黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜

黒城白爵

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第十三章

第三百二十三話 サウラーン王国

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 ◆◇◆◇◆◇


 サウラーン王国。
 この王国は、アークディア帝国をはじめとした大小様々な多くの国家を有する大陸の中に存在し、その大陸中央部の南西に広がる乾燥地帯に位置している。
 ゴベール大砂漠に面している五つの国々の一つであり、そのゴベール大砂漠に長きに渡って君臨していた〈地刑の魔王〉から間接的に被害を受けていた。
 そんな日々拡大を続ける砂漠化によって周辺諸国の人々の生活を脅かしていた〈地刑の魔王〉が〈勇者〉により討伐されて十ヶ月が経とうとしている。

 事情を知らない平民からすれば、ある日突如として現れた〈勇者〉の手で〈地刑の魔王〉が討たれたことは、まさに寝耳に水だった。
 しかも、その魔王の支配領域だったゴベール大砂漠の全てが件の勇者の領地となったと知り、かの黄金都市の噂を行商などから聞かされた時は面白い冗談だと誰もが笑った。
 やがて、噂が真実であることが知れ渡り、生活苦や仕官などの理由から多くの平民達が黄金都市アヴァロンへと流れるようになると、サウラーン王国など一部の国々は密かに対策を講じ始めた。
 その対策のための工作活動が始まった正確な日付がいつかは定かではないが、少なくともアヴァロンが周辺諸国最大の交易都市と人々の間で謳われるようになってからなのは間違いない。
 何故ならば、工作活動の中でも破壊工作を行うほどにアヴァロンを敵視、または危険視している国家は、そのいずれもが自国の交易都市により多大な利益を得ていた国であり、アヴァロンという存在に既得権益を害された国だからだ。

 そのような経緯からアヴァロンへの工作活動が行われるようになってから暫く経ったある日。
 突然、サウラーン王国の王都の上空に分厚い雲が出現し、地上にある王都から太陽の光を奪い去った。
 サウラーン王国がある砂漠地帯の国々にとって、太陽は日々の生活になければならない存在というだけでなく、その脅威を身近に感じる環境なのもあって自然と神聖視するようになっていた。
 事実、サウラーン王国をはじめとしたゴベール大砂漠周辺の国々では、数多いる神々の中でも特に太陽神が重視されている。

 良くも悪くも生活の一部であった太陽が王都より失われて早三ヶ月。
 昼も夜も一向に晴れる気配のない曇天の下を歩く王都の人々の表情は空と同じ様に暗い。
 人々の精神的な不調がそうさせるのか、王都の治安と経済は日々悪化し続けていった。
 そうした現状にサウラーン王国も何もせず座視しているわけではなく、連日上層部の者達による対策会議が王城では開かれていた。


「調査によりますと、このような状況に陥っているのは我らのサウラーンだけではないようです」

「そうか。他にはどの国が太陽を奪われた?」


 会議室に集まった諸侯らから見て上座に座るサウラーン王国の国王スランディス三世は、情報収集の結果を報告する臣下に相槌を打つと続きを促した。


「はっ。サウラーン以外では、ジェスム国、パルディーン商国の二ヶ国のそれぞれの首都の上空が分厚い雲に覆われていることが確認されました」

「雨が降るわけでもなく、ただ首都上空を覆うだけか?」

「そのようです。灰色の雲が空を覆う範囲が徐々に拡大している点も同様と報告を受けています」

「……エザームとジアッドの首都の上空は覆われていないのだな?」

「はい。今までと変わらない気象のようです」

「そうか。報告は以上か?」

「はっ。私からは以上になります」

「分かった。ご苦労だった」

「はっ!」


 他国の状況についての報告が終わると、室内が緊迫した空気に包まれた。
 張り詰めた雰囲気に誰もが口を開くのを控える中、国王であるスランディス三世は腕を組んで今受けた報告について考えていた。


(首都上空から太陽を奪われた三ヶ国は、いずれも国内にある交易都市から得られる税によって多くの財を得ていた。逆にエザームとジアッドは他の三ヶ国とは違い交易都市と呼べるものはなく、農産物と鉱石の輸出で財を得ている……偶然にしては出来過ぎだし、これは間違いないだろうな)


 他国の状況についての噂が流れてきた時から可能性の一つとして挙がっていた懸念が当たり、スランディス三世は重い溜め息をついた。


「偉大なる太陽王よ」

「どうした。アルムーラ卿」


 スランディス三世の心境を表した嘆息を見た臣下の一人が自らの王に声を掛ける。
 アルムーラ卿と呼ばれた狗人族の大柄の青年は、勇ましく立ち上がると王の懸念を払拭すべく自らの意見を述べた。


