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第十五章
第四百十一話 生廃の魔王戦 中編
◆◇◆◇◆◇
「──〈勇者の栄華〉〈魔王の零落〉」
【無限源喰の世界龍】の【循環ノ秩序】により作られた新たな秩序を戦場に刻む。
〈権能〉たる【秩序神域】よりも制限時間も出力も劣るが、魔力の消費だけで使うことができるのでコストパフォーマンスの面では優秀だ。
二つのルールが発布された戦場に立つ〈勇者〉の全能力が上昇し、〈魔王〉の全能力が低下する。
秩序は使用者である俺にも等しく影響を及ぼすため、〈勇者〉だけでなく〈魔王〉の称号も持つ俺は逃れることはできない。
とはいえ、それも〈魔王〉の称号を封じれば解決する話だ。
今の俺は〈秩序の魔王〉の称号を封印しているので〈勇者の栄華〉の影響しか受けていない。
だが、この戦場にいるもう一体の魔王である〈生廃の魔王〉には俺のような方法は使えない。
視界に映る巨大スライムの動きが緩慢になり、勇者達の動きは逆に鋭くなっていた。
「……ユニークスキル?」
「ええ。簡単に言えばフィールド効果を新たに生み出すスキルです。フィールド効果はご覧の通り、勇者の力を強化し、魔王の力を弱体化するというものですね」
「……勇者と魔王に影響を及ぼすなら、神域の力?」
「正解です」
傍で観戦している〈月天公〉アイラからの質問に答えている間にも、戦場に立つ勇者と魔王の戦いは激化する。
「TEK◼️RI、Lieーーー!!」
巨体から生やした無数の触手から溶解液のレーザーが放たれる。
無造作にばら撒かれたレーザーが戦場を貫き、凡ゆる物を溶かしていく。
魔王の溶解液のレーザーに対して、勇者達が各々の判断と手段で回避や防御を行う。
〈剛剣の勇者〉エーギルは星剣を触媒にして発動させた虹色の斬撃でレーザーを斬り裂き、そのまま魔王の身体を真っ二つに両断する。
〈護槍の勇者〉セイラスは展開させた十字型の光の障壁で真っ向からレーザーを防ぎ切り、反撃とばかりに聖槍から聖なる光を撃ち放ち、魔王の身体に大穴を空けていた。
レベル九十九の〈八公聖〉でもあるエーギルとセイラスは流石の対応力だが、他の勇者達は二人ほど上手く対処出来ていなかった。
先ほどの炎のブレスの一撃で脅威認定されたのか、放たれてきたレーザーの数が格段に多かった〈溶炎の勇者〉フラメアは、身に纏う炎竜の身体を穴だらけにされていた。
炎の竜体は〈溶炎の勇者〉の称号効果によって実体を持つ炎である〈溶炎〉で構成されている。
冠位勇者の称号という格の高さと、溶炎に内包された大量の聖気もあって、溶炎の耐久力はかなり高い。
そこに帝王権能級ユニークスキルの力で作られた炎竜体という質の高さも重なり、フラメアが絶対の自信を持つのも仕方がない性能を誇っていた。
そんな溶炎竜とも言うべき身体が大量の溶解液のレーザーで貫かれ、耐久限界を超えたことで崩壊した。
フラメアが納まっている溶炎竜の心臓部への直撃は避けたが、溶解液のレーザーに込められていた魔王特有の魔力〈魔気〉に晒され、フラメアの片腕が黒く焼け爛れていた。
聖気で多少なりとも相殺されていなかったら、片腕が焼かれる程度では済まなかっただろう。
〈富穣の勇者〉キャロラインはユニークスキルの力で強化した防御魔法でレーザーを防ごうとしたが、数瞬の拮抗の後に防御魔法を破られていた。
防御魔法で威力が減衰していても、〈生廃の魔王〉が放った溶解液のレーザーの性能は非常に凶悪だ。
防御魔法を突き破ったレーザーがキャロラインの肩を掠め、装備していた高ランクの防具ごと彼女の肩部周辺を瞬く間に溶かしていった。
