万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜

黒城白爵

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第二章

第五十二話 アビス

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 ◆◇◆◇◆◇


 〈三獣領域〉のエリアボスの討伐、その後の略奪者達との戦闘という連戦による疲労を癒すため、最低でも1週間の休息を取ることにした。
 生活苦ならば休息期間はもっと短くしていたが、幸いにも俺とリリアはそこまで金に困っていない。
 然程余裕があるわけでもないが、この1週間で日常生活が送れなくなるほどではなかった。
 防具も手元にないのにわざわざ無茶をする必要はないしな。


「まぁ、それはそれとして次のダンジョンアタック先を今のうちに決める予定だったんだが……暫くダンジョンアタックは様子見か」

「そうですね。アビスが出現したんですから仕方ありませんよ」

「探索者はアビス決壊時に対処するのが義務だもんなぁ。早く攻略隊のスケジュールが決まればいいんだが」


 俺がいるのはパーティーメンバーであるリリアとの待ち合わせ場所である某ファーストフード店。
 大通り沿いにあるその店舗の2階から、離れたところにある街頭ビジョンに映っている映像に目を向ける。
 その巨大スクリーンには、市内のとある交差点の空中に出現した黒い亀裂が映っていた。
 あの黒い亀裂が〈アビス〉と呼ばれているモノだ。


「……国内でアビスが出現したのっていつ以来だっけ?」

「えっと、確か1年半ぶりですね。前回のはEH市に出現しました」

「あー、そういやそうだったな」


 アビスとは、ダンジョンのモンスター達とは違って、地球へと侵攻することができるモンスター達を内包した異界だ。
 モンスターの巣、モンスター達の前線基地、ダンジョンの成り損ない、モンスターの監獄などアビスを表現する言葉は色々あるが、全てに共通しているのはアビスをあのまま放置していると、いずれアビスから地球へとモンスターの大群が流れ込んでくるという点だった。

 黒い亀裂はアビスと地球を隔てる境界面であり、アビスを封じている結界だと言われている。
 あの結界が崩壊するとアビス内のモンスターが地球へ侵攻してくることになり、この結界崩壊を〈ブレイク〉と言う。
 魔力を有する覚醒者は結界を通ることができ、ブレイク前にアビスへ逆侵攻して内部のモンスターを殲滅することで被害が出るのを未然に阻止することが可能だ。
 ただし、ブレイク前に覚醒者が結界を通行する度に結界の強度は弱まっていく。
 これはブレイクまでの時間が早まることを意味しており、ブレイク前にアビスを破壊するアビス攻略隊の選定には慎重を期す必要があった。
 まぁ、それも少し前までの話だが。


「ブレイク前にアビスを攻略したらアーティファクトが手に入るって分かってからは、攻略隊が動くまで時間がかかるようになりましたね」

「ダンジョンを攻略するよりも比較的容易にアーティファクトが手に入るとあれば、どこのギルドもアビス攻略に名乗り出るだろうよ。無理もない」


 アビスの仕組みも通常のダンジョンとよく似ており、アビスという場所の心臓部と言えるボスモンスターが存在している。
 このボスモンスターを討伐すると、ダンジョンのダンジョンボスを倒した時と同じようにアーティファクトが出現する。
 ブレイクした後に地球世界に侵攻してきたボスモンスターを倒してもアーティファクトは出現しないため、アーティファクトが欲しいならばブレイク前にアビスを攻略する必要があるわけだ。
 このことが判明して以降、アビス攻略の価値が跳ね上がったため以前よりもブレイク率は低下した。
 その代わり、大半のダンジョンよりもシンプルな内部構造であることが殆どなアビスの攻略を、一体誰が行うかで揉めるようになった。
 探索者協会がアビス攻略の規定をギルド単位にしてもそれは変わらず、今もこうしてアビス攻略が滞っていた。


「最悪の場合、探索者協会の仲立ちで複数のギルドによる連合アライアンスが組まされるだろうから、攻略隊を送り込む前にブレイクすることだけはないだろう」

「アビス攻略を失敗した場合に備えさせられる一般探索者からしたらいい迷惑ですけどね」

「まぁ、な。さっさと攻略隊を決めて攻略してくれっていう一般人の声も聞こえてきそうだな」
 
「悪かったわね。時間が掛かっちゃって」


 リリアと2人で愚痴っていると、そんな俺達の会話に混ざってくる声が聞こえた。


「あれ、なんで先輩がこんなところにいるんです?」


 俺達に声を掛けてきたのはガーベラギルドのギルドマスターであるレイカ先輩だった。
 天城コーポレーションの一人娘であるレイカ先輩が率いるガーベラギルドは、国内有数の大型ギルドであり、今回出現したアビスの攻略隊候補の1つでもある。


「クロヤ君に用があって探していたのよ。申し訳ないんだけど、今から時間を貰えるかしら?」


 レイカ先輩が視線を向けた先であるリリアの方を見てみると、リリアがジッとレイカ先輩を見つめ返していた。
 そういえば、この2人が直接会うのは初めてか。
 お互いについての話は雑談で俺がしていたので、全く知らないわけではないだろうけど、改めて紹介すべきか?


「用件って、コレですか?」

「そう、それよ」


 自分の目を指差しながら尋ねると、レイカ先輩からは頷きと共に肯定の言葉が返ってきた。
 どうやら〈月神の賢眼〉に用があるようだが、アビス攻略隊の選定中のレイカ先輩がわざわざ来たということは、おそらくはアビス攻略に必要なのだろう。
 具体的な内容は聞いてみないと分からないので、取り敢えずついて行くか。


「分かりました。パーティーメンバーである彼女も一緒にいいですか?」

「構わないけど……大丈夫なの?」

「口の堅さは保証します」


 アーティファクトである〈支配の王環〉の契約能力で縛っているから守秘義務に関しては誰よりも信頼できるだろうな。


「……それならいいわ。じゃあ、場所を移すから2人共ついてきてちょうだい」

「分かりました」


 俺が席を立ってレイカ先輩について行くと、黙ったままのリリアも同じように席を立ってついてきた。


「……何か機嫌悪い?」

「そんなことはありません」


 そんなことがあるように見えるから聞いたんだがな。
 ま、本人がそう言うならそっとしておくとしよう。



 
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