくれるわ」
「……なんとなく腹黒そうだよな」
「あら、よく分かったわね。結構イイ性格してるから、最低限の礼儀作法を守れば誰であっても笑顔を向けてくれるわよ。アンリは少し大変かもしれないけどね」
皇女様の腹黒さはアウラも知ってるんだなぁ、と思っていたら、彼女が気になることを言ってきた。
「俺だけが大変?」
「忘れたの? 理由はどうあれ、彼女はアンリに首席の座を譲られた形なのよ。自分を負かした相手のことはチェックしているに決まってるでしょう」
「そういうものか?」
「そういうものよ。実際、挨拶に行った時にアンリのことを聞かれたもの。私と貴方が式中に話していたのは知っていたみたいだから」
まさか見られていたとは……というかチェックされていたとはな。
「……なんて答えたんだ?」
「ポイントが増えてラッキーって喜んでいたと教えておいたわ。そのことを告げた時の表情の変化は見ていて面白かったわね」
「お、おう。そうか。それは、後が怖いな」
「まぁ、虐められたり難癖を付けられることはないわよ。そういうプライドは高い人だから。ただ、向こうからよく話しかけてくるようになるんじゃないかしら」
「それだけなら安心できるな」
口ではそう告げたが、俺は知っている。
皇女様が良くも悪くも執着するタイプだということを。
ゲームでそうだったからといって、現実の彼女も同じだとは限らないが、それでも油断はできないな。
「それじゃあ、俺こっちだから」
「ええ、また後で」
「ああ」
今日の夕食を一緒に摂る約束をしてから、寮の回廊の途中でアウラと別れて自室に向かう。
アカデミーでの寮生活のうち、Sクラス寮とその下のAクラス寮に関しては男女で建物が分けられてはいない。
これは2つの寮が個室であり、なおかつ両クラスが成績順で属する学生が決められている都合上、男女比に偏りが出ることも珍しくないのが理由だ。
実際、過去には著しくどちらか一方の性別に人数が偏った学年があったらしい。
成績順に割り振られているのはSクラスとAクラスだけなので、それ以外のクラスの学生達に関してはクラス関係なく男子寮と女子寮に分けられている。
2つのクラス寮では男女が同じ建物で生活することになるが、強固な各種セキュリティ機能が備えられているため、不純異性交遊は滅多に起きない。
滅多に、と言うだけあって完全に防げているわけではないのだが、それは男女で建物が分けられている一般学生寮でも変わらない。
世の中に完璧なものはないことを嘆くべきか、若き少年少女の性的衝動の厄介さに頭を抱えるべきか、判断に困るところだ。
まぁ、最終的には自己責任という文言が寮生規定に記載されているため、アカデミーの方も半ば諦めている節はあるのだが。
「とはいえ、年々セキュリティは上がっているそうだし、そうそう問題は起こらないだろう」
〈イビルミナス〉での未遂のサブイベントの記憶からは目を逸らしつつ、自室の扉のドアロック部分に学生IDを翳して解錠する。
高級ホテル感のあったロビーと比較すれば、個室の内装はまだ常識の範囲で内装や備品のグレードが高かった。
Sクラス寮では、寮施設の維持管理を行う専属のメイド達がいるため、寮内は非常に清潔かつ整備されている。
寮生の個室も依頼すれば──勿論有料である──掃除してくれるので、こういった特典を求めてSクラスを目指す学生は多い。
俺も部屋の掃除は専門家に任せるつもりだ。
「そのためにも金を稼がないとな。ポーション設備の設置は夜にでもやるとして、荷物を置いたら一度クエストを見に行くか」
ポイント交換所で交換した〈精霊種の契約宝珠〉を使って精霊を召喚して契約をしたいところだが、このアイテムは1回しか使えない。
より高位かつ最良の精霊を喚べるように、召喚触媒とかも用意して万全の態勢で臨むべきだろう。
精霊との契約はもう少し先になりそうだな。
0
あなたにおすすめの小説
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~
荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。
それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。
「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」
『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。
しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。
家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。
メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。
努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。
『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』
※別サイトにも掲載しています。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
妖精の森の、日常のおはなし。
華衣
ファンタジー
気づいたら、知らない森の中に居た僕。火事に巻き込まれて死んだはずだけど、これってもしかして転生した?
でも、なにかがおかしい。まわりの物が全部大きすぎるのだ! 草も、石も、花も、僕の体より大きい。巨人の国に来てしまったのかと思ったけど、よく見たら、僕の方が縮んでいるらしい。
あれ、身体が軽い。ん!?背中から羽が生えてる!?
「僕、妖精になってるー!?」
これは、妖精になった僕の、ただの日常の物語である。
・毎日18時投稿、たまに休みます。
・お気に入り&♡ありがとうございます!
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる