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第三章
第七十六話 ヴォータム防衛戦 後編
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「うーん……思っていたよりも多いな?」
防衛戦が始まってから一時間が経った。
スタンピードの第一陣の後も、ある程度纏まった集団が散発的に攻めて来ている。
地上に出てくる魔物達は、一つの集団あたり三十から百体ほど。
断続的に攻めてくるわけでもなく、数も最初より少ないため、合間合間に休憩を取りながら戦い続けることができた。
だが、数は少なくても魔物の質自体は上がっているので、味方にも多少なり被害が出ている。
重傷者が出る度に治療しに向かったり、攻めてきた集団の中でも強い魔物を優先して潰すなどして、俺の方で出来る限り気にかけていたので、今のところ死者は出ていない。
しかし、未だに魔物はダンジョンから地上へと現れ続けており、要の魔物と思われる黒オーガの姿も確認されていなかった。
俺としては経験値にスキルに素材が得られる大量獲得の場だから、丸一日続いても良いぐらいなんだが、このまま続くようなら他の冒険者達の方が保たないかもしれない。
それに、マップ上で知り得た敵の情報を『念話』でリーゼロッテに教えているとはいえ、護衛依頼を受けている身としては、早く戻るに越したことはないだろう。
だからさっさと終わってくれることを切に願う。
「ーーと、思っていたら現れたか。ギルドマスター」
「どうした?」
「敵の大群の反応を確認しました。その中に格段に強い反応が一つあります。恐らく黒オーガかと」
「遂に来たか。まだ出てきたばかりか?」
「ええ。探知できた位置はダンジョンを出てすぐのあたりです」
アニータには俺が高い索敵能力を持っていることを教えている。
【情報蒐集地図】や【千里眼】などの具体的なスキル名や能力詳細を教えたわけではないため、感知した情報を教えるぐらいなら何も問題は無い。
「黒オーガ以外に何がいるか分かるかい?」
「そうですね……同じオーガ系の上位種が殆どで、単眼巨鬼、妖魔巨鬼、牛頭鬼、鉱物魔像系がチラホラいるようです」
【千里眼】で直接確認したからほぼ間違いないだろう。
鉱物が得られるマインゴーレムも良いが、牛肉が得られるミノタウロスが出現したのが個人的には非常に嬉しい。
ああ……腹が減った。
もう時間的には昼メシ時だし、早く終わらせよう。
「チッ。深層のやつばっかりのようだね」
「そのようですね。しかも、要の魔物になっている黒オーガと共に行動していますから、その影響を受けて強化もされているようです」
黒オーガのようにスタンピードの要に選ばれた魔物は、幻造迷宮の心臓部である迷宮核から力を分け与えられており、それによって種の違う魔物達をも率いることが出来ている。
言ってしまえば、母機と子機の関係みたいな感じなんだろう。
そんな効果以外にも、ダンジョンのボス級魔物がダンジョンから強化を受けるのと同じように、自らとその周りの魔物を強化する効果もある。
特に要の魔物である黒オーガは、同じダンジョンからの強化でも、ダンジョン内で受けていた強化以上に強化されている可能性が高い。
この強化効果自体は、母機であるダンジョンから離れれば離れるほど弱くなっていくらしいが、少なくともヴォータムがある位置では、強化効果は十全に効力を発揮しているだろう。
「はぁ。覚悟はしていたけど嫌になる情報だね……本当に支援は要らないのかい?」
「ええ。その方が周りを気にせず力を振るえますので。それに全部が全部自分に向かってくるわけでは無いでしょうし、こっちの方にAランク冒険者が複数人いなかったら、下手したら外壁が破られますよ?」
「分かってはいるんだけどね……大丈夫なんだね?」
「はい」
「……分かった。じゃあ頼んだよ」
「任されました。では手始めにーー『殲滅光線』」
超遠距離から外壁へと迫る不可視の衝撃波に向かって、黒い燐光を纏う銀光線を放った。
銀光線は衝撃波と正面から衝突し蹴散らしていく。
そのまま射線上を遡っていき、黒オーガが直接率いる集団の中にいた〈複魔眼巨鬼〉の魔眼へと到達し、その頭部を撃ち抜いた。
[スキル【衝撃の魔眼】を獲得しました]
[スキル【重圧の魔眼】を獲得しました]
[スキル【巨鬼の鉄槌】を獲得しました]
[スキル【魔眼強化】を獲得しました]
ふむ。魔眼は二つだけか。
情報によれば、この種族は個体によって二つから四つの魔眼が使えるらしい。
そう考えたらコイツはハズレかな。
まぁ、新規スキルがある分アタリなんだろうけど。
「それでは行ってきます」
「あ、ああ」
久しぶりの出番である魔剣ヴァルグラムを鞘から引き抜きつつ、外壁から飛び降りる。
着地地点にいたオーガを唐竹割りに両断すると、血飛沫を浴びる前にその場を駆け抜ける。
「『魔動攻剣』」
術者に追従する擬似物質製の魔力剣を生み出す創作魔法を連続発動させ、生み出した複数の魔力剣に周りの魔物を自動迎撃させる。
進路上を塞ぐ魔物はヴァルグラムで斬り伏せながら黒オーガの元へと向かった。
向こうからも近付いて来ていたのもあり、強化系スキルを使わずとも一分足らずで目的の場所へと辿り着いた。
「『大地の早贄』、『業炎紅禍葬』」
接敵早々、相手が動き出す前に戦術級魔法を連続発動させて一気に畳み掛けた。
従来よりも強化された深層の魔物なだけあり、身体を貫かれて絶命した魔物は少ない。
だが、続けて発動した火炎系戦術級魔法によって、金属槍に囚われた二百体余りの魔物達が断末魔の悲鳴を上げることなく業炎に包まれていく。
ミノタウロスなどの一部の素材に関しては、死に次第即座に収納されるようにしているので、完全な消し炭になることは無いはずだ。
[スキル【強撃乱舞】を獲得しました]
[スキル【鎧甲圧殺】を獲得しました]
[スキル【剛毛鎧皮】を獲得しました]
[スキル【剛角双撃】を獲得しました]
[スキル【頭突き】を獲得しました]
[スキル【重葬斬撃】を獲得しました]
[スキル【兜割り】を獲得しました]
[スキル【強靭なる骨格】を獲得しました]
[スキル【滾る血潮】を獲得しました]
[スキル【満ちる血肉】を獲得しました]
[スキル【迸る巨鬼の生命力】を獲得しました]
[スキル【腐蝕の魔眼】を獲得しました]
[スキル【混濁の魔眼】を獲得しました]
[スキル【岩石親和】を獲得しました]
[スキル【金属親和】を獲得しました]
[スキル【爆裂四散】を獲得しました]
[スキル【自爆】を獲得しました]
[スキル【戦鬼咆哮】を獲得しました]
[スキル【斧術の心得】を獲得しました]
[スキル【槍術の心得】を獲得しました]
[スキル【剣術の心得】を獲得しました]
[スキル【盾術の心得】を獲得しました]
[保有スキルの熟練度が規定値に達しました]
[スキル【魔眼耐性】がスキル【魔眼完全耐性】にランクアップしました]
土壁の囲いを壊してしまわないように、中央にいた黒オーガを基点に二つの戦術級魔法を発動させたため、土壁に近い魔物達には当たっていない。
炎に呑まれた同族や、それを成した俺には見向きもせずにヴォータムの方へと駆けていく。
あれらに関してはアニータ達に任せるとしよう。
「優先順位は個人の脅威よりも、殺す数なのかねぇ……どっちなのかな?」
「GAAAAAA‼︎」
雄叫びを上げながら炎の海から飛び出してきたのは、ターゲットである黒オーガだ。
元々の正式名称は〈金剛魔鋼鬼王〉。
特殊な種族特性としては、身体から発せられる破魔の魔力によって魔法が効きにくい上に、摂取した金剛魔鋼の特性を取り込んで物理的な耐久性も高いという特徴があり、オーガキングの亜種にあたる。