「此度の異常気象の元凶は明白です。どうかこの私に黄金都市の勇者を誅する役割をお任せくださいませ!」

「……」


 アルムーラ卿の発言に反射的に悪態を吐きそうになったスランディス三世だが、ギリギリのところで取り繕うことができた。
 〈地刑の魔王〉を単独で討伐した〈創造の勇者〉に勝てる気でいる目の前のバカをどうやって諌めるか悩んでいると、列席する他の臣下達が次々とアルムーラ卿へと苦言を呈していった。
 とはいえ、その実態は苦言というよりも罵倒の方が近かったが。


「まさか、魔王殺しの勇者に勝てる気でいるのか?」

「貴様はサウラーンを滅ぼしたいのか!?」

「相手は超越者候補なんだぞ!」

「いくらアルムーラ卿が噂に名高い武人であろうとも、かの勇者と比べれば大人と子供以上に実力に差があるのが分からないのか?」

「確か、井の中の蛙でしたかな? 異世界の格言ですが、今のアルムーラ卿にはピッタリの言葉ですな」


 次々と出てくるアルムーラ卿を非難する周囲からの言葉を受けて、アルムーラ卿の眉間に皺が寄る。
 自らを罵倒する言葉を打ち払うべく、アルムーラ卿が途中で止めていた方策を話そうとしたタイミングで、会議の進行役であるラムマン宰相が手を叩く音が室内に響き渡る。
 
 
「皆様、そこまでになさってください。王の御前ですよ」

「っ、失礼致しました、偉大なる太陽王よ」

「「「失礼致しました、偉大なる太陽王よ!」」」


 アルムーラ卿に続いて他の臣下達から告げられた謝罪の言葉に対し、スランディス三世は鷹揚な態度で頷きを返す。
 他の者達が騒ぎ立てたことで冷静になれたスランディス三世は、傍らに立つラムマン宰相へと視線を向けた。


「よい。アルムーラ卿の勇ましき言葉は我も頼もしく思うが、現時点では問題も多い。ラムマンよ、この者達に問題点を教えてやれ」

「かしこまりました。アルムーラ卿の仰るように、現在各国の首都上空にて起こっている異常気象の原因は、黄金都市アヴァロンを治める〈創造の勇者〉リオン・ギーア・ノワール・エクスヴェル公爵によるものでしょう」


 会議室に集まった全員がラムマン宰相の言葉に同意するように頷いた。
 黄金都市アヴァロン一帯とアヴァロンロードと呼ばれるゴベール大砂漠内を通る交易路では、砂漠地帯であっても快適に過ごしやすいように、一定の環境状態になるように各種気象条件が操作・管理されていることが分かっている。
 そして、この異常な気象状態を実現できているのは、アヴァロンの領主であるリオンの力によるものなのは周知の事実だった。
 そのため、サウラーン王国の王都上空で続く異常気象とリオンが結び付くのに時間はかからなかった。


「ですが、現状では状況証拠だけです。当然ながら、エクスヴェル公爵によって引き起こされた現象だという物的証拠もありません。まるでエクスヴェル公爵の仕業であるかのように見せている第三者の可能性もあるのですから」


 ラムマン宰相からのもっともな指摘には、アルムーラ卿も口を噤まざるを得ない。
 確かに、証拠もないのにリオンの仕業だと決めつけて矛先を向けるのは外聞が悪い。
 せめて大義名分があれば別なのだが、現状ではそれもない。
 スランディス三世からの印象を良くしようという狙いもあって進言したが、このままだと浅慮な愚か者という印象を持たれてしまうとアルムーラは思った。
 既にスランディス三世から愚者認定を受けているとは知らないアルムーラ卿を置いて、ラムマン宰相の言葉は続く。


「かの勇者が何故我らがサウラーンをはじめとした国々に対してこのようなことをするかは分かりませんが、このまま何も動かずにいるわけにはいかないでしょう」


 実際のところは、理由については予想が付いていた。
 スランディス三世とラムマン宰相といった極一部の者しか知らないことだが、異常気象が起こる少し前にアヴァロンに向かわせた工作員には破壊工作が命じられていた。
 アヴァロンの交易都市としての価値を下げる一環で行われた破壊工作だったが、それまでに送り出した工作員達と同様に命じた工作員との連絡が取れなくなった。
 そのため失敗したことは分かっていたが、何処の工作員かは分からないように対策はとっていたので然程問題視はしていなかった。
 まさか、工作員の所属が露見すると思っていなかったのと、このような方法で報復されるとは思わず、スランディス三世やラムマン宰相といった裏事情を知る者達は頭を抱えることになった。


「どのような対応を取るにしろ、先ずは状況証拠からエクスヴェル公爵に抗議するところからはじめるのが無難でしょう。それで異常気象が解決するなら良し。解決されない場合は、その時にまた対応を考えることがよろしいかと思われます」

「うむ。ラムマンの意見はもっともなことだと思う。そうだな……抗議のためにアヴァロンに向かう特使の選定についてはラムマンに任せるとしよう」

「偉大なる太陽王の御心のままに」
 
(一先ずはこの対応でいいだろう。今後一体どうなるか分からぬがな……)


 先の見通しが立たない現状に、スランディス三世は小さく溜め息を吐いた。


 
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