勤勉な怠惰の生存ライフ 〜元魔王で元英雄な元地球人は生き残りたい〜

黒城白爵

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第三十四話 Sクラス寮にて

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 ◆◇◆◇◆◇


 アカデミーの全ての学生は、4年間の在学中は身分問わず寮生活を送ることになっている。
 夏季休暇といった季節ごとの長い休暇期間中は、アカデミー自体が休みなので帰省ができるが、基本的には学生の間は寮で暮らすことになるだろう。
 殆どの学生は相部屋だが、AクラスとSクラスの学生には個室が割り当てられており、特進クラスであるSクラス用の寮に至っては、他の寮よりも各種設備に金が掛かっていた。


「……高級ホテルみたいな内装だな」


 ゲームでも主人公プレイヤーはSクラスだったため、ユーザーだった俺も当然知っていたが、現実として観るとSクラス寮の絢爛さがどれほどのモノかが実感できる。


「流石に実家よりは質素ね」

「そりゃそうだろうよ……」


 Sクラス寮のロビーで俺と同じように寮の内装を見渡していたアウラが、そんな当たり前のことを言ってきた。
 大貴族の御屋敷と学園寮のレベルが同列なわけがないからな。


「ところで、皇女様への挨拶はもう済んだのか?」

「ええ。元々知り合いだから簡単な挨拶だけで終わりよ」

「そんなものか。その皇女様は? 姿が見当たらないけど」

「戻ってきてないなら、まだ解放されてないんじゃない? 私は挨拶を済ませた後、軽く学園内を観てきて寮に来たばかりだから、今どこにいるか知らないわ」

「なるほどね」


 ゲームの時はどうだったかな?
 確か、ゲーム開始時点では皇女様とは同じ寮という以外に接点がなかったから、特に情報はなかったはずだ。
 後々の展開も見据えて顔合わせはしておこうと思ったんだが、こりゃ後回しだな。


「それなら挨拶は後にするか……皇女様になんて挨拶をすればいいと思う?」

「普通にすればいいと思うわ」

「普通とは一体……」

「格式ばった挨拶をする必要はないわよ。元々そういうのに細かいタイプじゃないから。多少失敗しても笑顔で流してくれるわ」

「……なんとなく腹黒そうだよな」

「あら、よく分かったわね。結構イイ性格してるから、最低限の礼儀作法を守れば誰であっても笑顔を向けてくれるわよ。アンリは少し大変かもしれないけどね」


 皇女様の腹黒さはアウラも知ってるんだなぁ、と思っていたら、彼女が気になることを言ってきた。


「俺だけが大変?」

「忘れたの? 理由はどうあれ、彼女はアンリに首席の座を譲られた形なのよ。自分を負かした相手のことはチェックしているに決まってるでしょう」

「そういうものか?」

「そういうものよ。実際、挨拶に行った時にアンリのことを聞かれたもの。私と貴方が式中に話していたのは知っていたみたいだから」


 まさか見られていたとは……というかチェックされていたとはな。


「……なんて答えたんだ?」

「ポイントが増えてラッキーって喜んでいたと教えておいたわ。そのことを告げた時の表情の変化は見ていて面白かったわね」

「お、おう。そうか。それは、後が怖いな」

「まぁ、虐められたり難癖を付けられることはないわよ。そういうプライドは高い人だから。ただ、向こうからよく話しかけてくるようになるんじゃないかしら」

「それだけなら安心できるな」


 口ではそう告げたが、俺は知っている。
 皇女様が良くも悪くも執着するタイプだということを。
 ゲームでそうだったからといって、現実の彼女も同じだとは限らないが、それでも油断はできないな。


「それじゃあ、俺こっちだから」

「ええ、また後で」

「ああ」


 今日の夕食を一緒に摂る約束をしてから、寮の回廊の途中でアウラと別れて自室に向かう。
 アカデミーでの寮生活のうち、Sクラス寮とその下のAクラス寮に関しては男女で建物が分けられてはいない。
 これは2つの寮が個室であり、なおかつ両クラスが成績順で属する学生が決められている都合上、男女比に偏りが出ることも珍しくないのが理由だ。
 実際、過去には著しくどちらか一方の性別に人数が偏った学年があったらしい。
 成績順に割り振られているのはSクラスとAクラスだけなので、それ以外のクラスの学生達に関してはクラス関係なく男子寮と女子寮に分けられている。

 2つのクラス寮では男女が同じ建物で生活することになるが、強固な各種セキュリティ機能が備えられているため、不純異性交遊は滅多に起きない。
 滅多に、と言うだけあって完全に防げているわけではないのだが、それは男女で建物が分けられている一般学生寮でも変わらない。
 世の中に完璧なものはないことを嘆くべきか、若き少年少女の性的衝動リビドーの厄介さに頭を抱えるべきか、判断に困るところだ。
 まぁ、最終的には自己責任という文言が寮生規定に記載されているため、アカデミーの方も半ば諦めている節はあるのだが。


「とはいえ、年々セキュリティは上がっているそうだし、そうそう問題は起こらないだろう」


 〈イビルミナス〉での未遂のサブイベントの記憶からは目を逸らしつつ、自室の扉のドアロック部分に学生IDを翳して解錠する。
 高級ホテル感のあったロビーと比較すれば、個室の内装はまだ常識の範囲で内装や備品のグレードが高かった。
 Sクラス寮では、寮施設の維持管理を行う専属のメイド達がいるため、寮内は非常に清潔かつ整備されている。
 寮生の個室も依頼すれば──勿論有料である──掃除してくれるので、こういった特典を求めてSクラスを目指す学生は多い。
 俺も部屋の掃除は専門家に任せるつもりだ。


「そのためにも金を稼がないとな。ポーション設備の設置は夜にでもやるとして、荷物を置いたら一度クエストを見に行くか」


 ポイント交換所で交換した〈精霊種の契約宝珠〉を使って精霊を召喚して契約をしたいところだが、このアイテムは1回しか使えない。
 より高位かつ最良の精霊を喚べるように、召喚触媒とかも用意して万全の態勢で臨むべきだろう。
 精霊との契約はもう少し先になりそうだな。


 
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