スタンピードの要の魔物になったことによって、迷宮核から力を分け与えられ、現在は〈破魔金剛鬼帝〉に進化しているようだ。
従来の特性も強化されているようで、二発の戦術級魔法を受けても然程ダメージを負った様子が無い。
魔法耐性があるとはいえ、進化前だったら先ほどので終わっているはずなんだが……色々試してみるか。
炎の中から飛び出してきた黒オーガは、具現化した身の丈ほどの黒い大剣を振り下ろしてきた。
簡単に避けられるが、間近で観察するために受け止めるか。
ヴァルグラムが折れないように【魔装術】で分厚い魔力の刃を形成して保護する。
このままだと流石に受け止められないので、【超越身体強化】で地力を上げてからヴァルグラムを掲げ、真っ向から黒オーガの剣撃を受け止めた。
「クッ、中々のパワーだな……」
「GAGIGI⁉︎」
「喰らえ!」
周囲に展開している魔力剣に、攻撃を止められて驚愕している黒オーガを攻撃させる。
しかし、黒オーガの身体に触れた瞬間、魔力剣を構成する魔力による擬似物質体が崩壊した。
「触れただけで崩壊するのか。ヴァルグラムを覆う魔力も不安定になってるし、その大剣にも似たような効果があるな?」
「GUUGAA‼︎」
強引に身体ごと跳ね飛ばそうとするのを、剣身を傾け、地面へと受け流して防ぐ。
地面を割った斬撃の余波を避けつつ、ヴァルグラムの〈拒絶〉の対象を目の前の黒オーガに設定してから袈裟懸けに振り下ろした。
だが、振るった斬撃は体表を少しばかり傷付けるだけで、然程ダメージを与えることが出来なかった。
その傷も瞬く間に回復し、黒い金剛の体皮と破魔の力を帯びた分厚い魔力の鎧に覆われてしまう。
「うわっ硬いな、っと」
横薙ぎに振るわれた大剣を身体を仰け反らせて避ける。
避けながら大剣を持つ手の手首を斬り落とそうと、【多重連撃】で斬撃を重ねてみたが骨の部分で遮られた。
【剛禍剣嵐舞葬】と【狩猟神技】を使って黒オーガの周りを高速で動き回り、身体の各所を刹那の間に百回以上斬り刻んでもみるが、やはり致命傷には至らない傷しか刻むことが出来ない。
実際に攻撃してみて分かったが、分厚い破魔の魔力障壁と硬い金剛の皮膚と骨格の三重の鎧によって、物理攻撃と魔法攻撃が想像以上に軽減されていた。
恐らく、斬った感触からして何らかのスキルなんだろうが、この防御力を抜くには体力と魔力を削って弱らせる必要があるようだ。
精神面への防御は見当たらないので、魔法以外の手段による精神攻撃も良いかもしれない。
真竜を討ったヴァルグラムだが、破魔の力と黒オーガ本体が別々の扱いらしく、纏めて斬ることが出来ないため相性が悪い。
同じ伝説級でも下位と中位という差異があり、格上である怠惰の魔王斧槍の能力を使えば、破魔の鎧と金剛の皮膚と骨を容易に斬り裂くことが出来るんだろうが、こればかりは相性なので仕方がない。
まぁ、だからと言ってキングスロウスを使うのは負けたような気がするので、このままヴァルグラムで倒すつもりだ。
本来なら、僅かばかりのダメージを地道に何度も与え続けていかなければならないんだろう。
だが幸いにも、ヴァルグラムとの相性は悪いが、俺のスキルとの相性は良い。
出来るだけヴァルグラムのみで倒したいところだが、ヴォータムの防衛を考えると時間をかけ過ぎるわけにはいかないので、このあたりが妥協点か。
「墜ちろーー【失墜せし堕落の聖域】」
「GAAA⁉︎」
再び振り下ろされた大剣を受け止めたタイミングで、黒オーガの動きを封じるスキルを発動させた。
このユニークスキル【怠惰】の内包スキルは、自らに強化を、敵には弱体化を齎す聖域を展開する能力だ。
これは展開範囲が狭いほどそれぞれの効力が高まる上に、同様に狭いほど頑強になる球状結界で聖域が覆われるので、今の状況には最適だろう。
