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第十三章
第三百十九話 開発進捗と領地の現状
しおりを挟む賢塔国セジウムに全部で六つある魔塔の内、俺が魔塔主として統べている黒の魔塔。
その黒の魔塔内に設けた大規模試験場の一画にて、全長十数メートルほどの大柄な印象の鈍色の人型魔導兵器が歩行していた。
向かい側からは全体的に細身の白一色の同程度のサイズの人型魔導兵器が歩いてくる。
互いの距離が一定まで近付くと、両機は足を止めて向かい合った。
「僅か半年足らずで新しい機甲錬騎をここまで形にするなんて……流石ね」
「部下達の頑張りのおかげだよ」
試験場の様子を見下ろせるこの部屋には、俺以外にロンダルヴィア帝国の第七皇女アナスタシアがいた。
室内には彼女以外に彼女の護衛役の分身体や専属侍女のエカテリーナなどもいるが、一応は私的な場ではないため会話に参加することはない。
護衛と侍女に徹しているので数に含めなくていいだろう。
アナスタシアのような貴人の依頼主が見学するための貴賓用モニター室から、試験場管理室へと指示を飛ばす。
「テストを開始しろ」
『承知しました。これより、発展型試作三号機と新型試作六号機の模擬戦を開始します』
単眼の鈍色機甲錬騎である発展型試作三号機と、双眼の白色機甲錬騎である新型試作六号機が戦闘モードに移行し、両機の動力機関から過剰生成された魔力が機体の外へと溢れ出る。
溢れ出た魔力はそのまま各機体の装甲の表面を覆っていき、物理・魔法攻撃から機体を守る追加の鎧となる。
アナスタシアからのオーダーにあった、機甲錬騎の原型にあたるレギラス王国の〈魔動機騎〉に匹敵する性能という基準を達成する一助となるよう、それぞれの機体に実装させた俺開発の新技術だ。
この技術によって、現行機の発展型である試作三号機も新規設計の試作六号機も防御性能だけならば、レギラス王国の魔動機騎に匹敵するレベルに達していた。
まぁ、その分だけ魔力コストは高くなってるが、現状はあくまでも試験段階なのでそこまで気にする必要はない。
「発展型の機体の武装は現行機の物をそのまま使ってるのね」
「ああ。現行機の改良型という機体のコンセプトに合わせて、現在使われている機体の部品だけでなく武装も流用できるようにしている」
「運用コストがかなり抑えられそうね。新型の武装は……内蔵式?」
発展型が両肩や背中などに現行の機甲錬騎と同じ武装が装着されているのに対して、新型は両手の甲の部分から魔力製の刃を生成していた。
両手の魔力刃だけでなく、肩の装甲の一部がスライドして内蔵された兵器の砲塔部分を露出させているのが見える。
「新型は汎用性を重視した設計だからな。どのような状況にも対応できるように基本武装は全て内蔵式だ。他にも、両手の構造も人間の手に近付けている上に、徒手空拳も可能なように特に頑丈な造りになっているぞ」
「まるで近接系の戦士みたいね。発展型よりも全体的に細身なのも、その辺りが理由?」
「そういうことだ。どのような状況でも活動でき、長く戦い続けられるのが新型の特徴だな。こっちは新規設計なだけあって現行機よりもフレーム強度が高い。魔動機騎の設計も積極的に取り入れてるから、機甲錬騎というよりも魔動機騎への先祖返りやハイブリッドに近い機体だな」
「角があるデザインもあって何となく強そうね。両機とも名前はないの?」
「試作機だから正式なものではなく仮のものならあるぞ。発展型が〈成長〉で、新型が〈永遠〉だ」
「どちらも随分と理想が高い名前ね」
「だろ?」
試験場で行われている両機の攻防を見学しながらアナスタシアと雑談に興じる。
最初こそ目の前の二機の試作機についての話だったが、次第に会話の中身は別のことに移り変わっていった。
「そういえば、領地運営は順調みたいね。リオンの領地の噂はロンダルヴィアまで聞こえてるわよ」
「俺の領地の噂?」
