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第二章
第五十三話 アビス攻略の協力要請
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「──早速だけど、本題に入らせてもらうわね」
「お願いします」
レイカ先輩が乗ってきた車の後部座席に乗り込むと、間もなく車は走り始めた。
レイカ先輩も後部座席に座っており、運転席には彼女以外の女性が座っていた。
後ろ姿だけだが、何となく見たことある気がする。
まぁ、レイカ先輩の身内だろうから、たぶん天城コーポレーションで見かけたのだろう。
そんな風に思考が逸れている間に、レイカ先輩が手元のタブレットを操作していた。
車の後部座席は俺達3人が座ってもまだ余裕があり、普段はテレビでも見れるのかモニターまで設置されていた。
そのモニターとタブレットは連動しているようで、目の前のモニター画面にもタブレットに表示されているのと同じモノが映し出された。
「これは今回出現したアビスから協会の調査隊が持ち帰ってきた情報よ」
国内にアビスが出現すると、先ず探索者協会に所属する隠密系能力に特化した覚醒者達による調査が行われることになっている。
これは、ブレイクまでの時間が多少短くなってでも、何の情報も無しに未知の場所へ攻略隊を送り込んで攻略が失敗に終わるよりかはマシという判断から、アビスの事前調査は必ず行われていた。
今回もその例に漏れず、探索者協会のアビス調査隊が先行して調査を行なったようだ。
「アビス内のモンスターの映像みたいですけど、これがどうかしたんですか?」
「クロヤ君は知らないみたいだけど、このモンスターはこれまで確認されていないモンスターなのよ。つまり新種というわけね」
「あ、そうなんですね」
前世で何度も戦ったことのあるモンスターだから気付かなかった。
そうか、今回のアビス攻略で知られることになったモンスターだったのか。
映像資料には獅子の身体と頭部に、山羊の頭、トカゲの頭、尻尾が蛇という構成になっているモンスターが映っていた。
これは〈混幻魔獣〉と呼ばれるモンスター種だ。
2体から4体までの異なる動物が混ざったような外見をしており、その種族的特徴もあって個体ごとに姿形がバラバラだ。
似たような生物に〈合成魔獣〉がいるが、キメラは人工的に生み出された生物兵器で、キマイラは生来のモンスターという違いがある。
能力にも違いがあるのだが、まぁそれは別にいいか。
今の時期だと某国もキメラは開発していなかったはずだから、キメラとキマイラを間違えることはないだろう。
「クロヤさん。このモンスターを知ってますか?」
俺を間に挟んでレイカ先輩とは反対側に座るリリアからの問いに対して、一瞬だけ何と答えるか悩んだが、特に問題はないと判断して肯定しておいた。
「ああ。コイツはキマイラと呼ばれるモンスターだな」
「えっ、クロヤ君、このモンスターのことを知ってるの?」
まさか俺が知っているとは思わなかったようで、レイカ先輩が驚いていた。
とても驚いたからか、レイカ先輩が前のめりになってきており、彼女の身体が俺の身体に密着してきている。
色々と柔らかいけど、彼女の父親である天城社長にバレたら殺されかねない体勢だな。
「……近すぎですッ」
「あら、ごめんなさい……貴女も近いと思うわよ」
「不可抗力です」
「私のだって不可抗力よ」
何と言って引き離すか悩んでいると、反対側から伸びてきたリリアの手によってレイカ先輩の身体が強制的に離された。
無理矢理退かされた形になったレイカ先輩の言う通り、リリアの身体も俺に密着していた。
お互いに不可抗力なのは分かったんだが……なんで2人とも笑顔で火花散らしてるんだろうか?
まぁ、藪蛇になりそうだから触れないでおこう。
「……コホン。話を戻すけど、クロヤ君はこのモンスターのことを知っているのね?」
「え、ええ。知ってますよ。キマイラという種のモンスターです」
「何処かのダンジョンに現れたの?」
「いえ、俺の異能の力で分かったことなので、実物に会ったことはありませんよ」
回帰してからは、ね。
異能の力のおかげで未来から回帰してきたのだから、異能の力で分かった知識だと言うのは嘘ではないだろう。
「……クロヤ君の異能について気になるんだけど?」
「でしょうね」
「……」
「詳しく教える気はありませんからね?」
ジーッと無言で見つめてくるレイカ先輩にそう告げると、彼女は一度肩を竦めて見せた後に視線を外した。
「秘密の多い後輩ね。キマイラという名前以外にも能力とかも分かるの?」
「ええ。流石に個体差までは分からないので、一般的な種族性能だけですが」
「そう。実は、鑑定系アーティファクトを持つクロヤ君には、私達のギルドと一緒にアビスに来てもらって未知のモンスターの情報を鑑定してもらうつもりだったのよ」
ふむ。まぁ、予想通りの内容だな。
「ということは、今回のアビス攻略はガーベラギルドが?」
「ええ。他の大型ギルドは未知のモンスターが相手とあって、そこまで積極的じゃなかったのよ」
「なるほど」
確かに、普段の通い慣れたダンジョンとモンスターとは異なり、未知のモンスターとアビスで戦うだなんてリスクが高いからな……。
アーティファクトが獲得できる機会とはいえ、他のギルドが及び腰になるのも無理もない。
「先輩はアビス攻略の経験は?」
「私は初めてだけど、ギルド内には経験者は何人かいるわ」
「そうですか。アビス経験者がいるなら大丈夫そうですね」
「……まるで自分は経験があるみたいに言うわね?」
「ハハッ……異能のおかげでなまじ知識がある所為ですかね。つい分かった気になってしまったようです」
危ない危ない……前世の年齢もあって、思わず保護者的な視点から発言してしまった。
嘘は何一つとして言っていないから、誤魔化すのも簡単だ。
「ふーん。まぁ、そういうことにしておくわ」
残念ながら誤魔化せてはいないみたいだがな。
「それで? アビス攻略前に未知だったモンスターの情報が得られるわけですが、どうするんです?」
「うーん。クロヤ君の情報が本当だとしても、このキマイラとやら以外にも未知のモンスターがいないとは限らないから、やっぱりついて来て欲しいわね。勿論、そちらの彼女も一緒でいいわよ」
ふむ。アビス攻略を経験できる機会は貴重だから、同行すること自体は別に構わないんだが……。
「彼女はまだしも、俺の装備の方は修理に出したばかりでして……」
「あ、そうだったのね。それなら、私のギルドで管理している装備を使うといいわ。勿論、装備の貸し出しは無償よ。どんな装備でも良い、というわけにはいかないけどね」
「まぁ、そういうことでしたら……俺は参加するつもりだが、リリアはどうする?」
「クロヤさんさえよろしければ、私もご一緒させてください」
俺達以外にもガーベラギルドの者達がいるからリリアの運命属性魔力は単体では使えないだろうが、魔法の方に関しては問題なく使える。
リリアの力はアビスの攻略でも頼りになるだろう。
「それじゃあ、貸し出す装備の選定も含めて、アビス攻略の協力に対する報酬などの話の続きは、ギルドのオフィスでしましょうか」
そう告げて間もなく、レイカ先輩のガーベラギルドのオフィスが見えてきた。
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