更なる弱体化と行動の阻害を強いるために、【虚奪の魔眼】と【静止の魔眼】、そして【封印縛鎖】も発動させた。
完全には封じられていないが、かなり動きが鈍っているようだ。
「距離的にヴォータムからは見えないかな? ついでにオマケだ。這え、暴食」
足元の影から【暴食】の黒き影の喰手が現れる。
それらに黒オーガの両足を拘束させて、【強奪権限】で体力と魔力を奪い取っていき、破魔の力が発揮出来ないようにしておく。
駄目押しに至近距離から【死王の暴圧】と【覇動王威】を使って精神的重圧を与えた。
度重なる弱体化と拘束状態からの威圧系スキルによる強烈な精神攻撃。
その瞬間、黒オーガは間違いなく蛇に睨まれた蛙のように硬直していた。
「ーー死ね」
【乾坤一擲】【暴虐】【覇獣の戦闘本能】【限界突破】の四つの強化系スキルを追加発動させる。
その瞬間的に上昇した身体能力を持って、硬直して力が弛んだ黒オーガの大剣を跳ね上げ、横合いに大剣を弾き飛ばす。
【破滅の一撃】【死を刻む刃】【不治魔刃】を重複発動させ、大きな隙を曝け出した黒オーガの頸部に向かってヴァルグラムを振り抜き、返す刃でその心臓を貫いた。
[スキル【鬼気王威】を獲得しました]
[スキル【鬼帝咆哮】を獲得しました]
[スキル【鬼帝膂力】を獲得しました]
[スキル【金剛鬼身】を獲得しました]
[スキル【金剛骨格】を獲得しました]
[スキル【破魔鎧装】を獲得しました]
[スキル【金属耐性】を獲得しました]
[スキル【万能耐性】を獲得しました]
[スキル【下級魔法攻撃無効】を獲得しました]
[スキル【守護領域】を獲得しました]
[スキル【領域の支配者】を獲得しました]
[保有スキルの熟練度が規定値に達しました]
[スキル【上位装具具現化】がスキル【魔装具具現化】にランクアップしました]
[特殊条件〈帝王種討伐〉〈統率種討伐〉などが達成されました]
[スキル【帝王種殺し】を取得しました]
[経験値が規定値に達しました]
[スキル【鬼種殺し】を習得しました]
頭部と心臓を失った黒オーガの身体が倒れる音と、斬り飛ばした頭部が地面に落ちる音を聞きつつ、消える前に黒オーガが具現化していた大剣に手で触れた。
「やっぱ貪欲に戦利品を得ないとな。奪い盗れーー【強奪権限】」
【強奪権限】の超過稼働能力【強欲なる盗奪手】を発動させる。
右手から黒の大剣に黄金色の魔力が流れ込むと、黄金色の装飾が追加された黒の大剣が顕在化した。
[対象を強奪します]
[強制顕在化に成功しました]
[アイテム〈破魔金剛の鬼帝剣〉が顕在化しました]
[アイテム〈破魔金剛の鬼帝剣〉の強奪に成功しました]
「よしよし。上手くいったな。あとはこの炎か」
鬼帝剣オルガンディアと黒オーガの胴体と頭部を【無限宝庫】に収納してから、【炎熱操作】で周囲を燃やす炎と熱を自分の身体に集束させた。
集めた炎熱は【炎熱吸収】でエネルギーに分解・吸収し、顕在化で消費した魔力の回復に充てていく。
やがて、戦術級魔法によって燃えていた大地と高熱化していた空間が、嘘のように沈静化した。
「こんなところか。あとは地面を均して……これで良し。さて、戻りますかね」
ダンジョンの方へ視線を向けるが、後続が現れる気配は無い。
深層の魔物とボスは中々に美味しい獲物だった。
やはりダンジョンは強くなるには最適の場所なのだと再認識出来た。
ダンジョンの中での戦闘だったら宝箱もあるし、真なる迷宮である神造迷宮は幻造迷宮以上だと聞く。
帝都での用事を済ませたら絶対に向かわないと行けないな。
決意を新たに高揚した気分を発散するために、ヴォータムの外壁で起こっている戦闘に参戦しに向かった。
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