「ええ。アルヴァアインに新たな城壁を作って、以前の城壁とその城壁の間の土地を開墾したそうじゃない。農業は勿論だけど、土地に余裕のなかったアルヴァアインに新たな土地を生み出したことで商業や工業の面でも活発的になっているそうね」
「まぁな。最初の頃は忙しかったが、今は部下に任せられるようになったから楽になったよ」
神迷宮都市アルヴァアインが俺の領地となって最初に行なった事業は新たな城壁の建造だ。
アルヴァアインは超希少な神造迷宮がある土地柄から人口密度が非常に高い。
以前にスラム街を解体して活用できる土地を解放したが、それでも全く足りないほどに人と物の流入が多かった。
その解決策の一つとして、新たな城壁で都市の囲いを大幅に拡張して安全に利用できる土地を増やしたわけだ。
更に、それらの土地も含めたアルヴァアイン一帯は〈地刑の魔王〉との〈星戦〉で獲得した〈星域干渉権限〉にて〈霊地化〉している。
霊地となったことにより溢れ出た〈星気〉は土地を豊かにしているので、その価値は非常に高い。
拡張して増えた分の土地の権利は俺が握っているため、買い手や借り手がついた分だけ俺の収入も増え、その結果公私共に懐が潤うことに繋がっている。
神造迷宮があるアルヴァアインに入植・参入できる土地が生まれたという情報は、瞬く間に国内外に広がった。
少し前までは領主兼地主である俺への面会の申し入れが連日続いていたが、現在は落ち着いている。
「ランスロットの方でも城壁を築けたら私の領地でも実行するのに」
「戦闘能力特化設定だから無理だな」
城壁を築く能力がある魔導具を所持しているという設定にすることもできなくはないが、アナスタシアも冗談混じりに言っているので黙っておこう。
「リオンでやってくれても良いのよ?」
「現状のアークディアとロンダルヴィアの関係では厳しいだろうな。そもそもやる理由もないし」
「あら。それなら私と婚姻関係になったらどう?」
「まぁ……可能性ぐらいは生まれるんじゃないか?」
「フフ、現地妻の女帝というのも面白そうよね」
「後世の歴史書ではなんと書かれるのやら」
本気なのか冗談なのか分からないアナスタシアの発言に軽口を返しておく。
ランスロットを通して似たようなやり取りは何度もしているため、この程度の対応は慣れたものだ。
「アルヴァアインの拡張も話題だけど、やっぱり黄金都市の方も気になるわね」
「アヴァロンのことか」
「ええ。〈黄金都市アヴァロン〉、だったかしら。都市の一部が冗談ではなく本当に黄金色なんでしょう?」
「ああ。その様子だと新たな都市に話題性と象徴的な意味合いを持たせることには成功しているみたいだな」
「元々魔王討伐で得た土地に勇者が築いた都市、というだけでも十分な話題性があったのに、砂漠が広がる土地に黄金に輝く都市を築くんだもの。それほど特徴的な都市に注目しない権力者はいないわ」
昨年の末に〈地刑の魔王〉を討伐して得たゴベール大砂漠も、アルヴァアイン一帯の土地と同様に帝国公爵である俺の領地だ。
大砂漠という過酷な土地の中にある都市に様々な付加価値を持たせる一環で、領主の城や市内の一部の公共建造物の壁を黄金色の特殊素材で築いた。
全ての建造物の壁を黄金色にすると壁材を剥がそうとする者が確実に出るが、領主の城と一部の公共建造物だけならば通常業務に含めることができるため維持管理も容易だ。
「噂では、アヴァロン一帯は大砂漠の中にあるとは思えないほどに常春の世界が広がっているとか。本当なの?」
「本当だぞ。アヴァロン一帯では気温や湿度だけでなく、天気に至るまで全てを管理している。だから市内の一画には緑豊かな土地もある」
アヴァロン一帯の気候は、〈勇者〉である俺が〈地刑の魔王〉との〈星戦〉に勝利して得た〈魔王の宝鍵〉で選択した勝利報酬の一つ、設置型神器〈天空神の聖域法晶〉の力で管理している。
神器である〈天空神の聖域法晶〉の力ならば、広大なゴベール大砂漠全体の気候を支配することも可能だ。
