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第一章

第四話 一日目の終わりと肉

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 ◆◇◆◇◆◇


ーーホゥー、ホゥー、ホゥー、ホゥオッ⁉︎


「……17体目か。そんなに獲物がいないかね。それともそんなに弱者カモに見えるかね」


 日が沈み、夜の帳が下りて一時間が経った頃。
 日が沈み切る前に野営地の整地と罠を仕掛けたりの作業を終え、今は夕食の準備をしているところだ。
 罠を仕掛け終えたあたりからフクロウ似の魔物である〈フルースク〉が現れ始めた。
 他の魔物の例に洩れず人を襲う雑食性であり、最初の個体は暫くホゥーっと鳴いた後、魔力を通すことにより鋭い斬れ味を発揮する黒光りの翼を音も無く羽撃かせて襲撃してきた。
 練習がてら前の異世界の魔法知識を参考に術式を構築した魔法陣の上を通過した瞬間、周囲の木の高さより下を飛ぶ生物を地面に叩き落とすぐらいの重力場が発生し、フルースクは地に堕ちた。
 ジタバタと慌てる哀れなフルースクを処断したタイミングで、ちょうど野営地の焚き火を挟んで反対側からホゥーという声が聞こえた時は軽くイラッとした。

 2体目のフルースクを処分して、今度こそ夕食だと焚き火の前に腰を下ろしたタイミングで、再びホゥー。
 それも対処して間も無くまたあの鳴き声が聞こえたタイミングで野営地の周りに設置した罠の仕様を変更した。
 野営地をドーム状に覆う魔力障壁を展開し、そこに接触した獲物へ障壁の外縁部の地面に複数設置した魔法陣から『魔法の矢マジック・アロー』が発射されるという罠へと変更した。これで毎回トドメを刺しに行く必要がなくなった。

 獲物の死体に関しては、【戦利品蒐集ハンティング・コレクター】を使用することにした。
 初期設定では戦利品の対象はスキルのみだが、【戦利品蒐集】の詳細を調べたところ、自動蒐集対象に討伐した獲物の装備品と所持品、そして死体となった獲物自体を追加できることが分かった。
 距離が離れていても俺自身が討伐に関与していれば自動的に【無限宝庫】へ収納されるので追加しておくことにした。
 しかも、感知範囲内に他者がいる時は対象はスキルだけにする、といったような融通が効いた設定にできるのは有り難かった。
 これでフルースクの死体は自動的に収納されるようになる。


[経験値が規定値に達しました]
[スキル【罠設置】を習得しました]


「……効果を発揮した罠が一定数を超えたからか?」


 スキル習得の条件をふと考えつつ、愚かなフルースク達からいくつのスキルを手に入れたかを思い出してみた。
 確か【夜襲】【奇襲】【強襲】【暗視】【斬撃力強化】【無音行動】【闇夜の狩人】の8つだ。
 この8つ以外の新たなスキルは獲得していない。
 フルースクが倒されてもこれらのスキルのどれかの熟練度が上がり続けるだけだ。
 前の異世界では、倒しても能力が得られるのは人類種を相手にした時だけだったが、この世界では魔物からも手に入れられるようになったのは有り難いな。
 前の異世界ギフトこの世界スキルの法則の違いなのか、単に統合・進化・変換された【強欲神皇マモン】の性能ゆえなのかは分からない。
 ただ、この世界で生きていくにあたって俺の大きな力になってくれるのは間違いない。前の異世界の時と同じ様にね。


「にしても、この調子だと朝までに何体来るんだ?」


 【無限宝庫】の【自動解体】能力で解体された紅黒竜の肉を取り出して更に一口サイズに切り分ける。
 特に臭みとかは感じられないからこのままでいいだろう。
 切り分けた肉を手に入れた物資の中にあった木串に通す。
 全体に軽く塩を振ってから、焚き火で炙られるちょうど良い位置の地面に突き立て並べていく。


「まさか財宝の中にあるとはな。誰かにステータスを見られる前でよかった」


 ズラリと並べられた竜肉串の前で【無限宝庫】から取り出したのは無骨なデザインの一つの腕環。
 有する能力は“ステータスを偽装する”能力ただ一つ。
 紅黒竜に挑んだ者の遺品の中では特に目立たない見た目の魔導具マジックアイテムではあるが、その能力は今の俺が切実に欲しかった能力だ。
 脳裏に表示された収納リストに〈偽装の腕環〉と記されたのを見た時は思わず固まってしまった。


「これがあれば鑑定を気にする必要がなくなる。ーー【強奪権限グリーディア】」


 腕環を掴んでいる手から黄金色の魔力が腕環へと流れ込んでいく。瞬く間に腕環全体に浸透すると一度強く輝きを放ち、黄金色の魔力は俺の身体へと戻ってきた。


[ユニークスキル【強欲神皇】の【強奪権限】が発動しました]
[アイテム〈偽装の腕環〉から能力が剥奪されます]
[スキル【ステータス偽装】を獲得しました]


