マジカルテキスト

カプ

文字の大きさ
5 / 15

マジカルテキスト5

しおりを挟む
それから数日後。

ヒューリーワールドの演習場には、いつも通り新入生たちの声が響いていた。
先日の騒動など、最初からなかったかのように、授業は淡々と進んでいく。

「では、基本術式の反復だ。順番にやれ」

教師の合図とともに、生徒たちが前に出る。

最初に成功を収めたのは、あくあだった。

「――起動」

短い詠唱と同時に、彼女のマジカルテキストが澄んだ光を放つ。
魔法陣が美しく展開され、水の球が空中に浮かび上がった。

「完璧だな」

教師が頷く。

「えへへ……」

あくあは少し照れながらも、自然体だった。
まるで最初から魔法を知っていたかのような安定感がある。

次に前へ出たのは、凪だった。

『初めの書』を開き、深く息を吸う。

(……大丈夫)

以前とは違う。
このテキストは、確かに応えてくれる。

「――起動」

瞬間、魔法陣が正確に展開され、術式は一切の乱れなく発動した。
派手さはないが、無駄もない。

「……これも問題なし」

教師は淡々と告げるが、その視線はわずかに留まっていた。

「凪くん、すごいね」

あくあが小声で言う。

「いや、普通だろ」

凪はそう返したが、内心ではほっとしていた。

――使える。
ちゃんと、前に進めている。

最後に呼ばれたのは、デスくんだった。

「鮫島、やってみろ」

「はーいデス」

気の抜けた返事とは裏腹に、彼は妙な構えを取る。
詠唱とも、そうでないとも言えない曖昧な言葉を口にした。

「……えい」

一瞬、何も起きない。

(やっぱり……)

そう思った次の瞬間、
魔法陣が歪な形で浮かび上がり、しかし確かに術式は発動した。

「……成功、デス?」

「成功だ」

教師は少しだけ眉をひそめながらも、そう判断した。

「だが、構造が独特すぎる。
 通常の詠唱理論に当てはまらん」

「よく言われるデス」

デスくんは、どこか他人事のように答える。

あくあは首を傾げ、凪は苦笑した。

(同じ初級テキストなのに……)

三人三様。
同じ場所に立っていても、見えている景色は違う。

それでも――

「全員、合格だ」

その言葉に、凪は小さく拳を握った。

派手じゃなくていい。
今は、これでいい。

ヒューリーワールドでの日々は、
少しずつ、しかし確実に、彼らを前へ進ませていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうぞ添い遂げてください

あんど もあ
ファンタジー
スカーレット・クリムゾン侯爵令嬢は、王立学園の卒業パーティーで婚約もしていない王子から婚約破棄を宣言される。さらには、火山の噴火の生贄になるように命じられ……。 ちょっと残酷な要素があるのでR 15です。

とある令嬢の断罪劇

古堂 素央
ファンタジー
本当に裁かれるべきだったのは誰? 時を超え、役どころを変え、それぞれの因果は巡りゆく。 とある令嬢の断罪にまつわる、嘘と真実の物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...