悲鳴を噛み殺しながら反射的に発動された彼女のユニークスキルの力が、それ以上の肉体の溶解を防ぐ。
片腕は腐り落ち、一瞬で胸の近くまで侵されていたキャロラインの身体がユニークスキルで増幅された回復魔法で再生されていく。
その間にもレーザーが放たれ続けていたが、今度は判断を間違えず回避行動をとっていた。
「ふむ。ユニークスキルで強化されても生半可な魔法では防げないか」
「溶解液だけでなく魔気も圧縮されているから、脆い造りじゃ無理」
俺の独り言に対して返ってきたアイラの言う通りだろう。
防御魔法という急造とも言える盾では〈生廃の魔王〉のレーザー攻撃には耐えられない。
「あとは、〈生廃の魔王〉という称号効果の所為でもありますね」
「……対象を廃れさせる効果?」
「その通りです。対象を侵し、衰退させる効果なので、長時間存在できない防御魔法などは容易く破壊されます。一方で魔王の魔力たる魔気に対抗できる聖気を放出し、それ自体が存在強度の高い聖なる装具である星剣や聖槍ならば、魔王の力に打ち勝つことができるというわけですね」
「私の矢なら突破できる?」
「神域権能級ユニークスキルと神弓という神域の力ならば可能です。特に神器が放出する神気は聖気や魔気よりも格上ですからね。魔王の力にも抵抗できるでしょう」
まぁ、あくまでも基本的には、だけど。
おそらくだが、〈大魔王〉が相手の場合は、神器があるだけでは優位には立てないだろう。
他にも……おっと危ない。
「【天空神ノ光輝】」
俺達がいる指揮所へ飛来した流れ弾のレーザーを絶対防御の障壁で防いだ。
立て続けに飛んでくる全てのレーザーを受け止めても障壁が微塵も揺らがないのを確認してから、アイラは構えていた神弓を下し、再び腰に装着し直した。
「……凄く堅固」
「自慢の防御スキルです」
俺にとっては大したことはないが、魔王の溶解液のレーザーによる被害は甚大だ。
フラメアとキャロライン以外の勇者達も大なり小なり負傷しており、中には腹部を貫かれて死ぬ寸前にまでいった勇者もいた。
そのままだったら間違いなく死んでいたが、【無限源喰の世界龍】の内包スキル【破滅ノ神戯】の派生スキル【無限時環】で肉体の時間を巻き戻して救っておいた。
魔王の力が及んでいようと、神域の時間の力ならば、時間を操って肉体の損壊を無かったことにできる。
即死だったら無理だが、幸いにも時間を巻き戻せるだけの猶予はあったので、今のところは死亡者はゼロだ。
〈生廃の魔王〉もエーギルやセイラスから反撃を受けていたが、スライムの身体というのもあって致命傷ではなく、すぐに再生させていた。
聖気が込められているのでダメージ量に応じた体力は失っているが、見た目では分からず、全くダメージを負っていないように見える。
それもあってか、強敵との実戦経験に乏しい一部の勇者には絶望感が漂っていた。
俺が展開したフィールド効果で多少弱体化したとはいえ、元より〈生廃の魔王〉の力は強大だった。
対生物能力に秀でた魔王というのもあって、生者である勇者達は思いのほか苦戦していた。
そんな中、レーザーの弾幕を潜り抜ける影が一つ。
〈聖者〉でもある俺の〈勇者〉であるエリンだった。
今回の〈生廃の魔王〉戦に備えて、エリンとは特別訓練を行なっていた。
俺が生み出した様々な種類のスライム系の魔物と戦わせており、致命傷レベルの怪我を負ったのも一度や二度どころではない。
相手がスライムの魔王であっても、今更この程度の攻撃を前にして怯んだりはしない。
〈生廃の魔王〉に近接戦を仕掛けるエリンの手には、名無しから名有りとなった聖剣が強い輝きを放っていた。
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