 抜け殻になった腕環を収納してからステータスを確認したところ、ちゃんと【ステータス偽装】が追加されていた。
 魔導具からその能力を奪うことは、前のギフト時代の【強欲】では出来なかったことだ。
 他の物を対象にした時よりも完了するまで時間がかかるし、消費する魔力量も多いため戦闘中には使えないが有用な能力なのは間違いない。
 魔導具から能力を奪えるということは、自らが欲しい能力を持つ魔導具を自作すれば、自分が欲しいスキルを自由に手に入れることが可能だ。
 まぁ、実のところ良いことばかりではない。この魔導具からの強奪は、アイテムのランクが高ければ高いほど強奪難易度と消費魔力量が上がっていくからだ。
 加えて、無生物が有する能力を受け入れるからか魔力以外にも精神力を相応に消耗するようだ。
 強奪を終えた直後から身体に倦怠感を感じる。
 俺自身のレベルが上がればある程度は軽減されるようなので、魔導具に対する強奪は最小限にしておいたほうがいいだろう。


「あー、ダルい。さて、気を取り直して、早速ステータスを弄るかな」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

○名前
リオン
○種族
超人スペリオル族 レベル35
○所属
なし
○職業
なし
○称号
なし
職業ジョブスキル
剣術師ソード・ロード】【狩人ハンター】【軽戦士ライト・ウォリアー】【魔導師ウィザード】【錬金術師アルケミスト
魔法マジックスキル
【火炎魔法】【重力魔法】【術理魔法】
○スキル
・強化系スキル
身体強化ブースト】【剛腕】
・感覚系スキル
【直感】【罠感知センス・トラップ】【敵性感知センス・エネミー】【鷹の目ホークアイ】【暗視】
・補助系スキル
【言語理解】【武芸百般】
・特殊スキル
【幸運】

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 ユニークスキルは除いたが、ある程度は制限せずに動けるステータスだ。
 レベルなどは昼間に会った騎士達の中で最もレベルが高いのと、二番目に高い騎士の中間ぐらいのレベルにしておいた。
 これで決まりかどうかは実際に町に行って情報を集めてからになる。
 さて、ステータスはどうにかなったし、ちょうど焼けたから食事にするかな。


「うん、美味いっ! この竜肉が特別美味いのか、この世界の竜自体が美味いのか分からないけど美味いな」


 ステータス云々は横に置いて焼き上がった竜肉串を食べたところ、塩だけでも物凄く旨かった。
 牛肉のように脂が乗っており、鶏肉のようにどんな料理にも使えそうで、豚肉のように食べやすい食感がある。
 盗賊のアジトにあった物資の中には、商人からの略奪品と思われる調味料の類が塩含めて大量にあった。
 その中にあった胡椒もかけてみたら更に味のレベルが上がった。
 竜肉なら特殊な効果とかありそうだな、と思って解析してみたところ、本当に効果があることが分かった。
 部位関係なくどの肉を食べても筋力と耐久と魔力の3つの能力値が微増している。
 もう一頭の倒されていた深緑竜の肉でも同じかどうかは後日調べるとしよう。

 肉体が若返った上に進化しているから次々と食べているが、紅黒竜の肉はまだまだある。
 収納してある肉を【自動解体】を使って収納空間内で効率よく切り分けさせながら、数が足りないので【魔賢戦神オーディン】の内包スキル【複製する黄金の腕環ドラウプニル】の複製能力で木串を複製して大量生産していく。
 切り分けられた竜肉を次から次へと串に通し、塩胡椒やそれ以外のスパイスを実験的にかけたりして味のバリエーションを増やしつつ焚き火の前にセットする。
 焼きあがった竜肉串は順次【無限宝庫】に収納していき、空いたスペースに次の竜肉串を並べていく。
 【無限宝庫】内は収納容量無限で時間の流れが止まっているため飲食物は常に新鮮な状態だ。
 いつでも焼き立ての竜肉串を食べられる環境を整えるべく、せっせと肉を串に通していった。
 途中途中で竜肉串や盗賊のアジトで手に入れた果物を食べながら作業を進めていく。
 その裏では、フルースクの死体が積み上がっている。
 同一種類の魔物の数がここまで多いということは此処ら一帯はヤツらの縄張りだったんだろう。


「根絶しそうな勢いなんだが。まぁ、今さら遅いけど」


 それから深夜になるまで作業を続け、竜肉串の大量のストックを確保した。
 紅黒竜の肉はまだ七割以上残っているが、これらはいずれ熟成させたり、ステーキにしたりして食べようと思う。
 幾つかの作業と情報の確認を行ってから、戦利品の中にあった清潔な布を2枚取り出して片方は寝床として地面に敷き、もう一方は丸めて枕にしてから横になった。


「【情報通知】の通知音はオフにして、【広域索敵レーダー】の【警告アラート】はオンにしておいてっと」


 重力場のドームを突破して野営地に侵入してくるモノがいたら【警告】が鳴るようにセットしておく。
 フルースクが相手なら問題ないことは分かっているけど、それ以外を防げるかは分からないからだ。
 ドームの内側にも魔法の罠を設置してあるとはいえ警戒は必要だろう。


「これで大丈夫かな。肉体年齢に精神が引っ張られて身も心も若返ってるおかげで、二度目の異世界は一日目から刺激的だったな」


 地球とは異なる夜空に輝く星々と月を暫く眺めてから、一日の疲れを癒すために眠りについた。


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