俺自身のスキルと組み合わせることで大砂漠を大樹海に変貌させることも不可能ではないだろう。
だが、現状ではそこまで力を振るうメリットがないのでアヴァロン以外の環境は極一部を除いて以前の状態のままだ。
砂漠という環境は観光資源として活用できそうなので、もしかすると今後もずっとそのままかもしれない。
「つまり、水も豊富にあるのね」
「まぁ、基本的に水が枯渇することはないだろうな。市内には魚が泳いでいる湖もあるし」
正確には魚が泳いでいる普通の湖ではなく、食用の魚を育てるために調整された生け簀専用の特殊な湖なのだが。
ゴベール大砂漠の周辺諸国の人々にとって、新鮮な魚の価値は非常に高く、魚の種類によっては同じ重さの金以上の価格で取引されている。
魚自体が貴重な土地なので干物にしても高値で売れ、地味にアヴァロンの財源の一角を占めていたりする。
「……ホント、聞けば聞くほど嘘みたいな夢の都市ね。砂漠の中の楽園と言われるのも納得だわ。それだけ自然豊かな環境なら移住してくる者も多いんじゃない?」
「確かに多いな。アヴァロンの行政府で働く役人達に疲労回復のポーションを毎日支給する必要がある程度には住民が増え続けてるよ。勿論、それ以上に交易のために訪れる人の方が多いけどな」
「交易地としても順調なようで羨ましい限りだわ。この調子ならゴベール大砂漠周辺で最大の交易都市と呼ばれるのも近いでしょうね」
実のところ既に呼ばれつつあるのだが、そこまでの情報はゴベール大砂漠から地理的に離れているロンダルヴィア帝国までは伝わってはいないらしい。
しかもゴベール大砂漠周辺どころか、大砂漠の周辺諸国内にある全ての都市も比較対象に含めた上での最大の交易都市と呼ばれていたりする。
その理由は色々あるが、個人的にはアヴァロンと周辺諸国の辺境都市ーーゴベール大砂漠に面している都市のことーーを繋ぐ交易路の存在が大きいだろう。
この大砂漠内の交易路には、俺が魔物避け効果を持つ塔型魔導具〈オベリスク〉を空間座標に固定化した上で等間隔に多数設置していた。
幅数十メートルの交易路の左右にオベリスクが建ち並んでおり、交易路への魔物の侵入と接近を封じている。
オベリスクには別件で製作したアイテムに使用している技術も使われているので、遠く離れた場所にある神器〈天空神の聖域法晶〉の力を中継することができる。
そのおかげで交易路は砂漠内とは思えないほどに良好な環境が保たれており、魔物避けと地理的好条件も合わせて利用者は非常に多い。
どのくらい多いかと言うと、アヴァロンを経由する交易路ができて半年も経っていないのに、以前から存在していた大砂漠を迂回して複数の国を巡る交易路の利用者の数は激減し、その減った分の利用者達はアヴァロンを必ず通る交易路〈アヴァロンロード〉を利用していることが分かっている。
おかげ様で、以前までの主要交易路で多大な利益を得ていた有力者達を敵に回すことになり、表に裏にと色々と干渉してきていた。
これまでは領地運営を軌道に乗せるために後回しにしていたが、そろそろ反撃をしても良い頃だろう。
せっかくだから、黒幕が俺だと分かることと分からないことの両方の手段を以てやり返すのも面白そうだ。
「お、テストが終わったみたいだな」
「そうね。エターナルは期待通りの運動性能だったわ」
試験場では四肢と武装を破壊されて倒れるグロウと、片腕を破壊された以外は目に見えるダメージがないエターナルが佇んでいた。
模擬戦終了のブザーが鳴り響くのを聞きながら、試作機である二機の改善点を手元の用紙に書き綴っていく。
まだまだ目標水準には達していないが、ゴールが見える程度には出来が良かった。
今後もそれぞれの開発チームに任せて良さそうだな。
アナスタシアに一言断りを入れてから、試作機の周りに集まる開発チームの元へと下りていった。
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